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とある冒険者の手記

A.修行

2021.04.30 10:48

コンコンと、ノックの音。

洗い物をしていて手が離せなかったアリスに変わり、ヘリオが玄関に向かった。

扉を開けると、そこには2週間前に里に戻ったはずのヴァルが居た。


「アリスはいるか?」

「あぁ、いるぞ」


そう答えて、ヘリオはヴァルを家に招き入れた。


「ヴァルさん、いらっしゃい。戻ってきてたんですね」


少し表情を強ばらせるアリス。

ヴァルはそれを気にもとめず、近くの椅子にドカッと座り、足と腕を組む。


「アリス、残りの洗い物は俺がやっとくから、話してこい」

「分かった」


洗い物を交代し、アリスはヴァルの向かい側に座った。


「俺に用があって来たんですよね?」

「あぁ、族長と話し合って、お前を今後どうするか決めた」

「…それで、結論は?」


アリスの投げかけに、ヴァルは真っ直ぐアリスの目を見据えた。


「お前を1度里に連れてこいとのお達しだ。混血とは言え、一族の血を引くお前を族長も見逃せないとの事だ。里に行った後のことは、お前次第だ」

「………」


そう言われ、考え込むアリス。


「着いてくるかどうかもお前次第だ。着いてこないのなら、一族の事は何も分からず、あたいに命を狙われ続けることになる」

「…なんで命を狙われ続けることになるんです?」

「お前の存在は、ガウラにとって危険だ。足でまといが傍に居るだけでも迷惑だし、何よりそいつとパートナーって事も問題なんだ」


ヴァルは洗い物を黙々とこなしているヘリオを顎で指し示す。


「それは、ヘリオがエーテル体だからですか?」

「…知っていたのか」

「ええ。気がついたのはパートナーになった後ですけど」

「なら、何故そいつを解放しない」


アリスを睨みつけるヴァルに、アリスは真剣な顔で言った。


「ヘリオの性格なら、戻れるものならとっくに戻ってるはずです。俺とパートナーになる前には、既にガウラさんと一緒に行動していたんですから。それが出来ない理由があるから今に至る。なら、俺はその時が来るまで、今までと変わらず、限りある時間を一緒に過ごしたいと思ってるんです」

