科学を無視した韓国メディアの偏向・虚偽報道
当ブログでも既報のとおり、福島第一原発処理水の海洋放出決定をめぐって、韓国では驚くような反対運動が巻き起こっている。ソウルの日本大使館前の歩道で坐り込みの抗議活動を行なっていた学生団体は、女子学生を含めて32人がその場で髪の毛を下ろして丸刈りにするという蛮行を演じてみせた。世間の注目を集めるためだけの無益なパフォーマンスに過ぎず、本人たちはどれだけ真剣かは知らないが、彼らの行為には大学生らしい知性も教養も感じられない。韓国の同世代の若者に聞いて見ても、そんな抗議活動があったことさえ知らず、髪の毛を下ろす行為にどういう意味をあるのかも理解できないということだった。要するに日本大使館周辺では騒ぎになっても、世間には何のインパクトも残していないのだ。
それにしても許せないのは、そうした彼らの行為を愚かだと教え諭す大人はおらず、学生たちの坐り込み現場に声援を送りにきた与党政治家を含めて、韓国メディアもそうした行為を無批判に許容し、むしろ当然のこととして報じていることである。韓国メディアも韓国政界も、慰安婦や徴用工などの次に、日本を存分に攻撃できる材料ができたことを喜び、自分たちの政治目的は隠して、真実を曲げて、嘘の情報ばかりを流し続けている。
<汚染水と処理水の区別もできない韓国メディア>
そもそも韓国マスコミは「汚染水」と「処理水」の区別について、自分たちで科学的に検証してみることもなく、韓国政府が「汚染水」と称しているのでそれに従わなければいけないという「大本営発表」式の報道に何の疑いも抱かず、むしろ専門家が「処理水」という言葉を使っただけで、日本政府の肩を持ち、「親日偏向している」と断罪するのである。
東京電力と経済産業省は、福島原発事故以来、その廃炉と処理水問題に関する専門家の議論と検討の過程を議事録の形で透明に公開し続けている。韓国メディアは、日本語の資料ということで、その存在自体を無視しているのであろうが、真実を報道するというジャーナリストの姿勢なら、取材対象が過去に何をどう発表しているか、その資料の原本・原典まで調べるのは当たり前のことである。
そうした基本的な取材姿勢がないだけでなく、原子力や放射性物質について基本的な知識がないまま記事にしているとしか思えないような報道が蔓延している。まさに新聞は、その国の民度を映す鏡である。
以下の中央日報の記事をご覧いただきたい。
「日本産水産物輸入国のうち唯一、放射能数値が1ベクレル以上出ても輸入を禁止するというのが食品医薬品安全処の説明だ。(中略)キム・ウソン釜山食品医薬品安全処の試験分析センター長は「日本産水産物の輸入を禁止した54カ国のうち韓国だけ唯一、放射能数値が1ベクレル以上出ればプルトニウムなど17の追加核種検査証明書を要求している」と強調した。」
<中央日報4/20「日本産水産物に韓国が最も厳しく1ベクレルでも輸入禁止」>
ベクレルとは、1秒間に原子が何個崩壊するかの個数を表わす単位で、たとえば1秒間に1つの原子が崩壊し1個の放射線を出したとしたら1ベクレルBqという。ただし放射性物質にはトリチウムのように紙一枚も透過できないような微弱なベータβ線しか出さないものもあれば、人体に有害なアルファα線を出すプルトニウムもあり、その危険性を同列に論じるのは間違いである。そして日本の河川や降雨の水には、1リットルあたり平均で1ベクレルのトリチウムが含まれている。彼らが言うように「1ベクレル以上の放射能数値が出たら」という前提ですべてを禁止していたら、自分たちが口にする食品も、暮らせる空間も全てがなくなるのである。
つまり、この記事のニュースソースとなっている韓国の「食品医薬品安全処」がトリチウムや放射性物質について本当に理解しているのか疑わしく、この原稿を書いた記者本人と原稿をチェックするデスク・編集者にもそうした科学知識がまったくないまま書かれ、出稿されたものであることは明らかだ。いわばフェークニュースの類いである。
<トリチウムは発がん性物質だって?何を根拠に>
次の「中央日報」記事は「トリチウムは発がん物質だ」と断定する。
