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鉄道と観光スタイル

2021.04.21 11:30

1.はじめに

 みなさんこんにちは。高校二年になりました○○です。今年度もよろしくお願いします。

 さて今回は、「鉄道と観光の関係性」にスポットを当てて研究していきたいと思います。近年訪日外国人の急激な増加によって、全国各地で観光産業が活性化しつつある今日、鉄道は何を担っていくことになるのか、また今後はどのような展開にしていくべきなのか、総合的に考えていきたいと思います。最後までよろしくお願いします。

2.「観光」とは

 最初に、「観光」という言葉の定義について記しておきたいと思います。

 「観光」とは、「景色、名所、史跡などを見物して回ること」(学研 現代新国語辞典より)で、近年では現地に行って何かを体験する体験型観光(ツーリズム)などが普及しています。2008年には、日本の「観光立国」の実現に向けて、国土交通省の外局に観光庁が発足し、世界に向けて発信力を強化するなど、国を挙げて観光産業の活性化を推進する取り組みが進められています。

▲急増する外国人観光客に対応するため、英語、中国語、韓国語で案内がなされている

※訪日外国人数の推移

 ここでは、近年急速に増加する訪日外国人の数をグラフに表します。

 上のグラフより、2012年までは訪日外国人数は700万人~800万人前後という推移でしたが、2013年以降急激に増え始め、2017年には約2,860万人となっています。日本政府は、訪日外国人数の今後の目標として、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人と掲げています。

3.注目される「観光列車」

 以前の観光スタイルは、観光地・目的地で観光することが目的であり、鉄道はそれらの観光地までの一つの移動手段という位置づけにありましたが、ここ10年ほどで、観光地までの移動手段も観光目的の一つという位置づけに変わりつつあり、鉄道でも観光要素を取り込んだ列車が全国各地にデビューするようになっています。例えばJR東日本では「のってたのしい列車」、JR西日本では「観光列車の旅時間」というキャッチコピーを掲出し、観光列車のPRを行っています。

4.さまざまな観光と鉄道会社の形態

(1)観光地とタイアップするもの(デスティネーションキャンペーンなど)

 1つ目は、全国各地の観光地や都道府県とタイアップして観光客を誘致する観光形態です。

各鉄道会社が沿線にある観光地とタイアップしてPRするというケースで、例えばJR東海は「そうだ 京都、行こう」キャンペーンを展開していますが、特に全国規模でPRするものとしては、JR6社と自治体や観光協会などと実施する「デスティネーションキャンペーン」が挙げられます。

 デスティネーションキャンペーンは、1978年度から観光客・旅行客誘致キャンペーンとして、4月~6月、7月~9月、10月~12月、1月~3月の4シーズンに分けて全国各地(都道府県や市が多い)の観光地と共同で実施するものです。2018年4月時点では、栃木県とタイアップして、「本物の出会い 栃木」キャンペーンを実施しています。

※デスティネーションキャンペーンの経済効果

 デスティネーションキャンペーンは、キャンペーン対象地域の経済に大きな効果をもたらします。2016年4月~6月まで岡山県で実施されたキャンペーンでは、岡山県内の主な観光施設などの利用者数は前年同期比で110.5%となり、岡山城では同159.0%となりました。また、JRの日帰りの旅行商品の売り上げは、前年同期比で499%に達し、トータルの経済波及効果は71.0億円となりました。このほかのキャンペーンも天候不順など一部の場合を除いて大きな経済効果を生み出しています。

○各デスティネーションキャンペーンの経済波及効果

(DC=デスティネーションキャンペーン)

(2)観光地までの輸送を目的とするもの(観光地までの二次交通)

観光地までの利用客が増加する時に臨時列車などを増発して対応するケースがあります。例えば阪急電鉄は、嵐山への観光客が増える春・秋の行楽シーズンなどに、河原町・梅田・天下茶屋・神戸・宝塚の各駅から嵐山駅への直通列車を設定し、便宜を図っています。

また途中駅に停車せず観光地までノンストップで運転する列車もあります。たとえば、京阪電鉄の快速特急「洛楽」は大阪・京橋駅から京都・七条駅までノンストップになっています。

(3)観光地までの輸送手段に観光要素を加えたもの(観光列車など)

 前述しましたが、近年鉄道にも地元の観光要素を加えたものや、鉄道そのものが観光スポットになるような列車が急速に増えています。

 大きく分けて、観光列車は次の4つの形態に分けられます。

 ①「沿線風景」を魅力とする列車

 ②「食事」を提供する列車

 ③「内装」を魅力とする列車

 ④周遊型(クルーズトレイン)

 それでは、近年に運行開始された主な観光列車はそれぞれどの分類になるのでしょうか。

 (公式サイトなどで①~④の中から判断しました。)

①「沿線風景」を魅力とする列車

 沿線の風景を楽しんでもらうため、座席が窓側を向いていたり、沿線紹介などを実施したりしている観光列車です。小海線を走る「HIGH RAIL 1375」は、JRで日本一標高が高い地点を走るという要素を前面に押し出し、また八ヶ岳の山々をイメージした車両デザインになっています。また、飯田線の「おいこっと」は、沿線の田園風景をコンセプトに運行されている列車です。

