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Beats by Dr. Dreのプレジデントが語る、モノ作りと音楽制作の共通点

2016.12.22 12:00

ヘッドフォンやイヤフォンを、ファッションやカルチャーアイコンにまで押し上げたBeats by Dr. Dre(以下、Beats)。そのプレジデントであるルーク・ウッド氏は、ニルヴァーナやソニック・ユースのPRディレクターからはじまり、アメリカのレコードレーベルInterscope Geffen A&Mのチーフ・ストラテジー・オフィサーに、imprint DGC Recordsの代表にと、音楽業界で20年以上のキャリアをもつ大物だ。ウィーザー、オール・アメリカン・リジェクツ、 ライズ・アゲインスト、ヤー・ヤー・ヤーズといったアーティストを世に出してきた辣腕。ミュージシャンとしてSammyというバンドのギタリストで活躍したことでも知られている。

秋に開催された新製品発表の合同プレスカンファレンスの模様を中心に、Beatsが描く世界観とルーク自身の人物像に迫ってみた。

「皆さん、本日はBeats by Dr. Dreの東京インタビューセッションへようこそ」

3組ほどのプレス関係者とテーブルを囲み、にこやかに挨拶するルーク。世界を席巻するブランドのトップなのに気取りはない。

「Bluetoothのペアリング、充電、コネクティビティというワイヤレスの3つの問題点をすべて解消した新製品をご紹介しましょう」

新シリーズ『BeatsXイヤフォン』が披露される。コンセプトは“All Day, Everyday”。通勤&通学時であれ、スポーツをするときであれ、これひとつあれば一日中OKというわけだ。カラーはブラックとホワイトの2色で、今後は新色も追加される予定らしい。

「最大の特徴は“Flex-Formケーブル”。首にかける部分ですね。人間工学に基づいた形状で、ズレにくく、一日中装着していても疲れにくいんです。芯材には形状記憶合金を使用。どこにでも持ち運べる軽量コンパクト設計も利点です。さらに、“Apple W1チップ”と“Fast Fuel(急速充電)機能”という最新にして世界最小のテクノロジーを採用。5分間の充電で2時間のプレイが持続するから、通勤、通学時にも最適なシステムではないかな」

ご存じのとおり、BeatsはApple傘下のブランドとなった。この『BeatsXイヤフォン』はAppleとの共同開発という意味でも記念すべきモデルだという。

「2016年の1月に発売した『Beats Pill+ ポータブルスピーカー』は、開発の後期からAppleが参画する形になりましたが、『BeatsXイヤフォン』では最初から最後まで共同開発。環境に良いパッケージや素材使いにも配慮し、ハードウェアとソフトウェアが融合した製品になるなど、Appleのクオリティ基準を満たしています。Appleとのコラボレーションはまだまだスタート地点。将来的にもそのあたりをフォーカスしながらやっていくつもりです」


続いて、ベストセラーの次世代モデルである『Powerbeats3 Wirelessイヤフォン』と『Beats Solo3 Wielessオンイヤーヘッドフォン』も紹介された。

「さあ、それでは皆さんお待ちかねのテイスティングタイムです」

おぉ、たしかに自動的にペアリングしてくれるじゃないか! 音切れも無縁というだけあって安定感もある。試聴後はグローバルキャンペーン動画“Got No Strings”の紹介。錚々たるキャストの顔ぶれだ。こういう訴求のしかたは本当にBeatsらしい。

セッションの最後はQ&Aの時間。でも、限られた時間内のやりとりだけでは、とてもBeatsの“らしさ”を紹介しきれない。改めてメールによるインタビューをルークに申し込む。その回答も取り込んで再構成したのが以下である。

Beatsを語るうえで欠かせないのがトップ3のメンバーだ。伝説のラッパーでもあるDr. Dreと、Interscope Geffen A&MのCEO兼会長だったジミー・アイオヴァイン。そのふたりが共同設立者として2006年にスタートし、後にそこへルークが加わる。


—Beatsが音楽に近いカンパニーとはいえ、レコード会社から離れるのは大きな決断ではありませんでしたか?

創設時から私も外部の人間として関わっていましたが、2011年の初めにプレジデント兼COOとして正式に就任しました。それは大きな決断でしたよ。それまで音楽やレコードの制作に人生のすべてを費やしてきたわけだから。“音楽から離れたくない”という気持ちは強かった。でもね、Beatsで数カ月を過ごしてみたら気づいたんです。Beatsでの仕事も音楽に深く関わるもので、そもそも決断する必要なんてなかったんだってね。


—ジミー・アイオヴァインはルークにとってどんな人物ですか?

まさに天才クリエイター。とてつもなく豊かなエモーションと優れたセンスを兼ね備えているんだ。それに、最高のアイデアを成功に導くヴィジョンを大きな視野で構築する能力もね。そこからは、目的に沿わないものはすべて排除して、すべてのピースがあるべきところに収まるまで突き進んでいく。魔法など存在しないと思っている人は、まだジミー・アイオヴァインに会ったことがない人でしょう。


—では、Dr. Dreについてはどうでしょう?

これまでのすべての世代を含め、最高のプロデューサーだと私は思っています。アーティスト、エンジニア、作曲家、ミキサーとしても、他に類を見ない能力の持ち主。Beatsを最も成功したブランドに成長させたことや、彼自身の高潔な人格も考え合わせれば、もはや私にとってはスーパーヒーローといっても過言ではないかな。

製品開発そのものが

アルバム作りみたいなもの


—Beatsがオーディオ製品を作り出すときの視点とは?

