むずかしい年ごろ
「ゴーゴリ―、ブルガーコフの怪奇・幻想の系譜を継ぎながら、現代の恐怖を斬新に描き、ロシアを震撼させた女性作家登場!」というコピーと、美しく不気味なおおたはるかさんの装画に魅かれて購入。我ながら、河出書房新社の担当者の手のひらに転がされてる感半端ない本の選び方……。
『むずかしい年ごろ』はアンナ・スタロビネツが26歳の時出版した処女作品集で、この一冊により「ロシアのホラー作家」という地位を築いたそう。が、内容がホラーっぽいかというとそうでもなくて、不条理・幻想小説とSFのハイブリットといった感じ。物語自体は、発想も設定も展開も結末も、どこか既視感があるような、端的に言ってしまうと割とフツーなのだけど、読了後に残る、絶望感とか、救いのなさとか、不穏さとか、生理的に感じる嫌な気持ち、それがなんとも秀逸で、恐らく彼女がホラー作家と呼ばれる所以でもあるのではないでしょうか。
表題作の『むずかしい年ごろ』は、蟻に侵された双子の兄の話。よくもまあ、こんなひどいこと考えついたなあ、と少しクスッとしてしまうぐらいの残酷物語で、アリンコが好きになること間違いなしの作品。女王蟻の気高さが、思春期特有の全能感(それゆえのイタさというかダサさ)と相まって、リアリティのかけらもないはずの少年をリアリスティックな存在にしているところに非凡な才能を感じた。ベルナール・ウエルベルの本と並べて置いたら、最高にオシャレなはず、なんて(誰か共感して!)。面白いけど、若干三流ホラー感も否めないなあ、なんて思いながら次の作品『生者たち』を読んで、衝撃を受けた。本当にこちらも多くの作家が書いたようなディストピア的な未来小説で、『革命』という名の単なる逆恨みの末の無差別殺戮を生き延びた者たちが、殺されてしまった愛する人たちをアンドロイドとして甦らせるというあらすじなのだけど、最後のオチを含め決して新しさはない。が、なんだろう、全体を支配するような残酷さと、一切の希望も許さないような絶望、だからこそ際立つ美しい情景。(ああ、でもモスクワの地下鉄とか、カリアティードとか、共産党時代の無機質な建物とか、考えてみると反則に近いような最高なプロップも使ってるんだけどね。)『家族』は、フランシス・ベーコンの作画でデヴィド・リンチがアニメ作ったらこんな作品になりそうな不条理小説。なんて書いていると、この作家はきっと私たちの世代の本読みが大好きなもの、カフカとか、フィリップ・K・ディックとか、ブレード・ランナーとか、村上春樹とかのエッセンスを上手く抽出して、自分の作品に落とし込むことができるんだろうなと。なので、上記の固有名詞に反応する人は、彼女の作品の魅力に到底あがらえない気もしてしまう。
ご本人もご自身のことを「リミックス作家」と呼んでいるとのことだけど、現在38歳ということで、きっと作家独自の個性も円熟し始めているはず。もうこの作家の作品は間違っても全部読むので早く翻訳されることを毎日祈ろうと思う。