あくせくするな ゆっくり生きよう!
http://gouttuo.web.fc2.com/sub725.html 【あくせくするな ゆっくり生きよう!】
リチャード・カールソン ジョセフ・ベイリー 大沢章子訳 より
1 分析的思考法
分析的思考法は、コンピューターがデータを処理するように考える方法である。この思考法では、記憶された情報をもとに、個々についての回答をはじき出しいく。ただし、判断材料となる情報がすべてそろっているのが条件だ。分析的思考法は次のような働きをする。
・情報を蓄積する(記憶)
・記憶されたデータを分析する(データを整理し、既存の情報と比較し、系統立てて整理することによって、確信、概念、認識などをつくり上げる)。
・人生設計をする(過去の記憶をもとに、想像力を働かせることによって、自分の将来のシミュレーションをする)。
・記憶されている既存のデータをもとに、生活を組み立てたり、問題を解決したりする方法を生み出す。
・すでに学習した情報を記憶にとどめておく。
分析的思考法の利点は、必要な情報がすべてそろっている場合、最も効率的に、最も迅速に答えを出せるということだ。たとえば、初めての土地で空港までの距離と交通事情から、かかる時間を割ですことができる。
一方、この思考法の欠点は、情報がすべてそろっていないときでも、手持ちの情報だけで考えてしまうことである。するとわたしたちは、悩み、やがて精神的に疲れ、欲求不満に陥ってしまう。それがストレスになることさえあるのである。
2 流動的思考法
流動的思考法は、川のように流れる思考法である。
この思考法では、さまざまな考えが絶え間なく生まれ続け、その場に応じた新しい情報や考えをもたらしてくれる。この思考法で生み出される考えは、時には過去の記憶をもとにしたものであったり、ときには創造性によって生み出されたものであったりする。
この思考法が目指しているのは、人生を楽しみ、能率よく、最高の仕事をなしとげることである。実際、流動的思考をすることによって、私たちは思いがけない考えに出会うことができる。直感とか創造性、霊感、知恵、洞察、実感、ふとした思いつき、あるいは神の啓示とかいわれるものはみなこの思考法から生まれたものである。
流動的思考法が優れている点は、次のとおりである。
・ストレスとは無縁である。
・疲れない。
・解決のめどが立たず、創造的で進歩的な考えが必要な場合にうってつけである。
・楽しみながら、しかも最高の結果を出すことができる。
・自然である。
2つの思考法を使い分ける
謙虚さが創造的思考を生む
流動的思考法と分析的思考法の違い
思考法を切り替える
心の働きを理解しょう
分析的思考法の間違った用い方
流動的思考法の間違った用い万
流れるように考える
あくせくするな、ゆっくり生きよう
第二章 思考をコントロールする
感情は思考から生まれる
ためしてみよう①・・・・腹をたててみる
感情は人生の羅針盤である
考えるという行為が思考を生む現実
思考に左右されない
感情にも左右されない
今、この時を生きる
心のバランスを保とう
まとめ
第三章 心を「今」に向ける
この時とは、今をおいてほかない。
過去とは、かつてのある時であり、
未来は、新たなっる時である。
1 人の話を聞く
2 素直に認める賢明さ
3 流動的思考法のカを信じる
ためしてみよう②・・・・静かに考える
4 問題を煮込み用の鍋にかける
ためしてみよう③・・・・ゆっくりと、時間をかけて
生き急がない
1 人生の問題を分析する
2 自分を責めるな
3 過去にとらわれるな
まとめ
第四章 ストレスと心の健康の関係
1 心の平静を保とう
2 すべて手に入るとは限らない
3 要領よく問題に対処する
4 ストレスは思考から生まれる
前向きな感情を持ちつづける
ためしてみよう④・・・・もしも、を考える
5 いつまでも考え込まない
