【語られた神話】
2021.04.18 14:22
かつてそこには、竜が在った。
一つ嘶けば大地が生まれ、一つ息を吹けば空気が流れ、
一つ涙を零せば海が渦巻き、一つ触れれば溶岩が噴出し、
斯くして“世界”は生まれた。
竜は天を舞い、それはやがて“時間”を生んだ。
しかし世界には何も存在しなかった。
原初の力が巡るだけの世界をたいそう哀れんだ竜は、
その地に自らを横たえ、ふたつに分けた。
一つは、全ての生命を司る肉体。
それは、世界に数多の器を生み出した。
一つは、悠久の時を生きる心臓。
それは、世界に数多の魂を生み出した。
しかし、竜から生まれた生命は、
いつしか竜の支配を目論んだ。
竜と彼らに矛盾が生まれ、
魂の循環は行われなくなり、
世界はその形を保つことができなくなった。
そして世界は、一度目の終焉を迎える。
……しかし、総てが消え去った訳ではなかった。
永遠を生きる心核の民はその魂を竜へと還し、循環の役を担った。
世界は竜の咆哮により閉じられた。
ひび割れた世界で死にゆくのを待つことしかできなかった竜体の民は、
閉じられた先の向こうへと旅立った。