中国人が浮世絵を勉強することで、日中文化の絆を確認
黄 文葦
浮世絵は、日本文化の象徴ともいえるものだ。江戸時代は、中国の明と清の時代にあたる。 中国では、浮世絵の発展・進化には、中国の明・清の版画が大きく影響すると言われる。
清朝中期には、姑蘇(江蘇省蘇州市の古称)に50軒以上の画商があり、年間100万枚以上の版画を制作し、中国全土はもちろん、日本や東南アジア諸国にも輸出されていた。姑蘇の賑やかな街中や女性を描いた人物の絵は、「姑蘇版」と呼ばれている。 中国の他の地域の民間版画と比較して、「姑蘇版」には大きな特徴がある。それは、西洋絵画の影響を深く受けており、西洋の銅版画の陰影や遠近法の技法が見られることだ。
日本の江戸時代、幕府は鎖国を行い、長崎を開港地として、オランダや中国との貿易を維持していた。17世紀後半から18世紀前半にかけて、長崎には故郷の風習や郷土の美術品への愛着を持った蘇州人たちが住んでいたという。その結果、長崎に住んでいた蘇州人を通じて、姑蘇の版画が日本に伝わったという。
一方、貿易に伴い、中国からの木版画がさらに日本に流入し、現地の人々に受け入れられるようになった。姑蘇の版画に見られる陰影や遠近法は、日本の浮世絵師たちに意図せずしてある種の「視覚的訓練」を与え、西洋絵画の遠近法や技法を二度に渡って広め、それを日本美術と組み合わせて独自の透視図法を形成した。
古代中国の山水画が散漫な遠近法を重視していたのに対し、日本画の視覚は平面的なものが主流だそうだ。浮世絵師の多くは、空間感覚を表現するために、鳥が地上の様子を見下ろして見せるような俯瞰図を用いている。 それでも、日本の浮世絵と中国の明清時代の版画とでは、社会的機能や芸術的伝統の面で大きな違いがあり、両者が体現している美意識も異なっている。中国の木版画は民間人が好む題材が多く、明るく楽しい国民性が反映されているし、日本の浮世絵は少し感傷的で、日本人の繊細な性格や生き方が表れている。
中国の著名な作家である魯迅は、若い頃に日本に留学して西洋絵画に触れ、日本の浮世絵に魅了されたという。魯迅は、雑文の中で浮世絵に触れたことがある。 魯迅は生涯を通じて、多くの浮世絵関連本や日本の多くの浮世絵師の代表作を収集した。
魯迅はかつて、「日本の浮世絵については、若い頃は北斎が好きで、今は広重が好きで、その次は歌麿…私の考えでは、中国人の一般的な目に合うのは北斎ではないかと思っています」と語った。
最近、機会があって、当方が「葛飾北斎 富嶽三十六景で旅」のオンライン発表会に出た。そして、浮世絵と中国古代木版画についていろいろと調べ、「本所立川」というタイトルの浮世絵を細かく鑑賞した。その絵は、現在墨田区立川のあたり、隅田川にそそぐ竪川の両脇に並んでいた材木問屋を描く。江戸時代の富士山が見える建設現場は生き生きとした雰囲気が溢れている。 まさに、高く積み重ねられた材木の間から見える富士など、遠近法を駆使した構図がすっかり悟った。浮世絵を鑑賞する喜びを味わった。
中国人が浮世絵を勉強することで、日中文化の絆を確認できると信じる。勿論、浮世絵は素晴らしい独特な日本文化である。それを知った上で日中の古典美術を比較して楽しむ。
因みに、昨年2月4日から、葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景」の作品を査証ページにあしらった新型の日本パスポートが誕生した。富嶽三十六景の中から、10年用に見開き2ページごとに24作品、5年用には16作品が背景に描かれている。
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特別展「冨嶽三十六景への挑戦 北斎と広重」
会期:2021年4月24日(土)~6月20日(日)
会場:江戸東京博物館 1階特別展示室
住所:東京都墨田区横網1-4-1