黄昏の花火 第2章−ナニワ金融道まがい
トンネルが崩れたんだ・・・報道チャンネルのスイッチを切り部屋の鍵を閉めた。
いい天気だった
第3京浜の玉川料金所を過ぎると空が広がっていた。「なんだか 幸せ」
その瞬間
何か大きなものに押されフロントガラスが私の頭の衝撃で粉々になった
「名前言えますか?」
救急車のサイレンとざわめき 何が起きているかわからなかった
それは死んだ母が悪夢から切り離してくれたのだろう
ちょっと乱暴なやり方で。
しかしそうでもなければあの悪夢から自分から離れられたろうか
「日本からお電話よ」バイイングの最終日の夜。夏の夜ロサンゼルスは肌寒い。
シッピングをお願いしているご夫婦とオフィスで歓談していた。一通り満足いく仕事でその後の手筈も打ち合わせが終了しようとしていた時のことだった。
受話器を奥様が怪訝そうに手渡してくれた。日本の事務所からだった。「買取の品物取り消しできないだろうか」
「何言ってるの?契約してお金も払っていまさらできないでしょ。」「とにかく急いで戻って。会社が倒産する」
目の前の取引先も不安そうに覗き込みながら耳をそばだてていた。
フライトのそのままにオフィスに出向いた。がらんとした事務所の片隅で事務員の数人がかたまってひそひそと話していた。
「やられた」
無表情に奥で石造のような男がつぶやいた
彼は今の株主の連れてきた社長。初めてその席に着いたのは半年前のこと。不動産の営業マンでおよそインポート業界のことには疎く
そもそもこの会社危ないから買い取ったはずなのに。何でこんなに浮かれているの?
そんな出会いだった。
思えば一年前からおかしな動きはあった。
「単純なことで借りたものは返すんですよね?あんな辺鄙なところのモールをやることで資金ぐり調達したとして採算が合わないでしょ」その頃100人足らずの小さな会社でしたから、共に働く社長とメンバー。はっきりと忠告したはず。それを薄ら笑って居たのは小太りの常務。
予感は的中。全く売れず東京の店の残りを回すには面積が大きすぎて在庫が嵩んだ。
残業するオフィスに石鹸の匂いをして、風呂上がりだとわかる常務が度々いきなり来るようになっていた。「双子ちゃんお風呂に入れてきたの?」「そう」「それからわざわざ戻ってくるなんて・・・大丈夫?」
まもなく会社は売られた。
しかしそれだけでは終わらなかった。平常な様子だったのは数ヶ月
そしてこの日
銀行支店長と担当者が押しかけてきていた。私の各店の店長への檄電に
「こんなに元気なメンバーがいたら大丈夫ですね」書類をトントンと封筒に沈めて帰っていった。
翌日
常務。項垂れてやや小太りの頬は青白く。
奥には見ず知らずの白い仕立てのいいスーツの男と
背を曲げて痩せこけやたらニヤニヤしている、それは白いスーツの男とは見栄えの違う貧相な初老の男がいた。しゃがれた声の男「私のいうように書類を作ってください。全て任していただければいいようにいたします。」
全ての資産を取り上げて
それは後で整理屋だと知ることとなる。
少しづつ少しづつ徐々に吸い上げて。資産を食い尽くしあの小太りの男を背任から免れるように細工していく。
「社長?どうしたんですか突然」風呂敷に小さくまとめたものを私の胸に押し付けてきた。「明日これをこの弁護士に朝届けてほしい。真っ直ぐに届けに行ってくれ。会社には寄らないように。」
解くと帳簿が数冊
咄嗟に社長は逃げるのかもしれない、でもそれなら逃がしてあげたい。そもそも彼は巻き込まれた人。ただ乗せられた株主に雇われただけの社長だったのだから。
その後たわいもない短い電話があった。これが最後の声だった。
翌朝御茶ノ水にある弁護士事務所ばかりの古びたビルに訪ねて行った。「これは何を言いたいんだろう」訝しそうに数ページめくる弁護士先生。「何か聞いていませんか?」
同じ頃
オフィスのドアの鍵が空いていた。電気をつけたその瞬間
どさ
丸めた絨毯が倒れるような音がした。床に血の海があっという間に広がっていった。
私がたどり着いた頃には、あの整理屋から呼ばれている細面の事務員がモップで血を拭き取っていた。
「何が・・・」「首をカッターで切ったんだよ。多分私が電気をつけるまで思い切れなくて・・・つけたタイミングで最期思い切ったんだろうね」乾いた声で淡々と話す女。青白い美しいその女は何か日常のように話していた。
あとは整理屋と 少しづつスタッフや取引先に金を払わせる駆け引き
だからこそ誰にも話すことはできなかった。たとえ仲間だったものから罵声を浴びたとしても・・・。
いつの間にか30そこそこの私の髪 前髪は真っ白になっていた。
在庫を詰めてライトバンに乗り込む。
いい天気だなあ
何故だろう 心がとても安らいでいる。
空が広いな