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とある冒険者の手記

A.誕生日の贈り物

2021.04.30 10:43

「ヘリオお兄ーちゃーん!!」


ウルダハのルビーロード国際市場前で、大きく手を振るリリン。

それを見つけたヘリオは片手を軽く上げ、「よお」と返事をする。

数日前にリリンから買い物に付き合って欲しいと言われたのだった。


「待ったか?」

「ううん!さっき来たところだよ!」


笑顔で答えるリリンに「そうか」と短く返す。


「ところで、買い物に行くんだろ?何を買うんだ?」

「えっとね、布を買いたいんだけど、どんなのがいいか分からなくて」


困ったように微笑むリリンに、ヘリオは首を傾げる。


「ならアリスか姉さんに頼めば良かったんじゃないのか?いつもそっちに頼むだろ?」


こう言った頼み事は、だいたいその2人に連絡が行くのに、なぜ自分なんだと不思議でならなかった。


「ガウラお姉ちゃんは予定が入ってて無理だったんだぁ」

「アリスは?」


たしか、今日はアリスには予定がなかったはずだとヘリオが言うと、リリンは真剣に困った顔になる。


「今回はアリスお兄ちゃんじゃダメなの。だって、アリスお兄ちゃんにプレゼントする為のものだから」

「プレゼント?」

「うん!」


さっきまで困った顔をしていたリリンの顔が、嬉しそうに微笑む。


「だって、もうすぐアリスお兄ちゃんのお誕生日でしょ?だから、手作りのお人形をプレゼントしようと思って!」

「…誕生日…」


そういえば、1度も祝ったことがなかったなと、その時に初めて気づくヘリオ。


「ヘリオお兄ちゃんは何をプレゼントするの?」

「…いや、まだ決めてない」

「そっか!じゃあ、布買うついでに一緒に選ぼう!」


上機嫌に言われ、「そうだな」とリリンと買い物を開始した。

裁縫のことはさっぱりだった為、裁縫師ギルドに行き、マスターのレドレント·ローズにアドバイスを貰い、布を決めていった。それが終わると、今度はヘリオのプレゼント選びが始まった。


