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とある冒険者の手記

現パロ:出会い

2021.05.01 07:20

「参ったなぁ~これは完全に道に迷ったぞ…」


道端で俺は途方に暮れていた。

先週、母さんの転院を機に、病院のすぐ近くに引っ越してきた。

今日は母さんのお見舞いに行くのに、花屋を探して居たら、完全に道に迷ってしまった。

位置を確認しようとトームストーンを起動させると、充電が2パーセントになっていた。


「しまった…昨晩充電し忘れてた…」


どうしようと頭を抱えていると「どうしたの?」と声をかけられた。

声の方に振り向くと、そこに居たのはヴィエラ族の女性が居た。


「この辺じゃ見ない顔だね?」

「はい、先週引っ越してきたばかりで道に迷ってしまって…」

「そうなんだ!良かったら私が案内するよ!」


渡りに船とはまさにこの事、彼女の申し出を有難く頂戴することにした。


「ありがとうございます!助かります」

「どこに行くつもりだったの?」

「母さんのお見舞いに行くのに、花屋を探してて」

「あ!じゃあいい所知ってるよ!ついてきて!」


彼女の後をついて行く俺。


「あ、そうだ、私の名前はナキ!あなたは?」

「あ、俺はアリスです」

「アリスね!実はね、今から行くところは、私の友達の家でもあるんだ!」

「へぇー、そうなんですか」

「この辺の花屋の中では、種類が豊富だから、結構評判いいんだよ!」


明るく人懐っこい笑顔で話すナキさん。

彼女の話は尽きず、あっと言う間に花屋に着いた。


「うわ~…、すごい種類…」

「でしょ!ごめんくださーい!」

「はーい!」


ナキさんが店の中に声をかけると、奥から聞こえた女性の声。

そして、現れたのは、白銀の髪にピンク色のメッシュの入った、オッドアイのミコッテの女性だった。


「いらっしゃい…って、ナキじゃないか!久しぶりだねえ!」

「ガウラ!久しぶり!」


どうやら、ガウラと呼ばれた女性がナキさんの友人らしかった。


「隣に連れてるのは彼氏かい?」

「違うよー!道に迷ってるみたいだったから案内してきたの!先週この町に引っ越してきたんだって」

「どうも」


紹介されてお辞儀をすると、ガウラさんもお辞儀を返した。


「ここに案内されたってことは花を買いに来たんだろ?どの花を買いに来たんだい?」

「あ、黄色のラナンキュラスをお願いします」

「あいよ!ちょっと待ってな」


慣れた手つきでラナンキュラスを花束にしていく。

代金を払い、花束を受け取る。


「うちの店はこの辺では品揃えに自信があるんだ。今後ともご贔屓に頼むよ!」

「はい!また寄らせていただきます!」


一礼をして、病院へ向かうために店を後にした。

ナキさんの案内で、無事に病院まで着いた俺は、ナキさんにお礼を言って別れ、病室へと向かう。

個室の扉をノックし、室内に入ると「アリス、いらっしゃい」と笑顔で母さんが迎えてくれた。


「母さん、今日は調子が良さそうだね」

「えぇ、実はね、この前ララフェル族のお友達が出来たのよ」

「へぇ!そうなんだ!」


その言葉にオレはホッとした。

話し相手になる友達が出来たなら、少しは母さんも気分転換になるだろう。


「こっちに越してきて1週間になるけど、どう?この町での生活は」

「平日は仕事してるから、まだ、よく分からないけど、今日、とても良い人に会ったよ!」


俺はここに来るまでの話をした。

 

「そうなの!親切な人に会えて良かったわね!」

「うん!まぁ、トームストーンを充電し忘れてなければ知り合うこともなかったかもだけど」

「あなたはちょっと抜けてるところがあるから、そこが少し心配だわ」

「あはは、ごめん。気をつけてはいるんだけどさ」


苦笑しながら言う母さんに、俺も苦笑しながら答える。


「そういえば、あなた恋人とかは作らないの?」

「へ?な、なんだよ急に…」

「あなたにしっかりした恋人が居れば、母さんはとっても安心なんだけれど、気になってる人とかいないの?」


突然の話題に「う~ん」と考える。


「正直さ、恋愛の好きって言うのがよく分からないんだよなぁ。学生時代にリンダちゃんとは付き合ってたけど、押しに負けたところがあったし…。ねぇ、母さん。恋愛の好きってどんな感じなの?」

「そうねぇ…」


母さんは昔を思い出すような表情をする。


「寝ても醒めてもその人のことが頭から離れなかったり、その人のことを目で追ってしまったり。会いたくて仕方なかったり。そんな気持ちになるのが恋愛の好きって感じかしら?あとは、傍にいて安心したりとか…」

