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銀行員ら朝より蛍光す烏賊のごとく

2018.04.22 14:12

https://yeahscars.com/kuhi/bank/ 【銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく】より

ぎんこういんら あさよりけいこうす いかのごとく

銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく俳誌「俳句」(1956年7月)初出の金子兜太の俳句。「金子兜太自選自解99句」(2012年)に、「勤め先の神戸支店の朝の景。その前日、家族で尾道の水族館に行きホタルイカを見てきた。その景に似た支店の朝のはじまりだった。当時は、蛍光灯が一人一人の机にあって、出勤すると自分の席の灯を点す。店内は暗い。そこにともる灯は、水族館のホタルイカそっくりだったのだ。この景を銀行員への皮肉、批評と受け取る人が多く、社会性俳句の見本として読まれて評判になった次第だ。」とある。

当時、日本銀行に在籍していた金子兜太の代表句。


https://blog.goo.ne.jp/new-haiku-jin/e/c13d6a361c3cdda7cab34f070dfc90e8 【銀行員ら朝より蛍光す烏賊のごとく  兜太】より

金子兜太の一句鑑賞(9) 高橋透水

  『金子兜太句集』、昭和三十六年の収録だが、初出は「俳句」三十一年七月号である。作句の背景は休日明けのこと。いつも勤務している職場なのに、兜太はある不思議な光景に気づいた。そこで目にしたのはすこし薄暗い部屋で光の当たったところだけ青白く光る朝の風景であった。昨日見た烏賊の発光体を彷彿させる勤労者が、職場で再現されたのだ。

 いうまでもなく、蛍光灯または蛍光管は、放電で発生する紫外線を蛍光体に当てて可視光線に変換する光源である。しかしおそらく当時の蛍光灯の光はまだまだ自然光からは遠く、青白い光で古くなるとジージーという音がしたようなものだったろう。

 金子兜太の「自選自解99句」によれば、「勤め先の神戸支店の朝の景。その前日、家族で尾道の水族館にゆき、ホタルイカを見てきた。その景に似た支店の朝のはじまりだった。当時は、蛍光灯が一人一人の机にあって、出勤すると自分の席の灯を点す。店内は暗い。そこに灯る灯は、水族館のホタルイカそっくりだったのだ。この景を銀行員への皮肉、批評と受け取る人が多く、社会性俳句の見本として読まれて評判になった次第」とある。

 烏賊の発する発光と蛍光灯の光を浴びた被写体である人間の反射光では自ずと違いがあり、不気味さの点では反射光を浴びた人間が強いだろう。いずれにせよ、この句は発表されるや、造型俳句の意欲的な作品として高く評価され、また社会性俳句としても取沙汰された。確かに造型俳句にしようという意欲は感じられるし「蛍光す」から「さあこれから仕事にとりかかるぞ」という職場の雰囲気は伝わるが、これをもって「社会性俳句の見本」として読むのはいかがなものか。そして「ごとく」も造型を標榜する表現にしては、すこし安易ではなかろうか。

 したがって、この句をもって造型俳句の最初の典型とみるには論議の分かれるところだろうが、兜太が社会性俳句の旗手として頭角を現した時期の句であることは確かだろう。

  俳誌『鴎座』2017年4月号より転載


https://haiku-textbook.com/ginkouinra/ 【【銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく】俳句の季語や意味・表現技法・鑑賞・作者など徹底解説!!】 より

こちらの作品は自由律俳句となりますので、季語はありません。

五・七・五の音律や季語にとらわれず、作者が見たままの情景をストレートに詠んでいます。

意味

こちらの句を現代語訳すると・・・

「銀行員たちが朝より蛍光している。まるでイカのようだ。」となります。

この作品が詠まれる前日に作者は家族と足を運んだ尾道の水族館にて、蛍イカを見学しています。

翌朝職場に足を運ぶと、昨日水族館で見た蛍イカが発光する様子と、同僚達の姿が重なって見えたことから詠まれた作品です。

解釈

作者は、かつて日本銀行に勤めていた銀行員であり、朝職場に出勤した時の様子を詠んだ作品です。「蛍光灯の光が働いている職員に反射し、その姿はまるで蛍イカのようである」と作品を通じて伝えています。

さらに深く解釈すると、「朝出勤してみると暗い室内の中で銀行員達が、今日も頑張るぞと仕事に燃えている。その後ろ姿には蛍光灯の灯りが反射し、その様子は自ら光を発光する蛍イカのようである。」とも読み取れます。

「銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく」の表現技法

(身投げしたホタルイカ 出典:Wikipedia)

比喩(直喩法)「烏賊のごとく」

こちらの作品では、直喩法と呼ばれる比喩技法が使われています。

直喩法とは「ーごとく」「ーごとし」「ーようだ」という風に「AをBに例えて」、「まるで●●のようだ」と表現する技法です。

直喩法を使用することによってイメージしやすくなり、作者が意図することが伝わりやすくなります。

こちらの作品では、蛍光灯の灯りの中で仕事をしている銀行員の姿が、まるで蛍イカのようだと例えており、その場の情景が読み手に伝えわりやすいようになっています。

自由律俳句

こちらの作品は、自由律俳句です。

自由律俳句とは、俳句の定型「5・7・5」の形に捉われずに、自由なスタイルで自分の心情をストレートに読む技法です。また、自由律俳句は季語を入れる必要がないという点もポイントです。

この句は五・七・五の音律から外れており、季語も含まれていません。

作者が見たままの情景をストレートに詠んでおり、どのような職場の風景であるかがダイレクトに伝わってきます。

「銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく」の鑑賞

家族で休日を水族館で過ごした日の翌日出勤すると、いつもとは違う光景が広がっています。

デスクに向かい、一生懸命仕事をする銀行員の背中には蛍光灯の光が反射し、まるで昨日見た蛍イカが光を放っています。

そんな異様な雰囲気を作者は感じ取り、私たち読み手にわかりやすく伝えています。

一見すると読み手側は「不気味な風景」と感じますが、同僚達を蛍いかに例える趣向にはユーモアが感じられます。

また、小さな体で力強く光を発効する蛍イカは、エネルギッシュで力強い生き物です。

朝からバタバタと忙しく勢力的に働く銀行員の姿は、活気に満ち溢れているとも読み取れます。 (略)