6 小さなことに、くよくよするな
ためしてみよう⑤・・・・忘れないで
7 ストレスに耐えるな、戦うな
まとめ
第五章 良い人間関係はつくれる
「今」に目を向けて人と関わっていけば、次のようなことを体験することができる。
・親密・喜び・自発性・楽しむ心・人の話をしっかり聞くこと・意義のある話・尊敬・思いやり・共感・優しさ・寛容さ・感謝
誰でも心の健全さを持っている
思い込みが違いを生む
ゆとりのない心ではバランスをとれない
理解は人間関係を変える
人間関係を良くする秘訣とは
心と心のコミュニケーション
1 心の状憑を知ろう
2 多くを求めるな
3 相手を気遣う
4 心を開いて話そう
5 心から感動しょう
6 思いやりを持とう
新たな気持ちで相手を見よう
1 心の健康を呼び覚ます
2 考え方のクセに気づく
3 人間関係は結果で判断しない
4 許し、忘れることの大切さ
まとめ
第六章 仕事をスマートにする
ゆとりを持ってスマートに仕事をする
考え方に気づく
時間管理はカメの歩みで
職場での人間関係
信頼感を生み出す
チームワークを実感する
なぜ衝突が生まれるのか
棲み分けのコツ
困った人々とどう付き合うか
感情をコントロールするためには
ためしてみよう⑥・・・・相手の気持ちを考えよう
相手を思った意見の仕方
よい会議、悪い会議の違い
ためしてみよう⑦・・・・寡囲気をチェックしよう
決断するときは流動的思考で
仕事を先送りにしないために
まとめ
第七章 あくせくするな、ゆっくり生きよう
充実した人生の満足感はどこから
「今」にもっと目を向けて生きよう
今、この時を満足する
4つの危険信号
楽しむことは集中すること
刺激的な体験から学ぶ
子どもたちが教えてくれる
あくせくせずに、穏やかな心を持とう
退屈を恐れるな
心の雑念を追い払おう
静かで、落ち着き払った時間を持とう
心をリラックスさせる
人生、ゆっくり生きよう
訳者あとがき
あくせくするな!ゆっくり生きよう
(1) 自尊心、無条件の愛情、知恵、ユーモア、他人への思いやり、創造性、喜び、知的な思考力。こうしたものに代表される心の健康は、すべての人々に生まれつき備わった能力で、人生を前向きに生きるための道具である。心の健康を呼び覚ますことによって、豊かな人生を送ることができる。
(2) 心の健康を呼び覚ますための第一歩は、「今」に集中することである。それがどういうことかを理解するためには、すべての体験はわたしたちの思考から生まれたものであること、そしてその思考に意識が結び付いて現実の体験が生まれることを知る必要がある。
(3) 思考法には二つある。一つは分析的思考法であり、もう一つは流動的思考法である。
(4) 分析的思考法は、判断材料がすべてそろった問題を解決するのに適している。
(5) 流動的思考法は、変化や進歩を伴う、未知の問逢を解決するのに適している。過去の例だけに基づいて考えるのではなく、直観力を大切にする思考法である。人生を最大限に楽しませてくれる思考法ともいえる。どうしたら流動的思考ができるのか、またそれぞれの思考法がどのような場合にふさわしく、どのような場合にふさわしくないかについても述べた。
(6) これまで、人間の心の仕組みについて説明してきたが、その主な目的は読者の皆さんの自分の思考法に気づく能力を高めることにあった。この能力が高まると、人生を直観的にとらえることができるようになり、考え方や感じ方、物事の受け止め方も自然と変化する。自分の考え方に気づくことさえできれば、すべててうまくいくのである。
(7) 誰でも前向きな心を持つことができる。否定的な考えに陥っていることに気づいたときには、眠っている心の健康を呼び覚ませばよいのである。そうすれば、自分の思考法に気づくことができ、二つの思考法をいつ、どのように使い分ければよいかもわかってくる。
2章 まとめ