「う~ん。そっかぁ……」


経験したことのない感覚だなぁと、首を傾げる。


「あ、そうだ!昨日、父さんから連絡あってさ!再来週の土日に連休取れたから、戻ってくるって」

「あら!本当!」

母さんの顔が一気に明るくなる。

「お見舞いにも来るって言ってたよ」

「ふふっ、父さんに会えるなんて、嬉しいわ」

「母さんは本当に父さん大好きだよなぁ」

「当たり前じゃない!じゃなきゃ、あなたは産まれてないんだから!」


両親の仲が良いのは良い事なんだが、見てるこっちが恥ずかしくなる程なのは如何なものかと、毎回息子ながらに思ってしまう。


「じゃあ、そろそろ俺は行くよ!これ今週分の着替え」

「ありがとう!洗濯物はこっちね」


俺は洗濯物の入ったカバンを持つと、「また来週来るよ!」と言って病院を出てマンションに戻った。

昼食を摂り、家事をこなすと、夕食の食材を買うためにスーパーウルダハへと向かう。

今日はカレーにしようと、野菜コーナーへと足を向ける。

ジャガイモ、玉ねぎをカゴに入れ、人参のコーナーへ。

そこで俺は人参の値段を見比べて、考え込んだ。

前に住んでた所で安い人参を買った時に、鮮度が良くなかったのか、あまり美味しくない物を選んでしまった経験から、高いのを買うか悩んだ。

家賃、光熱費、生活費は父さんから振り込まれてはいるけれど、なるべくなら節約をしたい。

だからと言って、美味しくないものを食べたくはなかった。


「う~ん……」


どれほど悩んでいただろうか、人参コーナーに長いこと立ち止まり、値札とにらめっこをしていると、唐突にゴソッと言う音と共にカゴに重さを感じた。


「え?」


何が起きたか分からず、咄嗟にカゴの中を見た。


「こっちの方が安くて新鮮ですよ」


カゴの中には安い三本入りの人参が入れられていた。

カゴから視線外し、声のした方に顔を向けると、白銀の髪のミコッテの後ろ姿。

声から察するに男性と思われる人物が去っていく所だった。


「あっ、ありがとうございますっ!」


咄嗟には動けなかったが、その後ろ姿の人物にお礼を言うと、その人は手をヒラヒラさせて、その場を立ち去って行った。

その夜、その人参を使って作ったカレーは、とても美味しく感じた。


「あの人、どんな人なんだろう?また、会えるかな…」


次に会えたら、ちゃんとお礼がしたい。そう思いながら、俺はカレーを食べ進めた。

次の日から、仕事帰りにスーパーに寄ると、あの後ろ姿の人物を探すようになった。

だが、会った時と時間帯が違うせいか見つけることは出来なかった。

そして、次の日曜日。

俺は母さんの着替えを持って、先週行った花屋に向かった。

花屋に着くと、店の中に向かって「ごめんくださーい!」と声を掛けた。


「はーい!」


声を聞いて、俺は「あれ?」となる。

女性の声ではなく、男性の声だったからだ。

「いらっしゃいませ」と店の奥から出てきたのはガウラさんではなく、白銀の髪に黄色のメッシュの入った、ガウラさんとは非対称のオッドアイで黒縁メガネを掛けた男性。

俺は、ガウラさんとそっくりなその男性に視線が釘付けになる。


カッコイイ…

それに綺麗だ…


男性は、俺の顔を見て驚いた顔をした。


「あれ?あんた、先週スーパーの人参コーナーで…」

「え?」


俺は先週出会った後ろ姿の人物を思い出した。


「あーっ!ひょっとして、あの時の!?」


俺は勢いよく頭を下げた。


「あの時はありがとうございました!人参、とても美味しかったです!」

「あ、あぁ、それは良かった」


俺の勢いに少し戸惑う男性。


「でも、まさか、この花屋さんの人だったなんて…、そういえば、今日はガウラさんじゃないんですね」

「あー、姉さんか。姉さんはたまにしか店に出ないからな。そうか、姉さんが言ってた新しい顧客ってのはあんただったのか」

「あのー、つかぬ事をお聞きしますが…、ひょっとしてガウラさんと双子ですか?」


俺が聞くと、男性は「あぁ」と答えてくれた。

どうりでそっくりな訳だ。


「俺、アリスって言います!あの、良かったらコンパニオンでフレンドになりませんか?」

「はい?」


俺の唐突な申し出に、不思議そうな顔をする。


「実は、この町に越してきたばかりで、あまり土地勘も無くて…、出来たら同性の知り合いが欲しいなーって」

「あー、なるほどな」


すると、男性は「ちょっと待っててくれ」と言い、店の奥へと向かった。

