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のらくらり。

三兄弟と夢の国

2021.04.20 10:15


転生現パロ三兄弟が夢の国でのんびり遊ぶお話。

アルバート兄様17歳記憶あり、ウィリアム4歳記憶あり、ルイス3歳記憶なしという設定。

ほのぼの可愛いハピネスな三兄弟を目指した!


たまたま見たテレビのディスプレイには有名なテーマパークについての情報で溢れていた。

緻密に計算して作り込まれた空間はまるで御伽噺の世界にいるようで、夢の国と称される理由がよくよく理解出来てしまう。

現代には過去からは想像も出来ないほど素晴らしい知恵と技術があるものだなと、ウィリアムはおよそ四歳児らしくないことを考えた。

肉体年齢はともかく精神年齢は数え切れないほど歳を重ねているのだから当然だ。

記憶に残っているかつての世界には電気すら普及しきっておらず、不便を不便とも感じず生活していたというのに、今この便利な世界を体験してしまうと科学の進歩に驚かざるを得ない。

だが、ウィリアムと同じようにディスプレイに見入っていた幼いルイスにはそんな関心など一切ないのだろう。

以前の記憶がないまま無垢な精神だけを携え生まれてきてくれた可愛い弟は、煌びやかな世界観に純粋な興味を惹かれているのだ。

ディスプレイには軽快なメロディで披露される期間限定のパレードが映されている。


「わぁ…!」

「たのしそうだね、ルイス」

「はい!」


ウィリアムと違い過去の記憶など残っていないルイスの興味の対象は、愛くるしい顔で見事なダンスを披露する熊や猫といったキャラクター達なのだろう。

裕福な家庭に生まれ落ちたがゆえに今の生活ですら過去から見れば現実味のない満たされたものだというのに、御伽噺のように確固たる世界観のある華やかな空間にはついつい惹かれてしまうらしい。

ルイスも世間一般の子どもと何ら変わらず、そのテーマパークに興味を抱いてしまったようだ。

大きな瞳がキラキラと好奇心で染まっていく様子をすぐ近くで見たウィリアムは、まるで自分のことのように嬉しさで胸が高鳴っていた。


「くまさんもねこさんもとってもかわいいですね!あ、うさぎさんといぬさんもいます!」

「ほんとうだ。おともだちがたくさんいるんだね」

「すごいですねぇ」


食いつくようにテレビを見つめているというのに、これ以上テレビに近寄って見てはいけないと言い聞かされている場所から出ることはない。

夢中になっていてもちゃんと約束を守るルイスの手はウィリアムの手を握ったままだ。

興奮しているのか普段よりもぎゅうと力強く握りしめてくるその手に同じだけの力を込めて握り返す。

そういえばルイスはあまりテレビを見ないから、このテーマパークについて今初めて知ったんだろうなと、ウィリアムは密かにそんなことを考える。

兄であるアルバートとウィリアムがだいすきなルイスは、テレビを見るよりも二人と遊ぶか絵本を読んでもらうかして時間を過ごすことが多い。

今テレビをつけているのだって、ルイスが何となく気まぐれでリモコンをいじっていたらついただけのことだ。

世間知らずなルイスは世界的にも有名なこのテーマパークについての情報を、「ねずみさんがいる国」程度しか知らないだろうし、陸と海の二つに分かれていることすら理解できないだろう。

