多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説37
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
わたしは云った。
ひさしぶりに聞いた聲だったはずだ。
ひとりのタオにとっては。
省みてなにか言いかけた時、
——しゃがむんだよ。
わたしは云った。
——はやく。
と、未だなにをすればいいのか腑に落ちない儘腰をおとしかけたタオに、
——そのまま手をついて。
なにかいいかけた一瞬に
——はやく。
わたしは云った。
——床に、両手つけて…
と。タオが尻を床に着けようとしたので
——それだめ。
早口に、ささやく。
——お尻附けないで。…穢いじゃない…穢いの好きなの?
何か言いかけたタオは
——早く。
行ったわたしに自分のひらきかけた唇をくずして、そして、捩った頸に私を見ていた。
体勢的にすこしのむりがあることは知っていた。
タオが、うしろに体を投げ出すように、そっと倒した時に、床に掌は音を立てた。
——痛い?
タオはなにか言いかけ、その瞬間に
——うごかないで。
わたしはささやく
——痛くなかった?大丈夫?
言いかけたタオに
——じっとしてて。
ささやく。
わたしは、
——そのまま、頭、下にするの。
云った。
タオは頭の中で、私の指示を反芻して居る用だった。
すこしおくれて、そして、頭を伸ばした腕のしたに仕様とする。
しぜん、背筋はのけぞらされて、体躯は震えなっがブリッジを造る。
——もっと、のけぞるの。
行った私に、背筋の限界を超えて一瞬のけぞりかえった時に
——なんで、手、ぬくの?
私は云った。
ただ、冷たく。
あくまで、タオを小莫迦にしたように。
——ね、なんで?
タオはなにか言いかけて、首を震わせた。
——なんで手、拔くの?
タオの二の腕と内ももに震えが止まない。
——やる気ないの?
タオの黑眼だけが横に無理やり流されて、震えながら私を見ようとした。
——俺の事馬鹿にしてる?
タオが言いかけた時
——だまれよ。ちゃんとやれよ莫迦。
吐き捨てるように私は云った。
背筋を剃り返し切って震えるブリッジは、月の光に息づく腹部を、あるいは胸の上に垂れさがる不格好な地房を移した。
髪が床に埀れ、月にいや白むタイル張りの床に複雑な汚れを描く。
——なんか、全然、醜いね。
私はささやく。
——というか、…ね。
まるでひとりごとのように。
——生き物として穢い。
いつか、皮膚に
——ね
汗がにじんでいるのに気づいてた
——汗かいた?
その白い、翳る肌に
——シャワーとか、ちゃんと浴びてる?
わたしはあざ笑う表情を
——くさい。
わたしを返り見れないタオの
——なんか匂うよね。
腕の向こうの横顔の爲にうかべて
——トイレ行って、ちゃんと綺麗にしてる?
その首は痙攣し始めるのだった。
——もとからくさいの?
うりやりの、体制のせいで?
——やばいね。
大股を開いたももが
——穢すぎて。
のたうつように震え
——じっとてろよ。
何をするでもないタオに
——いわれたことさえできない?
私はそういった。いかにも
——莫迦なの?
軽蔑し
——お前、本当は莫迦でしょ。
嫌悪しているかのように
——知ってる。
タオのかかとが
——みんな言ってるよ。
床をなんどもこする。なんとかして
——あいつ使えないって。
くずれそうな体勢をいじしようと。そして
——性格惡いし。
不意に
——頭悪いし。
わたしは聲を立てて笑った。
——自分が思ってるほどかわいくないし。
身体の痙攣に合わせて
——むしろ臭いしね。
床の髪が
——動くなって。
震える。それが
——謂われたことくらいできない?
床に、なにをかたどると見えない影を
——能なしだね。
ただ複雑に投げた。
——お前みたいなの能なしっていうの。
いつかつぶをさらした汗の
——頭の中、蟲張ってるよ。
その雫が二の腕を
——死んで。
落ちた。わたしは
——くさいから死んで。
その肌にのこったかすかな
——生きてるだけむだだから死んで。
きらめきを
——うごくなよばか。
見ていた。もはや
——だからじっとしてろ莫迦。
タオは何の口答えもせずに
——お前、本当にかすだね。
時に
——なんでお前、生きてるの?
いやいやをするように首を振った。
——恥ずかしくない。
わすれたころに。わたしが
——だからくさいよ。
かならずしもなにも云っていないときにも
——本気でくさい。
思い出したように
——あそこの中腐ってるだろ?
タオは頸を振った。彼女の
——本気でやめて。
腹部が波打つ。時に
——死んでお願い。
不意に、あばれるようにわなないて
——だから動くなよ糞。
尻が引き攣る。
——じっとしてろ莫迦。
云って、わたしは蘭をさがした。
蘭はタオの足の先の壁にもたれて、そして目の前にある姒の体躯を見てた。
その痙攣を?
タオが鼻をすすった。
——お前のあそこのほうでさ、妹、みてるよ。お前の。くさくてきたないってさ。
行ったとき、タオが喉を詰まらせるような音を立てたので
——だまれってんだろ莫迦。
詰り、そして私は聲を立てて笑った。
私を省みた蘭に手招いた。
その意味を彼女が解するのかどうか、わたしは不安だった。
蘭は、ややあって、よやくみをおこし、そしてベッドの傍らに来た。