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とある冒険者の手記

A.動き始めた歯車

2021.04.30 10:21

「邪魔するぞ」


日が暮れ始めた時間に、ノックもなしに家に入ってきたのはヴァル。

突然の来客に驚いたアリスは呆気に取られる。


「ヴァルさん…ノックぐらいしましょうよ…」


アリスの言葉を聞いているのかいないのか、ガン無視でアリスに近寄っていく。


「脱げ」

「はい?!」


突拍子もない事に驚くアリス。

容赦なく歩み寄ってくるヴァルに後ずさりする。


「な、なんで脱がないといけないんですか?!」

「いいから脱げっ!!」


伸ばされるヴァルの手から逃れるように後退すると、椅子に躓き、そのまま後ろに倒れるアリス。


「うわっ!?~~っ!!」


思いっきり後頭部を打ち、踞ろうとしたが、すかさずヴァルがアリスに馬乗りになった。


「ななななっ?!」


慌てふためくアリスに構わず、服を脱がせにかかる。


「ぎゃーっ!!辞めてください!!」

「五月蝿いっ!!大人しく脱げっ!!」


脱がされまいと、引っ張られる服を抑える。

抵抗するアリスに、苛立ったヴァルが手に力を込めた時だった。


「……お前ら、何やってるんだ…?」


突然扉が開き入ってきたのは、ガウラとヘリオ。

どちらが女なのか分からない状態に、双子は唖然としていた。


「ヘリオ~っ!ガウラさぁ~んっ!!」


双子の登場に意識が削がれた隙を狙って、アリスはヴァルを押し退け、涙目で双子の後ろに隠れた。


「ヴァルさんが、いきなり服を脱げって言ってきて……っ!」


それを聞いて更に呆気に取られる双子。


「なんだってそんな事を?」


やっとの事で口を開いたのはガウラだった。

アリスは分からないと首を横に振る。それを見たガウラは大きく溜め息を吐き、ヴァルに言った。


「いくら相手が男だからって、理由を言わなきゃ抵抗するのは当たり前だろう」

「………」


そう言われて、ヴァルは面倒くさそうに頭を搔いて、話し始めた。

ガウラとアリスと接触した後、使命の合間を見て、アリスの父アク·アの情報を集めていたと言う。そして、自分の憶測が確信に近いことが分かり、あの時見た[気になったモノ]を再度確認したかったと告げた。