目の前には初めて見た熊や猫やうさぎが楽しそうに踊っており、その動きにつられた純粋なルイスはゆらゆらと体でリズムを取っている。

微笑ましいその仕草に癒されながら、ウィリアムは再び視線をディスプレイに戻した。


「くまさんのおみみのひとがたくさんいます」

「みんなまねっこしてるんだね」

「まねっこ?なるほど」


テーマパーク特有の雰囲気に当てられて、来場者のほとんどはキャラクターを模した帽子やカチューシャを付けている。

いいなぁ、と羨ましそうに見ているルイスこそが可愛い。

あのうさぎの耳はルイスにこそ似合うだろうと、ウィリアムは一人確信した。


「ルイスはきっとうさぎさんのみみがにあうね」

「うさぎさん?」

「そう、うさぎさん」

「…ふふ」


ルイスが持つふわふわの髪の毛を混ぜてあげれば屈託なく嬉しそうに笑う。

何の危険もなく育ってきたからか、今のルイスが見せる笑顔は少しの翳りもなく無垢な愛らしさを現実化したようなものだ。

可愛いルイスには可愛いうさぎの耳がきっと似合うことだろう。


「にいさんはねこさんのみみがにあいますね」

「ねこさん?にあうかな」

「ぼくはねこさんがいちばんすきだから、にいさんはねこさんがにあいます」

「そっか。ありがとう、うれしいな」


ルイスは動物の中で猫が一番すきだから、ルイスが一番だいすきなウィリアムと猫はお似合いだと言いたいのだろう。

よく分からない理論だが、三歳児にしては筋が通っている。

一番すきな猫を自分ではなくウィリアムに譲るところがルイスらしくて愛おしい。

ウィリアムは小さな体をぎゅうと抱きしめてから、パレードの終盤を映し出しているディスプレイを横目に見た。


「いいなぁ、たのしそうです」

「いってみたい?」

「…」


実際に行ける場所だと認識していなかったのか、ルイスは驚いたように大きな瞳を丸くさせた。

ウィリアムの顔とディスプレイを交互に見て、今ここにいないもう一人の兄を思い浮かべては三人一緒にこのテーマパークに行く姿を想像してみる。

それはとても楽しい空想で、だいすきな兄達と魔法の国へ遊びに行くというのはまさに夢のようだ。

行ってみたいと、ルイスはそう思うが、果たしてわがままを言っていいのだろうかと思い悩んでは隠しきれずにこくりと頷いた。

最近のアルバートは学校が忙しいようで、ゆっくり絵本を読んでもらう時間も少なくなっている。

一日一緒に過ごせるのならとても嬉しいし、いつも読んでもらっている絵本の世界に行けるのならば嬉しさはもっとたくさん増していく。

小さく頷いた後で、いきたいです、と呟いたルイスをウィリアムはもう一度抱きしめた。


「ただいま、遅くなってしまったね」

「あ、にいさま!おかえりなさい!」

「おかえりなさい、にいさん」


広いリビングで二人きりだった幼い兄弟の元に、彼らの兄が帰ってきた。

生徒会での活動を終えたアルバートは、疲れを癒すためにも帰宅してすぐにウィリアムとルイスに会いに行く。

そうして飛び付いてくるルイスを抱き上げるのが毎日の習慣なのだ。

ウィリアムは抱きしめていた体がそわそわと動き出す様子を愛おしく思いながらルイスを解放してあげる。

するとルイスは真っ直ぐアルバートの元に駆け寄って抱っこをせがんでいた。


「きょうもせいとかいですか?」

「そうだよ。幼稚園への迎えに行けなくてすまなかった」

「だいじょうぶです。にいさま、よくがんばりました」

「ありがとう」


ルイスはぎゅう、とアルバートの首筋に抱きついてはよしよしとショコラ色の髪の毛を小さな手で撫でていく。

いつもルイスが褒めてもらうときには、よく頑張ったね、と撫でてもらいながら声をかけてもらうため、それを真似しているのだろう。

アルバートが迎えに行けない日はいつも寂しそうに車に乗ると聞いているのに、怒る様子も拗ねる様子もなくただ忙しさを労うルイスの優しさに胸を打たれてしまいそうだ。

思わず唇を噛み締めて可愛い末っ子のなでなでを受け入れていると、ブレザーの裾を引っ張られた。

ふと視線を下ろせばウィリアムがにこにこと笑いながらアルバートを見上げており、おつかれさまです、とまたも労われた。

小さな手で衣服に作られた控えめな皺すらも愛らしく見える。

アルバートはもう一人の可愛い弟の淡い金髪を優しく混ぜてから、二人のためだけの甘い声で礼を言う。


「ありがとう、二人とも。もう少ししたら忙しい日々も終わるから、そうしたらどこかへ遊びに行こうか」

「…ほんとうですか!?」

「うん?あぁ、本当だよ」


何気なく口にしたが偽りのない本心に驚くルイスを、アルバートは不思議な顔で見つめ返す。

大きく真っ赤な瞳はきらきらしており、真っ白い頬も綺麗な薔薇色に染まっている。

どうしたのだろうかと思っていると、ルイスはウィリアムと視線を交わしてあれやこれやと会話を始めた。

アルバートは二人の声が届きやすいようにルイスを抱いたままソファに腰掛け、ウィリアムはその意図を察したように迷うことなく隣へ座る。

幼い二人の会話は中心が見えず、けれども待っていれば教えてくれるだろうと、アルバートは気ままに弟達を見守っていた。


「にいさん、ルイスといっしょにあそこにいってみたいのですが」

「あそこ?…なるほど」


ウィリアムがアルバートの袖を引き、意識を自分達ではなくディスプレイに向けるよう促した。

そうして目に映った映像はお勧めのポップコーンとバケットを紹介するタレントがおり、なるほど、弟達はあの夢と希望に満ちたテーマパークに行きたいのだとアルバートは理解する。

ウィリアムもルイスもあの場所に行ったことはないが、アルバートは二人が生まれる前に一度だけ両親に連れて行ってもらったことがあった。

随分と昔のことになるけれど、その頃からアルバートの精神年齢が高すぎたせいか、それとも元より空想の世界に興味を持てない性分だったせいか、大して盛り上がることなく一日を終えたことをよく覚えている。

そのときのアルバートははしゃぐどころかあまりにも普段の様子と変わらなかったため、以来両親はそのテーマパークの話題を出すことすらしなくなった。

後にかつての師であり現在の執事長であるジャックから「フリでもいいから喜んでおけば良いものを」と苦言を呈されたが、アルバートにしてみれば現実味のない世界を楽しむよりも、一刻も早くかつての弟達を探し出したかったのだ。