②「食事」を提供する列車

 車内で乗客に地元の食材などを使用した食事を提供している観光列車です。八戸線の「TOHOKU EMOTION」は、「新しい旅のカタチを提案する」列車で、東北の食材を使った料理やスイーツが提供されています。また2017年7月からJR横浜駅発着などで運転を開始した「THE ROYAL EXPRESS」でも、シェフが監修した料理が提供されています。

▲横浜駅発着の「THE ROYAL EXPRESS」

▲伊豆急2100系を改造した車両である

③「内装」を魅力とする列車

 他の列車と設備に差異をつけたり、他にはない魅力を持ったりした内装で、「鉄道車両自体が観光地・観光資源の一つ」となっている観光列車です。上越新幹線を走る「現美新幹線」は、内装が美術館のようになっていて、現代美術作品が多く展示されています。近鉄特急「しまかぜ」は、しまかぜ車両券を別途支払うと乗車でき、シートピッチが1250mmと他の近鉄特急よりも広くとられているプレミアムシートを設置しているのが特徴の車両です。

④周遊型(クルーズトレイン)

 2013年運行開始の「ななつ星in九州」を皮切りに、日本でも国内観光客を主なターゲットにした周遊型の豪華列車の運行が本格的に始まり、JR東日本やJR西日本でも運行が開始されています。申し込み倍率は非常に高く、JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の最近の平均倍率は12倍に達しています。

5.観光列車の利点

(1)新たな観光ルートを作り出すことができる

 主に地方に観光列車を走らせることで、今までは認知されていなかった地方の観光資源を周知させることができます。たとえば、青森県などを走るJR東日本の五能線は、1990年に「ノスタルジックビュートレイン」、1997年に「リゾートしらかみ」を運転開始して観光路線として周知されるようになりました。近年では、JR西日本が岡山デスティネーションキャンペーンに合わせて津山線に観光列車「ノスタルジー」の運転を開始しています。

(2)主要観光地への一極集中を止めることができる

 (1)とも関連しますが、地方の観光資源が観光客に周知されれば、観光客の東京や京都など主要観光地への一極集中を止めることができます。観光客が年々増加している京都市では、市バスを利用する観光客により混雑し、地元の利用客が乗車できない場合もある事態になっています。このため京都市は、観光客の地下鉄利用へのシフトを推進しています。

上のグラフは、京都市バスの近年までの営業実績を示したものです。ここ10年ほどで、観光客が増えた影響などで、旅客数が増えています。また金閣寺や清水寺へのバスが増発された影響などで、全体の走行キロ数も伸びてきています。

※京都市交通局の対策(一日乗車券の値上げ)

京都市交通局は、市バスの混雑緩和を目的に、市バス一日乗車券を2018年3月から100円値上げして600円にする一方、市バス・地下鉄一日乗車券は同300円値下げして900円にすることで、主に観光客が地下鉄利用にシフトすると見込んでいます。ただ、100円上げるだけでは観光客はさほど地下鉄にシフトするとは考えにくいので、さらに抜本的な対策が必要だと思います。

6.「新幹線×観光列車」

以上のことを踏まえて、この中で最も乗客を集めやすいのは、「新幹線車両に観光要素を組み合わせる」列車だと思います。新幹線はもともと長距離利用客が多く、帰省などのついでに乗ってみようという乗客が比較的多いと考えられるからです。

また実際に、JR西日本が500系新幹線を使用して運行している「500 TYPE EVA」は、運行開始当初はおよそ1年4か月程度の期間限定とされていましたが、好評につきさらに1年運行期間を延長するということがありました。

またJR東日本も、既存の新幹線車両を改造した観光列車を運転しています。

○近年の新幹線車両を使用した観光列車とその形式


・「列車新設」か「既存の列車ダイヤ」か

ここで新幹線の観光列車の運行形態には2つの形式があることが分かります。1つはJR東日本が運行する観光列車のような、「観光列車専用のダイヤ」を新たに作るもの、そしてもう1つは、JR西日本が運行する観光列車のような、「既存のダイヤの列車を観光列車にする」ものです。

列車専用のダイヤで運転するのは、「とれいゆ つばさ」や「現美新幹線」など、列車ダイヤに比較的余裕がある路線や、観光客の利用が比較的見込まれる路線に設定される傾向があります。

既存のダイヤで運転するのは、「500 TYPE EVA」などで、ダイヤに余裕がない、地域輸送も十分考慮する必要がある路線に設定されています。

列車専用のダイヤで運行する利点は、座席数を減らすなど観光列車にするための柔軟な改造ができることが挙げられます。そのため、輸送力をある程度気にせず観光要素を多く組み込むことができます。山形新幹線「とれいゆつばさ」は、列車に足湯を備えていたり、バーカウンターがあったりと、魅力ある車内となっています。