レコーディングスタジオでの音はもちろん、ミュージシャンの描いたエモーションまでリスナーに伝わる高音質なものであること。1990年代のトレンドは“音楽の民主化”でした。同時にクオリティが失われたのも事実です。その失われた音質を補うことがBeatsのスタートだった。


—音質以外に機能性やデザインでも高く評価されています。

ワイヤレス機能などツールとしてのエンジニアリングも、最高のリスニングエクスペリエンスには必要です。デザインについてはよく音楽制作に例えるんです。アルバムの世界観を表現するのに、ジャケットのアートワークやツアーTシャツが担う役割は大きいでしょう? ヘッドフォンやイヤフォンの世界観を表現するうえでは、その50%くらいをデザインが担っているといってもいいかな。とにかく、自分たちが好きないいモノを開発すれば、オーディエンスも気に入ってくれるはずだというアティチュードなんです。そういう意味では、製品開発そのものがアルバム作りみたいなもので、ハードウエアのメーカーというよりも、音楽業界の延長線上にいる感じかもしれません。


—Beatsが想定するユーザーのターゲット層とは? 好みの音楽、ファッション、カルチャー……どんな切り口でもかまわないのですが。

あらゆるリスナーがターゲット。音楽ジャンルでも分けられません。Dr. Dre、ジミー、私の3人が音楽業界でプロデュースしてきたのはヒップホップだけではないから。たとえばジミーはブルース・スプリングスティーンだって手掛けたし。Beatsの再現性においても、クラシックのストラヴィンスキー、ジャズのコルトレーン、ヒップホップの2PAC、それにテイラー・スウィフトまで、幅広いジャンルに対応していますよ。『BeatsXイヤフォン』の“X”も、すべてのリスナーに当てはまる未知数という意味。音楽だけでなく、ゲームや映画など、あらゆるエンターテインメントで、あらゆるリスナーが、最高のエクスぺリエンスを得られるようにってね。

音楽は私たちに人間の在り方を
教えてくれるもの


—ルークさんご自身のリスニングエクスペリエンスを。たとえば、こうして来日されたときなど、滞在するホテルでも音楽は楽しむのですか?

もちろん聴きますとも。だから、どこへ行くのにも『Beats Pill+ ポータブルスピーカー』は手放せない。本体そのものが急速充電できて、そこからさらにiPhoneを充電できるのが便利。多くのエンターテイナーやスポーツ選手も手放せず、“Hotel Saver”なんて呼ばれてるんですよ。


—デジタル音源以外の音楽を聴くこともありますか? たとえばライヴやクラブとか。

毎週のように通うライブ人間ですよ。最近ではLCD Soundsystemのライヴに4回も行ったし、今年の夏には日本のサマーソニックにも行きました。


—1年ほど前に、“最近お気に入りのプロダクト”をお尋ねしたとき、こんなふうに答えてらっしゃいました。

1920年に製造されたスタンウェイのベビーグランドピアノ。調整で5カ月待ちだけど、納品されたらトム・ウェイツの『ミネアポリスの女からのクリスマス・カード』を弾くんだ。


—予定では調整済みでしょうけど、その後、どうなりましたか?

ピアノの修理は終わったけど、それを置く家のほうが準備できていなくて……。でも、100年近く放っておかれたピアノなので、あと何カ月かは弾かなくても大丈夫かな(笑)。


—では、そのピアノよりも後に購入したモノでお気に入りのアイテムは?

最近は、カスタマイズしたギターのペダルを買っているかな。ひとつのペダルで2種のディレイを同時に生み出せるstrymonの『DIG』は、手軽に1980年代の英国の雰囲気を味わえる。それからWALRUS AUDIOの『JANUS』も。トレモロとファズのペダルをひとつのボックスにしたペダルエフェクターです。Teenage Engineeringの小型シンセ『Pocket Operator』でも遊んでいる。何を作っても『ストレンジャー・シングス』のスコア風になっちゃうけど(笑)。もちろんBeatsの新製品も。私は世界中を飛び回っているので、“Fast Fuel”の急速充電機能は、ヘッドフォンが充電されているか心配しなくていいから非常に助かっています。また少し営業っぽくなっちゃったけど、本当に便利なんですよ(笑)。


—最後に、あなたにとって音楽とは?

音楽は、最も進化した、直感的なカルチャー。私たちの意識的な、そして無意識的な日常を集めた表現方法なのです。そうやって個人のアイデンティティを表現する力として働く一方で、コミュニティーの一部としての意識も強める。まさに、音楽は私たちに人間の在り方を教えてくれるんですよ。私たちにはもっと音楽が必要なのではないでしょうか。

ときにはジョークを飛ばし、またあるときにはうれしそうに音楽を語る。しかし、最後の質問だけはとてもシリアスに回答してくれた。“No Music, No Life!”。ルーク自身がそう口にすることはなかったが、生き様そのもので体現しているのは間違いない。

ヘッドフォン/イヤフォン市場において、新たなカルチャーを創造して異彩を放つBeats。その原動力はごく当たり前のところにあったようだ。

Photographer:多田 悟 / Satoru Tada