【THE SHOKUNIN】どんな仕事も図面を見て、どこまでできるか、徹底して考えます
【椅子ソファ職人】石毛辰彦さん(44歳)
リフォームの営業担当者にとって、熟練の職人さんは大切なパートナー。今回は特注椅子やソファの製造・張替えの職人で社長でもある石毛辰彦さんを紹介する。
やり直しなし!バチっとソファをはめこむ
「一度納品したら、戻ってこないこと」。仕事をする上で石毛さんが大切にしていることだ。
独立して15年。石毛さんの会社のミスで、納品した製品がやり直しになったことは一度もない。
「出来上がったソファを現地で設置する時、バチっと入ると気持ちがいい。それに自分達のミスでやり直しになったら、お金はもらえません。それだけはなくしたいと思っています」と石毛さんは話す。
▲「羊羹の切り口のイメージでソファを張る」という石毛さん。クッションを並べた時、合わせた部分の縫い目が見えず、直角に近い角度になるのが理想
厳しく仕込まれた修行時代
なんでも請け負える土台に
石毛さんの仕事の現場は様々だ。一番多いのはカフェやカラオケボックスなどの店舗。ホテルや個人宅、オフィス、怪我防止に柔道場の壁に布団張りをすることもある。
「どんな仕事もすぐ無理とは言いません。図面を見て、どこまでできるか徹底して考えます」
以前手掛けたクラブの内装は難しかった。部屋のコーナーはカーブを帯びたR壁。壁に沿ってソファを並べるが、背もたれの部分が波状のデザインになっていて、1つ1つベンチの高さが違う。しかもヒダ取りだった。
「昔の職人さんなら断るような仕事も、何でもやりたい。自分達ができると思えることはなんでも挑戦したいんです」
こうしたリクエストにも応えられる技術力は、修行時代に厳しく教え込まれた。先輩の職人はもちろんだが、工場長がさらに厳しく、その人のチェックを通らないと納品できなかった。
「今、それをやっていたら仕事が回らなくなりますね(笑)。社員が製作し、社長の自分がチェックし、80点を目安として合格点としています」
謙遜して「80点」と石毛さんは言うが、同社の製品は高い品質を誇っている。今は打ち合わせなど、社長業がメインとなっている石毛さん。
「今後ソファに関係する内装の技術も社員に習得してもらい、仕事の幅を広げていくことも考えています」と話している。
▲工房には、縫製の仕事を長年担当している女性職人の姿も
▲インテリアイシゲの他に、木枠だけを制作する会社も運営している石毛さん
石毛さんの道具
①タッカー
②定規
③革を切る鋏。全長280mmで厚刃のものを使用。落としても狂いが少ないため
④マグネットハンマー。タッカーが入らない所に釘を打ち込むのに使用
⑤タッカーの針を取ったり、生地を剥がしたりするのに使う道具。通称「ハガシ」
⑥ソファ生地を差し込む時に使うヘラ。仕上げや細かい微調整をする時にはナイフを使っている
⑦千枚通し
⑧タッカーの針を取るニッパー
▲タッカーの先も細かな部分に打ち込めるように、研磨機で削って先を細くしている
▲ナイフは生地が切れないように、ギザギザの部分を研磨。厚みも薄く削っている
推薦の言葉
安藤室内装飾店 代表取締役 安藤一朗さん
石毛さんは小さい仕事でも、ちょっとしたミスも許さず完璧に仕上げる。どんな仕事でも手抜きをしないところがすごいですね。
あと、石毛さんは仕事仲間が多い。ソファ以外の内装全般の仕事を石毛さんに依頼する業者さんもいます。本当に信頼されていないと、取引先からそこまで頼まれないと思います。クロス職人の自分は石毛さんから仕事を依頼されたり、自分も石毛さんに仕事をお願いする間柄です。若い頃、がむしゃらに修行していた経験は自分も同じ。同じ職人として、仕事に対する姿勢は通じるものがあると感じています。
石毛さん、見た目はちょっと強面ですが(笑)、実際はとても真面目な方です。現場にいると、社長なのに掃除をしたり、ゴミ出しを手伝ってくれたりもします。
どんな現場でも安心して任せられる、素晴らしい職人さんであり、経営者だと思います。
石毛さんからリフォーム営業担当者にメッセージ
「こうしてもらうと嬉しいなぁ」
今、お付き合いのある営業さんは、親身な方ばかりで、いつも助かっています。
ほとんどお願いすることはないのですが、あるとしたら、「寸法をちゃんと測ってほしい」ということくらいでしょうか。難しい案件なら、自分が寸法を取りに行きます。もちろんその分の費用を計上してもらえたら嬉しいです。
リフォマガ2020年10月号掲載