明くる日も明くる日もウィリアムとルイスを探し求めていたというのに、突然身籠った母から続け様に二人が生まれてきたときには大層驚いた。


「にいさん?」

「にいさま?」

「あぁ、すまない。何でもないよ」


うっかり記憶を遡りすぎてしまったが、とにかくアルバートもこのテーマパークには一度しか行ったことがないしあまり詳しくもない。

けれどディスプレイに映る世界観は見事なもので、ウィリアムとルイスが行きたいというのであれば非日常に浸るのも悪くないだろう。

アルバートは優雅に笑みを浮かべて不安そうなルイスの額にキスをした。


「来週の土日、泊まりで遊びに出かけようか」

「ほんとうですか!?」

「あぁ。楽しみにしておいで」

「よかったね、ルイス」

「はい!」


明確な返事を聞いて安心したルイスは花開くように愛らしく笑っている。

ウィリアムも嬉しそうにはにかんでおり、アルバートはその髪の毛をもう一度優しく撫でては梳いていった。

かつての生活に満足していなかったわけではないけれど、それでも思い出というものは格段に少ない。

せっかく平穏な時代に生まれ落ちたのだから三人でたくさんの思い出を作るのも良いだろうと、アルバートはパークの情報を流しているディスプレイに目をやった。

パーク内にいる人間そのものが景観を象る一種なのだろう。

色とりどりの帽子やアクセサリーだけでなく、衣服までキャラクターを模したものを着ている人間が多数いる。

幼い二人が着ればさぞかし可愛いのだろうなと思っていると、ルイスから嬉しそうに弾んだ声が聞こえてきた。


「にいさまはくまさんのおみみがにあうとおもいます!」

「熊さん?あぁ、キャラクターの一人なんだね」

「ぼくはうさぎさんで、にいさんはねこさんです。にいさまはくまさん!」


にいさまのかみのけとおそろいですと、アルバートの癖の強い髪の毛をふわふわ撫でた後でルイスは熊耳をイメージした両手の拳をちょんと乗せる。

小さな手が頭に添えられた感覚はくすぐったくて、ルイスがそういうのならば自分はその熊なのだろう。

ふと見ればルイスがいう熊のキャラクターと猫とうさぎのキャラクターがディスプレイに映っている。

その耳を模したカチューシャを付けた来場者もおり、これは絶対にルイスとウィリアムに似合うだろうと確信した。


「では当日、みんなで耳をつけて遊ぼうか」

「はい!ぼく、すごくたのしみです」


機嫌よくアルバートの腕に懐き、初めての場所で兄達とともに遊ぶことを夢見るモリアーティ家の末っ子。

ウィリアムも行ったことはない場所に対しての好奇心が疼く。


「にいさんにいさん、あとなんかいねたらあそびにいけますか?」

「えっとね、あときゅうかいねたらうさぎさんだよ」

「きゅうかい…」


今にも九回分眠ってしまいそうなほどそわそわ期待に満ちているルイスがとても可愛らしい。

ウィリアムは手を伸ばして丸い頬を撫でていき、アルバートはウィリアムの背に腕を回して弟二人を抱きしめた。




「たくさんひとがいます」

「ほんとうだね。あした、あそびにいくのがたのしみだね」

「はい!」

「ほらルイス、ウィリアム。車での移動は疲れただろう、少し休んだ方が良い」


モリアーティ家の三兄弟は予約していたパーク直結のホテルで存分に寛いでいる。

車での長旅だったはずなのに、緊張と興奮のせいなのかルイスもウィリアムも昼寝することなく、ずっと起きては楽しそうに笑い合っていた。

そうしてアルバートとウィリアムに手を引かれて最上階のホテルに足を踏み入れたルイスは、窓の外から見えるパークの様子を見てますます期待を胸に膨らませている。

ともすればこのまま夜まで起きてしまいそうだが、今までの経験上一度は休ませておかないと夕食の時間にはもう眠気が来てしまうだろう。

アルバートは起きていたいとゴネるルイスを抱き上げ、ウィリアムの手を引いてベッドに連れていっては備え付けのパジャマに着替えさせた。


「もっとにいさまとにいさんとあそんでたかったのに」

「明日に備えて休むことも大切だよ。少ししたら起こしてあげよう」

「ルイス、おいで」


ルイスはぷっくりと頬を膨らませて拗ねたようなことを言うけれど、アルバートの手を煩わせまいと自分でパジャマに着替えようと手を動かす。

人形のように小さな手がゆっくりとボタンを留めていく様子を見つつ、ウィリアムも大人しく着替えを済ませている。

アルバートの言う通り一度休んでおいた方が良いし、何より少し疲れてしまった。

ぼんやり眠たくなってきたウィリアムはルイスの腕を引いてそのままふわふわのベッドに潜り込み、爛々とした瞳を見せているルイスのお腹をぽんぽんと撫でさすっていく。

規則正しいリズムと程よい感触は毎晩経験しているおやすみなさいの合図で、眠たくないと言っていたはずのルイスも条件反射のようにとろんと瞳が閉じてくる。

うつらうつらしながら起きていようとするルイスと、弟よりも先に眠ってしまいそうなのに兄としての責務を果たそうとしているウィリアム。

アルバートは可愛い弟達を微笑ましく見守りながら手早く着替えを済ませ、弟達が眠るベッドに入り込んではウィリアムに代わってルイスのお腹を撫でていく。

長い腕はルイスだけでなくウィリアムの体にも心地良い振動を与えており、限界が近かったらしいウィリアムはすぐさま眠りに落ちてしまった。


「…すぅ」

「……にぃ、さま…にいさまも、おひるねです…?」

「あぁ。おやすみ、ルイス、ウィリアム」


アルバートはルイスの唇がおやすみなさいの形を作っているのを見届ける。

声にはならなかったけれど挨拶は忘れない礼儀正しい末っ子と、眠くなってしまえば所構わずな弟は、以前のときと何も変わりないように思う。

一番幼いルイスを中心に、川の字で三兄弟は束の間の休息を取る。

とはいってもアルバートはさほど疲れていないため、むしろ最近不足していた癒しを得ようと小さく寝息を立てている弟達を静かに見つめていた。


「おはよう、ルイス、ウィリアム」

「…おはようございます、にいさま…ふぁ…」

「……んん」


小さな体に休息を取らせた後、アルバートは約束通りウィリアムとルイスを起こしてあげた。

まだぼんやりしているが割合すっと起きてくれたルイスとは違い、今のウィリアムは昔と違って寝起きがあまり良くない。

いや、以前は表には見えない緊迫感があったからこそすんなり目覚めることが多かっただけで、一向に目を開けようとしないこの姿こそがウィリアムの真の姿なのだろう。

ふぁぁ、と小さなあくびをして目元を擦るルイスの手を止めながら、アルバートはウィリアムの肩を優しく叩いて覚醒を促した。


「にいさん、おひるねおしまいですよ。おきてください」

「んー…」

「全く、仕方ないなウィリアムは」


ルイスが小さな手でウィリアムの体を揺すり動かしても目を開く気配がない。

普段なら何度か促されれば幼稚園に遅刻することなく起きているというのに、今日は休日かつ兄弟との外出という状況に甘えているのだろう。

概ねその心情を察したアルバートは呆れたように息を吐くが、ルイスは諦めずにウィリアムを起こそうと頑張っている。

晩御飯を食べ損ねてはお腹が空いてしまう、と考えているのかもしれない。

だいすきな兄にひもじい思いをさせまいと懸命に声をかけるルイスを見て、アルバートはウィリアムを起こす良い方法を思いついた。


「ルイス」

「なんですか、アルバートにいさま…おみみ!」

「前もって用意しておいたんだよ。ルイスはうさぎさんだったかな?」

「はい!にいさまはくまさんで、にいさんはねこさんです」


アルバートは用意していた鞄から三つのカチューシャを取り出し、ルイスの前に掲げてみせた。

テレビで見たキャラクターの耳をモチーフにしているそれを目にしたルイスの瞳はキラキラと輝いている。

この表情を見られただけでも十分に眼福だ。

