中国とテスラ
2021.05.14 15:50
「中国政府が自動車の走行データなどの規制に乗り出す。道路の交通量や車両の位置情報などを海外に持ち出すことを厳しく制限する方針だ。米中対立のなか、米電気自動車(E V)大手のテスラを牽制する狙いもあるようだ。企業の競争力にかかわるデータの規制は、世界の自動車大手の中国事業展開にも影響を与える可能性がある。」
日本経済新聞(2021.5.14)朝刊から
テスラの電気自動車(E V)は「車輪のついたスマホ」と呼ばれることがある。また、テスラはクルマに「アプリ内課金」を持ち込んだ、とも言われる。これまでの自動車の概念をいったん捨てないといけない。テスラのE Vはデジタルネイティブ製品であるから、アップルのiPhoneとさほど変わらない(ビジネスモデルが)。車体というハードがまずあって、ソフトウェアが内蔵されている。自動運転になれば、ソフトウェアの比重が大きくなる。ソフトウェアのアップグレードをすることで使用者に最も最適なクルマになるように設計されている。テスラのホームページには、コネクティビティについてこうある。「コネクティビティはすべてのテスラ車両において重要な機能です。音楽やメディアのストーミング、交通情報表示など、データが必要とする機能を利用できるようになり、運転時の快適性が一層高まります」。さらに上記日経の同じ記事にはこうある。「カメラやセンサーなどで車外で収集した道路、建築、地形に加え、車両の位置や軌跡のデータの海外の持ち出しは、許可を得ない限り、認めない。」これは、中国の「全国情報安全標準化技術委員会」が4月下旬発表した、コネクテックカー(つながる車)のデータ収集に関する規制の草案によるものだ。
ここまでの情報を整理してみよう。テスラはクルマというハードを装いつつ膨大なデータを多方面から(走行データのみならず乗車している人のデータまでも)収集する。スマートフォンは、人間が操作しているが、自動運転のE Vは乗る人間がいてもいなくてもいい。自律した機械がみずから考えて動くような(人工知能)、まったく新しい乗りもの(乗らないのに乗りもの?)になる。例えば荷物を移動させるのならロボットでも構わない(ロボットをクルマに乗せる)。車体のカタチと機能を根底から覆せば、道のないところも走れるだろうし、階段だって昇れるはずだ。ルンバのように途中で降りて、自動運転により自宅まで帰り充電器に接続するところまで可能だろう。そして、家の一番大きな家電製品として、主に蓄電機能を司るのではないかと予想している。ところで、中国で走行するテスラ自動車(米国=民主主義)が自国(中国=社会主義)の国民を乗せて国内のデータを収集されることに、中国政府は危機感を募らせている。共産圏のなかにこれほどのデータ収集機械が国外から持ち込まれ自由に動き回ることを看過できない。だが、テスラにとってデータこそ命であるだろう。走行データの規制とはこの命を奪うに等しい。少なくとも、現状の米中関係のもとでは、テスラのE Vが完全な自動電気自動車として中国国内を走るのは無理なのではないかと思う。中国政府もEVに力を入れているので、データをテスラに取られることをよしとはしないだろうから。日経の記事には、「中国メディアによれば、テスラのデータの一部が米国に持ち出されているという疑いが出ており、人民解放軍の一部は軍人にテスラ車の利用を事実上禁じた。」とある。テスラは地球を見捨てて、宇宙に軸足を移そうとしているようにみえる。