banvox × TeddyLoidが、お互いの最新作をライブでマッシュアップ
12月16日に『モード学園』のCM曲「Occasion」のデジタル配信を開始したbanvoxと、同日に自身が作曲したDAOKOによる『HAL』のCM曲「ダイスキ with TeddyLoid」をちゃんみなと共にアップデートした「ダイキライ feat. ちゃんみな」を含む最新EP『SILENT PLANET 2 EP Vol.3』をリリースしたTeddyLoid。
両作品にリミックスを提供し合ったふたりが、実際にDJブースに入り、その2タイトルの収録曲をマッシュアップする、いわゆる"B2B"セッションの模様を撮影した、臨場感あふれるオリジナルムービーを公開した。
今回はSILLY独占で、その撮影現場に密着。当日の様子を追いつつ、ふたりの対談をお届けする。
インターネットを起点に人気を拡大したトラックメイカーのなかでも、リスナーを一撃でねじ伏せるビッグチューンに定評があり、互いに「若手のなかで本気にさせてくれる相手はbanvoxしかいない」「Teddyさんは音楽を始める前から憧れの存在」と相思相愛の関係を見せる彼らは、それぞれの方法で10年代の音楽シーンの最前線にいる。
本気にさせてくれる才能には
なかなか出会えない
―今ちょうどB2Bスタジオライブの撮影を終えられたばかりですが、とんでもないセッションになりましたね。この魅力を伝えるためにもマッシュアップした各曲の話から始めさせてください。まずはTeddyLoidさんの「ダイキライfeat. ちゃんみな」。Teddyさんが参加したDAOKOさんの「ダイスキwith TeddyLoid」の別バージョンです。
TeddyLoid DAOKOさんが先行リリースされた「ダイスキwith TeddyLoid」は、彼女がいちボーカリストとしてしっかりとした歌物に仕立ててくれました。もちろん同じHALのCM曲をベースに一緒に曲作りを始めたのですが、最終的なミックス〜仕上げは彼女に任せたということもあり、まだまだアイデアがあったんです。なので、自分のヴァージョンでは何をやろうかと。普通にやってもただのリミックスになってしまいますから。
そこで、まずタイトルを正反対の“ダイキライ”にすることだけ決めて、更にボーカリストも変えたら面白いんじゃないかと思ったんです。ちゃんみなちゃんは高校生ラップ選手権でのバトルを見ていて、パフォーマンスもライミングのスキルもすごいし、ラッパーとしてもシンガーとしても魅力的で、元々いつか共演したいアーティストの筆頭でした。
ふたりとも同じ10代の早熟な才能の持ち主ですが、強烈な個性のギャップはリスナーも楽しんでくれるんじゃないかと。なので、「同世代のコ達に向けて、“ダイキライ”というテーマでラップしてほしい」とだけリクエストして、彼女のストレートな感性を出してもらいました。
banvox すごく攻めてますよね。上手い感じにトラックとラップがハマっていて、ドロップもヤバい。
―この曲は“音楽を解放するレジスタンスの戦い”を描いた『SILENT PLANET』の続編となるEPシリーズ『SILENT PLANET 2 EP Vol.3』の収録曲です。
TeddyLoid 昨年の『SILENT PLANET』は、大勢の夢のようなゲスト陣に参加して頂いたアルバムで、ああいった作品はキャリア上、何度も作れるものではないんですね。なので、もっともっと広めたいんです。最初は全曲リアレンジしてシングルをリカットしていこうかと思っていたんですが、その間にも魅力的なアーティストたちと新たな出会いもあったので、新録とリミックス、リメイク等で、話題性のあるスピンオフを連発しようと。それが『SILENT PLANET 2』のコンセプトです。
banvoxくんのことも「Intense Electro Disco」(11年)の頃から好きで、上の世代の中田ヤスタカさん、同世代のトーフくん(tofubeats)と同じように、僕より若い世代の一番すごいトラックメイカーだと思っていて。その彼が同じモード学園グループのCM曲を担当したと知って、すぐに相互リミックスのアイデアが思いついて、直接Twitterで声を掛けさせてもらいました。