そして、戻ってきた時、手にはトームストーンが握られていた。


「ほら、俺のIDな」

「ありがとうございます!」


ID検索をすると[ヘリオ·リガン]の名前が出てきた。


「ヘリオさん…で合ってますか?」

「あぁ」

「分かりました!今申請しました!」


すると、ヘリオさんは自分のトームストーンを操作し、申請を承認してくれた。


「ありがとうございます!これからよろしくお願いしますね!ヘリオさん」

「こちらこそ。あ、ヘリオでいいぞ。あまり堅苦しく呼ばれるのは好きじゃないんだ。あと、敬語もな」

「はい!分かりまし…あ」


言われた先から敬語を使いかけ、思わず口を抑える。

すると、ヘリオは「ふっ」と笑った。


「あんた、面白いな」

「あはは」


俺はつられて笑う。

ヘリオのその笑った顔が可愛くて、ギャップに心が踊る。


「ところで、花を買いに来たんだろ?」

「あ、そうだった!」


当初の目的を思い出し、俺は先週と同じく、黄色のラナンキュラスを注文した。


「包装はどうする?」

「あ、普通で大丈夫!母さんのお見舞いに持っていくのだから」

「分かった」


ヘリオは手際よく花束を作り、俺に花束を手渡す。


「早く良くなるといいな、あんたの母親」

「うん!ありがとう!」


俺は笑顔で花束を受け取り、代金を払った。


「じゃあ、また来週来るよ!」

「あぁ、またな」


大きく手を振って、俺は病院へと向かった。

お礼を言えた嬉しさと、知り合いになれた嬉しさで胸がいっぱいだった。

病室の扉をノックし、「母さん!来たよ!」と上機嫌で中に入る。

「いらっしゃい」と、いつものように笑顔で出迎えてくれる母さん。

俺は鼻歌交じりに花瓶に水を入れ、ラナンキュラスを飾る。


「アリス、何か良いことがあったの?鼻歌なんか歌っちゃって」


微笑みながら聞く母さんに、「実はさ」と、先週のスーパーでの出来事と、今日の話をした。


「まぁ!そんなことがあったの!」

「うん!世間は狭いよなぁ!」

「ふふっ!アリスあなた、そのヘリオさんが好きなのね」


母さんは微笑みながら言った。


「とても良い人そうだしな!良い友人になれればいいなって思ってるよ!」

「もう!そうじゃなくて!」


母さんは、苦笑しながら言った。


「なんだか、ヘリオさんに恋してるみたいよ?」

「へ?」


母さんの言葉に、俺は一気に顔が熱くなる。


「なっ?!何言ってるんだよ!あ、相手は男性だよ?」

「好きになったら性別とか関係ないんじゃないかしら?それに、ヘリオさんの話をしてるあなたの顔、今まで見たことがないぐらい幸せそうな顔してるわよ?」

「!?」


えっ?ええっ?!

ちょっと待て!


思いもよらない母さんの言葉に、頭がパニックを起こす。


恋?!


いや、よく考えたら、今まで誰かと知り合って、こんなに嬉しくて仕方なかった事は無かった。

学生時代、友人は多い方だったけど、その時とは違う感情があるのにも気がつく。


え…、嘘だろ?


初めてヘリオの顔を見た時に見惚れたのは確かだし、普段だったら、あんな勢いに任せて連絡先の交換なんかしない。

頭の中で自問自答をしている俺を見て、母さんはクスクス笑っている。


「初恋ねぇ♪」

「や、やめてよ母さん!」

「可愛い息子が初めての恋に狼狽えてるんだもの♪可愛すぎて仕方ないわよ」


俺は「ゔ~」っと唸る。

顔は熱いままだ。


「そんな顔を真っ赤にして睨まれても、可愛いだけよ?」

「もうっ!やめてよ!」


俺の反応に母さんは、大笑い。

俺はいたたまれなくなって、母さんの洗濯物の入ったカバンを掴んで、「ま、また来週くるからね!」と言い放ち、そそくさとその場から逃げるように立ち去った。

マンションに戻ると、座椅子に座り、背もたれに背を預け天井を見上げる。


「恋…か…」


スーパーでの出来事を思い出す。

きちんと顔を見てお礼を言いたくて、仕事帰りにその後ろ姿を探した1週間。

そして今日。

これが本当に恋なら、一目惚れ…という事になるんだろうか?

俺は腕で目を覆う。

確かに、1週間どんな人だろうと思いを馳せていた。

今日、直接顔を見てお礼を言って目的を果たしても、ずっと相手のことを考えてる。

もっと、相手を知りたいと言う欲求に駆られている。


「マジかぁ……」


どうしよう。

この気持ち、どう収めたらいいんだろう。

初めての感情に戸惑う。

先週と同じ時間に行けば、スーパーでまた会えるかな?