アルバートはラベンダー色をしたうさぎの耳を模したカチューシャを小さな頭にそっと乗せていく。

耳の付け根にある花がアクセントになっているが、淡い紫色はルイスのイメージカラーとしてもぴったりだ。

今世のルイスは揺らぎ色が似合う性質ではないかもしれない。

けれどアルバートにとってのルイスとはやはり定まりきらない色合いを特徴とする、憂いと儚さがよく似合う弟なのだ。

思っていた通り、可愛らしいラベンダー色のうさぎの耳はルイスのイメージにもルイスの外見にもよく似合っていた。


「よく似合っているね、ルイス。可愛らしいよ」

「えへへ…にいさまもくまさんつけてあげます!おかお、こっち」

「おや、ありがとう」


ルイスはもふもふとした大きな耳が特徴の熊耳カチューシャを手に取り、アルバートの頭にそっと乗せていく。

濃いショコラ色の髪に比べれば色味は薄いけれど、ふわふわの手触りと温かみのあるそれはやはりアルバートに似合っていると、ルイスは満足げに大きく頷いた。

もふもふしていて触り心地が良い。

だいすきな兄の頭に興味を惹く耳が付いて、ルイスは機嫌よくアルバートを見上げて笑いかけた。


「にいさま、くまさんとってもにあってます!かわいいです」

「それは嬉しいな。おいで、ルイス」


うさ耳ルイスを抱きしめ、アルバートは未だ惰眠を貪ろうとしているウィリアムを見た。

そして自慢するかのように、いや事実自慢してはいるのだが、とにかく優越感を滲ませながら声を出す。


「こんなにも可愛いルイスを睡眠優先で見ないだなんて愚かなことだな、ウィリアム」

「っ!!」

「あ、にいさんおきた」


あれほど頑なに目を開けようとせず、声も右から左へ聞き流していただろうウィリアムが、アルバートの声にすぐさま反応して覚醒した。

がばりと起き上がって綺麗な赤を見開いて己を凝視する弟の姿はアルバートの予想通りだ。

ウィリアムはいつだってルイスの姿を見逃さないよう生きている。

うさ耳ルイスなど幼稚園のお遊戯会でも見たことはないのだから、ウィリアムにとって貴重すぎる姿だろう。

当然、アルバートにとっても今のルイスはこれ以上ないほど貴重である。

呆けたようにルイスを見るウィリアムを視界に収め、親切心で声をかけてやった甲斐があったとアルバートは不敵に微笑んだ。


「ルイス、にいさん…」

「おはようございます、にいさん。おみみ、つけますか?」

「え、あぁ、うん…」


起き上がったばかりのウィリアムの目には、可愛らしいうさぎの耳を付けた弟と、可愛らしい熊の耳を付けた兄がいた。

初めて見るその可愛らしい姿に起き抜けのウィリアムの胸は簡単に射抜かれ、思わず息が詰まる。

そして何故かドヤ顔を披露しているアルバートとのんきに挨拶をしているルイスをまじまじと目に焼き付けた。


「…かわいい!」

「ん、ぇ」

「おや」

「ふたりともかわいいですね、よくおにあいです!」


起きたばかりでも影響なく優れた頭脳を発揮するウィリアムなのに、今は勢いのまま行動しているらしい。

目の前にいるメルヘンチックな兄弟に言い知れないときめきを覚えた影響で、ウィリアムは力の限り二人を強く抱きしめた。

たかが四歳児の力ではあるが、ルイスは相応に苦しくなったようだ。

ウィリアムは念のため少しだけ抱きしめる力を弱め、可愛い姿の兄と弟を間近でしっかりと見る。

テレビで見たときからルイスに似合うと思っていたが、想像以上によく似合う。

パステルカラーが幼いルイスに合っているし、何よりうさぎの耳というのはポイントが高い。

あからさまに可愛さを狙っているような代物なのに、ルイスのために用意されたのではないかと思うほどお似合いなのだ。

ウィリアムは満足げにルイスのおでこにキスをして、アルバートに微笑みかけた。

色合いを合わせた茶色い熊の耳はアルバートのイメージではないが、手触りの良さそうな耳は中々どうしてよく似合う。

隙なくクールでスマートなアルバートに可愛らしいカチューシャが似合うなど、これがギャップにときめくということなのだろうか。

いつも格好良いはずの兄が今は格好良いかつ可愛らしい存在になっていて驚いてしまった。


「にいさん、ねこさんのおみみつけてあげます」

「え、あ、ありがとうルイス」

「おや、よく似合っているじゃないか。可愛いよ、ウィル」


ルイスはウィリアムの抱擁から腕を伸ばし、一つだけ余っていたベレー帽をアクセントにした猫耳のカチューシャを手に取った。

そうしてウィリアムの頭にそっと乗せてあげると、鮮やかな金色と爽やかなミントカラーが組み合わさってとても綺麗な色合いが完成する。

大きな猫の耳は可愛らしく、猫がだいすきなルイスは心躍るようだ。

小さな帽子もよく似合っていると、ルイスはウィリアムの首に腕を回して嬉しそうに抱きしめた。


「にいさん、ねこさんとってもかわいいです」

「ありがとう。ルイスもとてもかわいいよ」


己の腕の中で可愛い弟達が可愛い姿で可愛い可愛いを言い合っている。

可愛いの概念が分からなくなりそうだが、ウィリアムとルイスの形容詞だと思えば混乱することもないかと、アルバートは心癒される光景を前に満たされたような息を吐いた。

その頭には顔のイメージに見合わないもふもふの熊耳が乗っている。

用意したときは「明日一日この姿で過ごすのか」と複雑な気持ちだったが、そんな気持ちが吹き飛ぶくらいに弟達が愛らしくて堪らないのだから、もはや些細な問題に過ぎない。

平和なこの世界において、最も大切な弟達と過ごす時間以外に譲ることなどアルバートには存在しないのだ。


「あした、パレードみたりおさんぽしたりするのたのしみです!」

「そうだね、たくさんたのしもうね」

「ぼく、ポップコーンのうつわがほしいです。かっこいいれっしゃのうつわがあるって、テレビでいってました」

「よし、では明日はそれを探そうか。他にも何か欲しいものがあったら遠慮せず言うんだよ、ルイス、ウィリアム」

「ありがとうございます、にいさん」


小さな体にウキウキとした気持ちを乗せ、ルイスはうさ耳を揺らしている。

ウィリアムも可愛い弟と可愛い兄の姿に既に満足した様子を見せており、アルバートも明日に備えて気合いは十分だ。

用意してきたバッグには明日のために買い揃えた一眼レフが一式入っている。

たった数日ではあるが睡眠時間を削って専門家に指導を貰い、物覚えの良さと生来持つ器用さと相まってカメラ技術は既にプロ並みだ。

アルバートは明日、この可愛い弟達の姿を余すことなく写真に収めるつもりである。

抱いていたルイスの体を強く抱きしめることで気合いを込め直し、まずは夕食を食べに行こうと小さな弟達の手を引いてベッドを降りた。




「ルイス、きょうのおやくそくは?」

「にいさんとにいさまとつないだてをはなさないことです」

「知らない人に声をかけられたらどうする?」

「ブザーをならして、にいさまのうしろにかくれます」

「うん、ルイスは良い子だね」


可愛らしいカチューシャを身に付けて身支度を整えた三兄弟は、末っ子であるルイスとの約束事項を再確認する。

日頃からウィリアムとアルバートから離れたがらないルイスだが、羽目を外して迷子になってしまう可能性はあるし、巧妙な策を講じられて誘拐されないとも限らない。

モリアーティ家が雇っているボディガードが観客を装い紛れているとはいえ、油断は大敵だ。

何せルイスは常日頃から可愛らしいのだから、夢の国で楽しく遊ぶ姿は間違いなく愛らしさが倍増してしまう。

ウィリアムだって中身はともかく未熟は体かつ可愛らしいのだから、不意を突かれて攫われる可能性は十分にあるのだ。

万が一攫われたとしてもウィリアムならば一矢報いることは確実だが、それでも心配になるのは兄としての性分なのだろう。

アルバートはGPS機能とタップ一つで騒音並みの警報音が鳴るよう設定した携帯電話を二人に持たせ、独り言のようにぽつり呟いた。


「やはり貸切にすべきだったか…」

「にいさん?」