「問題はトリチウムと呼ばれる三重水素だ。トリチウムは現技術では処理水から分離が不可能なためだ。特にトリチウムは発がん性物質として知られており、福島汚染水放流をめぐる論争で最大の争点に浮上した。」
<中央日報20/10/20「日本『福島汚染水放流にどうしてこれほど過敏に反応するか』…韓国月城原発にも言及」>
そこまで言うなら、トリチウムによって癌が発生した患者の事例を具体的に提示してほしい。トリチウムで癌が発生していたとしたら、自然界には水道水でも河川や雨の中にも必ずトリチウムが存在し、1945年から1984年まで米国や中国などによる原爆実験で大量のトリチウムが地球上にばらまかれたのだから、その被害が必ずどこかで発生しているはずだ。しかし、トリチウムが原因だという癌の症例は1件も報告されていないのである。
ただし、日本放射線影響学会放射線災害対応委員会が2019年11月にまとめた「トリチウムによる健康影響」という資料によると、時計の文字盤にトリチウムを含む夜光塗料を使っていた時計製造施設で長年にわたって口からトリチウムを摂取し、死亡した事例が1960年代に欧州で2件あるという。その2件の死亡事故での推定被ばく線量は、「一つが7.4年で3000~6000ミリシーベルト、もう一つが3年で1万~2万ミリシーベルトだった。一般的にがんリスクが出てくるとされる最低の被ばく量「しきい値」は100ミリシーベルトだから、この2つの事例の被ばく量はしきい値の30~200倍となる。福島第1原発のトリチウム水とは桁が全く違うという。
一方で、その資料には、トリチウム水をマウス約550匹に飲ませ続けた実験結果も載っている。それによるとマウスが1リットル当たり1.4億ベクレルという高濃度のトリチウム水を生涯飲み続けても、がんの発症率は自然発症率の範囲内に収まっていたという。
「大気圏内の核実験や水爆実験では、1945~84年の39年間に1.86垓(がい)(垓=兆の1億倍)ベクレルが地球上に拡散されたと推定されており、当時は地球上のトリチウムの量が今よりも桁違いに多かったという。『それでも世界中の多くの人たちががんで亡くなったと科学的に証明された事実はない、ということは、ヒトは遺伝子を修復し生きているということ』と茨城大学理学部長田内広教授(放射線生物学)は語る。」
<福島民友20/02/15「風評の深層・トリチウムとは、修復されるDNA 被曝量考慮」>
<「専門家の言い分は信じない」漁民の発言を垂れ流す>
ハンギョレ新聞は漁船を出して海上デモを行なって抗議する韓国漁民の言い分を次のように伝えている。
<日本の原発汚染水の海洋放出決定に対して「水産産業者は水産業の存立を脅かす重大な侵害と認識している」と明らかにした。特に「影響がないという専門家たちの公言にもかかわらず、国民は原発汚染水の国内流入を憂慮して」おり、「日本の海洋放出決定があっただけでもすでに水産物の消費が萎縮している」ということだ。彼らは「日本原発汚染水の国内流入の有無と関係なく、水産物消費の急減、漁村観光の忌避などで水産業界の被害が今後20~30年間は雪だるま式に増えるだろう」と明らかにした。
さらに「トリチウムは人体に影響がほとんどない比較的危険の少ない放射性物質であり、5年以上の長期にわたり海水で薄められ、韓国に流入する可能性はないと国際研究機関と専門家がいくら公言しても、誰が信じられるだろうか」として、日本政府には、一方的な海洋放出決定の即時撤回▽透明な情報公開と科学的検証の受け入れを要求し、韓国政府には、水産物安全管理方案を設けること▽水産業保護対策を設けることを要求した。
<ハンギョレ新聞4/30「韓国の漁業者が同時多発海上デモ…「日本の原発汚染水が水産業の存立を脅かす」>
つまり、トリチウムを含む処理水が、科学的に安全だと日本政府や専門家、IAEAなど国際機関がいくら訴えても、「誰が信じられるか」と最初から聞く耳を持たず、その一方で日本政府には「透明な情報公開」と「科学的検証」を要求するというのだ。日本政府の説明を聞くことを最初から拒否する人たちに、いくら情報を公開したとしても無駄な努力というしかない。海洋放出する処理水にトリチウム以外の放射能核種が含まれていないことを科学的に検証しチェックするのはIAEAの専門家チームであり、そのIAEAが世界の原発や再処理工場から放出される処理水に比べても基準以下で安全だと言っているのである。そうした専門家の言葉を、信じる・信じないは、韓国の人々が好きにすればいいことだ。