「はっ、綺麗事だな」

「なんとでも。俺が今に至るまで、悩み抜いた心境なんて、“他人“の貴方に理解出来るはずもないでしょうから」


アリスには珍しく、攻撃的で相手を拒絶する言葉を言い放った。

しばらく睨み合う2人。

そこに、洗い物を終えて、ヘリオが席に着いた。


「どうでもいいが、結局のところ、アリスはヴァルの里に行くのか、行かないのか、どっちなんだ」


ヘリオに話を元に戻され、アリスは答えた。


「行くよ。父さんの事も少しは分かるだろうし。何か得るものがあるかもしれないしな」

「分かった」

「…明日、グリダニアのエーテライトプラザで待ってるからな」


そう言うと、ヴァルはさっさと家から出て行った。

翌日、約束通りグリダニアでヴァルと合流したアリスは、ヴァルの案内の元、黒き一族の里にやってきた。

隠れ里と言うのが相応しいその里には、色黒のムーンキーパーが沢山住んでいた。

ヴァルの後ろを着いて歩くアリスを、警戒の視線が突き刺していく。

そして、里の中では1番大きな建物へ入ると、そこには1人の老人が蝋燭の明かりに照らされ、鎮座していた。

ヴァルはその老人の前で跪き、「族長、ただいま戻りました」と頭を垂れる。


「ヴァル、ご苦労だった。して、その後ろの若人がアクの息子か?」

「はい」


ヴァルの返事に、族長はアリスに視線を向け、立ち上がり、アリスに歩み寄った。


「なるほど…、たしかにどことなくアクに似ているな。お主、名は?」

「フ·アリス·ティアです」

「ヴァルからの報告通り、暗い部屋ではムーンキーパーの特徴を持っている様だな」


アリス自身には分からないが、灯りが蝋燭だけの薄暗い部屋で、自分の瞳が変化しているのだと悟る。


「して、一族の証は?」

「右の脇腹に」


ヴァルは答えると同時にアリスの服をバッと捲り上げ、脇腹を出す。

突然の行動に思わず「うわっ!?」と叫ぶアリス。


「ヴァルさん!せめて一言くださいよ!」

「五月蝿い」

「うぅ~っ!」


その2人のやり取りを見ていた族長は突然笑い出した。

キョトンとするアリス。

流石のヴァルも、驚いた顔で固まっていた。


「お主らを見ていると、昔のヴィラとアクを思い出す」

「昔の母上と叔父上を…ですか?」


困惑気味に尋ねるヴァルに、族長は「うむ」と頷き、懐かしそうに微笑んだ。

それも束の間、族長はスっとアリスを見据えて問うた。


「1つ確認をしたい。お主はこれから一族の一員として使命を受けるのか、それとも今までと変わらぬ生活をするのか、どちらを選択する?」

「…え?」


唐突な質問に、驚くアリス。


「一族の一員となるならば、我が一族の事を全て話さねばならぬ。だが、お主は一般の生活の出だ。暗殺家業は請け負わせぬつもりでおる。もし、一員とならぬのであれば…」

「…ヴァルさんの使命の為に、命を狙われる…ですか」


アリスの言葉に族長は静かに頷いた。

アリスは溜め息を吐いた。


「選択するというより、もう一択しかないじゃないですか…」

「カッカッカッ!それもそうだな」


族長は豪快に笑う。


「では、一族の一員となるのだな?」

「はい。訳もわからず命を狙われるなんて、真っ平御免ですから」

「賢明だな」


すると、族長はヴァルに里の者にアリスの事を伝える事と、ヴィラを呼ぶように命じた。

ヴァルは「御意」と返事をし、部屋から出ていった。

そして、アリスに座るよう促し、族長も元の場所に座り、黒き一族の成り立ちを話し始めた。更には、白き一族と呼ばれる存在。その唯一の純血がガウラである事。ガウラの本名。ヘリオが出来た経緯。黒き一族の使命。全てを説明した。