「今」を見つめてゆっくり生きてみると、穏やかな気持ちがあらわれ、それはわたしたちの全存在や、生さ方にまで浸透する。いつもあわただしさを感じ、急ぎ、満たされない思いを抱いていたのが、落ち着きや喜びを感じられるようになり、周囲への関心も高まる。ゆっくり生きていても問題は起こるが、先を急いでいたときのように、手のつけようもない問題に見えることはない。
このことをわかりやすく説明するために、野球選手の例を挙げよう。メジャー・リーグのバッターが試合中「のってくる」と、あるいは「絶頂感」にとらわれると、ピッチャーの投げたボールが、スローモーションで飛んでくるように見える。実際にはもちろんボールは猛スピードで近づいてきているわけで、時速一六〇キロを超すこともしばしばである。事実は変わらない。変わったのは、受け止め方である。それがバッターの自信を深め、能力を高めた。流動的思考のもとでは、ボールのスピードはどんどん遅くなるように見え、簡単に打てるように思えるのだ。
日常生活のなかでも同じようなことが起こる。ゆっくり生きてみると、人生がはつきり見えてくる。取り組まなければならない問題はやはり多いが、それが違って見えてくる。緊急事態に思われて息がつまりそうになることはなくなり、ただ、解決すべき問題だと受け止め、あるいは自分を成長させる絶好の機会だと受け止められるようになるのである。
感情は、わたしたちの心が先を急ぎすぎていると知らせ、ゆとりを持つとさが来ていることを教える。タイマーが鳴り出し、夕食の支度ができたことを知らせるように、あなたが否定的に考えはじめると心のブザーが鳴りはじめる。感情の声に耳を傾け、それが訴えようとしていることを真撃に受け止めれば、あなたは、穏やかで喜びに満ちた心の健康を実感することができるのである。もう二度と、人生が緊急事態に見えてきたりはしないのだ。
3章 まとめ
分析、自己批判、過去にとらわれること!今、この時に集中して生きることを阻むこれらの落とし穴は、わたしたちがしばしば陥りやすい悪癖でもある。こうしたクセは、ごく普通の、日常生活の一部になっているため、たいていの場合、それが及ぼす大きな被害にわたしたちは気づかない。これは、毎日微量の毒を盛られているようなものである。わたしたちをしだいに弱らせ、最後には死にいたらしめるに十分な量だが、死因を特定されるほどの量ではない。
しかしまたこれらの落とし穴は精神的な劇薬だともいえる。たとえば、突然こみ上げる不安の発作なら、わたしたちはすぐに、自分は心配しすぎ、物事を分析的に考えすぎていることに気づくことができる。しかしこちらはもっととらえがたい。ただ非常に有害で、わたしたちを心の健康から遠ざけ、今、この時に集中して生きることを妨げる。
受け入れる心を持って人の話に耳を傾け、わからないことを素直に認め、流動的思考の力を信じ、問題をシチュー鍋で煮込むことによって、わたしたちはより多くの時間を、「今」に目を向けて生きられるようになる。その時々に集中すれば、信じがたいほどの速さで進んでいく現代社会のペースに巻き込まれることなく、知恵を働かせながらゆっくり生きられるようになるのである。
ストレスに耐えるな、戦うな
(1)どんなときでも心の平静を保ち、前向きに生きることはできる。ストレスを感じているときも、人生はいつも手に負えないことばかりだと思えるときにも、自分には心穏やかに、気持ちよく暮らす力があるのだと信じることが大切だ。心の健康を取り戻せば心の平静は得られる。たとえ一瞬でも自分の考え方に気づくことができれば、心を落ち着かせることができる。
(2)望むものを手に入れても幸福にはなれないと知ること。誰もが手に入れられないものを欲しがるものだ。望むものを手に入れさえすればすべてはうまくいく、と信じる人は多い。けれどもしそれが本当なら、わたしたちはすでに幸福感に酔いしれているはずだ。多くの望みがかなってもなお、わたしたちは何かを求めてあがいている。大切なことは、望むものを手に入れることは素晴らしいことだが、それで幸福になれるとは限らないと認めることである。前向きな心を持ちつづけることこそ、このあわただしい世の中を幸福に生きるための、いつでも通用する方法なのである。