ハンギョレ新聞の報道が悪質なのは、「トリチウムは人体に影響がほとんどない比較的危険の少ない放射性物質であり、5年以上の長期にわたり海水で薄められ、韓国に流入する可能性はないと国際研究機関と専門家が公言」しているにもにもかかわらず、「原発汚染水の国内流入を憂慮し」「日本の海洋放出決定があっただけでもすでに水産物の消費が萎縮している」「水産業界の被害が今後20~30年間は雪だるま式に増えるだろう」という水産業者の発言をそのまま伝え、その言い分の信憑性については何の検証もせず、その言い分の裏付け・根拠も何も示していないことだ。これでは風評を煽るためだけの別の意図を持ったフェークニュースだと言われてもしかたないだろう。
<「ロウソク集会」報道や「慰安婦」報道と構造は同じ>
韓国マスコミの繰り返されてきた悪弊は、与野党対立や左右対立など時の政治状況の必要から大衆の耳目を引くために、社会を大きく分断させ、互いに議論を呼ぶようなテーマを見つけたら、なおさら火に油を注ぐように、非理性的であろうが、不合理であろうが、何が何でも議論を大きくし、大衆を煽り、巻き込もうとする。その結果が、曺国(チョグク)法務部長官に不正追及デモ(2019/10)であり、日本政府の半導体素材輸出管理強化に抗議する日本ボイコット運動(2019/8)であり、朴槿恵弾劾につながった「ろうそく革命」(2016/10~2017/3)であり、セウォル号沈没事故の真相解明と朴槿恵政権政権の責任を追及する市民集会(2014/5)、BSE問題で米国産牛肉の輸入再開を決めた李明博政権への抗議集会(2008/6)、米軍装甲車による女子中学生2人轢き殺し事件に対する反米集会(2002/11)など、数え上げれば切りがない。煽るだけ煽っておいて、その結果については何の責任も負わない。
慰安婦問題でも徴用工問題でも、その構造は変わらない。慰安婦被害者だと称する人の証言が真実であるかどうかの検証などどうでもいいのである。
先日も「元慰安婦」だという女性が92歳で亡くなったというニュースが流れた。しかし、彼女が慰安婦になった経緯は、「12歳の時、トラックに乗ってやってきた日本軍兵士が祖父に暴力を振るうのを引き留めようとしていたところ、トラックに乗せられ、日本に連れて行かれた。その後、下関の紡績工場で3年間仕事をしたが、広島に連れて行かれ、慰安婦生活を強いられた」というのである。
<KBS日本語放送5/3「慰安婦被害者1人が死去 生存者は14人に」>
12歳の女の子が日本軍兵士に立ち向かうことなど可能なのか、紡績工場で3年働いた後、なぜ慰安婦になったのか、なぜ広島なのか、そもそも広島にも慰安所があったのか、など疑問は尽きないが、メディアも慰安婦団体もそれらには答えようともしない。
マスコミは、事実はどうでもよく、騒ぎが大きくなればなるほど、メリットがあると考えている。しかし結局、それで被害者本人や社会にどういう成果を残すことができたのか?負の結果しか残していない。
放射性物質について、韓国マスコミが真実を追究して報道すべきは、月城原発からのトリチウムの大量排出問題、そして北朝鮮の原爆開発とそれによる放射能被害と環境破壊の実態を暴くことである。
北朝鮮の核実験場・豊渓里(プンゲリ)で核開発に携わった研究者の悲惨な人体被害や放射能に汚染された河川など環境破壊の実態については、かつて当ブログ<「北朝鮮独裁体制の延命に手を貸す韓国」2018/1/23>でも論じたことがある。
<デイリー新潮2017/12/18「脱北女性が見た北朝鮮核実験場「豊渓里」死の光景 研究員だった夫は歯がすべて抜け落ち…」>)
韓国マスコミは、まず自分たちの足元の朝鮮半島での放射能被害の実態を暴き、北朝鮮の核廃絶と放射能被害の根絶に死に物狂いの努力を傾けるべきで、それこそが人類の歴史に対する責務であるはずだ。
<「トリチウムの性質等について(案)」多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会事務局作成>