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とある冒険者の手記

A.アリスの受難

2021.04.19 11:51

[巴術士がレベル30になりました!!]


そんなメッセージがトームストーンのFCチャットに届いたのは、ギラバニア湖畔地帯のアラミガンクォーターで、パートナーのヘリオの手伝いをしていた時だった。

送信元は、冒険者になりたてのアカネさんだ。


「アカネさん、巴術士30になったって。学者と召喚士どっちやるんだろう?」


チャットに「おめでとう」と打ちながら、隣にいるヘリオに話しかける。


「さぁな、だが、どっちにしろ今までと勝手が違くなるから、慣れさせるのにルレとか誘ってみるか?」


同じくチャットに返信をしながら答えるヘリオ。


「これから風脈とも思ったが、今日ルレ行ってないし、アリスも上げたいジョブがあるんだろ?」

「そうだな…」


たしかに、タンク系のジョブ、もしくは赤魔道士のレベルを上げたいと思ってたし、俺も今日の分のルレに行っていなかった。


「よし!じゃあアカネさんに声掛けてつれてくか!」

「あぁ」


トームストーンでアカネさんの居場所を確認し、そっちに行くことを伝え、俺たちはリムサ・ロミンサへとテレポした。



**********



「あ!アリスくん!こっちこっち!!」

「アカネさん!久しぶり!」


アカネさんとは、色々と忙しくて、1ヶ月ほど顔を合わせてなかった。

彼女はふと、俺の横に視線を動かした。


「ひょっとして、お隣はヘリオさん?」

「どうも、初めましてヘリオです」

「あれ?アカネさん、ヘリオと初対面だっけ?」

「そうだよ!ヘリオさん初めまして!アカネと申します!お話は色々聞いてますよ♪︎」


アカネさんの言葉に、ヘリオは横目で俺を見ながら「ほぉ~」と何を話したんだと言わんばかりのオーラを放った。

うぅっ、特別変な事は話してないのに、なんでそんなオーラ出すんだよぉ~

慌てた俺は、話を本題に持ってくことにした。


「さっき、ヘリオと話してたんだけど、上級職慣れるのに3人でルレに行かないかって思ってたんだ!」


アカネさんは「う~ん」と考えてから


「実は今、止まってるIDがあるのよね」

「なるほどな、じゃあ、そこに行ってからルレでも良さそうだな」

「ちなみに、どこのID?」


すると、アカネさんはトームストーンでIDを確認した。


「えっと~、ハウケタ御用邸」


その言葉に、俺は完全に石化した。


「おう!行こうぜ!」


満面の笑みを浮かべてヘリオが答えた。

俺が顔だけをヘリオに向けると、イタズラ心に火がついた顔をしていた。


「え?なんだなんだ?!」


状況が掴めていない彼女に、ヘリオがニヤニヤしたまま言った。


「特別何かあるってわけじゃないが、ただ、アリスがそこのIDが苦手ってだけだ」


2人の視線を感じ、俺は顔を背けながら「俺、ホラー苦手……」と絞り出すように答えた。

そんな俺をよそに、ヘリオはササッと武器を大剣から弓に持ち替えた。


「アリス、あんたタンクな!」

「う~、わかった………」


断れない空気に、俺は致し方なく武器を双剣から大剣に持ち替えた。

つか、暗黒騎士メインにしてる人の前で暗黒騎士やるって、結構緊張するなぁ……

それなりにタンクの動きを覚えてきてはいるが、やっぱ本職者には適わないわけで……

後で分からないこと、ヘリオに聞こ……


「よしっ!!じゃあ、行くか!!」


俺は自分を奮い立たせ、PTを組み、ハウケタ御用邸を申請した。

そして、館に入ってすぐ、ヘリオがとあることに気がついた。


「アカネ、ソウルクリスタルは?」

「え?」


声をかけられ、顔をヘリオに向けるアカネさん。


「これって装備してなきゃマズかった?」

「それ装備してないと、上級職扱いにならないぞ」


あー…、新米あるある。

実は俺もやったことがある。


「ここ終わったら、装備しておくといい」

「わかった!」


2人のやり取りがひと段落着いたのを確認して、俺は「じゃあ、行くぞ!」と屋敷の中を駆け出した。



*********



「あ~、何とかなったな~」


ハウケタのボスを倒し、少しある待機時間。

野良の冒険者さんが去ったあと、俺は脱力した。