(3)要領よく問題に対処すること。問題に真っ向から取り組んでも、解決することはめったにない。それどころか、精神的に疲れてストレスが生まれ、知恵の働きも鈍くなる。先走って考えるようになり、ストレスは外部からふりかかるものだという誤った思い込みを持つことにもなる。流動的に考えることによって、間違にうまく対処することができるようになるのである。
(4)ストレスは自分の思考から生まれるのだと知ること。自分の考えにとらわれていてはいけない。何度も言ってきたように、どのような考えであろうと、あなたが何らかの考えにとらわれているということ自体が、あなたのストレスの原因なのである。それに気づけば、ストレスの原因となる考えを捨て去り、前向きに生きられるようになる。
(5)ふと思いついたことについて大げさに考え込まないこと。ただ一つの考えが、あなたを傷つけたり、ストレスを生んだりはしない。ストレスは、その考えが胸にこたえたとき、つまり真剣に受け止めすぎたときに生じる。先走りした、ストレスを引き起こす考え方をやめにして、大げさに考え込まないように気をつけるだけで、ストレスはずいぶん減るはずだ。
(6)些細なことにとらわれないこと。細かいことにとらわれることは、ストレスのもとだということを覚えておこう。なぜストレスを感じるのか、その理由について細かく分析するのはよそう。むしろストレスは、心の健康を見失っていることを知らせるサインだと考えるのだ。もし心の健康を見失っていることに気づいたら、まだ大丈夫、と自分に言い聞かせよう。誰でもしょっちゅう見失うものなのだ。そんなときは、ごくあっさりと、たとえばこう言ってみる。「しまった、またやっちゃった」。小さなことを気にして、事態を悪化させてはいけない。
(7)ストレスに耐えようとしてはいけない。ストレスが大きくなる前に、ストレスを引き起こしている自分の考え方に気づくことが大切だ。そうすることによってあなたは考え方を変え、「今」に目を向けられるようになる。自分の思考法に気づくのが遅れるほど、軌道修正は難しくなる。あなたは、一日を台なしにしてしまう前に、ストレスのサインに気づけるだろうか? 気づくのが遅すぎて手遅れになったら? それはそれで構わない! 三章の『心を「今」に向ける』方法を読み返してみてほしい。
4章 まとめ
すべてのストレスは、たった一つの思考から始まる。ストレスは思考にすぎない。ストレスをつくり出す最初の思考をどのように扱うかによって、ストレスがますます大きくなり、ついにはあなたを打ちのめしてしまうか、あるいはそうならないかが決まる。早いうちに、つまり自分の思考にのめり込んでしまう前に、自分の考え方に気づくことができれば、「今」に目を向けなおすことができるのである。
ストレスに耐える力がある人ほど、ストレスを引き起こす考えで頭がいっぱいになっているのに気づくのが遅くなり、前向きな心を持ちにくくなる。冷静さを保ち、知恵を働かせて落ち着いて行動することが難しくなる。何もかもまわりのせいだと考え、いかに自分には時間がないか、他人とはいかに扱いにくいものであるかといった言い訳を考え出して、自分を正当化するようになってしまう。ストレスに強い人々は、自分の頭が収集がつかなくなるような考えでいっぱいになっていることを警告する感情のサインに、注意を払おうとしないのだ。
もしあなたがストレスに耐えることをやめ、心が「今」から離れてしまう前に、自分の感情に気づくことができたなら、あなたは考え方を準えることができる。すると知らぬ間に、ストレスも減っていくのである。
