Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Pink Rebooorn Story

第3章 その5:「初めての抗がん剤」

2016.12.01 02:41




 11時から、いよいよ抗がん剤の点滴が始まる。




 ACの点滴時間は約一時間。次の順番で投与される。




 朝、起きてから、ベッドの上でただじっと、その時を待っていた。ドキドキした。

 このドキドキは、怖さと期待が入り混じった、今まで味わったことのない複雑なドキドキだった。




 昨夜、ネットで読んだ好ましくない記事が不安を掻き立てる。

 今さらあがいてもどうにもならないので、静かにしていたけれど、心の中は荒れまくっていた。

 インターネットの影響でやさぐれて、かなり口が悪くなっているけれど、心の声はこんな感じだ。




 ネーミング「赤い悪魔」て!

 いやいや「悪魔」て!

 絶対に体内に入れたくない!!

 だって、生理止まるんだよ、卵巣破壊するんだよ!







 違う、抗がん剤は正常な細胞を「破壊する」じゃなくて「がん細胞をやっつけてくれる」ものだ…。

 そうやって私は、一生懸命、心が作り出す毒々しい感情や恐怖を打ち消していた。




 抗がん剤により、一時的に全ての細胞分裂が止まる。正常な細胞であろうと異常な細胞であろうと関係なく、新しい細胞が生まれないという期間が生じる。

 細胞分裂を活発に行うがん細胞へ、こうして増殖を妨げると同時に、細胞の中のDNAを攻撃していくということらしい。




 一方、抗がん剤の影響で白血球もつくられなくなるため、免疫力がかなり低下していく。このためにほとんどの人は爪がボロボロになったり、口内炎ができてしまったりする。

 白血球の数を保つことができればいいのに、と思ったけれど、白血球は、もともと持って生まれた体の機能力によるものらしく、栄養摂取ではコントロールできないということだった。



 とにかく、まずは、やってみないことには、わからないことだらけだ。

 だけど尾田平先生には、この先の何かが見えているのだ。そう信じるしかない。




 夫と母親が病院に到着した。二人とも、応援するからねと、11時よりも前に病床へ来てくれた。

 夫が仕事を休むのはこれで二日目だ。無理を通してくれているのだから、罵詈雑言の心の声を封印した。




 初回は、自分の病床で投与を受けることになっていた。予定通り、11時頃には全ての準備が整えられた。

 担当の看護師さんが、私の腕に針を刺す。いよいよだ。

 点滴が始まるときは泣かずにはいられないだろうと覚悟を決めていたものの、怖いとか悲しいという単純な感情ではなくなってしまっていたことが作用して、泣かなかった。




 始まった…。

 今、赤い悪魔が体の中に入ってきている。

 ものすごい体験をしているんだなあ…。

 大丈夫、大丈夫。

 異常なことは絶対に起こらない。



 スタートしてしばらくは特に何も感じなかったのだけれども、途中から終盤にかけて、激しい不快感が出てきた。

 まず、鼻がものすごく通るようになる。比較的多くの人に出る副作用らしいのだけれど、私のしっくりくる表現で言うと、、「空気に溺れる!」という感じ。

 鼻がスースーと通りすぎて、逆に苦しい。こんなことってあるだろうか。




 それから、首から上がギューッと締め付けられ、頭の皮がピリピリしてくる。

 このピリピリは、今まで感じたことのないものだったので、痛みなのか痛みでないのかさえ判断できなかった。強烈な違和感とでも言うべきなのか、とにかく苦しくて、

「頭の皮が剥けそうです!」

 と私は、側にいてくださる看護師さんに、必死で訴えていた。

 看護師さんは、これに対して、

「そうですか~、そういう副作用が出る方もいると思いますよ。」

 と、平静を装ってなのか、案外とのん気な返しだった。

(えっ!?これは、その程度のもの!?)

 私はプチパニックになった。すごく、すごーく、頭の皮が剥けそうなのに…!




 私が緊張していたのも多分にあったのだろう、それぞれの点滴の針が腕になかなか刺さらなかった。

 そのせいもあって、投与チームによる点滴のバトンが段取りよく回らず、結局、全てが終わったのは開始から3時間後だった。