「本来、お主の父であるアクが生きていれば、ヘラを守る使命はアクになるはずだった。アクが仕事で失敗しなければ…な」


複雑そうな顔で語る族長に、アリスはどう言葉をかけていいか分からなかった。


「だが、アクの息子であるお主がこうして現れたのは何かの縁かもしれぬ」


そう言うと、族長はアリスの目を真っ直ぐ見て言った。


「お主に一族の使命を言い渡す。ガウラがヘラに戻る機会が訪れるまで、お主はヘラのエーテル体を守れ。どちらが欠けてもヘラの命が危うい」


それを聞いたアリスは、真剣な顔つきになった。


「言われなくても、命に変えても守ってみせます」

「まぁ、当然の答えじゃな。エーテル体とお主の関係を考えればな」

「族長様も食えない人ですね。もし、俺が一員とならないと言ってもヘリオの事を出すおつもりだったんじゃないですか?」

「どうだろうな?」


アリスの言葉に意味深に微笑む族長。

本当に食えない人だと、アリスは苦笑いをした。


「さて、使命を全うするに当たって、お主には修行をしてもらうことになる」

「修行?」

「うむ。ヴァルからの報告で、お主は実力はあるが隙が多いと聞いておる。それは周りの者を危険に晒すことになる。お主とて、それは不本意であろう?」


アリスが族長の言葉に頷くと、「ヴィラ」と族長が呼ぶ。

すると、「お呼びでしょうか」と現れたヴァルの母。

その容姿はヴァルにそっくりだったが、頬に蝶の痣、肌の色はダークブラウン、瞳の色は深い緑色をしていた。


「ヴィラ、アクの息子、アリスの修行をつけてやってくれ」

「かしこまりました。アリス、着いてこい」


ヴィラに促され、アリスは族長に一礼をした後、ヴィラの後を追った。

外に出ると、周りの態度は一変していた。

ヴァルがアリスが一族の一員となったことを伝えたからなのか、来た時の警戒の視線は無くなっていた。

アリスはそのままヴィラに着いて行き、訓練場のような広場に来た。

目的地に着いたヴィラはアリスの方に振り向いた。


「ここで、お前は修行をしてもらう」

「はい」

「修行を始める前に幾つか確認したいことがある」

「なんでしょう?」

「お前はエーテルを視る事はできるか?」

「はい。右目を怪我して失明してから、右目でだけなら…」

「そうか。では、もう一つ聞こう。どんなことをしても変わらぬ香りを感じたことはあるか?」

「え?それはどう言う意味ですか?」


質問の意味が掴みかねず、アリスは聞き返した。


「例えばだ、身につけている装備の香りはするとして、人の香りというのは状況によって変化するだろう?汗臭かったり、シャンプーの香り、香水の香りがしたりする。それらの条件を満たしても変わらぬ香りを感じたことはあるか?」

「……」


そう言われて、アリスは真っ先に思い浮かんだのはヘリオの香りだった。

一緒に住んで、同じシャンプー等を使っていても全く変わることの無かった香り。


「あります」

「それはお前のパートナーであるエーテル体に感じているだろう」

「はい。でも、なぜ?」


何故そんなことを聞くのかと尋ねると、ヴィラは答えた。


「白き一族と黒き一族の話は族長から聞いたな」

「はい」

「2つの一族の呼び方はもう1つある。白い花と黒い蝶。蝶が蜜の香りに誘われて花に留まる様に、我が一族の祖先も、白き一族のエーテルを匂いで感知していたと言う。だが、今やその血は薄れ、エーテルの匂いを感知出来る者が産まれるのは稀なのだ」


そこまで言って、ヴィラは苦笑いを浮かべた。


「だが、運命とは皮肉なものだな。混血のお前にその能力があり、知らずにエーテルに惹かれ、パートナーとなるなんてな…」


その声は哀れんでいる様にきこえた。


「さて、話を戻そう。エーテルを視る能力があるのは、一族の戦い方にとても重要になってくる。お前は倒すべき相手をどうやって判別する?」

「え、それは、普通に目で見て、ですけど」

「まぁ、普通はそうだろう。だが、我々はエーテルを視て相手を判断する。これは暗殺業をしている我々にとってターゲットを間違えず正確に判断する手段として重要なのだ。何故か分かるか?」


アリスは考え込むが答えがわからず、素直に「分かりません」と答えた。


「目で見て判断すると、ターゲットにそっくりな影武者や、ただ顔が似ている一般人を殺めてしまうかも知れないからだ。だが、エーテルは人によって全く異なる。だからエーテルを視る事が重要なのだ」