何が悪かったかとか、誰が悪いとか、小さなことばかり気にしていると、先走りしすぎて前向きに生きることができなくなってしまう。何もかもが緊急事態に見えてきて、バランスのとれた見方ができなくなる。しかし、早いうちにストレスを引き起こす思考に気づいて進路を修正すれば、前向きな心が生まれてくる。すると以前はストレスを感じさせたものが、取るに足りないものに見えてくる。心に渦巻いていたさまざまな考えが、それほど重要なものでも、差し迫ったものでもないように思えてくるのだ。それらはただの思考にすぎず、あなたを傷つける力も、あなたの人生をストレスだらけにする力も、まったく持ちあわせてはいないのである。
理解は人間関係を変える
次の図は、人の心を理解する力と人間関係の関わりをあらわしたものである。
↑ 個人的な感情を交えない愛・至福
↑ 無条件の愛・喜び
↑ 憐憫・癒し
理解力 ↑ 思いやり・優しさ
↑ 煩わしさ・イライラ
↑ 怒り・衝突
↑ 憎しみ・暴力
↑ 無関心・孤独
---理解力の変化と人間関係-----
人間関係を良くする秘訣とは
自分や、人の気持ちとうまく付き合っていくためには、次のことに気をつけるとよい。
①落ち込んでいるときには、他人に対する自分の感じ方を、少し疑ってみよう。落ち込んでいるとき、わたしたちは、生真面目になり、批判的でくよくよ考え込みやすい。せっかちになったり、イライラして、他人のいいところに目を向けられない。相手のことを非協力的だと感じたり、その行動の裏を考えてしまう。そんなふうに感じるのは、実はすべて自分の考え方のせいなのだとわかれば、わたしたちは態度を改めなければならないことに気づくことができる。もしわたしたちが、じつとして嵐をやりすごし、気持ちが変わるのを待つことができるなら、自分たちのものの見方を歪めていたのは、分析的思考なのだという事実にいつでも気づくことができるのである。
落ち込んでいるとき、自分の受け止め方を疑ってみることは、自動車の助手席側のサイドミラーをのぞき込むことと非常によく似ている。わたしたちはミラーを見ながら、「おそらくあの車は、今見えているよりずっと近くまで来ているはずだ」と考える。わたしたちは思考の歪みに気づくと、すばやく知的に、つまり知覚的に順応することができるのである。一方、自分が落ち込んでいることに気づいたとさには、身近な人に、今、気分が落ち込んでいるので自分の話を真に受けないでほしい、と断っておくとよい。前の例に出てきた著者の友人は、妻のためのTシャツも作った。そこには「一人にしておいて! イライラしています」と書かれていた。何もそこまでとは思うが、気持ちの波に気づくことによって、大切な人との間にわだかまりをつくつてしまうことを防げるのである。
②他人が不機嫌なとき、自分を非難しているのだと勘違いしないこと。他人の気分の変化に対して、防御的になったり、批判的になったり、あるいは恐れたりせず、ある種の思いやりをもって接することが大切だ。他人の気分の変化を辛抱強く見守ることは、「考えて」どうこうできることではない。相方はちょっと調子が悪いだけなのだ、と理解する必要がある。数分、あるいは数時間のうちには、あなただって落ち込んでしまうかもしれないのだ。そうなつてみれば、誰かの辛抱強さや理解を嬉しく感じるはずだ。相手の否定的な気分を、自分への非難だと受け止めるのはよそう。たとえそれが、本当にあなたに向けられていたとしても。わたしたちはこの考え方を、「落ち込みに対する免疫」と呼んでいる。相手の気持ちを理解することによって、わたしたちは誰かの落ち込んだ気分に「感染」することを防ぐことができる。実際、他人の気持ちの落ち込みはわたしたちとはまったく無関係なことなのだ。それ
は、彼らの考えが生み出したものなのだから。
