Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

とある冒険者の手記

A.金策は何の為

2021.04.24 12:20

「ただいま」


ヘリオが帰宅をすると、部屋の中にはコーヒーの匂いと、甘い匂いが充満していた。

これは一体?と疑問に思いながらも、台所の方を見ると、エプロン姿のアリスの姿があった。


「おかえり!ヘリオ!」


笑顔でヘリオの方に一瞬だけ顔を向け、直ぐにオーブンの方に顔を戻すアリス。


「何をしてるんだ?それに、この匂い…」

「あぁ、コーヒークッキーを作ってるんだ。目を離すと、時間忘れちゃって焦がすから、目が離せないんだ」


焼くのが苦手なら、無理に作らなくても…と心の中で思うヘリオ。

ふとテーブルを見ると、3つのバスケットに大量のコーヒークッキーが置かれていた。

1つはHQ 、1つはNQ、そしてもう1つは焦げたクッキーが入っていた。


「な…何だこの量は…」

「クリスタリウムの納品と、マケボに流す分で大量に作ってるんだ」

「ほう」

「あ、良かったらHQ味見してみてくれよ」

「じゃあ、1枚だけ…」


アリスに言われ、ヘリオはコーヒークッキーを1枚手にとり口に運ぶ。

コーヒービーンの苦味が、クッキーの甘さを引き立て、絶妙なバランスをしていた。


「美味いな」

「なら良かった!もし、もっと食べたかったらNQの方を好きなだけ食べていいから」

「マケボに流すんじゃないのか?」

「NQだったら、簡単に作れるし構わないよ」

「そうか。で、この焦げたのはどうするんだ?」


なぜ、わざわざ焦げたやつを捨てずに取ってあるのかと質問するヘリオ。


「あー、素材が勿体ないしさ、俺の腕が悪くて焦がしちゃったから、それは責任もって自分で食べようと思って」


NQのバスケットに入っている量と変わらない大量の焦げたクッキー。

これを自分一人で食べる気なのかと絶句をする。


「身体に悪そうだからやめとけ」

「えー…、食べ物を粗末になんか出来ないだろ?」

「身体を壊すよりかは捨てた方が良いだろ」

「うーん。でも、食べた時の効果は変わらないから」

「………」


それ以上は何も言わず、ヘリオは小皿と紅茶を用意し、NQクッキーを取り分け、オーブンと睨めっこをしているアリスを横目で眺めながら、ブレイクタイムを始めた。



そんなことが数日続いたある日。


「ただいまぁ!」


草花の匂いを纏ったアリスが帰宅する。

服の所々には草がくっついていた。


「お、おかえり…、調理師の次は園芸師か?」

「うん。コーヒークッキーの素材を集めてた」


今度は素材調達を自分で始めたのかと、驚くヘリオ。


「材料代もバカにならないからさ。だったら自分で採りに行こうと思ってさ!」

「そ、そうか…」

「まぁ、採掘師のレベル低いからクリスタル代はかかるんだけどさ」


そう言うと、アリスは「風呂入ってくる」と、地下へと移動した。

そして、しばらくして、普段着に着替えてサッパリしたアリスは台所へと向かい、夕飯の準備を始める。

手伝おうと、ヘリオも台所に入ると、食材が2人分しか無いことに気がついた。


「おい、今日リリンは帰ってこないのか?」

「え?帰ってくるよ?」

「じゃあ、なんで2人分しかないんだ?」

「これはヘリオとリリンちゃんの分」

「あんたのは?」

「あー…」


問い詰められ、アリスは言いにくそうに口を開いた。


「素材集めてる時にさ、焦がしたコーヒークッキー食べながら集めてたんだよ。ギャザラー向けの効果が付くからさ。だから、お腹が空いてない…」


その言葉に、大きな溜め息をついたヘリオは、少し怒気の含んだ声を出した。


「飯はしっかり食え!本当に身体壊すぞ?」

「で、でも、本当にお腹いっぱ…」

「リリンの教育にも悪い!」

「ゔっ…」


痛いところを突かれ、アリスは渋々「分かったよ」と言い、3人分の夕飯を作り始めた。

そして、夕食時、ヘリオの無言の圧力でアリスは夕飯を無理矢理完食。地下のソファに横になり、気持ち悪さでグロッキーになる。


「うぅ~、気持ち悪ぅ~…」

「自業自得だな」


部屋に入ってきたヘリオにバッサリと言われる。


「それにしても、急に色々始めてどうしたんだ?」

「金策だよ。お金貯めてんの」

「ほう?」

「やっと、色んなことが落ち着いてきたからさ。ほら、ゆくゆくはLハウスに引っ越したいし」


なるほどと、納得するヘリオ。


「だが、そんな急に混ん詰めてやる必要はないだろ。程々にしとけ」

「でもさ、またいつ忙しくなるか分からないし、貯められるならその期間に沢山貯めておきたいしさ」

「ところで、なんでLハウスを目標にしてるんだ?」

「Sに3人じゃ手狭だろ?ガウラさん家行くと、いつも広々してて良いなぁって思っててさ。それに、Lの方がリリンちゃんの好きな本が沢山置けるし。なにより、リリンちゃんと俺等の寝室も別に出来るしさ」


アリスは話しているうちに胃が落ち着いてきたのか、身体を起こした。


「あとさ、俺、ミストに住みたいんだよなぁ」

「あー、あんた元々海の近くに住んでたんだったな」

「うん!それに、あそこは景観も良いしさ!サイズ関係なしに、土地に空きが出たら引っ越したいと思ってるんだ!」


嬉々として語るアリスに、ヘリオは「まぁ、金策も程々にな」と返した。



それから1ヶ月が経った頃だった。

ヘリオが帰宅の為にハウステレポをすると、いつもとは違う光景が視界に飛び込んできた。


「?!…ここは…ミスト?」


あまりの事に呆然としていると、家の中からアリスが姿を現した。


「あ!ヘリオ!おかえり!」

「た、ただいま…って、引っ越したのか?」

「うん!本当に今さっき!これから連絡入れるところだったんだ!」

「それにしても、良く空いたな。ミストは競争率高いだろ?」


嬉しそうなアリスに、疑問を投げかけるヘリオ。


「実はさ、だいぶ前に土地が増えるってガウラさんから教えて貰ってさ。それで、準備してたんだよ。まぁ、Mサイズの資金は間に合わなかったけど、引越しとかでSが空く可能性あったから狙ってたんだ」

「で、狙い通りだったと」

「そういうこと!引っ越した直後の土地だったみたいでさ、サインボードに人が群がってたよ。気まずいなーって思いながら引っ越し作業したけど」


やる気のスイッチが入った時の行動力は凄いと思うと同時に、いつもこのやる気があれば良いのにと、心の中で思うヘリオ。


「室内のハウジングやり直さなきゃ。引っ越したばかりだから、スッカラカンだ」

「前と同じにするのか?」

「いや、新しい家具が店に追加になったみたいだから、それ使って見ようと思ってる」

「そうか、頑張れよ」

「うん!先に寝室だけでも形にするよ」


アリスの言葉に「夕飯は外食か」とヘリオが聞くと「そうなるな」と答えるアリス。


「リリンちゃんに連絡入れて、みんなで引越し祝いしようぜ!」

「あぁ」


アリスはリリンに連絡を取り、海豚亭で落合う事を話した。

連絡を終えたアリスは、ヘリオと共に海豚亭のあるリムサへと歩き出すのであった。