既存のダイヤで運行する利点は、運行に関わる新規コストがかからないことです。現在の輸送力を減らすことなく運転することができます。

・どこに運行すべきなのか

 ここでは、「列車専用のダイヤ」「既存のダイヤ」の両方のパターンを考えていきたいと思います。

(1)「列車専用のダイヤ」―北海道新幹線(新青森駅~新函館北斗駅)

 まず列車専用のダイヤで運転する区間として望ましいのは、青函トンネルを通る北海道新幹線であると考えます。北海道新幹線は、2016年3月の開業後、1年目は開業フィーバーなどでのべ229万2000人、1日平均で約6300人が利用しましたが、2年目はそれが落ち着いたため前年度比21%減の、のべ181万9000人、1日平均で5000人となりました。

東京駅から新函館北斗駅は最速でも4時間2分かかり、スピードアップをするまではビジネス利用が多く見込めず、特に北海道新幹線内では観光需要のほうが中心です。そのため、この区間に観光列車を走らせることで、さらなる観光需要の掘り起こしが期待されます。

青函トンネルを通過する貨物列車のダイヤとの兼ね合いについてですが、2020年度末をめどに多客期中心で貨物列車の運行しない時間帯を設定することで新幹線のトンネル内260km運転を実施する予定で、貨物列車が運行しないこの時間帯に観光列車を新たに走らせることは可能であると考えます。

※車内での食事提供について

 結論から書くと、北海道新幹線での食事提供は難しいと思います。理由としては、

①現行のダイヤでも全区間(新青森駅~新函館北斗駅)の所要時間が1時間強しかない

 ②全体の約1/3を青函トンネルが占める

 という点です。

①は、時間的な制約についてです。そもそも1時間強しかないので本格的な料理を提供するには足りないと考えます。

②については、路線設備上の問題です。沿線風景も鉄道での料理提供の魅力の1つですが、トンネルが20分前後続くため、車内で提供する必要性が薄れてしまいます。

主な理由は①ですが、このような理由で、北海道新幹線内完結の観光列車での車内食事提供は難しいと考えます。

(2)「既存のダイヤ」―上越新幹線(東京駅~新潟駅)

 観光列車を既存のダイヤで運転する区間は、上越新幹線が望ましいと考えます。

 「上越新幹線 平均通過人員の推移」のグラフを見てみると、1987年度から2016年度まで大宮駅~高崎駅間は増加傾向を示しているのに対し、高崎駅~越後湯沢駅間はここ2年で減少しています。これは、2015年3月に北陸新幹線が開業したことにより北陸への移動ルートが越後湯沢駅経由からシフトしたことが要因です。

上越新幹線の利用客はビジネス客が中心で、観光客が相対的に少ないため、観光要素を列車に組み込むことで観光客の呼び込みを進めるべきです。ダイヤは、北海道新幹線よりも余裕がないため、既存のダイヤで運行するのが適していると考えます。

7.まとめ

 新幹線を観光列車化して運転するにあたって、

・「列車専用のダイヤ」「既存のダイヤ」の選択については各新幹線路線の持つ運行能力などを総合的に判断して決定するべきである(ここでは前者は北海道新幹線、後者は上越新幹線)。

・内装については、沿線が持つ魅力などを取り入れるべきである。

・車内での食事の提供については、北海道新幹線の場合、全乗車時間が約1時間であり、そのうち青函トンネル走行時間が20分を超えるため、沿線の景色が望めないので難しいと考えるが、そのほかの路線では(路線設備的には)可能である。

 これらのことを提案したいと思います。

8.おわりに

 みなさん、今回の研究はいかがでしたか。今回の研究テーマが「鉄道と観光」という抽象的なテーマであることや、問題点がはっきりと見えないため、全体として一貫性のない研究となってしまいました。しかし、観光客の流動形態など様々なことを考慮する中で、今後活用できることもたくさん学べました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

9.参考文献・サイト

・観光庁 http://www.mlit.go.jp/kankocho/

・岡山県 晴れの国おかやまデスティネーションキャンペーンの実績について

http://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/484679_pdf1.pdf

・JR東日本 路線別ご利用状況 http://www.jreast.co.jp/rosen_avr/

・JR東日本 のってたのしい列車 ポータル http://www.jreast.co.jp/railway/joyful/

・JR西日本 列車を楽しむ! 観光も楽しむ! 観光列車の旅時間

https://www.jr-odekake.net/navi/kankou/

・近畿日本鉄道 http://www.kintetsu.co.jp/

・肥薩おれんじ鉄道 https://www.hs-orange.com/

・えちごトキめき鉄道 https://www.echigo-tokimeki.co.jp/

・THE ROYAL EXPRESS https://www.the-royalexpress.jp/

・京都市交通局 http://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/

・日本経済新聞 北海道新幹線 開業1年 利用229万人

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26H2E_W7A320C1CC1000/

・毎日新聞 利用181万9000人 開業2年目

https://mainichi.jp/articles/20180327/ddl/k01/020/018000c

・日本経済新聞 四国外から宿泊5.8%増 経済効果107億円

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2358102016112017LA0000/

・静岡新聞 2019大型観光誘客企画 静岡県、需要喚起に本腰

http://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/474094.html