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「褒める」ことの盲点、「勇気づける」利点

2018.05.18 04:27

Facebook・竹元 久了 さん投稿記事 アドラーの心理学に学ぶ!

🌷「褒める」ことの盲点、「勇気づける」利点

(アルフレート・アドラー)、1870年2月7日 - 1937年5月28日)は、オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家。

アドラーは幼い頃に、声帯のけいれんとくる病に苦しんだ。また、3歳下の弟が生後1年でジフテリアで死んだこと、何よりアドラー自身が4歳頃に肺炎にかかって危うく死にかけたことが、医師を志す動機となった。

🔵世界をよりよくすること

アドラーは楽観的な意見の持ち主で、個人心理学の知識を通じて、世界をよりよくするための機会を提供できると確信していた。アドラーは、個人心理学の未来について次のように述べている。

誰ももう、わたしの名前など覚えていないときがくるかもしれません。個人心理学という学派の存在さえ、忘れられるときがくるかもしれません。けれども、そんなことは問題ではないのです。なぜなら、この分野で働く人の誰もが、まるでわたしたちと一緒に学んだように行動するときがくるのですから。

—アルフレッド・アドラー、"Alfred Adler as We Remember Him" (1977)

子どもにとって本当に必要なのは、褒め言葉という甘いご褒美でも、怒りを向けられる恐怖でもなく、親が自分のことを本当に見ていて、認めてくれると感じさせる言葉がけです。

■「褒める」ことの盲点、「勇気づける」利点

私は熱心に褒めることから始めました。例えば、ごみを拾った子に対して「えらいね、いい子ね、またやってね」と褒めます。するとその子は喜んで次もごみを拾います。褒めれば褒めるほど、クラスはピカピカになりました。褒めた効果が出たと思って、私もうれしかったんですよ。

しかしあるとき、私が出張で授業ができなかったことがありました。子ども達が帰った後の教室に行ってみると、たくさんのごみが落ちているんです。

そのときに私は気づきました。「ああ、子ども達は、褒めてくれる私がいなければごみを拾わないんだ」と。

子ども達がごみを拾っていたのは、褒め言葉というご褒美が欲しいからだったんですね。それは決して自主的なごみ拾いではなく、受け身的な行動です。

私は、褒めることの限界について考え始めました。褒めるとは、言い換えれば「できたときには褒める」「できなければダメ」と子ども達を評価するということ。「できるまで頑張れ」と叱咤激励を続けるということでもあります。これは子どもにとっても大人にとっても、本当は息苦しいことです。

私は「褒める」ことの裏にある評価の概念を捨てなければと思いました。そしてたどり着いたのが「勇気づけ」なのです。

■自分の行為が人の役に立ち、自分の喜びになる

―勇気づけとは具体的にどのようなものなのでしょう?

勇気づけとは、子どもを評価するのではなく、共感し寄り添うことです。ごみを拾った子に対して「えらいね、おりこうさんね」と褒めると、それは評価になります。

そこで、「ありがとう、うれしいわ」と言い換えてみてください。親しい友達に言うように。「ありがとう」は感謝の気持ちです。子どもと同じ目線で立っているからこそ出てくる言葉でもあります。これが「勇気づけの言葉」です。

勇気づけの言葉をかけられると、子どもは積極性を増していきます。「うれしい、ありがとう、助かったわ」といった言葉から、自分の行為が人の役に立ち、自分の喜びにもなっているからです。勇気づけを繰り返すうち、子ども達は人に見られていなくても、褒められなくても、自主的に行動を起こすようになっていきます。

勇気づけの効力は、大人である自分に置き換えてみてもよく分かります。例えば、料理や掃除をしたとき、パートナーから「えらいね~」と言われたらどう感じますか?違和感がありませんか?

これは、「えらいね」という言葉が「上から目線」だからです。「おいしい料理をありがとう。うれしい」とか「掃除をしてくれたんだね。助かるよ。ありがとう」と言われたほうが、よほど気持ちがいいですよね。勇気づけの言葉は、言うほうも言われるほうも、気分が良いものなのです。

―なるほど。確かに褒められるよりも勇気づけられるほうが、気持ちいいです。

そうなんです。大人も子どもも、それは同じなんですよ。子どもにとって本当に必要なのは、褒め言葉という甘いご褒美でも、怒りを向けられる恐怖でもなく、親が自分のことを本当に見ていて、認めてくれると感じさせる言葉がけです。それが勇気づけです。

■親子の関係は「上下関係」ではなく「横の関係」で

―勇気づけの最大のコツは何ですか?

まず、評価という概念を取り払うことです。通知表をはじめ、順位を付ける様々な物差しによって子ども達を評価することも大切ですが、結果だけではなく、過程や姿勢に対する勇気づけも重要です。

子どもは一人ひとりが一番星。何かが特別にできたときだけ褒めるのではなく、「毎日元気に学校へ行っていて、お母さんうれしいわ」「おいしそうに食べてくれてありがとう」などと当たり前のような行動に注目し、勇気づけることが大切です。そのとき、ポジティブな視点を持つこともコツです。

どうしても短所ばかりが目についてしまう、ということもあると思います。そうしたら見方を変えましょう。

「片付けが苦手でだらしない」と考えるのではなく「細かいことは気にしないおおらかな子」

「なかなか物事が決められなくて、優柔不断」と捉えずに「じっくり考えられる力の持ち主」

「わがまま」ではなく「自己主張のできる子」

そんなふうに短所を長所に置き換えていくのです。

また、子どもに対する「上から目線」を捨てましょう。子どもと上下関係ではなく横の関係をつくりましょう。上下関係の中で怒られたり評価されたりして抑圧されている子どもは、大人の顔色をうかがうことに長けてはきますが、安心して大人を信頼することが難しくなります。

相手が子どもであっても、一人の人間として尊敬すれば、子どもとの信頼関係は深まっていきます。

■原因の追求ではなく、未来のために現在を変えていく

アドラー心理学では「何のためにその人は今その行為をしたのか(あるいは症状が出たのか、状況が起きたのか)」と、現在を起点に未来に向かって考えます。原因を追究する犯人捜しとは逆に、アドラー心理学は「何のために」と目的に重点を置いて分析するのです。過去よりも、未来を重視した考え方です。

アドラー心理学では、よりよい未来に向かって現在を変えていくために、「勇気づけ」を行うのです。

心理学では、人は注目された行動の頻度を増やすと考えられており、これを「強化」と言いますが、勇気づけを繰り返すことで子ども達のやる気と自信が引き出され、それぞれの持ち味もどんどん生かされるようになってきます。

―アドラー心理学は前向きなものなのですね。

問題行動も含め、子ども達を突き動かす動機は「両親や教師など、周りの大人達に注目されたい、大人に認められたい」というものに尽きます。困った行動を取るのも、周囲の気を引きたいがため。しかしそのときに感情的に怒ったり、ご褒美という交換条件で彼らの気持ちを抑え込んだりするのは良くありません。

そんなときこそ、勇気づけが必要なのです。