「何でもないよ、ウィル」


当初、アルバートはモリアーティ家の財力を持ってしてこのテーマパークを一日貸し切る予定だった。

ウィリアムとルイスが安全にパークを楽しむためには不可欠な要素だと真っ先に考えていたのだが、執事長であるジャックと近くに住まうモランに却下されてしまったのだ。

曰く、そこまでやるのは流石に引く、らしい。

時間こそなかったが無理を押し通すことも出来たというのに、アルバートは渋々ジャックとモランの言うことに従ってしまった過去の自分を後悔した。

世界の何より大切な弟達に危険が及ぶなど、可能性すらあってはならない。

随所に配置したボディガードはジャック含め全員腕利きであるし、貸切が駄目なのならば手を貸せと半ば脅した狙撃の名手たるモランもどこかにいるはずだ。

いざというときには躊躇なく麻酔銃を撃つよう指示している。

だがやはり信じられるのは己のみだと、アルバートは神妙な顔をしてウィリアムとルイスを見下ろしていた。

ルイスはそんなアルバートに気付いていないが、ウィリアムはおおよそ気付いている。

貸切とはまた大胆なことだと、現代なのに貴族としての血筋を感じてしまったことに思わず笑ってしまった。


「にいさん、にいさま、はやくいきましょう!」

「そうだね、いこうか」

「その前に二人とも、こちらを見なさい」


アルバートは手にしていた一眼レフで、張り切るルイスに手を引かれたウィリアムという一枚を撮る。

あらゆる危険は排除しなければならないが、モリアーティ家のボディガードは優秀なのだからそこにばかり心血を注いでいても仕方がない。

まずは愛くるしい弟達の姿をたくさんの写真に収めるのだと、アルバートは張り切ってシャッターチャンスを見極めていった。


「にいさま、カメラマンなのですか?」

「そうだよ。今日は二人の写真をたくさん撮ってあげるからね」

「ありがとうございます、にいさん」


うさぎの耳と猫の耳を付けた弟達に見上げられ、熊の耳を付けたアルバートは優しく微笑んだ。

今撮ったばかりの写真数枚を確認してみると本物には叶わないまでも可愛らしく写っている。

周りの景色と相まって本当に御伽噺の世界に来たようだった。


「ルイス、まずはどこにいきたい?ポップコーンをかいにいこうか?」


ウィリアムと手を繋いでいるルイスはその言葉にふるふると首を振って否定する。

そうしてアルバートの衣服の裾を軽く掴んで、まずは散歩がしたいと望みを言った。

最近はこうして三人揃ってのんびり歩くことも減ってしまったのだから、港を感じさせる美しいパーク内を散策してみたかったのだ。

小さなルイスにとってここはとても広くて大きい一つの世界だ。

初めての場所を探検してみたくなるのは子どもとしての真っ当な心理だろう。


「では、歩きながら景色を楽しむとしようか」

「はい」

「いきましょう、ふたりとも」


アルバートの提案に大きく頷くルイスとウィリアムをカメラに収める。

ルイスを中心にしてゆっくりと歩き出した三人は、特に目的地もなく御伽噺のように作り込まれた空間を楽しんでいった。

道端の落ち葉がキャラクターの形に整えられていたり、世界観にマッチした衣装のキャストが元気いっぱいに挨拶してくれたり、道行く人が耳を付けた三人を微笑ましく見守ってくれたりと、日常でありながら非日常を経験出来るというのは趣深い。

何より、昔も今もこれほど緻密に作られた別世界の環境に身を置くことはなかった。

アルバートはルイスとウィリアムに見劣りしないこの空間に感心しながらカメラのシャッターを逐一切っている。

始めは戸惑っていた二人もだんだん慣れてきたのか、自然な笑みを浮かべてカメラ向こうのアルバートを見るようになった。

そうして数十枚にもなる写真を撮りながら散策を続けていると、キャラクター達が集まる広場に足を踏み入れる。

テレビで見たキャラクター達が大勢の人に囲まれている様子を見たルイスは、興奮を隠しきれないように瞳をキラキラさせていた。


「に、にいさんにいさま!あそこにくまさんがいます!あっちにはねこさんとうさぎさんも!」

「ほんとうだ。あくしゅしてもらいにいこうか」

「え!でも」


恥ずかしそうに熊のキャラクターを見つめるルイスは、それでも握手をしてもらいたいのかもじもじしている。

元々引っ込み思案の子だから、最初の一歩が踏み出せないのだろう。

ウィリアムはそんなルイスのうさ耳を撫でてやり、ここは兄として一肌脱ごうと自分のものより少しだけ小さいその手を引いて歩き出す。

ところが幼い兄弟が足を進めるよりも先に、目当てのキャラクターがウィリアム達の元に駆け寄ってくれた。


「え、え!」


喋ることはないが身振り手振りで、おはよう!今日はいい天気だね!一緒に遊ぼう!と話しかけてくるテーマパークでも人気のキャラクター。

ルイスは興奮した様子でウィリアムの腕にしがみつき、それでも視線だけはもふもふの熊に向かっていた。

構ってくれて嬉しそうなルイスとは違い、ウィリアムは他にもたくさんのゲストがいる中で駆け寄るよりも前に来てくれるなんてことがあるのだろうかと疑問に思う。

不思議そうなウィリアムに気付いていないルイスは熊のもふもふした手と握手しており、アルバートはその様子をあらゆる角度から連写していた。

レンズがウィリアムにも向いているところから、おそらく熊に圧倒されているウィリアムの姿も複数撮られているのだろう。

混乱している最中に熊は愛くるしい仕草のままに去っていく。

けれど続け様に猫やうさぎがやって来るのだから、あまりにも出来すぎた状況にもしやと思いアルバートを見上げた。


「…にいさん、もしかして」

「呼んだかい?ウィル」


あまり考えたくはないが、パーク内のキャラクター達はおそらくアルバートの息がかかっているのだろう。

テーマパークを丸ごと貸切にするより可愛いものだけれど、それでも一般的な考えではないはずだ。

それを当然のようにやってのける兄の大胆さは今も昔も変わらない。

昔はともかく今はそのベクトルが全て自分とルイスに向かっているのだと思えば、彼の弟としてくすぐったいほどに嬉しくなった。


「…いえ、なんでもありません」

「そうか」


ウィリアムの言葉に返事をしてから、アルバートは再びシャッターを力強く押していった。

花に集まる蝶のように、パークに住まうあらゆるキャラクターがルイスとウィリアムの元に集まってくる。

ルイスは楽しそうに握手したりお話ししたりしているのだから結果オーライだと、ウィリアムもふわふわの手に握手をするため腕を伸ばした。

すかさずシャッター音が聞こえてくるのだから、いかにアルバートが今日という日を真剣に考えているかが窺い知れるというものだ。

真剣な表情でシャッターを切ったかと思えばルイスの呼びかけには心優しい兄としての表情を向けるのだから器用である。


「にいさま、うさぎさんとおそろい!」

「そうだね、可愛いよルイス。ウィリアム、ルイスにだけでなくこちらにも目線をくれるかい?」

「はい」


ルイスが付けているカチューシャと同じキャラクターが、ルイスのうさ耳を見て感激したように飛び跳ねている。

それを真似したルイスがぴょん、と跳んでみせれば、うさぎのキャラクターはますます喜んでルイスの手を掴んで楽しそうに飛び跳ねていた。

愛くるしいその仕草を動画と写真で撮っていったアルバートだが、そんな兄を見たルイスは楽しそうにぴょんぴょん跳んでいたはずなのに突然跳ぶのをやめてしまう。

ルイスはじっとアルバートを見つめるが、その意図が分からない彼はひとまずカメラのシャッターを切る。

カメラ越しにしか見えないアルバートの顔は半分以上が隠れてしまっている。

今日はほとんどそんな姿しか見られていないルイスはムッとしたように表情を変え、どうしたのかと隣でウィリアムが首を傾げていると、うさぎと手を繋いだルイスはアルバートの元に向かっていってはその服の裾を引っ張った。