「なるほど…」

「それに、相手が魔物であっても、エーテルを視る事で視覚では気付かない攻撃の予兆に気がつくことが出来る」


ヴィラの説明に目からウロコ状態のアリス。


「だが、エーテルを視る事は、かなりの体力を消耗する。そこで、今からお前がどれだけの時間、エーテルを視続ける事が出来るのかを試したい」

「分かりました。やってみます」


ヴィラの合図と共にエーテルを視始める。

だが、思った以上に体力を持っていかれ、5分も状態を保てなかった。


「うむ。最初はそんなもんか」

「…し、しんどい…」


肩で息をするアリス。

ヴィラはアリスに休憩を取るように言った。

アリスは地面に座り込み、ヴィラに尋ねた。


「ヴィラさんは、どのくらいの時間、視る状態を維持できるんですか?」

「私か?そうだな、だいたい5時間ぐらいは維持出来る」

「ごっ…5時間…っ」

「戦闘となると、時間がかかる事があるからな。これぐらいは維持出来ないと話にならないさ」

「…うわぁ…」


一気に出来る自信を無くす。

それを見透かしたかのように、ヴィラは口を開いた。


「最初は皆、そんなものだ。お前の父親もそうだった」

「父さんが?」

「あぁ」


ヴィラは目を細め、懐かしむような表情をする。


「知りたければ、後で話してやろう」

「ぜひ!俺、父さんがどんな子供だったか知りたいです!」


一気に表情が明るくなったアリスを見て、ヴィラは優しく微笑んだ。

体力が回復した後、再度エーテルを長く視られる訓練が始まった。

ヴィラの指導と、休憩と訓練を繰り返し、陽が暮れる頃には20分は状態を維持出来るようになった。


「さすがはアクの息子だな。筋がいい」

「本当ですか!?」

「あぁ。さて、今日の修行はここまでだ。明日の朝7時頃にここに集合だ」

「はい!」

「では、お前の寝泊まりする部屋に案内しよう」

「へ?寝泊まり?」


自宅に帰ろうとしていたアリスはキョトンとする。


「そうだ。里の事を外部に漏らす訳には行かないからな。修行が終わるまでは、里で暮らしてもらう」

「……」

「お前のパートナーの事なら心配いらないぞ 」


声と同時に現れたのはヴァル。

「どういうことです?」とアリスが尋ねると、ヴァルはしれっと答えた。


「お前が一族の一員になった時点で修行を行うのは分かっていたからな。ガウラと一緒に奴が居たから、修行が終わるまで戻らないと伝えておいた」


ヴァルの行動に素直に「ありがとうございます」とお礼を言うアリス。


「奴からの伝言だ。「頑張ってこい」だとさ」

「ヘリオ…」

ヘリオの声援を聞いて、気合いが入る。

「ヴァルさん、俺からも伝言お願いできますか?」

「どうせ、奴はガウラと一緒に居ることが多いんだ。構わない」

「ありがとうございます。「必ず教わったことを身につけて戻ってくるから、楽しみに待っててくれ」と伝えてください」

「承知した」


そう言って、ヴァルは去った。

そして、アリスはヴィラに部屋に案内された。

食事はヴィラが用意してくれると言うので一安心。

その日は、食事を摂ったあと、アリスは寝床に倒れ込み、そのまま眠りについた。



***********



修行を初めて1週間が経過した頃には、エーテル視出来る時間が4時間程になったアリスは次の段階へと進んだ。

エーテル視をした状態で物を避ける、弾く、斬るを繰り返し行った。

休憩の合間に、アリスはふとした疑問をヴィラに投げかけた。


「そういえば、修行が始まってから、ずっと俺に着いて貰ってますけど、ヴィラさんは本来の家業や使命は大丈夫なんですか?」


素朴な疑問だった。


「私は暗殺者を引退したのだ、使命を果たせなくてね…」

「使命を果たせなかった?」

「あぁ。私は守りきる事が出来なかったんだよ…」


苦しそうに答えるヴィラ。


「私が守っていたのはね。ヘラの母親だったんだ。だが、私は同じ母親として、彼女の意図を察することが出来ず、彼女は消えてしまった…」


悲しい表情を浮かべるヴィラに、アリスは「すみません、辛いことを聞いてしまって…」と謝った。


「いや、いいさ。全ては過去の話、引退してからはこうやって若い連中の修行を指導しているという訳だ」

「なるほど」

「いくら技術や実力があっても、守るべき対象の考え等がある程度理解出来ていないと、私の様に判断を誤ることがある。まぁ、お前はその点では心配なさそうだがな」


話を聞いて、アリスはヴァルのガウラへの執着の根本を見た気がした。

自分の母が守れなかった人物。