③あなたか相手かのどちらかが落ち込んだ気分のときは、何かを決断したり、難しい問題や大切な事柄を話し合ったりするのはやめること。落ち込んだ気分のときは、物事が一大事に見えたり、緊急の問題に見えるものである。しかし否定的な気分のときは、決断を下したり、重要な事柄について話したりするような大切な話し合いをすることには慎重になったほうがよい。大急ぎでなんとかしなくてはと考えてしまうのは、わたしたちの心が、今、この時を離れ、「落ち込み通り」に迷い込んでしまったことを警告するサインなのだ。気持ちがすっきりと晴れわたり、二人そろって「落ち着き通り」を闊歩することができるようになるまで、待つことが必要である。
心と心のコミュニケーション
・お互いに相手を尊重し、力を合わせて信頼関係を築こうとする。
・お互いが深く感動し合う。
・お互いに相手の話に口をはさまず、最後まで聞き、相手に自由に話させるようにする。
・自発的な言葉で話し(流動的思考法)、前もって何を話すか準備することもなく、きまり文句を並べたりしない。
・お互いに強い親密感を覚えるようになり、たいていの場合、その会話は心に残るものと
なる。
5章 まとめ
人間関係において「今」に集中し、本当にその場に存在することは、親近感や満足感を手に入れ、愛情溢れる、意義深いコミュニケーションを行うための鍵である。分析的思考をそれにふさわしくない場面で用いていると、わたしたちは、それぞれ別々の自分だけの現実を通して他人を判断してしまう。しかし、誰もが持っている心の健康に気づくことによって、人と共通の立場に立つことができ、スムーズな人間関係が結べるようになるのである。
人の心に対する理解力が高まるにつれ、より質の高い人間関係が結べるようになる。気持ちの波や、人にはそれぞれの現実があることを理解し、自分の考え方に気づくことによって、心と心を結ぶ効果的なコミュニケーションが成立するのである。心と心の対話とは、流動的に考え、相手に期待をかけすぎず、相手の気持ちを確かめ素直な心で話したり開いたりし、相手への思いやりを忘れないことである。
素晴らしい人間関係などもう手に入れられないとあきらめてしまっている人もいるだろう。
しかし四つの勧めに従えば、新しく人間関係をやり直すこともできるのだ。それは、心の健康を呼び覚まし、自分の考え方のクセに気づき、自分や相手を責めず、過去の出来事を引きずらないことである。そして最後に、許しにいたる三つの段階についても説明した。
考え方に気づく
↑ 創造的な組織
↑ 直感的な組織
理解力の質↑ 意欲的な組織
↑ ストレスに満ちた組織
↑ 競争に勝つことを目指す組織
↑ 官僚的で機能不全な組織
なぜ衝突が生まれるのか
次に掲げる事柄は、意見の対立と上手につきあうための、五つの方法である。
①違いを肯定し、興味深くためになるものだと考え、組織の運営という創造的な過程にとって大切なものだと考える。
②もしも同僚との間で意見が対立してしまったら、五章で説明した心と心のコミュニケーションの方法をためしてみるとよい。流動的思考に切り替え、時期も、相手の気持ちも適切であることを確かめ、相手の話に耳を傾け、お互いの信頼感を保ちつづければよいのである。
③意見の食い違いにばかり目を向けず、意見が一致しているところを深し出す。
④前向きな心を失わず、肯定的な考えを持つ。それができないときには、問題をしばらく放っておき、あとから考え直す。
⑤自分の考え方に気づいて理解する力を維持する。そうすれば、一人一人の意見の寄せ集めの解決策ではなく、より効果的な解決策を思いつくことができるだろう(この点に関しては、「よい会議、悪い会議の遣い」の項で詳しく説明する)。
困った人々とどう付き合うか
①相手の行為の奥にある、心の健康に目を向ける。すると相手も前向きに考えるようになる。
②相手を思いやる。気分が落ち込んでいたり、あるいは大変な時期を経験しているのかもしれないと考えてみる。