banvox めちゃくちゃうれしかったです。
―banvoxさんがリミックスした「ダイスキ feat TeddyLoid」は、DAOKOさんの声を丁寧に残しつつ、原曲とはまったく違う雰囲気ですね。また、16年を通してのbanvoxさんのモードだった「フロアバンガーではないものも表現しよう」という雰囲気も感じます。
banvox そうですね。DAOKOさんの声を残しつつ、悪い感じにしたかったんです。原曲が派手で、1曲の中でBPMも変わるんで、ヒップホップっぽく統一して、歌詞に合わせてガンショットを撃ちまくりました。「歌詞の暗い感じをもっと出してやろう」と思って。
TeddyLoid (笑)。音も最高だし、トレンドも押さえているし、リロードしてガンショットを撃ちまくって歌詞に対する新たなアプローチも加えてくれていて。これは自分も絶対DJで使いますよ。
― 一方banvoxさんのオリジナル曲はトラップを基調にした「Occasion」。フルで聴くとCM版とは全然違うパートが出てきますが、これはGoogle AndroidのCM曲「New Style」のときもそうでした。
banvox 今回も隠し味はとっておきました(笑)。「Occasion」はドロップの応酬で攻める新しいbanvoxっぽさを出した曲です。声ネタも歌モノじゃないものを使って、一気にドロップに落として。最初、TVでは流せないと言われて、周波数をちょっと下げたんですよ(笑)。
―そして、Teddyさんによるリミックスは四つ打ちからはじまっていて、これもまたbanvoxさんのリミックスと同様、原曲とはまったく違う雰囲気になっています。
TeddyLoid 僕の中でのEDMっぽいもの、ブロステップ、トラップを全部詰め込んだ真っ向勝負ですね。中田ヤスタカさんの「NANIMONO (feat. 米津玄師)」(※映画『何者』の主題歌で、TeddyLoidとbanvoxがリミックスを担当)もそうでしたけど、プロデューサー同士のリミックスって、実は“対決”っていう気分もあって。リミックスなんて後出しだから、絶対にオリジナルを越えてやるぞ!って、ある意味ブン殴りにいくような感覚というか(笑)。
―僕も聴いて思ったんですが、お互いの原曲/リミックスを通してポジティヴな殴り合いをしている雰囲気で。同じことが今回制作した「ダイキライ feat ちゃんみな」(+「ダイスキfeat TeddyLoid」)と「Occasion」のマッシュアップ音源にもいえそうですね。
banvox 今日のセッションでは、まずは僕が「Occasion」のCMで使われているパートのBPMを一気に上げて、「ダイスキ」のリミックスをドロップとして使って、そこにTeddyさんがスクラッチとかを入れてくれて……。
TeddyLoid その後も展開して、最後は「Occasion」のオリジナルで締めた感じだね。
banvox スクラッチ、攻めてましたよね。僕のリミックスとTeddyさんのスクラッチとで、聴くときにも楽しみ方がふたつできた感じになった。
―お互いに新しい要素を加えていて、まさに約3分半のライブミックスの中でふたりが殴り合っている……。
TeddyLoid そうそう(笑)。今日みたいに本気でやり合おうっていう相手って、なかなかいないんですよ。最初の15秒で「Occasion」のBPMが上がってほかのドロップにいくアイディアも、僕も前からずっとやりたいと思っていたけど、分かってくれる相手がいなかった。
訪れたふたりの邂逅
お互いがシェアする音楽観
banvox Teddyさんは自分が音楽を始める前からの憧れの人で、超リスペクトしているんです。でも実際にお会いしたのは、昨年11月の〈YouTube FanFest Japan 2015〉が初めてでした。微妙にファン層も違って、違う場所で戦ってきたんで、会うことができなくて。
TeddyLoid 共通の先輩の中田ヤスタカさんが引き合わせてくれたのは大きかったですね。
―実際に作業してみて、お互いの魅力を改めて感じた部分もあったんじゃないですか?
