Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Baby教室シオ

偉人『野口英世』

2021.05.07 00:00

小学生の頃学校の図書館の偉人伝コーナーはとても心地良い場所だった。縦長の図書館は入り口から入るとテーブルや椅子が置かれ、放課後のざわざわとした生徒で溢れるエリアを通り抜け、一番奥の静まり返った場所の雰囲気と色褪せた背表紙の立ち並ぶ一角で頁の端がキャメル色に褪せた本からの独特な香りが放つ偉人伝を手に脚立に座り読むことが妙に好きだった。

『偉人伝 野口英世』は書士の先生のお薦めで手にしたような記憶がある。乳児の頃の事故で左手に生涯を負うも世界的な活躍をした素晴らしい人物としての印象が強烈に残ったのである。

彼は逆境に立ち向かい寝る間を惜しんで研究に没頭し、北里柴三郎伝染病研究やアメリカロックフェラー研究所に勤め世界的成功を修め黄熱病の研究をした細菌学者である。

私にとり彼は病に苦しむ人々のために尽力したヒーローであったが、ある日その理想像が崩れたのである。家で見ることの無い女性週刊誌にゴシップとして英世のことが書かれていたのである。酒におぼれ、女遊びに興じ、借金を踏み倒すなどの『英世の放蕩』を知り言葉を失うという経験をしたのもこのときだ。それから彼に対する尊敬の念は消え去り長いこと彼を封印した。

彼に再度注目したのは2005,6年頃の郵便局で見掛けた福島猪苗代町の『母から子への手紙』公募である。英世の母シカさんの手紙について読み進めていくうちに彼の本来の姿とはなんだろうかと小学生で彼に掛けた色眼鏡を外し調べ始めたのである。

1歳頃の囲炉裏に落ちて大火傷を負ったことは母シカにとり生涯の悔いとなった。左手5本指が火傷で癒着しその不自由な手で農業はできない、ならば学問で身を立てさせようと母は考えたのである。母は身を粉にして働き学費を稼いだ。そしてその想いに応えるかのように英世は学業に打ち込んで、小学校高学年で発表した作文に心打たれた教師や友人らの支えで左手の手術費が集まり左手は物を掴むことができるようになった。彼はそのことがきっかけで医学の道を志すことになるも左手での医師としての活動は困難と判断し医師ではなく医学者としての道を選んだのである。それが世界的な細菌学者としての旅立ちである。

ここまでは彼の名声轟く内容であるが彼の個人的生活に目を向けるとだらしなさに尽きる。彼が我が子なら頭を抱えてしまうのは間違いない。例えば恩師から受取ったお金の殆どを酒、芸者遊び、ギャンブルに使い、アメリカ留学に際し帰国後は結婚する婚約者の実家から出た今のレートに換算すると1000万を一晩で使ってしまったのである。

彼を語るときに父の話しが出てこない。なぜなら彼の父は酒飲みで農作業よりも外で働く道を選び家業は英世の母が担っていたからである。とはいえ子供のことを思わない薄情な父ではなかったが、英世の要領の良さと酒飲みであったことは父から譲り受けたものであろう。

1869年医者になるために上京した英世は医術開業試験を受験する。その試験に合格するにはに大凡10年かかるといわれていたが1年余りで合格した。そして彼の圧倒的な集中力は並外れたものでアメリカでの研究仲間が舌を巻くほどであった。では彼のその集中力はどのように作られたのであろうか。

英世のように集中すべきときにギアトップに入れることができるようにするにはどうしたらいいのか・・・子を持つ親にとっては興味深いテーマだ。

案外特別なことではなく物事に集中するということは、誰しもやりたいことが見つかれば没頭することができるのである。そして夢中になることを乳児の頃から1つでも多くできる環境を先ず与え、常に子供にやりたいことを見つけさせることが先決である。

子供のやりたいことは何なのかを見極めるためには何でもやらせてみることに尽きるが、そのスタートは日常のことからである。時に習い事にその選択肢をおく場合があるがそれは4歳以降の選択にしたほうが良い。先ずは日常の生活で基礎を築くべきことはたくさんあり、その中から子供の関心や興味を引くものは何かを観察する。そしてその精度を徐々にハイレベルにすることで思考と実践で集中力をつける方向に進めさせるのだ。

英世の集中力を伸ばしたこと・・・それは『相撲』だと考えている。彼は左手火傷がもとでいじめにあっていたがそのいじめの悔しさを発散したのは相撲である。不自由な左手を上手く使いおっつけという技で相手を負かしすこぶる強かったそうだ。

このおっつけと言う技は相手の差し手を封じるための技で決め手にならないが、相手の重心を浮き上がらせて勝負に持ち込む技だそうだ。相手の動きを身ながら瞬時に対応することで集中力と負けん気の強さが身に付いたのであろう。一つの事柄に注意し集中して物事に取組むことが集中力であるのだから、まさしく英世は相撲でそのことを磨いていった。

さて現代の子供たちの集中力は残念ながら低下している状況がある。大きな要因が外的刺激で特にスマートフォンやデジタル機器による映像が関係していると研究結果でも明らかになっている。

幼児の集中力は年齢+1分といわれ2歳なら3分、5歳なら6分、小学校低学年なら15分、高学年で25分、中学生で30分、高校生で45分、大人で90分だ。幼児のわずかな集中時間を自分で考えることにあてることができず、安易に刺激の多い動画に慣らされていることは憂えるべき問題だ。子共の集中力を身につけさせたければアナログな方法で手を動かすことからはじめるべきである。

先日新聞記事で辞書で言葉を調べたときとスマートフォンで検索したときの記憶の定着を調べた結果が記事になっていたが、明らかに辞書での字引が記憶定着になるそうだ。このことからやはり時代は変遷しようともアナログで進めなければならないものがあると再認識した。それは私のレジメもその類であろう。


野口英世・・・親が付けた名前は清作。彼は文豪坪内逍遥が書いた『当世書生気質』に描かれている野々口清作と言う田舎の医学生が酒と女に溺れるという内容に慌てふためき、あの手この手を尽くし改名したのが世界の英傑になれの『英世』である。言うまでもなくその名の通りになったのであるが、酒と芸者遊びにもトップギアで望んだのであるから彼の集中力は本物であったのかもしれない。しかし人生に於いてはギアトップで走ることだけが幸せではない、時にはハンドルの遊びだって必要だ。臨機応変に対応し集中すべきときにギアチェンジすることを教えることも親の役目なのかもしれない。