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Adolescence

相澤 胡桃(1話)

2021.05.16 15:00

小さい頃に見た、テレビの中で歌い踊るキラキラした女の子達。

その姿に憧れ、絶対にアイドルになろうと思った。



「また落ちた…」

自室の中で、相澤胡桃はひとりでスマートフォンを見ながらそう呟いた。


1ヶ月前に受けたアイドルオーディションの合格メールがいつまで経っても届かないのだ。


何も来ないという事はアイドルオーディションでは不合格を意味している。胡桃はそっとスマホの電源を切るとベッドにもたれかかっていた体をずるずると滑らせて床に寝転んだ。


もう何度目かわからない不合格。

胡桃は幼い頃からずっとアイドルを目指している中学生だ。


ほとんどが書類落ち、良くても二次審査までしか行ったことがないし、それも片手で数えられるほどだ。

テレビやインターネットを見ていると、いつの間にか同い年、年下までアイドルとして活動している。その華々しい活躍を見るたびに胡桃の心は痛む。


中学二年生、秋。そろそろ選択を迫られる時だ。それは胡桃自身もわかっていた。しかし心は定まっていなかった。


「あ〜もう…」


胡桃の手は、いつの間にか再起動したスマホでオーディション情報のまとめサイトを検索していた。




「あんたまたオーディション落ちたでしょ」

夕飯の時間、母が野菜炒めを小皿に盛りながらそう言った。

胡桃は「なっなんでわかるのよ」と焦る。

「なんでって、あんた合格したら絶対喜んで報告してくるでしょー」

「う…」

言葉が出ない。


「もうさぁ、諦めたら?もうそろそろ進路も決めなきゃ。いつまでもアイドルアイドル言ってられないんだよ」


淡々とした口調でそう語りかける母。


胡桃は「そうだけど…」と反論しようとしたが上手く言葉がまとまらなかったのか、その先は黙ったままだった。




かつて世間で大ブームだった「アイドル」。ある日放送されていた人気アイドルのライブ映像が、幼い頃の胡桃を動かした。

乱れる髪、ほとばしる汗、大きな動きのダンス、キャッチーな楽曲、魅惑の歌声、ころころ変わる表情。その全てが彼女には輝いて見えた。


そこから少しずつ、テレビを見たり雑誌や新聞に載っている関連記事を切り抜いたり、グッズを親に買ってもらったりライブに行ったりした。そんな胡桃がキラキラした彼女たちに憧れたのは自然なことだった。


「あたし、ぜったいぜったいアイドルになるから!」


そう宣言し、胡桃のオーディションを受ける日々が始まったのだった。




夕飯を食べ終わり部屋に戻ると、そのまま机に向かった。


学校に行っている間に届いて母が置いておいてくれたのだろう、高校の案内の封筒が二つ重ねて隅に置かれていた。

本当に、どちらかを選ばないといけない時期になってきていることを実感させられる。


机についている棚にはアイドルのグッズが並んでいた。生写真、アクリルスタンド、お気に入りのCD。


「決めなきゃ」


胡桃はその晩、4時間しか眠れなかった。




「お母さん、あたし決めたよ」

翌朝、胡桃は朝食を作る母の元へ駆け寄った。

「おはよ、どしたの?」

卵を焼く火を止めて母が振り向く。


「あたし次に受けるオーディションで、受験前は最後にする。三年生からはちゃんと勉強するよ」


表情を変えない母の瞳をまっすぐ見つめながら続ける。


「でもね、高校が決まって…それでもまだアイドルが諦めきれなかったら…そしたら今度こそ人生最後のオーディション受けるから!」


彼女なりに悩みに悩んで出したこれからの道だった。甘いと言われるかもしれないと思ったり、考え直そうかと思ったりもした。

でもやっぱり昔からの夢を、そう簡単にすっぱり諦める事はできない。胡桃はそう思った。


「ふぅん、いいんじゃない」

母は一言そう言って微笑んだがすぐに背を向け、料理を再開した。

胡桃は呆気に取られたが、すぐに我にかえって慌てて母の顔を横から覗き込む。


「え、な、なんか言う事とかないの!?反対とか、いやして欲しくないけどさっ」


「別に?私は自分で決めて欲しかっただけだからね」


もうこれ以上話す気はないようだ。

胡桃はそっか…と呟き、リビングのソファに寝転がり、クッションを抱きしめた。

とりあえず、自分で決めたことなら反対はしないようだ。

母にも宣言した。


最後のオーディション、頑張ろう。


胡桃はクッションを掴む手にぐっと力を込めた。