その人物が命をかけて守った子供。それがヘラであり、今のガウラだ。母の無念と、自分はそうならない様、ヴァルは必死なのだと…。


「さて、休憩は終わりだ。修行に戻るぞ」

「はい!」


こうして修行の成果を着々と身に着けていき、最終段階は心を乱さない事、どんな時でも感情を落ち着かせる術を学んだ。

そして、全てが終わったのは修行を始めてから5週間目であった。


「これで全ての修行の工程は終わりだ。おめでとう」

「ありがとうございました!大変お世話になりました!」


ヴィラに深々と頭を下げるアリス。


「お前を帰す前に、容姿を整えなければな。髪が伸び放題だ」

「あー、大丈夫ですよ!帰る前に宿にでも寄るんで…」

「修行は終わったんだ。今はただの伯母として、世話をさせてくれないか」


その言葉にハッとするアリス。

そうだ、ヴィラは父の姉だったのだと…

幼い頃に死んだと思われていた弟の子供に、思う所があるのだろうと…


「分かりました。じゃあ、お願いします」

「そう来なくてはな!カッコよくしてやるから期待しておいで」



************



「ただいま」

「おかえり、アリ……ス?」


自宅の扉が開き、帰ってきたアリスを見たヘリオは、目を見張った。

今まで見たことがないほど短く整えられた髪型をしたアリス。

それだけでも大分印象が違うのに、アリス自身の雰囲気が落ち着いている様に感じて、少し戸惑った。


「あんた、なんだか雰囲気が落ち着いたな」

「そうかな?ひょっとしたら修行の成果かもしれない」


そう言って、軽く微笑んだアリスはヘリオの元へゆっくりと進む。

目の前に辿り着いたアリスはボソリと「やっぱりダメだな…」と言うと同時に、ヘリオを抱きしめた。


「なっ!?」

「何も無い時にヘリオといると、感情を抑えられないや」


そう言って、抱きしめる力が少し強くなる。


「……前言撤回させてくれ……」


ヘリオに呆れ声でそう言われ、思わず苦笑いをするアリス。

 

「凄く逢いたかった」

「はぁ…相変わらずだな、あんたは…」

「へへっ」


そんな時、ドアをノックされ返事をすると、そこにはヴァルの姿があった。


「修行を終えたそうだな」


開口一番そう言い放ち、「ちょっと付き合え」と外へと促される。

それに従い、アリスとヘリオは庭へと出ると、ヴァルは武器を手に取った。


「アリス、武器を取れ。お前の修行の成果を見てやる」


そう言われ、アリスは庭の物を一旦倉庫へと押し込み、場所を確保すると、ヴァルと対峙した。

武器を構えた瞬間、アリスの顔から感情が消える。

それなのに目だけは獲物しっかりと見据える獅子の様に鋭く光っていた。

静かに睨み合う2人。

それを破り、先に動いたのはヴァルだった。

一気にアリスとの距離を詰め、攻撃を叩き込む。

それをいとも容易く受け流し、隙を見て攻撃を繰り出すアリス。

今まで隙の多かったアリスの動きには、それが見当たらない。

これが修行の成果かと、ヘリオも2人から目が離せなくなる。

激しくぶつかり合い、金属音が繰り返し鳴り響く。

互角かと思われたその瞬間、一瞬で決着が着いた。

気がつくと、アリスの双剣はヴァルの首元に押し当てられていた。


─何が起こったか分からない─


ヴァルの表情はそう語っていた。

そして、手合わせを見ていたヘリオにすら、何が起こったのか理解が出来なかった。


「勝負あり…ですね」

「チッ」


アリスの言葉に舌打ちをし、武器を収めるヴァル。それを見て、アリスも武器を収めた。


「やられたよ。あたいの負けだ。認めたくないけど、お前は間違いなく黒き一族の血を引く者だ」


そう言って、アリス達に背を向けた。


「何処に行くんです?」

「そろそろガウラが出かける時間だからな」


それだけ言って、ヴァルは姿を消した。


「あんた…さっき何をしたんだ」

ヘリオの投げかけに、アリスは振り向き

「秘密」


と、にっこりとそう言った。

思わず腑に落ちないと言う顔になるヘリオ。


「ヴァルさんのお母さんから教えて貰った秘術だから教えられないんだ」


アリスはそう言って、庭のレイアウトを戻し始めた。

それ以上追求しても、口を割らないだろうと、ヘリオは聞くのを辞めた。



**********



その夜、ヘリオは地下の暖炉の前で腰掛け、考えに耽っていた。

動き始めた歯車はもう停められない。

黒き一族の一員となったアリスは、恐らく、全てを一族から聞いて知っている。

双蛇党も自分等の故郷を調べ始めている。

もう、黙秘し続けることは出来ないと…