「ねーねー!ヘリオお兄ちゃん!これなんかどうかな?これとかぁ、これとか!」

「…リリン、それはあんたが欲しいものだろ?」

「あっ…そっか」


リリンが次々と選ぶものはどれもモーグリ関係の物で、思わずヘリオがツッコミを入れた。

「えへへ」と苦笑いをするリリンに、つられて苦笑いを返すヘリオ。

ざっと、色んな店を見てみるもどれもピンと来ない。

と言うのも、突然決まった予定に、まったく頭が働かない。

そんな時だった。


「おや、珍しい組み合わせだね」


声に振り向くと、そこにはガウラの姿があった。


「姉さん」

「ガウラお姉ちゃん!」


ガウラに駆け寄るリリン。


「お姉ちゃん、今帰りなの?」

「ん?あぁ、任務が終わったから不滅隊に報告に来たんだ。この後は固定があるよ」

「そっか!頑張ってね!」

「あぁ!ありがとな!」


そう言って、リリンの頭を軽く撫でるガウラ。


「そういえば、今日は買い物って言ってたけど、何の買い物だったんだい?」

「アリスの誕生日プレゼントだそうだ」

「アリスの?」


ガウラの質問にヘリオが答える。

ガウラもアリスの誕生日を知らない様子だった。


「いつなんだい?」

「えっとね、星2月の3日だよ!」

「まだ2週間も先の話じゃないか」

「あのね!リリン、手作りのお人形をプレゼントしようと思ってるの!」


リリンの言葉に「あー、なるほど」と納得する。


「そうか、なら私も何か考えとかないとな。誕生日に何かしら貰ってるし…」


言って、少し考え込むガウラにヘリオが口を開いた。


「姉さんは何をやるんだ?」

「え?うーん、そうだねぇ。無難なのは普段使いが出来る物がいいとは思うけど…、私はあいつの好みを知らないからな…、そう言うお前は何をやるんだ?」


逆に話を振られて、黙り込むヘリオ。


「お前、アリスと一緒にいるのに、好みが分からないとか言うんじゃないだろうね?」

「いや、分かるには分かるが…、どうもピンと来なくてな…」


同じ顔で考え込む双子に、リリンはクスッと笑う。


「まだ2週間あるから、ゆっくり考えようよ!リリンもお手伝いするから!」

「…そうだな、それがいい」


リリンの言葉にガウラは同調し、その日は終わった。

そして、あっという間に誕生日の日を迎えた。

家で祝おうという事になったのだが、その日はガウラには予定があり来られず後日にプレゼントを渡すと伝言があった。

リリンはヘリオに手伝いをお願いし、アリスが帰ってくるまでに準備をする。


「ヘリオお兄ちゃん、調味料はこのぐらいで大丈夫?」

「もう少し入れた方がいいかもな」

「わかった!」


作業は順調に進み、テーブルには料理とバースデーケーキ。

部屋はリリンお手製の色紙を使った飾り付けがされた。


「アリスお兄ちゃん、早く帰って来ないかなぁ~」


待ち遠しそうにはしゃぐリリン。

その姿に思わず笑みがこぼれるヘリオだった。



************



「おい、リリン起きろ。アリスがもうすぐ帰ってくるぞ」


ヘリオは、待ちくたびれてテーブルにうつ伏せて寝てしまったリリンの肩を軽く揺する。


「ふえ?」


反射的に勢いよく体を起こすリリン。


「アリスから連絡があった。もうすぐ着くとさ」

「起こしてくれてありがとう」


目を擦りながらリリンはお礼を言う。

すると、外から歩く音が聞こえる。

2人はクラッカーを手に持ち構えた。


「ただいまー!」

「アリスお兄ちゃん!お誕生日おめでとう!!」

「おめでとう」


帰宅と同時に鳴らされるクラッカー。

突然のことに目を丸くして固まるアリス。


「え?え?」

「今日はアリスお兄ちゃんのお誕生日でしょ!」


満面の笑顔で言われて、今日が自分の誕生日だということを思い出すアリス。


「あ…そっか、俺、誕生日か!」

「えー!アリスお兄ちゃん、自分のお誕生日忘れてたの?」

「あはは、ここ何年か祝って貰ったこと無かったから、忘れてたよ」


苦笑いをするアリス。


「あんた、人の事はしっかりやるのに自分の事はすっぽ抜けるよな」

「あはは、面目無い」


アリスは改めて部屋を見渡す。


「ひょっとして、この飾り付けや料理は2人が作ってくれたのか?」

「うん!アリスお兄ちゃんも、リリンのお誕生日に飾り付けしたり、お料理用意してくれたでしょ?だから、リリンも同じようにしたかったの!」

「リリンちゃん…ありがとう」


少し瞳を潤ませながら、アリスはお礼を言った。


「ヘリオも、ありがとう」

「俺はリリンを手伝っただけだ。企画したのは全部リリンだからな」

「それでも、嬉しいよ!」

そう言って笑顔を向ける。

「お誕生日パーティ始めよ!」


リリンはケーキのロウソクに火をつける。

ヘリオが部屋を暗くすると、リリンがバースデーソングを歌う。

歌が終わると、アリスはロウソクの火を消した。

拍手と同時に「おめでとう!」と言われ、照れくさそうに笑うアリス。

部屋が明るさを取り戻すと、リリンがヘリオの背中を押した。


「ほら!ヘリオお兄ちゃんから渡して!」


リリンに促され、ヘリオは「あ、あぁ」と零し、アリスにひとつの箱を差し出した。


「これは、武器の手入れ道具のセット?」

「何がいいか分からなくてな。この前、あんたの道具がだいぶ古くなってたから」

「わぁ!ありがとう!助かるよ!」


本当に嬉しそうに受け取るアリスに、ヘリオはホッとした。


「次はリリンからだよ!」

「お!リリンちゃんからは何かな?」


小さなラッピングの袋を渡され、中を取り出す。

中から出てきたのは、歪ではあるが小さな人形だった。


「これは…ヘリオ?」

「うん!アリスお兄ちゃん、ヘリオお兄ちゃんの事が好きだから、リリン、一生懸命作ったの!」


その言葉に驚いたようにリリンを見るヘリオ。

そして、アリスはじっと人形を見つめて唖然としている。

そして、アリスの瞳からポロリと涙が落ちた。


「アリスお兄ちゃん…泣いてるの?」


アリスがポロポロと涙を流すのに慌てるリリン。


「ごめんね!アリスお兄ちゃん!リリン、初めてだったから下手くそで…」

「違う…違うんだリリンちゃん」


アリスは涙を拭きながら笑顔でリリンを見た。


「凄く、凄く嬉しいんだ」


笑顔で涙を流しながらアリスは言った。

リリンの心の籠った手作りの人形。

裁縫をした事の無いリリンが、一生懸命自分の為に作ってくれたことに、感動していた。


「作るの大変だっただろ?」

「うん、でも、アリスお兄ちゃんに喜んで欲しかったから、頑張ったの!」

「ありがとう!大事にするよ!」


アリスがリリンの頭を撫でると、「えへへ」と満面の笑みが返ってきた。

その後、料理とケーキを3人で食べた。

アリスは最高の誕生日だと、その日の事を心に刻みつけたのだった。



************



後日、ガウラに呼び出されたアリスは待ち合わせ場所へと来ていた。

そこには既に、ガウラが到着していた。


「お待たせしました!ガウラさん!」

「よお、元気してたかい?」

「お陰様で!それで、俺に用事ってなんですか?」


呼び出された内容が分からず、尋ねる。


「お前、この前誕生日だっただろ」

「はい。そうですけど」


そう答えると、「ほらよ」と何かを投げられ、慌ててそれをキャッチする。


「リンゴ?」


それは、この辺ではあまり見ない、鮮やかな紅い色をしたリンゴだった。

ヘタの部分に申し訳程度にリボンが着いていた。


「誕生日プレゼントだ。用は済んだ。じゃあな!」


そそくさと立ち去るガウラ。

その背に「ありがとうございます!」と言うと、手をヒラヒラさせて去っていった。