banvox Teddyさんは、攻めるメロディを書くのがすごく上手いですし、フレンチエレクトロの硬い音を残しているのも好きです。Teddyさんの音楽には、音楽始める前からずっと衝撃を受け続けているんですよ。
TeddyLoid 僕からすると、banvoxくんはライバルかつ戦友で、「ポケットモンスター」のサトシ(TVアニメ版の主人公)とレッド(ゲーム版の初代主人公)みたいな感じですね(笑)。banvoxくんの音楽を聴いていると「このミックスってどうやってるんだろう?」と思うことがあって、スクリレックスを初めて聴いたときと同じものを感じる。ドロップひとつ取ってもただウォブルベースを鳴らしているわけじゃない。緻密に計算されていますよね。
これまで10年代を代表するトラックメイカーとして注目を集めつつも、昨年末まで接点がなかったというふたりには、フレンチエレクトロを入り口に音楽をはじめた経緯や、同じ声ネタを偶然使っていたことなど、共通点も多く存在する。ムービー撮影時には、ふたりがアイディアを出し合い、互いをリスペクトし、より距離を縮めるような雰囲気があった。
banvox 最初に会ったのがガチガチの現場だったんで、実はまだ音楽の話しか出来ていないんですよ。渋谷とかでは、よくすれ違うんですけどね(笑)。
TeddyLoid (笑)。そういえば、実はbanvoxくんの「High and Grab」と、僕の『Black Moon Rising』に入っている「Without You」は声ネタが一緒なんです。banvoxくんの方は元の声ネタから変わりすぎていて、最初は全然気づかなかった。
banvox あと、お互い“攻めるところは攻め切る”というのも共通してますよね。KOHHさんとの「Break’em all feat. KOHH」を聴いてもそう感じます。
頭の中でできてる曲を出すだけ
悩むとカッコいい曲は作れない
―曲を作るときに意識していることは、お互いどんな風に違うんでしょう?
banvox 僕の場合は、作りたいものを作るだけで、それを聴いてくれるリスナーには“ついてこい”という感じです。“僕の音楽はこうだし、絶対化けるから待ってろよ”って。
TeddyLoid 僕は頭の中で出来上がってる曲を出すだけ、という感覚ですね。“ここはどうしよう”と作りながら悩むわけじゃない。それだと逆にカッコいい曲が作れないんで。
banvox ああ、それはまったく同じです。頭の中にある曲をただアウトプットするだけ。映画を観たり、普通に人と話したり、日々を過ごしているだけでもいろんなことが浮かぶんですけど、インプットが“音楽だけじゃない”ことが重要です。音楽だけ聴いても全然成長しないし、何も始まらないと思うんですよ。
TeddyLoid 僕もゲームや映画が大好きだし、PCの前でディスプレイの中からも影響を受けますね。でも結構あるのが、“もっとこういうの聴きなよ”って勧められて……。
banvox “そういうことじゃないんだよなぁ”っていう(笑)。
TeddyLoid もちろん、お互いトレンドは意識して先を見据えた音楽を作っているわけですけど、それはもしかしたら“聴かない方がいい”ものかもしれないんですよ。
―ああ、聴かないことで広がる可能性もある、と。
banvox 僕は海外に行ってもすごく刺激を受けますね。仕事でもできるだけ機材は持っていかずに、インスピレーションを受けることを大切にします。
―Teddyさんにとっても海外は重要ですよね? 今年はSpotifyが発表した「2016年に日本以外の地域で聴かれた日本人アーティスト」のランキングでも5位に入っていました。
TeddyLoid まさかのピコ太郎さんの次点(笑)。世界に向けて発信したいという気持ちは僕も強いです。「ダイキライ」もサウンドは海外勢に引けを取らないクウォリティのつもりです。ドロップがサビになっていて。今の時代、海外と日本との境目はなくなりつつあるし、いちいちそれを分けるのはもう変なんですけど。
―どっちがいい悪いの話ではなくて、チャンネルが違うふたつの場所があって、インターネットによってその距離が近くなっている部分もあるし、違いもあるということですよね。
banvox そうそう。だから海外の人に向けて作るときも、日本の人に向けて作るときも、両方に向けて作るときもあるという感じで。
TeddyLoid そういえばこの間、中田ヤスタカさんとも“海外ツアーをやりたい”という話をしたんですけど、banvoxくんとも海外でDJツアーをしたい。
banvox いいですね!
TeddyLoid 僕らはインターネットで音楽を始めたんで、どこに行っても変わらないんです。どこに行ってもTeddyLoidだし、banvoxくんもそうだと思う。だから、東京代表として一緒に世界をツアーしたい。B2Bもしたいし、ディプロとスクリレックスのJack Üみたいな形も面白いかもしれない。あとは、曲を作って、まさかの“僕がヴォーカルだけ”とか(笑)。
banvox 本当にリスペクトしているんで恐縮ですけど、僕とTeddyさんが一緒にやるとなったときに想像できる可能性を、あえて外してやってみたら面白そうですね。
DTMによる音楽は今、世帯別に見ると地球人口の7割が所有しているというPCの圧倒的な普及率も相まって、急激に認知を拡大している。中でも今回のマッシュアップムービーは、日本屈指の才能を持つふたりの貴重なタッグであり、今後のさらなるコラボレーションの広がりについても、期待せずにはいられない。
Photographer : Keisuke Inoue / 井上圭祐