「そうだ、ここ行かなくていい部屋あるから、残り時間でマップ踏破行くか」


唐突なヘリオの言葉に思わず「へ?」っと、間の抜けた声が出た。


「アカネは後からゆっくり部屋を回ってくれ。俺らは敵を一掃しながら鍵開けてくから」

「はーい!」

「よし!アリス、行くぞ!」


言い終えると即座にボスの部屋を走って出ていくヘリオ。


「ま、待ってくれよー!」


慌ててその後を追った。

なんか、こうやって置いてかれるの何回かあったな……

大広間前の通路で何とかヘリオに追いつき、ホッとしていると、ヘリオはおもむろに通路奥の敵を顎で指し示した。


「アリス」

「ん?」

「あれするぞ」

「はい?」

すると、ヘリオは敵を大きく指さした。

「GO!」

「そういう事かよー!」


ヘリオの掛け声で、要求するものを察した俺は、叫びながら敵へと走り出す。

敵の1匹にアンメンドを放ち、集まってきた周りの敵をアンリーシュで巻き込み、ヘイトコンボを叩き込む。

経験上、この辺のレベルのIDはヘイト安定しないことが多いので、コンボの合間合間にアンリーシュを繰り出す。

にしても、ヒラがいない状態だと、HPの削られ方が半端ない!

なんとかその場の敵を一掃したものの、戦闘不能になるギリギリ手前な状態だった。


「し、死ぬかと思った……」


肩でゼーハーと呼吸していると、休憩する間もなく「行くぞ!」との声。

顔を上げると地下へと走っていくヘリオの姿…。


「わわわっ!ちょっと待った!」

「待機時間少ないんだから、待ってる時間はないぞ!」

「ひぃ~っ!」


慌ててヘリオを追い掛ける。

前方にまた敵の姿が見えてくると、ヘリオは立ち止まり。


「アリス!GO!」

「うぉぉぉおおおおおおっ!!」


立ち止まってるヘリオを追い抜き、敵に向かって走っていき、アンメンドを放つ。

地下に残っている敵を一掃して、全ての牢屋を開ける。


「地下はこれで終わりだな」

「そ、そうだな……」


手を膝に付き、上がった息を整えながら答えた。


「そう言えば、2階は開けたのか?」

「いや……敵いたし、さすがに1人じゃ死ぬから行ってない…」

「そうか、じゃあ行くぞ!時間ない!」

「ひぃ~っ!」


また走り出すヘリオ。

情けない声を上げながら追いかけたところでタイムアップ。

館から元いたリムサにテレポさせられた。


「間に合わなかったな」

「さ、さすがにあれはキツイだろ……」

「アリスくん、大丈夫?」

「だ、大丈夫……多分……」


俺はその場に座り込み、深呼吸をして息を整えた。


「ヘリオ、マップ踏破するなら、制限解除で行った方が早くないか?」

「敵をリンチすればいいか?」


俺の言葉に、ヘリオは物凄く楽しそうな表情をして、弓から大剣に持ち替える。


ヘリオサン、アナタ、楽シソウデスネ……


「解除で行くなら、俺も本職の忍者にするか。その方が若干移動速度も早いしな」


俺は、早々に武器を双剣に持ち替える。


「あ、アカネさん、ソウルクリスタル今のうちに装備しないと」

「あ、そうだった!」


俺が言うと、荷物から学者と召喚士のソウルクリスタルを取り出すアカネさん。


「これでいいのかな?」

「あぁ、ギアセットも登録しとくといい」

「はーい!」


ヘリオの言葉に、アカネさんは元気よく返事をして作業に入った。


「ハウケタ入ったら、全釣りするから、2人とも下手に攻撃しないようにな」

「わかった!」

「じゃあ、俺はその後を鍵拾いながら開けて走るわ」

「頼んだぞ、アリス。アカネはあとからゆっくり部屋を回ってマップを埋めてくれ」

「うん!よろしくお願いします!」

「よし!準備できた!」

「私も!」

「じゃあ、行くぞー」


俺たちは再び、ハウケタ御用邸へと足を踏み入れたのだった。



*********



「マジかよ………」


制限解除でハウケタ御用邸を終えた後、本来の目的であるレベルレを申請したのだが………

飛ばされたところは


ハウケタ御用邸


「なんでまたここなんだよぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!!」


屋敷の中に俺の叫びが木霊した瞬間、ヘリオとアカネさんの笑い声が響いたのだった。