黄昏の花火 第一章
眠りに落ちる瞬間につらつらと
蘇る忘れていた名前 顔
冥途も近いかしらね
懐かしいな この駅
もうすっかり道が変わって こんな店ができているんだな。あのカフェはまだあるんだ。
ここからあそこに抜ける道わからないや
「何だよ」
「別に」正面に立っているからよ。 こんなおんなじ格好で。
作務衣っていうのを今風にだって。新人はこれから。本当は姉さんたちが着る大正昭和初期の古着の着物あの辛気くさいあれが着たかったのよね。
こいつ このレストランバーの半あがりにあるバーテンダー
デザイナーの卵て言っちゃあ聞こえがいい服飾学校の女たちがわいわい毎日バーの止まり木に群れている。それを片っぱしからつまみ食いの遊び人
「ねえ休んでたけどどうしてた?」
「おじさんと旅行」嘘 とうに10上のおじさんと連絡不通。 こいつにだけは今男がいないなんて口が裂けても言いたくないわ
「どうした?」
「バーで割れたビールびんに転んで手をついた」
ばか
電話の通りに代官山の駅をおり遠回りな感じで坂を降って線路沿いに回り込むと鉛筆のような細いマンションに着いた
「来たんだ」
ひとつしかないコンロの流し下を開けると小麦粉はある。虫を避けながらやっとの思いでひとカップ米がすくえた。
「そんな手じゃシチューとかスプーンだけで食べるものしか食べれないでしょ」
突然背中から回る腕 「痛て」
「あ」
「お邪魔してる」また女友達の群れ「ごゆっくり。帰るわ」
「私たちが帰るわ」なんだかヤキモチがない 何でだろう
「故郷から姉さんが来るから合鍵かして。ポストに入れといて」
仕事の合間に向かう道
なに? 金縛りみたい 顔が向けられない
怖い顔しかめた男 その腕に嬉しそうに絡む女
何で追いかけて責めないの 私ったら
「今日代官山に行ったよ」
「あいつ子供おろした後だったから泊めた」
嘘をついてよ 見えすいたなんか別のことで
そんな程度だったんだ 私
「昨日お前の夢見た。隣であいつが「誰それ?」って起こされた」
泣いた
おんなじ昨夜夢を見ていた。こいつに抱かれて「あのシーンは夢だったんだ」って
やけにリアルな腕の感触が生々しく
平安時代の枕元に立つ あれって本当だったんだね
「間違えた」何故か回した馴染みある番号
「お母さんが逝った」こんな時ここに電話をするなんて・・・
・・・「ありがとう電話」