ウィリアムもアルバートもうさぎもルイスの行動を不思議に思うが、ルイスだけはつまらなそうにアルバートを見上げている。


「どうしたんだい、ルイス?」

「にいさまもいっしょ」

「一緒?」

「…にいさまも、ぼくとにいさんといっしょにあそぶの」


ぎゅ、とアルバートの服を握るルイスの顔には寂しそうだけれどはっきりした不満が浮かんでいる。

言葉は足りないが、ルイスの気持ちは十分に伝わっていた。

今日は一日ずっと三人で遊ぶと決めていたのに、アルバートはずっとカメラを構えていたことが不満なのだろう。

最初は良かったけれど、段々つまらなくなったに違いない。

お揃いのうさぎと遊んでいてもアルバートが近くに来てくれることもなく、ウィリアムもうさぎも優しいけれどアルバートがいない状況に限界が来たのだ。

そのことに気付いたうさぎは、感動のあまりもふもふの両手で自分の口を押さえていた。


「…そうだね、ルイス。写真ばかりで退屈させてしまってすまなかった。今から一緒に遊ぼうか」

「はい!」

「ルイス、おみみがずれてるよ」


アルバートは自分の気持ちを教えてくれたルイスの健気さに胸を打たれ、持っていたカメラ道具を全てその場に置いて身軽になった。

そうして小さな体を思いきり抱きしめ、ウィリアムが正しい位置に直してくれたうさ耳ルイスを堪能する。

可愛い弟の可愛いお願いはウィリアムの胸にも響いており、ふわふわの髪の毛を優しく撫でては愛おしそうに見つめている。

仲の良い兄弟に感動したうさぎは再びぴょんぴょんと飛び跳ねてはその感動を表現していた。




「うさぎさんありがとうございましたー!」

「さようならー」


ウィリアムとルイスのお別れの言葉に両手を振って返したうさぎは軽やかな足取りでその場を去っていく。

その姿を見送った三人は温かい気持ちでグリーティングを終えた今を噛み締める。

カメラを置いて身軽になったアルバートと手を繋ぎ、もう反対の手でウィリアムと手を繋いだルイスは余韻を楽しんでいた。


「たくさんあそんでもらえました。みんなかわいかったです」

「たのしかったね、ルイス」

「はい!」

「そろそろ喉が渇いただろう?飲み物と…ポップコーンでも買いに行こうか」

「ポップコーン!」


大きくてもふもふで温かくて可愛かったと楽しそうなルイスを見ていると、ウィリアムとアルバートまで楽しくなってくる。

キャラクターよりもルイスの方が可愛かったし、ルイスを引き立たせるには十分な存在だったなと、テーマパークの管理者が聞いたら複雑な顔をするだろうことを考えていることはさておき、三人はゆっくりと足を進めては今日の目的の一つであるポップコーンを探すことにした。


「ルイスが欲しい容器をくれる店は少し歩いた場所にあるようだ。朝からずっと歩いているし疲れただろう?ほら、おいで」

「いいです、いらない」

「ぼくもひつようありません」

「だが…」

「いっしょにあるきます。だいじょうぶ」


ルイスが求めていた「格好いい列車の形をしたバケット」は、この近くでは取り扱っていないらしい。

アルバートは幼い二人の疲労を考慮して抱っこを提案するけれど、二人から拒否されてしまった。

本当に大丈夫だろうかと心配になるが、ウィリアムとルイスは疲れも眠気も見せずにとても楽しそうだ。

ならばこれで良いかと、アルバートはルイスの手を握る。


「きょうはてんきがいいですね。ぽかぽかであたたかいです」

「そうだね。とてもきもちがいいひだ」

「こんなに穏やかな時間を過ごすのは久しぶりだね」

「にいさま、たのしいですか?」

「勿論。とても楽しいよ、ルイス」


アルバートとウィリアムと手を繋いだルイスは至極機嫌が良かった。

最近はこうして三人一緒に散歩する機会も少なかったから、天気の良い日に魔法のような場所でのんびり歩くのは気持ちが良い。

抱っこはすきだけど、ルイスはアルバートと同じスピードで共に歩くというのもだいすきだ。

今は甘えるよりも自分の足で立って歩くという自立心が勝っている。

小さな足で大きく歩くルイスはようやくウィリアムとアルバートを独り占め出来ていることに大満足だった。

日頃忙しくしているアルバートが楽しんでくれているというのも嬉しい事実だ。

そうして少しだけ長い時間を歩いていると、目当てのお店が見えてくる。

遠くからでも香ばしく甘い匂いがしてきて思わずお腹が鳴ってしまいそうだった。


「ルイス、ポップコーンは何味が良い?」

「にいさんはどのあじがいいですか?」

「ルイスがすきなあじでいいよ」

「にいさまは?」

「私は何でも構わないよ」

「ふーむ…」


一人一つポップコーンを頼んでも良いが、食べ切るのに時間がかかってしまうことを考えると一つを三人で分けるのが良いだろう。

一般的な子どもならば一つ丸々を欲しがるのかもしれない。

けれどルイスは基本的にウィリアムとアルバートと同じものを分けて食べることを好んでいる。

日頃からそういう習慣が付いているのだから、今日も悩むことなくポップコーンを一つだけ買うつもりだ。

ウィリアムにもアルバートにも特別苦手な味があるわけではないし、ルイスが好む味を選んで分けるのが良いだろう。

ルイスはじっとポップコーンのフレーバーを見つめ、続けて欲しがっていたバケットの実物を見る。


「…ぼくはあのれっしゃのうつわがほしいので、あじはなんでもいいです。にいさんがえらんでください」

「そうかい?じゃあ…ストロベリーミルクあじがいいです、にいさん」

「分かった。ストロベリーミルクと限定のバケットを一つずつお願い出来ますか」


遠慮というわけではないが、バケットは自分の欲しいものを選ぶのだからフレーバーは兄に選んでほしいということなのだろう。

兄思いのルイスの気持ちを尊重してそれ以上言及することはなく、ウィリアムはルイスが熱心に見ていたフレーバーのポップコーンを選んであげる。

ウィリアムは塩気のあるものも甘いものもどちらも好みだ。

アルバートも甘いものは好んでいるし、ならばルイスが気に入っているものを選んであげるのが兄として正しい姿だろう。

実際にルイスはいちごとミルクの甘い香り漂うポップコーンの入った格好良い列車の形をしたバケットを手に取り、嬉しそうに頬を赤らめていた。


「ポップコーンかっこういいです!いいにおい…」


映画館で見るよりも立派なポップコーンの容器はルイスのお気に召したらしく、ベルトの長さを調整して首から下げてもらっている。

鼻に届く甘い匂いは思わず頬が緩んでしまう。

ルイスは大事にバケットを抱きしめ、早速ひとつ食べようとするが、立ったままでは行儀が悪いだろうかとアルバートを見上げていた。


「飲み物を買って、ベンチで休みながら食べようか」

「はい」

「むこうにのみもののおみせとベンチがありますよ」


幼いなりに分別が付いてる弟を誇らしく思いながら、アルバートはしばしの休憩を提案する。

パークに来てからずっと歩き通しだったのだから流石に疲れているだろう。

飲み物を三つ買ってからお洒落なベンチに腰を下ろし、三人は出来立てのポップコーンを味わうべくバケットの蓋を開けた。


「はい、にいさまのぶん。これはにいさんのぶんです」

「ありがとう、ルイス」

「ほら、ルイスのジュースだよ。ひとくちのもうか」

「あー…」


膝にバケットを乗せ、ちゃんとウェットティッシュで手を綺麗にしてからルイスは兄達にポップコーンを分けていく。

小さな手で掴めるポップコーンはほんの少しで、けれどそのわずかな量をゆっくり味わっていくというのも中々楽しい。

ルイスはウィリアムが用意してくれたりんごのパックジュースを飲み、空になったアルバートの手にポップコーンを乗せていった。

そうして自分ももきゅもきゅとポップコーンを食べていき、合間で空になったウィリアムの手にポップコーンを乗せていく。


「おいしいです、ポップコーン」


ストロベリーミルク味のポップコーンはルイスのお気に召したらしく、幸せそうな顔でもぐもぐ口を動かしている。

けれどそれに夢中になることはないようで、ちゃんとアルバートとウィリアムの分を取り分けながら三人仲良くポップコーンを味わっていた。

一度、隙を見てアルバートがバケットの中からポップコーンを取ろうとしたが、ルイスがすぐにバケットに手を入れて小さな手にいっぱいポップコーンを掴んでアルバートの手に乗せてくる。