「で?気になったモノってのは結局なんなんだい?」

「痣だ。蝶の形をした」

「痣?」


それを聞いたガウラは、アリスの方に顔を向け、そんなものあるのか?と目で訴える。アリスはまたも、首を横に振った。


「本人は心当たりがない様だが?」

「確かに見た。右の脇腹辺り、あたいが切った服の隙間から蝶の痣が」


これでは埒が明かないと、ガウラはアリスに上半身の服を脱げと指示した。

渋々それに従い、服を脱ぐアリス。

顕になった上半身には、沢山の細かい傷痕と、左腹部に大きな傷痕しか無かった。


「部屋を暗くしろ」

「え?」

「あの時、暗かっただろ」


早くこの状況を終わらせたいアリスは、素直にそれに従った。

室内が暗くなり、明かりといったら窓から差し込む夕日だけ。

アリスの瞳がムーンキーパーの瞳に変わる。

夕日がアリスの右脇腹を照らし出す。

すると、親指ほどのサイズの蝶の形をした痣がくっきりと浮かび上がった。


「やはり…か」


そう呟いたヴァルの顔は険しかった。

確認の為に双子もその痣を興味深げに見る。

この状況に耐えられなくなったアリスは口を開いた。


「あ、あのぉ、もういいですか?いい加減恥ずかしいんですが…」

「あ、あぁ、すまないね」


アリスの言葉にガウラが慌てて離れる。


「いつも躊躇なく上半身裸になることが多いのに、恥ずかしがるなんて珍しいな」


それまで沈黙を守っていたヘリオが、不思議そうに語る。


「いや、故郷とかヘリオの前だったらいいけどさ、リリンちゃんが居る時とかは脱がなかっただろ?しかも、こんなの公開処刑も同じじゃないか…」


恥ずかしさで膨れっ面をしながらアリスは服を着、部屋を明るくした。

そして、立ち話もなんだと言うことで、全員が席に着いた。


「それで、あの痣は何なんだ?」


ガウラが話を切り出す。

ヴァルは、険しい表情のまま答えた。


「あれは一族の証だ。あたいの家系のね」


どこから話したらいいかと、ヴァルは少し考え込んでから話し始めた。

彼女がアリスの父親の情報を聞き出した人物は、昔アク·アと同じ船に乗っていた人物であった。

その人物が言うには、アク·アは酷い怪我を負った状態で海を漂流しているところを、その人物が乗っていた海賊船の船長が拾ったのだという。

意識確認を行った所、名前だけは聞き出せた。その直後に意識を失い、次に目覚めた時には一切の記憶を失っていた。そのままアク·アは船長に育てられ立派な海賊になったという話であった。


「そして、もう1つ。これはあたいの母上から聞いた話だ」


ヴァルの母がまだ子供だった頃。母には弟がいた。

その弟は戦闘能力が高く、未来の族長候補とまで言われる腕を持っていた。

だが、とある暗殺任務で船に潜入した時、子供故にドジを踏み、斬られて海に投げられてしまったという。それ以来、弟は死んだものとされていた。


「母上の弟の名はアク·ア·ブラック。そして、私が集めたアリスの父親のフルネームも同じだった」

「………」


何とも言えない空気が部屋の中に漂う。


「全く…次から次とイレギュラーばかり起こる…。お前が血族の一員なら、私は手を出せない」

「なぜ?」

「血族同士での殺し合いはご法度だからだ」


ヴァルは大きく溜息を吐き、席を立った。


「どこに行くんだい?」

ガウラが声をかける。ヴァルは振り向かずに答えた。

「1度、里に帰る。族長に指示を仰ぎに行く」


そのまま家から出ていくヴァル。

アリスは複雑な表情をして黙り込んでいる。


「アリス」

「え?は、はい?」

「大丈夫か?」


ヘリオに声をかけられ、我に返るアリス。


「う、うん。なんか、頭が混乱してる」

「まぁ、無理もないだろうね」


自分の父親の素性が分かり、血の繋がった親族が現れれば、誰だって混乱するのは仕方ないだろう。


 「今日の事で、何か生活が変わったりするのかなぁ…」

「さぁな。それはヴァルとあんた次第だろ」

「……」


珍しく神妙な顔で黙り込むアリスに、視線だけ心配そうに送るヘリオ。


「ま、なるようにしかならないさ。私が言えるのは、何があってもお前はお前だ。自分を強く持てって事ぐらいだよ」

「そう…ですよね」

「じゃあ、私は帰るよ」

「ガウラさん、お気をつけて」

「じゃあな、姉さん」


帰宅するガウラを見送り、静けさを取り戻す部屋。

アリスは神妙な顔のまま口を開いた。


「なぁ、ヘリオ」

「なんだ?」

「ヘリオは以前、ヴァルさんに逢ってるんだよな?」

「あぁ」

「じゃあ、彼女が最初、俺を邪魔者だって言って殺しにかかってきた理由はなんだ?」

「……」


ヴァルと初めて接触した日、帰宅した時にヘリオにその時の話をしていたアリスは、ヘリオに話を振った。

答えないヘリオに、アリスはずっと黙っていたことを話す決心をした。


「ヘリオ…、俺さ。実はこの右目になってから気付いてしまった事があるんだ…」


ヘリオはその言葉に、アリスが何を言いたいのかを察した表情をする。

アリスはヘリオのその表情だけで確信を得てしまった。


「その事と、ヴァルさんの使命って言うのは関係あるのか?」

「……それは本人に聞いてくれ」

「…………分かった」


そう答えて、アリスは立ち上がる。


「ヘリオ、夕飯頼めるかな?」

「あぁ」

「ありがとう、俺、庭で木人叩いてくる」

「分かった。出来たら呼ぶ」

「うん!」


いつもの笑顔を向け、庭に出る。

木人と対峙し、双剣を構える。

そして、頭の中から余計なことを消す為に木人に斬撃を叩き込む。

動き始めた運命の歯車。

それが吉と出るか凶と出るか、まだ分からない。

でも、出来る事を精一杯やろうと、アリスは決心し、雑念を殺すかの様に木人を叩き続けたのだった。