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とある冒険者の手記

A.温泉旅行

2021.04.24 11:48

「なぁヘリオ!今度温泉に入りに行かないか?」


ガウラさんと飲み会をした翌朝、ガウラさんに望海楼の温泉がとても良かったと教えてもらい、ヘリオと一緒に入りたくなった俺は、帰宅後にヘリオに話を持ちかけた。

だが、ヘリオの表情はなんだか乗り気ではなかった。


「なんでまた急に…」

「今朝、ガウラさんに望海楼の温泉が良かったって教えて貰ってさ!折角ならヘリオと一緒に入りたいと思って!」


俺の話に渋い顔をするヘリオ。


「あ…ひょっとして、温泉嫌いだったか?」

「いや…そう言う訳じゃないんだが…」

「?」


嫌いじゃないのに渋る理由が分からず首を傾げていると、ヘリオは溜息を吐いた。


「その…なんだ…、人前で脱ぐのが恥ずい…」

「…へ?」


思わぬ答えに、俺は間の抜けた声が出た。


「大丈夫だよ、2人だけで入れるところだからさ!」

「人数とか関係なく恥ずいんだ!あんたが居るだろ!」

「男同士なんだから、恥ずかしいことないだろ?なぁ~、一緒に温泉入ろうよー!」


「なぁ~なぁ~」と、俺は子供みたいにヘリオにまとわりつくと、ヘリオは観念したように言った。


「あーもー、分かった分かった!入ればいいんだろ!」

「やった!」


俺の粘り勝ち!