アルバートがその様子に笑ってしまいながらポップコーンを味わうと、今度はウィリアムがルイスの隙を付いてポップコーンを盗み取ろうとして失敗していた。

まるでポップコーンを守る番人のような末っ子に、兄達はポップコーンを掠め取ることを諦めて大人しくルイスに分け与えられるのを待つことにする。


「ルイス、ポップコーンを貰えるかな」

「はい、どうぞ」

「ぼくもほしいな」

「どうぞ、にいさん」


小さな手で懸命にポップコーンを分ける姿が可愛らしい。

ルイスは自分の手で兄達に美味しいポップコーンを分け与えたいのだろう。

ならばそれに従うべきだと、ウィリアムもアルバートも甘い匂いに癒されながら口を動かしていった。


「おいしいね、ルイス」

「はい」

「今度、料理長に頼んで作ってもらおうか。このバケットに入れてもらえばいつでも今日を思い出して楽しめるだろう」

「さすがにいさま、すごいアイディアです」


三人で分けて食べていけば大きなポップコーンもあっという間になくなってしまう。

けれど十分にお腹と気持ちは満たされた。




空になったバケットを変わらず首から下げ、ルイスは再び兄達の手を握りながら歩き出す。

歩みはゆっくりで、街並みや空を眺めながらの穏やかな時間だ。

時々聞こえてくる歓声はアトラクションを楽しんでいる人達の声だろう。

そういえば歩いている中で、ルイスはどのアトラクションにも興味を示していないことにアルバートは気が付いた。

ウィリアムは以前の記憶があるのだから、興味はあれどルイスを優先しているからこそ惹かれないのだと分かる。

けれど今のルイスは無垢な子どもで、グリーティングを楽しんだとはいえ遊園地の醍醐味ともいえるアトラクションに興味を示さないのはおかしいだろう。

アルバートはルイスの手を引き、空に浮かぶ魔法の絨毯を見るよう促した。


「ルイス、ウィリアム。あれに乗ってみるかい?」

「…にいさんはのりたいですか?」

「ルイスがのりたいならぼくものりたいな」

「にいさまは?」

「私もルイス乗りたいアトラクションに乗ろうと思っているよ」

「…じゃあいらない」

「…では、船はどうだい?蒸気船やゴンドラ、色々な船がある」

「このままおさんぽがいいです」


ふるふると左右に首を振って、アルバートが示す絨毯にも蒸気船にも興味を示さない。

先程から見てはいるし気にしているはずなのに、いざ乗るとなると怖いのだろうか。

あまり新しいことが得意ではない気質のルイスだから、見るのはともかく体験するというのは苦手なのかもしれない。

今までに連れていった動物園や美術館は楽しそうにしていたが、あれは体験するということがなかったから安心出来たのだろう。

動物と触れ合うときにはアルバートの背中に隠れてただ見ているだけだったことを思い出す。

そんなルイスがグリーティングでキャラクター達と遊んでいたのだから、今日はもうキャパシティが超えてしまったのだろうか。

よく頑張ったねと、ウィリアムはルイスの髪の毛をうさ耳ごと優しく撫でてはルイスのことを労った。


「じゃあパレードは?ルイス、テレビでたのしそうにみていただろう?」

「パレードはみてみたいです」

「そうか。夕方のパレードが中央の広場であるそうだから、今のうちに見やすい場所を探してみようか」

「はい!」


魔法の絨毯から視線を外してパレードに意識を移したルイスはまたもウキウキと足取りが軽くなる。

ルイスが初めてこの場所を知ったとき、たくさんのキャラクターとキャスト達が華やかなパレードを演出していた。

ディスプレイ越しに見ただけでも心躍る見事なものだったから、実際に見てみるのはさぞかし楽しいことだろう。

既にパレードを楽しむのに最適な場所をアルバートは把握しているし、事前に場所をキープしておくよう根回しは済んでいる。

けれど直接そこへ向かうより、どこがいいか悩みながら三人で見て回るのもきっと魅力的な時間になるはずだ。

アルバートはルイスの足が向かう方向を遮ることなく、日頃の疲れを癒す意味でも可愛い弟達の姿を堪能していた。

いつもよりも笑顔が多いルイスを思いきり構うウィリアムも至楽しそうである。

連れて来て良かったなと、アルバートは二人を見てはしみじみ実感するのだった。


「あ、ふうせん」

「ふうせん?ほんとうだ。いろいろしゅるいがあるんだね」

「そういえば何人か持ち歩いている子どもを見かけたな」


大きな河沿いに歩いていると、たくさんの風船を持ち歩いたキャストがにこにこと笑顔を振りまいていた。

ひと組の親子がそのキャストに近付くと、一言二言会話を交わした後であっという間に熊の形の風船がぷっくりと完成する。

どうやら頼まれた後、その場で好みの風船を作ってあげているらしい。

持ち歩いている風船は見本なのだろうとアルバートとウィリアムが推察すると、ルイスはアトラクションを見ているよりもずっと輝いた瞳でその風船を見つめていた。


「ふうせんがほしいの?ルイス」

「え」

「買ってあげようか。どのキャラクターが良い?」

「あ、ありがとうございます、にいさま」


羨ましそうに見ていたことに気付かれていたことは少しだけ恥ずかしいけれど、ルイスは素直に風船が欲しいと頷いた。

ふわふわ漂う風船はどうしてこんなにも心を擽るのだろう。

子どもにしか分からない感覚で胸をときめかせているルイスの心情などいざ知らず、ウィリアムとアルバートは束の間のお遊びを楽しもうとするルイスを見守っていた。


「こんにちは!風船が欲しいのかな?」

「は、はい」

「どの子が欲しい?みーんな、君と一緒に歩きたいって言ってるよ!」

「え、えっと…ねこさんとくまさん」

「猫さんと熊さんだね、少し待っててね!」


兄と手を繋いだままルイスが注文をすれば、てっきり今身に付けているうさぎのキャラクターの風船を選ぶと思っていた二人は少しだけ驚いた。

けれどルイスが求めているのならそれが良いと、二つも用意して良いのかアルバートに目配せするキャストに了解の意味で頷いて返事をする。

キャストは手際良く二つの風船を作ってくれて、ルイスはそれを丁寧に両手で受け取った。


「わぁ…!」

「うさぎさんじゃなくてよかったの?」

「はい。にいさんとにいさまのふうせんがほしかったんです」

「ルイス…!」


なるほど、ルイスはウィリアムとアルバートをイメージしたキャラクターの風船がほしかったのだ。

ふわふわと宙に浮く風船を離さないようしっかりと紐を握りしめ、ルイスは楽しそうに手を上下させては風船の動きを見つめている。

可愛らしい色合いをした猫と熊の風船は青い空との対比がとても綺麗だ。

はしゃぐルイスは風船を振り回すようにその場でぴょんぴょんと飛び跳ね、全身でその嬉しさを表現していた。

平和の象徴とも言えるほど心安らぐ光景である。

ウィリアムは可愛い弟の存在に心から感謝しつつ、アルバートを見上げて互いに視線を交わす。


「ぼくにはうさぎさんのふうせんをください」

「はーい、うさぎさんだね!はい、どうぞ!」

「ありがとございます」

