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とある冒険者の手記

A.大きな傷痕

2021.04.23 00:21


黒衣森の地図に表記されない小さな集落に、双蛇党からの依頼でヘリオと二人で来ていた。

ここの所、小さな集落をイクサル族が襲撃を仕掛け、人を拐っていく事件が多発しているとの事で、双蛇党だけでは人手が回せないとの事だった。

イクサル族の目的は、恐らく蛮神ガルーダの召喚の為の生贄、もしくはテンパードの量産だろう。

集落に着いて、警備隊から詳しい状況を確認していた時、イクサル族からの襲撃。

ヘリオは西側、俺は東側でイクサル族を迎え撃つことになった。

戦士の斧を振り回し、警備隊と協力しながら立ち向かってくるイクサル族をなぎ倒していく。


「きゃぁぁああああっ!!」


後方から聞こえた悲鳴に目を向ければ、取りこぼしたイクサル族が小さな子供を抱えた母親に刃を振りかざしているところだった。

このまま駆けつけても間に合わないっ!

咄嗟の判断で忍者にジョブ替えし、縮地で親子の前に移動し、双剣でイクサル族の刃を受け止める。


「なんだァ?オレサマの邪魔をするんじゃネェっ!!」


イクサル族の空いている手に光るものが見えた時には遅かった。


「ぐぅっ!!」


腹部に焼けるような痛み。

痛みを堪え、親子の方に叫んだ。


「逃げろっ!!」

「は、はいっ!!」


走り去っていく足音を確認した瞬間。


「なに勝手なことをしてくれてんだァ!!」


腹部に刺さったナイフを、そのままグリッと抉られた。


「…………っ!?」


あまりの激痛に声も出なかった。

だが、何とか力を振り絞り、刃を弾き飛ばし、イクサル族の首を跳ねた。

激痛で膝が震え、今にも倒れそうなのを必死に堪える。

刺さったナイフを抜けば一気に大量出血を起こしかねない。

かと言って、白魔で回復しようにも、おそらく間に合わない。

だが、このまま退却すれば西側で戦っているへリオを危険に晒す事になる。

ここは、一か八か……

俺は再び戦士にジョブを替えた。

そして……


「警備隊!一旦下がってくれ!」

「は、はいっ!!」


警備隊が履けたのを確認した俺は、原初の解放した。


極度の興奮状態

痛みを感じない

俺を突き動かすのは

目の前の動くものを破壊する衝動だけ


その姿は、傍から見たら物語に出て来るバーサーカーそのものだったであろう。


敵の胴を裂き

敵を縦に割り

敵の首を跳ねる


気がつくと、周りにはイクサル族の屍が広がり、動くものは居なくなっていた。

その瞬間、どっと気が抜けたのか通常状態に戻った俺は、両膝を地に着き、横に倒れた。

あれだけ暴れ回れば、いくら出血多量を恐れてナイフを刺したままでも、少しずつ、確実に出血する。


流石に…血を流しすぎたか……


身体が重い

身体を蝕む寒気

呼吸をするのも苦しい

視界が白く染まっていく

思考が止まっていく


俺が意識を手放す直前、遠くで聞き覚えのある声が、俺の名を叫ぶのが聞こえた……



*********



目を覚ますと、木造の天井が視界に映し出された。

身体を起こそうとすると、腹部に激痛が走った。


「……っ!!」

「あ!まだ動いたらダメ

です!!」


双蛇党の制服を着た幻術士が制止する。


「ここ……は?」

「集落の人の家です。ほら、覚えてらっしゃいますか?フ·アリスさんが助けた親子。あの方がお部屋を貸してくださったんです」


それを聞いて安堵した。


そうか、あの親子、無事だったんだな…


「目を覚ますぐらいに回復して良かったです!あ、お連れ様にも知らせてきますね!」


幻術士はそう言うと、部屋を出て行った。

お連れ様の言葉に、意識を失う直前の事を思い出した。

俺の名前を叫んだ声。

あれは、へリオの声だった。

きっと、凄く心配させた。

無茶をしたことを怒ってるかもしれない。

色々と申し訳ない気持ちになっていると、部屋の扉が開き、へリオが部屋に入ってきた。


「よぉ、気分はどうだ?」

「あ、動くと痛みがあるけど、気分は悪くないよ」