そう思い、時計を見ると帰宅してから結構な時間が経っていた。

そろそろ、先週家を出た時間になる。


「行こう」


俺は意を決した。

自分の気持ちを確かめるために。

会えるかどうかは分からないけど。

財布の入ったバックにエコバックを突っ込み、俺はスーパーへと向かった。

とりあえず、夕飯の献立を決めよう。

スーパーに着いた俺は、惣菜コーナーへと足を運ぶ。

たしか、今日は揚げ物が安かったはずだ。

安売りになっているメンチカツを見つけ、カゴに入れる。

メインを決めたあとは簡単だ。

キャベツと味噌汁の具材を揃えるために野菜コーナーへと移動をする。

その途中で、足りない調味料を思い出し、それをカゴに入れ、目的地へ。

そして、見つけた。あの後ろ姿。

俺は深呼吸をして、その後ろ姿に近寄った。


「ヘリオ!」

「お、あんたか。また会ったな」


向けられた笑顔に、心臓が爆発するんじゃないかと思うぐらいバクバクと音を立てる。

もー!母さんが変なこと言うから、変に意識してる気がする!


「ヘリオはいつもこの時間に買い物に来るのか?」

「あぁ、だいたいはな」

「そっか。じゃあ、普段は時間が合わないなぁ」

「?」


「何故だ?」と言う顔をされ、自分の言った言葉に「しまった!」と慌てる。


「いや、先週の人参の件で、お礼が言いたくて、ずっと仕事帰りにヘリオのこと探してたから」

「あー、そうだったのか」


「気にしなくてよかったのに」と苦笑するヘリオ。

良かった。なんとかごまかせた。


「あんた、仕事は何をしてるんだ?」

「車の整備士をしてるんだ。前は隣町のこっち寄りの所に住んでてさ。今でも原付で通ってるんだ」

「ほう」と、感心した顔をする。

「もし、車とかバイクの事で困ったことがあったら、連絡してくれればなんとか出来るよ」

「それは頼もしいな」


「ふっ」と微笑むヘリオ。

うわ~、やばい。

マジで心臓がやばい。

俺はなんとか平静を装いながら、「へへっ」と笑顔を返す。

そして、2分の1カットのキャベツに手を伸ばすと、「待て」とヘリオに静止された。


「そっちより、こっちのキャベツの方がいいぞ」

「ありがとう!」

「今日は何を買うんだ?」

「えーっと、大根と人参と、あとは油揚げかな」


俺が答えると、ヘリオは野菜を選んでカゴに入れてくれた。


「ありがとう!」

「あぁ。…あんた、料理するんだろう?」


カゴの中のメンチカツを見たのだろう。不思議そうな顔をするヘリオに、俺は苦笑しながら答えた。


「実はさ。 俺は焼いたり揚げたりする料理がてんでダメでさ。煮たり茹でたりとか、あとは火を使わない料理しか作れないんだ」

「そうか」


得意不得意があるよなと、ヘリオは言った。


「ヘリオは料理作れるのか?」

「あぁ、飯は俺が作ってる。姉さんが料理苦手だからな」

「へぇ~」


先週の感じだと器用そうに見えたけど、それこそ得意不得意ってヤツかな?


「あ、そうだ。次の母さんのお見舞いさ、土曜日に行く予定なんだ」

「そうか」

「父さんが単身赴任から一時帰宅するから、父さんも一緒に買いに来るかも」

「花は今日と同じで良いのか?」

「うん!時間は午後1時ぐらいになると思う」

「分かった」

そんな会話をしながら会計を済ませてスーパーを出た。

「じゃあまたな」

「うん!またな!」


それぞれの家へと向かい、歩き出す。

少し進んだところで、俺はヘリオの方を振り返る。

荷物を持って歩く後ろ姿。


あぁ、行ってしまう…


急激に寂しさに襲われた。


やっぱり、母さんの言う通りなのかな…


学生時代に恋人は居たが、別れる時にこんな寂しさは感じた事がなかった。

俺は、寂しさを振り切るように自宅のあるマンションへ全力疾走した。

帰宅し扉を閉めると、扉に寄りかかったままズルズルと座り込んだ。

自覚してしまったら、もう気持ちは止められない。

頭の中はヘリオの事でいっぱいだった。


「参ったな…ははっ」


20歳で初めての恋。

しかも相手は同性だなんて、誰がこんなことを予測できただろう。

この日から、自分の気持ちに振り回される生活が始まったのだった。