【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
ジョージ・ベンソン『ブリージン』
新刊『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。
そして本連載は、短期集中で毎回アーティスト/作品単位でのテーマを取り上げ、同書からそれにまつわる部分をご紹介していこうというもの。同時に、トミー・リピューマが多くの作品を残したワーナーミュージックのウェブサイト「ワーナーミュージックライフ」(WML)とミュージック・ライフ・クラブ(MLC)と連動した連載として別々のテーマを取り上げ、双方で同時に展開。両方同時に読むことで倍楽しめる!ことを目指しました。前回のマイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』に続き、今回はジョージ・ベンソン『ブリージン』を取り上げます。
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マイケル・フランクスを契約し、彼のワーナー・ブラザーズでのデビュー・アルバム『アート・オブ・ティー』が成功を収めると、ジャズの要素を自らのプロデュース作品に生かすトミーへの評価は、ワーナー・ブラザーズ内で上がっていた。そして、盟友ボブ・クラズナウを通して、トミーのキャリアを決定づけるジョージ・ベンソンと出会うことになる。以下は『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』の本文より。
ジョージ・ベンソン『ブリージン』
ジョージはワーナーでの打ち合わせにマネージャーとともに現われたが、トミーは開口一番、どうしてレコードではヴォーカル曲をやらなかったのか聞いた。その質問にマネージャーは無言だったが、ジョージ本人は「クリード・テイラーが、僕を次のウェス・モンゴメリーにしたいからなんだ」と答えた。ウェス・モンゴメリーは歌わなかった。トミーは「いい曲さえ見つかれば、ぜひともヴォーカル曲を入れたいんだが」と説明した。数年後、ふたりが作ったアルバムが大ヒットになった後で、ジョージはこれがきっかけでトミーに自分の運命を預けたのだと漏らした。そのきっかけとは、「もっと歌ったらどう?」というトミーの最初の言葉だった。
契約が交わされると、早速ふたりはアルバムの曲選びに取り掛かった。トミーはブルーサム時代のガボール・ザボのセッションの、「ブリージン」という耳触りのいい曲を覚えていた。その曲を書いたのはギタリストのボビー・ウーマックで、やはりクリーヴランド出身だった(トミーが学んだ理髪専門学校の出身者で、彼もまた音楽ビジネスに逃げ込んでいた)。その曲は極めてシンプルだったが、一度聴いたらずっと耳から離れないような魅力を持っていた。
もう1曲、トミーが忘れられなかったのがレオン・ラッセルの「マスカレード」だった。「ブルーサムが破綻した後、彼はEМIに移り『カーニー』というアルバムを出したけど」トミーは言う。「この曲はそのアルバムからなんだ。初めて聴いた時にはそれほどいい曲には聴こえなかった。というのも、レオンはグラフィック・イコライザーを通して、電話で話しているかのように歌っていたからね。僕はまだ、そのメロディの素晴らしさに気づいていなかった。ところがちょうどジョージの選曲を始めたころ、誰かから若いサックス・プレイヤーのデモ・テープが届いたんだ──デイヴィッド・サンボーンだった。そして曲はレオン・ラッセルの「マスカレード」。そのデイヴィッドのヴァージョンを聴いて、『このサックス奏者はすごく上手だから早速契約してみようと思うけど、それにしてもこの曲は──どこかで聴いたことがある』。サンボーンのヴァージョンを聴いた時に初めてわかったんだ、この曲の良さがね」
©️ Koh Hasebe / ML Images / Shinko Music
【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁”
第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』
トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語
3,080円 詳しくはこちら
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BOOK・2021.03.03
3/29発売 ジャズやポップスの名伯楽トミー・リピューマ波乱万丈な人生を、ベン・シドランが綴る〜『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』
『トミー・リピューマ・ワークス』
ワーナーミュージック・ジャパン
AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。貴重な写真の数々を掲載したブックレットを収録した、音楽の自叙伝ともいえるCD3枚組45曲収録の楽曲集。
アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。
ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。