「そうか、なら良かった…」


そう言うと、へリオはベットの横に置かれた椅子に腰掛けた。

しばらくの沈黙。それを破ったのはへリオだった。


「あんた、あんな無茶して、1歩間違えば死んでたかもしれないんだぞ?」


静かな声に顔を向けると、少し眉間に皺を寄せた表情をしていた。


「へリオ……」

「対処の方法なんていくらでもあったはずだ」


へリオの言う通りだ。

今考えれば、救援を呼ぶ方法もあった。

自分で何とかしようと言う固定概念が、最良の判断を鈍らせたことは一目瞭然だ。


「ごめん…へリオ。俺、冷静な判断が出来てなかった…本当にごめん」


俺が素直に謝ると、へリオは深い溜め息を吐いた。


「分かってるなら、次からはあんな無茶するな…もう、あんな思いは二度と御免だっ」


少し震えているようなへリオの声に、俺は自分がどれだけ心配をかけたのかを改めて悟った。


「うん……本当にごめん」


手を伸ばし、ヘリオの震えている握り拳にそっと触れると、へリオはほんの一瞬、泣くんじゃないかと思う表情をした。

俺はギュッと相手の拳を握った。


「俺、もっと強くなるから。もっと経験を積んで、最善の判断が出来るようになるから」


へリオの目を真っ直ぐ見つめながら、自分に言い聞かせるように言う。


「もう二度と、そんな辛い思いさせない」


俺の言葉に、へリオは目を閉じ顔を背けた。


「……絶対、だぞ……?」

「うん、約束する」


すると、へリオは顔を俺の方に戻し、自分の拳を握っている俺の手に、反対の手を乗せた。


「…アンタが死ななくて…良かった……」


ヘリオの手に力が込もる。

へリオの言葉の重さをヒシヒシと感じていた。



*********



「んーっ!空気が美味いっ!」


あの大怪我から1週間、やっと動けるようになった俺は、黒衣森をへリオと2人でグリダニアに向かって歩いていた。

思いのほか回復に時間がかかったのは、多分出血量が多過ぎたせいだろう。

回復魔法をかけてもなかなか治らず、結局腹部には傷痕が残ってしまった。

でも、俺はそれで良かったと思っている。

自分への戒めの意味を込めて。


「それにしても、1週間も傍にいてくれてありがとな!へリオ」


そう、動けるようになるまで、へリオも集落に滞在してくれたのだ。


「まぁ、気にするな。礼を言うなら姉さんに言ってくれ」

「え?ガウラさんに?」

「俺が姉さんに何も言わずに、長期滞在出来ると思うか?」

「あー、そうだよな。ガウラさんにも迷惑かけちゃったよな…」


普段はガウラさんの手伝いや補助をしてるへリオが、ガウラさんに何も言わないわけが無かった。


「それと、アリス。姉さんに会ったら覚悟しといた方がいいぞ」

「へ?」

「姉さん、怒ってたからな」

「っ!?」


その言葉を聞いて、俺は一気に血の気が引いた。

そう言えば、神龍戦で右眼を怪我した時、ガウラさんにしこたま怒られたんだった……


「うぅ……」

「ま、自業自得だな」

「へリオ~~~っ」



へリオに泣きついたが、「知らん」と一蹴された。



***********



「いい加減にしろ!!」


ラベンダーベッドのLハウス内にガウラさんの怒声が響き渡る。

その迫力のある怒声に「ひゃいっ!」と声が裏返り、俺はその場に勢いで正座をした。


「お前のその行動で僕らがどれだけ心配したと思う!?こんなことになったのは2度目だ!」

「すみません…」

正座をしたまま、俯いて謝る。

「あの時お前は言ったよね?『二度と同じことはしない』と!状況が違っても同じように重症を受けては意味がないじゃないか!」

「…」


まったくのその通りで、何も言えなくなる。


「そして原初の解放をそんなふうに使うな!痛みを忘れるためのものではないんだぞ!」

「はい…」

「二度と僕らにそんな姿を見せるな」

「はい……」


本気で怒られ、自分の経験の無さ、判断力の無さを痛感する。

ガウラさんはその言葉を最後に部屋から出ていった。


─もっと、強くならないと─


この日を境に、俺は色んなことに挑戦をするようになったのだった。