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「公正遺言証書でも無効になるの?」

2023.09.14 22:20

・普通「公正遺言証書なら確実だ」とは多くの人の意図するところでしょう。ところが、公正証書遺言でも、無効となる事例は、少なく無いと言います。

以前遺言書の有効・無効についてお話ししましたが、ここでは、無効な公正証書について、もう少しお話しします。※1


過去の公正証書作成(に限らず)で無効となった判例の多くには、公正証書作成時の「遺言能力の有無」が裁判判決上の争点となっていることが多いようです。

公正証書作成時に、認知症・アルツハイマー・脳委縮等、物忘れしやすい病気になっている人が当事者であるときは、その多くにおいて公正証書でも無効となりやすいという結果は、容易にうなずけるところです。

本来公証人は、公証人法※2により、いろいろ規制がされているのですが、無効になった公正証書が、国家賠償の対象ともなっているものがあります。つまり、公正証書作成時の公証人の注意欠如が原因となっているものが散見できます。

例えば、下記理由。

・証人の立ち合いなしで作成した➨立会い証人2人が必要
・証人になれない人を証人にして作成した➨推定相続人は証人になれない=証人の身分関係を確認していない
・遺言者の意思能力の有無の確認を怠って作成した➨遺言者の医師の健康診断書などの提出をもって、遺言者の意思能力の有効性判断が必要

又、中には、「遺言公正証書原本に公証人の署名押印がないというのもあります。➨「公正証書遺言確認請求事件」H13(受)398 H16.2.26 最高裁第小法廷 破棄差戻 集民 第213号581頁


これらは当然ながら、裁判を起こされて、国家賠償責任を問われてもいます。

ただ、「立ち合い証人が2人必要」という場合でも、例として、「証人が一人は立ち会っているがもう一人は一時的にその場にいなかったとしても、その後公証人が被相続人や2人の証人を交えて、その時のことを再確認して説明したような場合に違法性がない」として、その遺言が有効であったと認められるという裁判例もあります。



話は戻しますが、上述の理由についていえば、これらは公証人の注意欠如だったとだけで済ませられると言えるでしょうか。

例えば「医師から遺言者に痴ほう症などがあるが、その口述に際して問題がない」と言われていても、意思能力に対しての診断書がない以上、公証人側も、その遺言能力は、疑ってかかるべきであるということです。

また、診断書があっても、公正証書作成直時の意思能力に変化があるかもしれません。そこも注意が必要だということです。その時点での意思能力を診断書なども提出させたうえでの作成なら、公証人の過失が問われにくいはずでしょう。

但し、公証人側も、公証人法施行規則13条※3において、法律行為能力に疑義があって、説明を求める場合でも、積極的に要請まで求めないという法解釈がなされており、その点については、事件内容により、公証人側の過失か無過失かは、判断しにくいこともあるというわけです。
これはどうも、理解に苦しむところではあります。


やはり、少しでも過失を問われないためにも、やれることは徹底しておくべきであるのではないでしょうか。


※1遺言相続の話11「遺言書の有効・無効~判例読書のすすめ2」

2020.03.08 23:33

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※2 公証人法
第三条 公証人ハ正当ノ理由アルニ非サレハ嘱託ヲ拒ムコトヲ得ス

※3 公証人法施行規則
第十三条 公証人は、法律行為につき証書を作成し、又は認証を与える場合に、その法律行為が有効であるかどうか、当事者が相当の考慮をしたかどうか又はその法律行為をする能力があるかどうかについて疑があるときは、関係人に注意をし、且つ、その者に必要な説明をさせなければならない。