絵本『桃太郎が語る 桃太郎』
こどもの日が近くなると金太郎や桃太郎のお話を読み聞かせるお宅もおありでしょう。今回は通常の日本昔話の桃太郎とは一線を画したお薦めの『桃太郎』をご紹介。
キャッチコピー『ぼくは鬼がこわいと思いました。』に引き付けられて手に取りました。
従来の桃太郎といえば強く逞しく暴れまわる鬼を果敢にも退治する日本昔話ですからこのキャッチコピーの意図するものは何か興味深く思ったのです。
「むかしむかしあるところに・・・」で始る従来型の昔話ではなく、「すぅーといきをすいこむと、あまくてやさしい、いいにおい。ぼくは生まれる前、大きな桃の中にいました。すぐ外からは水の音。」で始ります。
桃の甘く柔らかさに包まれた小さな空間に私自身の身が置かれた不思議な感覚になりました。もうその時点で等身大の桃太郎に私自身が成りきっていたのかもしれません。
誕生するこのシーンは桃太郎の足がピーンと伸び元気よく生まれた瞬間で、次のページを捲れば桃太郎の姿がでてくるかと思えば・・・桃太郎の目線で描かれているので姿を見ることはできません。だからこそ桃太郎に気持ちを重ね合わせることができます。
この絵本の魅力はこれまでにない桃太郎の心情を読み取る表現が描かれていること。鬼退治に出かけるときに受取るきび団子。おじいさんとおばあさんの心配そうでどこか悲しそうなさびしそうな表情に、ぐっと心を揺すぶられる文章が付け加えられています。
「ぼくの心はさみしさがどしゃぶりに・・・」
小学校で学ぶ主人公の気持ちになって考えてみましょうというような視点発想的学びが随所に表現されています。
桃太郎の最大の見せ場である鬼退治の場面では、桃太郎が緊張し身体がこわばっていく様子、緊張して身体が震え動かない、仲間の犬・猿・雉の勇敢さに気持ちを奮い立たせ立ち向かっていくことが人間らしさを感じさせ、最初から勇敢なヒーローではないことに子供達は手汗握りながら真剣な表情で見聞きしてくれます。
おそらく桃太郎の姿を自分自身に重ね合わせ感情移入し共感できるところがあるからでしょう。そして一人の子がこういいました。「ぼくは泣き虫って言われるけれど、桃太郎みたいに強くなれるかな?」読み終えると同時に感じたことを想いにすることができる昔話って本物かもしれないそう思うのでした。
巻末に『キミが桃太郎なら、どんな桃太郎?』と問いがあります。
どんな桃太郎があってもいいんだよ。人生の主人公は君なんだからと言われている様で子供達の肯定感を育むことができる絵本です。
またそれだけでなく、『他の登場人物のお話も想像してみよう』というページもあり、それこそ今の時代に欠けている相手を思いやることを気付かせて育むことができると感じています。また自由な発想で想像してごらんという新たな展開へと誘う新感覚の優れた作品です。一読されてはいかがでしょうか。
今のコロナ禍で直接的にレッスンができない生徒さん達がおられます。また行事育の食に関することや実際に食材を扱う取組みができないことも歯痒く、申し訳ないという思いが募り自分自身の微力さに何をどうすべきか考える日々です。しかし今最も大変な思いをされている医療従事者やコロナ対応に追われる方々はそんなことを考える余裕も無く日々どうにかこなされているのではないでしょうか。その方々に対する思いが無ければ今の状況は更に続くことと思います。変異型が猛威をふるう中、今一度私達がこの絵本の桃太郎のように自分がすべきことを明確にし対処すべきなのではないでしょうか。
『まくとぅそーけー、なんくるないさ』・・・正しい行動をしておきなさい、するとあるべき姿になるものです。挫けずに正しい道や対応をとる事によりいつかきっと元の日常が戻ってくると信じています。