「紐から手を離しちゃ駄目だからね。お兄さんはどうしますか?」

「私は大丈夫です。ありがとうございました」

「みんな、楽しんでいってね〜!」


ウィリアムがうさぎの風船を受け取った後、アルバートは風船三つ分の代金を支払ってからその場を離れる。

両手に風船を持っているルイスはウィリアムの姿を見て嬉しそうに近寄り、空で三人揃ったキャラクター達を見上げてますますはしゃいでいた。


「みんなそろいました!いっしょ!」

「ぼくとにいさんがいるなら、やっぱりルイスもいないとね」

「うれしいです、にいさん!」


ふわりと舞う風船がそれぞれに当たって一瞬離れたけれど、風のない中ではすぐに触れ合った状態で宙を遊んでいる。

まるで仲の良い三兄弟そのもので、アルバートはその光景と可愛らしく戯れている弟達を微笑ましく思っていた。


「さぁ二人とも、そろそろパレードを見る場所を探しに行こうか」


アルバートの声にルイスは背筋をピンと伸ばすことで反応し、もう一度二人と手を繋ごうと腕を伸ばす。

だがそれには両手に持った風船が邪魔になってしまった。

む、と神妙な顔をしてどうするべきか思い悩むルイスを見たアルバートは、風船を受け取ってルイスが身に付けているサスペンダーの背中側に括り付けていく。


「にいさま、ありがとうございます」

「どういたしまして。ウィリアムも結んであげようか」

「おねがいします、にいさん」


風船を見られないのは悲しいけれど、振り返ればふわふわ浮いているのだから気にすることも無い。

ルイスにとって、両手が空いてウィリアムとアルバートと手を繋いで歩く方がよほど重要なことなのだ。

ぎゅうと握りしめた手のままちらりと後ろを振り向けば、ウィリアムの分と合わせて三つの風船がふわふわ楽しそうに浮いていた。


「このばしょならよくみえそうですね」

「はい。こんなにまえのばしょをゆずってくれるなんて、やさしいひとたちでしたね」

「何か用事があったそうだから、代わりにあの人達の分も楽しまないといけないな」

「そうですね」

「たくさんたのしみます!」


どの辺りが見やすいだろうかと散策している最中にアルバートが誘導して目当ての場所に辿り着くと、前の方で場所をキープしていた人達が親切にもそこを譲ってくれた。

ルイスはとても喜んでいたけれど、ウィリアムは生暖かい視線を彼らに向けて去りゆくその背を見送っていく。

見事な変装をしていたけれど、あれはモリアーティ家の使用人だ。

ウィリアムの視線を受けて気まずそうな表情を一瞬浮かべていたけれど、気付かず無邪気に喜ぶルイスを見て安心したように手を振っていた。

ふとアルバートを見れば彼は優しくルイスに微笑みかけていて、表情には出さないその姿に相当な策士かつ遣り手なことだと感心してしまう。

世界的にも有名なこのテーマパークを内部から操作するには、地位や人脈だけでなくアルバート自身の人柄が関係することは間違いない。

改めてアルバートという人間の底知れない魅力を実感するが、確かにここはパレードを見るには絶好のポジションで、ルイスはきっと楽しんでくれることだろう。

ウィリアムにとってそれは何より重要で、深くは気にせず今この時間を楽しむことにする。

ルイスは後ろの人の迷惑にならないよう風船を抱きしめており、アルバートはルイスが持っていたポップコーンバケットを代わりに持っていた。


「あ、はじまったみたいです!」


軽快なメロディと共に河の向こうから大きな帆船に乗ったキャラクター達が現れる。

周りは拍手と歓声でいっぱいで、ルイスもつられて拍手をしてからもっとよく見ようと目の前の柵に手をやった。

初めて聞くメロディなのにどこか耳馴染みが良く、聞いていると気分が上がってくるから不思議なものだ。

素直なルイスは音に合わせて小さな体が揺れており、ウィリアムもルイスの真似をしてリズムを取るように体を動かした。


「わぁ…すごい、すごいですね」


圧倒されたようにキラキラとした瞳でうっとりするルイスは目の前の帆船で楽しく踊っているキャラクター達に夢中だ。

ルイスが今身に付けているうさぎのキャラクターは勿論、くまやねこ、他のキャラクターもたくさんいる。

その全員が華やかな衣装を来てゲスト達を楽しませようと大きな身振り手振りで張り切ってダンスを披露している。

見事な一体感は確かに素晴らしく、何度も足繁く通ってしまう人間の気持ちが分かってしまいそうだ。

ウィリアムは感動したように目の前で繰り広げられるパレードに見入っていたが、少しの違和感を覚えてついつい隣のルイスとその先にいるアルバートを横目に見た。

ルイスは楽しそうに笑っていて、アルバートも満足げに前を向いている。


「…(やたらファンサービスがおうせいなのは、きのせいかな)」


ルイスが、うさぎさーん、と呼び掛けるとうさぎはぴょんぴょんと飛び跳ねてルイスのことを指さしてくれる。

それ以外にも猫や熊、犬やねずみといった仲間達がこちらを見ては手を振ったり投げキッスを飛ばしてくれるのだ。

ウィリアムの気のせいかもしれないし、これだけの人がパレードを見ているのだから自分達ではなく全員に向けたサービスの可能性が高い。

けれどどうしても、アルバートが浮かべるあの笑顔が頭を過ぎるのだ。

モラン曰く、他の何よりも胡散臭いアルバートの笑み。

ウィリアムがそう感じたことはないけれど、アルバートの底知れない人間性はかつての世界でも掴みきれないままだった。

全てを把握しようにもしきれない彼こそが魅力ではあるけれど、まさかこのパレードという場においてそれを実感するとは想定外だ。

気のせいだろうと思うには少しばかり無理がある。


「すごいですね、にいさん!わくわくしますね!」

「そ、そうだねルイス。たのしいね」

「見事なものだね。ちゃんと見ておくんだよ、ルイス、ウィリアム」

「はい!」


声をかけられてウィリアムが顔をルイスに向ければ、弟は可愛らしい満面の笑みを見せてくれる。

アルバートも愛おしげな気持ちを隠さず見せてくれており、ルイスだけでなく自分もその対象にあるのだと思えば胸が疼くようだ。

弟に対する過剰な愛はお互い様かと、ウィリアムは気にせずサービスたっぷりのパレードを楽しむべくルイスの手を握って前を向くことにした。




(きょうはとってもたのしかったです!にいさんとにいさまとたくさんあそべてうれしいです!)

(ぼくもたのしかったよ。いいいちにちだったね、ルイス。にいさん、つれてきてくれてありがとうございました)

(私も楽しかったからな。久々に充実した一日を過ごした気分だよ)

(またおとまりして、あしたかえるんですよね。にいさま、おへやでポップコーンのうつわとふうせんのしゃしんをとってほしいです)

(あぁ、たくさん撮ってあげよう。ルイスによく似合っているからね)

(そういえば…にいさん、もっていたカメラとバッグはどうしたんですか?)

(あ、にいさまもってない…!わすれものしちゃいましたか?どうしよう…)

(大丈夫、親切な人が部屋に届けてくれたそうだから)