俺はヘリオの予定を聞いて、日取りを決めた。



そして、当日。

クガネに着いた俺等は、望海楼へと向かい、受付で屋上の温泉の使用料を払い、屋上へと向かった。


「おー!良い眺め!」

「…そうだな」


ヘリオはまだ複雑そうな顔をしていた。


「さぁ!ささっと入っちゃおうぜ!」


俺はそう言うと、素早く胴装備を脱ぎ、受付で貰ったタオルを腰に巻いてからズボンと下着を脱いだ。

そして、かけ湯をしてから温泉に入る。

ヘリオの方を見ずに俺は言った。


「ヘリオも早く来いよ!凄く気持ちがいいぞ!」

「あ、あぁ…」


たぶん、凄い葛藤をしてるんだろう。少し間があってから、服を脱ぐ音が聞こえた。

そして、かけ湯をする音が聞こえた後、俺の隣にへリオが座った。


「どう?湯加減、気持ちよくない?」

「悪くは無いな」


ヘリオは顔を逸らしながら言う。

その様子に俺は苦笑した。

本当に恥ずかしいんだな。

それでも、俺の我儘を聞いてくれるヘリオに、愛おしさが溢れる。


「…あ、あまりジロジロ見るな…」

「あははっ!ごめん!」


でも、気になってどうしても横目でヘリオの方を見てしまう。

綺麗な色白の肌に細身の体。

吸い寄せられるように、ヘリオの腕に触れた。

突然のことに、ヘリオは驚いて腕を引っ込めた。


「なっ、なんだ!?」

「あ、ごめん!細いのにしっかり筋肉ついてるなーって思ったら、つい…」

「き、筋肉が着いてるのは当たり前だろ…」

「そうだよな、大剣振り回してるんだから、着いてない方が可笑しいよな」


俺は苦笑いで返したが、なんだか気まずい雰囲気になってしまった。

長い沈黙が続く。

そんな時、海の方を見ると、日が傾き夕暮れになっていた。

海も空も紅く染まった風景は、息を飲むほどに綺麗だった。


「ヘリオ!夕日が綺麗だぞ!」

「あぁ、凄いな…」


2人で沈む夕日を眺める。

ふと、ヘリオに目をやると、白銀の髪と白い肌が夕焼けに照らされて、オレンジ色に染まっていた。

綺麗だな…


「…ヘリオ…」

「ん?」


ヘリオの頬に手を添え、口付けをしようとする。

が、口を手で塞がれてしまった。


「あんたは、隙あらばそうやってっ…」

ヘリオは俺を睨みつける。

「いいじゃんか、誰も見てないんだし…」

「良くないっ!」

「ちぇー」


俺は軽く拗ねて、そっぽを向いた。

そこで視界に入った潮風亭。

俺はもうひとつ、ヘリオとやりたい事があったのを思い出した。


「じゃあさ、キスは諦めるから、この後1杯だけ一緒に飲んでくれないか?」

「はぁ?!なんでそうなるんだ…」


俺は笑顔でヘリオの返答を待つ。


「断ると言う選択肢はないのか?」

「ない!」


ハッキリと笑顔のまま答えると、ヘリオは大きく溜息を吐いた。


「分かったよ…、1杯だけなら付き合ってやる」

「よっしゃ!そうと決まれば潮風亭に行こうぜ!」


俺はウキウキと温泉を出て、体を拭いて服を着た。

参ったなという表情をしながら、ヘリオも温泉を出た。

そして、そのまま潮風亭へと向かう。

空いている席に座り、注文を終える。


「ヘリオと飲めるなんて嬉しいな♪」

「そんなに喜ぶことか?」

「うん!酒はさ、誰かと飲んだ方が楽しいし、相手が好きな人なら、いっそう楽しいし嬉しいよ!」


そういうもんなのか?と言う表情をするヘリオ。

そこに、注文したモノが運ばれてくる。

何気にヘリオが手に取ったグラスに目をやると、違和感を感じた。


「…ヘリオ」

「ん?なんだ」


俺はひょいっとヘリオのグラスを取り上げると、ヘリオはしまったと言う顔をする。

グラスの中身は酒ではなく水。

俺は、溜息を吐いた。


「水で誤魔化そうとするなんて…」

「…チッ」

「舌打ちしてもダーメ!有言実行、ちゃんと酒を飲んでもらうからな!」


俺は 自分と同じ酒をもう一度頼んだ。


「そんなに酒飲むの嫌か?」

「飲まないに越したことはないだろ。いつどこで何が起こっても良いようにな」

「ん~、それはそうだけどさ。コップ1杯で酔っ払うほど下戸じゃないだろ?」


それは、双子であるガウラさんが割とお酒が強かったのを知っていたからだ。

双子であれば、多少なりとも体質も似ているはず。

そう思って、言った俺の言葉に、ヘリオは観念したようだった。

再度注文した酒が運ばれ、ヘリオは渋々酒の入ったグラスを手に取る。


「じゃあ、カンパーイ!」

「乾杯」


グラスを合わせ、1口飲む。

そんな時だった。


「おや、ヘリオにアリスじゃないか」


声をかけられ振り向くと、そこにはガウラさんの姿。


「ガウラさん!こんばんは!」

「姉さん、奇遇だな」

「……」


ガウラさんはヘリオを見て、目を丸くしていた。


「ガウラさん?どうしたんです?」

「……ヘリオが酒飲んでるの初めて見た」


姉であるガウラさんでさえ、酒を飲むヘリオを見るのが初めてだという事実。

それだけ、ヘリオが用心深い事を示していた。


「ヘリオ…用心深いのはいいけどさ。あんまり気を張りすぎると、疲労でまともな判断出来なくなるぞ?」

「それは俺の勝手だろ。その辺の調整は上手くやってるつもりだ」

「ふ~ん…」


へリオが気を張ってないときって何時なんだろうと、疑問に思いながら、再び酒を口にする。


「ところで、お前達。リリンはどうしたんだ?姿が見えないが…」

「あぁ、リリンちゃんはFCメンバーの所に泊まりで遊びに行ってますよ!歳の近い女の子がメンバーに入ったので、仲良くなろうって頑張ってるみたいです」

「それは良い事だね!」


ガウラさんは「うんうん」と頷いた。


「あ、ガウラさんも1杯どうです?」

「嬉しいお誘いだけど、この後予定があるから、今回は遠慮しとくよ。それに…」


ニィッと笑うガウラさん。


「2人の時間を邪魔するほど野暮じゃないんでね」

「あはは…」


ガウラさんの言葉に、俺は苦笑いをする。

そして、立ち去ろうとしたガウラさんは「あ!」と何かを思い出したように振り返った。


「アリス、お前、FCハウスがシロガネにあったよな?」

「はい」

「シロガネにも温泉があるから、この機会に行ってみるといいぞ!」

「そうなんですか!ありがとうございます!」


チラッとヘリオを見ると、表情に「余計なことを…」と書いてあった。

そんなヘリオの表情に「?」となりながらも、ガウラさんは「じゃあな!」と去って行った。

その日、俺たちは望海楼に泊まった。

そして翌日、またまた乗り気じゃないヘリオを無理矢理連れて、シロガネの温泉探しに出かけたのだった。