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眉にふれ淡海にふれ春の雪

2018.05.09 07:53

https://ameblo.jp/grace1225/entry-11981663029.html  【『春の雪』にみる魔性】 より

三島由紀夫との出会いは、いつだったでしょうか。小学校の高学年だったか、中学生だったか。「金閣寺」だったか、「仮面の告白」だったか、「近代能楽集」だったか。

三島を知ったごく初期に、三島の自伝的小説「仮面の告白」を読んだせいか、彼の描く作中人物は彼自身に見えて仕方ありません。

自意識が漏出し、自己愛の塊のような、孤独で救われない魂。「春の雪」の松枝清顕は、まさにそんな人物ですね。

松枝清顕の自意識は、幼く我儘な、どうしようもない子ども。

プライドを傷つけられたと拗ね、尊大な自尊心を優先するあまり、大切なものをみすみす手放す、愚かな子ども。

手が届かなくなって初めて、聡子に執着する清顕。

執着と独占欲を、愛情と混同し、ついぞ満たされる事のない魂。

こんな子どもを何故、聡子は深く愛したのか?それが恋というものでしょうか。

松枝清顕の肥大した自意識には、息を呑むばかりです。

呆れるほど幼く、愚かで、尊大で、野蛮な子ども。松枝清顕は聡子に執着し始めるや、「聡子を愛している」と臆面もなく言い出します。

放置していた玩具を、他の人が欲しがって初めて、惜しむ子ども。

彼は「欲しくて求めているのではない」と推測しています。手に入らないと解っているから、安心して求めるのではないか…と。

実際に手に入ったら、戸惑い、持て余し、手放そうとするのではないかしら。

「子どもほど、残酷な生き物はいない」と言います。松枝清顕はまさに、そのような人間です。明日海りおは、そんなどうしようもない子どもを、悪魔的な魅力を放つ人物として具現化。三島由紀夫の描く人物は往々にして、美しくて残酷で、貪欲に隷属や歓心を求めながら、己は愛を知りません。

傲慢で愚かな子ども。救いのない魂。でも、その愚かさゆえに、共感できました。

私もまた、愚かで傲慢な子どもなので…(歳は食ってますが)

三島由紀夫の精神世界に触れるたび、「一体、何を求めているんだろう」と思ってきました。

今はなんとなく、彼は「どうすればいいか」解ってたんじゃないかな…と思います。

解っていたけれど、行動に移せなかった、あるいは行動に移したくなかったのか…と。

三島は救いなど求めていなかったのではないか、と思います。

救いようのない魂の方が、悲劇的で美しいでしょう?

三島由紀夫は終生、美を崇めた人だったと思います。

美輪明宏への崇拝しかり、自らの肉体改造しかり。

美への憧憬と尊崇は、三島の精神世界で重要な柱でした。

「仮面の告白」では、幼児期から美へのこだわりを強く抱いていた事が見て取れます。

…であるならば、明日海りおが彼の作品を演じる事は、三島の魂への何よりの慰撫になるかと存知ます。

これほどまでに妖しく美しく、艶かしいのに清潔な、純粋無垢で残酷な松枝清顕は存在しえないでしょうから。

三島由紀夫に巣食う「魔」を、三島自身はむしろ喜んで迎え入れていたように思います。

三島が愛でる「頽廃的な美」を体現できる人物は、そうはいないと思います。

その稀有な存在が、明日海りお…なんですね。

演じるにあたっての人物造形は、言うに及ばず。

我儘で愚劣なのに、どこまでも気品に満ち、愛らしさを湛え、そのエゴイズムすら魅力に変換してしまう。

自滅していく姿すら、愛おしく美しい。

悪魔に魅入られ、愛された松枝清顕は、人間からも愛されます。

自らも魔性を発動し、周囲を巻き込みながら、煉獄へと身を沈めます。

奇しくも、明日海りお本人もまた、魔性を秘めています。

魔と魔が呼び合ったのでしょうか。

これは確かに当分、他のものは観れません。

恐ろしい作品、恐ろしい明日海りお……。

蠱惑的とは、明日海りお(が演じる人物…と明日海本人)のことを指すのでしょう。

咲妃みゆ演じるヒロイン聡子は、清顕より年上に見えますね。

歌唱力、演技力ともに素晴らしい。

丸顔系の優しい顔立ち、背丈や骨格など、明日海さんとのバランスがとても良くて、寄り添う姿が絵になります。

デュエットダンスは幻想的で、夢のように儚く、美しい。

明日海さんと一緒に花組へ異動してほしかった…そして、コンビを組んでほしかった…史上最強のトップコンビが生まれたでしょうに。

返すがえすも残念です。

咲妃さんの舞台(映像を含む)に触れれば触れるほど、明日海さんとの縁を知れば知るほど、惜しまずにはいられません。

未練がましいと言われようが、それほどの逸材ということ。

これもまた、私なりの称賛です。

親友・本多役の珠城りょうは、明日海りおと並んで、ひけを取らない存在感。

理知的な本多は、法や社会的な枷を越える事はありません。

破滅的な清顕を危惧しつつ、感情と欲望に身を任せて突っ走る清顕に、どこか憧れを抱いています。

いっそ清顕より複雑な内面を秘めた本多を、冷静に熱演していると思います。

すらりと立ち姿が美しい、正統派男役ですね。

タカスペでの女装姿も綺麗でした。

宮家の子息役の鳳月杏は、気品ある青年皇族を好演。

誠実そうだし、清顕より明らかにお薦め物件なのに。

花組へ来られたら、月組時代からの昔馴染みとして、安定した実力派中堅として、明日海さんを支えてくれるものと期待しています。