③相手に対して批判的にならず、過剰に反応しないことは、何よりも、自分自身のためなのだと知る。自分の感情と付き合わなければならないのは、自分自身なのだから。
④どうすればよいのかわからないときは、本当に人の話を聞く気持ちがあるのだろうかと自分に問い直してみるとよい。流動的思考をしながら人の話を聞くことによって、答えはすぐに出てくる。
決断するときは流動的思考で
それでは、流動的思考によって決断を下すためには、どうすればよいのだろうか? 流動的思考に近づくには、次の三つの段階がある。
第一段階:答えがわからないことを認めること。それには謙虚な心と、ある事柄についてすぐに答えを出せなくても、そのことについて人がどう思うかを気にしない態度が必要である。わからないことを認めることは、流動的思考への第一歩である。わからなければならない、とプレッシャーを感じることは、分析的思考にギアを入れ替えることであり、自分の考えから抜け出せなくなるのを奨励するようなものである。
第二段階:持っているすべての判断材料と心に浮かんだ疑問のすべてを、シチュー鍋に入れて煮込んでみる。たとえば、あなたの組織の重要な地位に人を雇い入れることになり、どの候補者が最もふさわしいかを決めなければならないとする。あなたは、「この仕事に適しているのはどんなタイプの人だろう? この地位にふさわしいのは、どのような性格特性なのだろう? プレッシャーがあるとき、この人ならどんな行動をとるだろう?」といった疑問をシチュー鍋に放り込んで煮込むだけでいいのである。
もちろんあなたは、候補者のなかから最もふさわしい人物を選ぶために、確実な調査を行い、一人一人に何度も面接するだろう。そして、広範囲にわたる経歴調査と照会を行う。しかしこうした情報をすべて収集したあとは、頭の中で事実をあれこれこね回すよりも、心の中のシチュー鍋に入れて火にかけ、あとは忘れてしまえばよいのだ。その問題のことが頭に浮かんでくるたびに優しく鍋のなかに戻してやる。鋭い勘が働くようになるまで、それを繰り返せばよい。勘というのはある種の確信であって、分析することから生まれることはない。流動的思考からのみ生み出すことのできるものである。シチュー鍋には決断を下す期限さえも入れることがでさる。シチュー鍋の思考は時間的要素も考慮に入れることができるのである。
第三段階:シチュー鍋を使いこなせるかどうかは、流動的思考のカをどれだけ信じられるかに直接関わりがあることを覚えておく。シチュー鍋を効率的に使うことは、問題について考えないょうにすることとほとんど同じであり、あなたがどれだけ自分の考え方に気づく力を持っている
かに直接関わってくる。
6章 まとめ
この章では、仕事の世界に目を向け、いかに仕事をスマートにするかということを考えてきた。仕事と上手に付き合うコツは、「今」に集中し、知恵を働かせ、落ち着いて仕事に取り組むことだとわかった。また、より広い視野を持ち、効率的に、しかも創造的に仕事をするにはどうすればいいのかということについても考えてきた。自分の考えか方に気づいて理解することが、組織や、仕事の世界でどのような意味を持つのか説明してきた。
自分の考え方に気づくことができなければ、時間管理や人間関係、決断、会議、期限といった職場にまつわるすべてのことが、困難で、ストレスを感じさせるものとなる。社員が自分の考え方に気づくようになると、仕事の生産性がぐつと上がり、以前ほどエネルギーを費やさずに、仕事を楽しみ、創造性を発揮することができる、つまり本当の意味での成功を収めることができることを、わたしたちは知った。さらに、わたしたちは、本書で学んだことを、時間管理や人間関係、気持ちの波、意見の仕方、会議の運営法、決断、期限との付き合い方、といったことに応用することも考えた。本章が、あなたが仕事をスマートにし、人生そのものを楽しめるようになるための助けとなることを、わたしたちは希望する。