日本茶の水色(すいしょく)を楽しむ
茶畑が一面「萌黄色(もえぎいろ)」に染まる、新茶の季節。
立春から数えて88日目にあたる日のことを「八十八夜」といい、この頃に新茶収穫がピークを迎えます。収穫された新茶はすぐに加工され、早いところでは4月下旬ごろから店頭に並びはじめます。
栄養分豊富な新茶を頂くと1年間無病息災で過ごせるとも言われており、この時期にしか味わうことのできない新茶を、楽しみにしているという方も多いのではないでしょうか。
ところで、“日本茶の色”といえば皆さんはどのような色を思い浮かべますか?
(SATOMI)
琥珀色のお茶?
湯飲みに注がれたお茶の色のことを「水色」と書いて「すいしょく」といいます。
日本茶の水色といえば、「緑茶」の緑色をイメージされる方が多いのではないでしょうか。今はコンビニエンスストア等で、ペットボトル入りのお茶を気軽に手にすることができ、それらのパッケージにも緑色が多く用いられています。
ところが、先日テレビCMでお茶の水色を「琥珀色(こはくいろ)」と表現している商品を目にしました。「緑茶」の緑色にこだわっているブランドの新商品でしたので「おや?」と思い調べてみたところ、「琥珀色」の商品は「ほうじ茶」がベースになったものでした。
コラム「時間がつくりあげる味わいと色 - 琥珀色」でご紹介したように、「琥珀色」とはマンセル値 8YR 5.5/6.5、中明度・中彩度のブラウン系の色のこと。「緑茶」も「ほうじ茶」も同じお茶の木(チャノキ、 茶樹)から収穫される葉や茎を原材料としているにもかかわらず、その水色の違いは、どこからくるのでしょうか。
多様な水色
お茶の木から収穫される葉は、摘み取ると酸化酵素の働きが活発になります。すると徐々に発酵が進み、その色は褐色に変化していきます。そして、収穫後の加工方法の違いによって「不発酵茶」「発酵茶」「半発酵茶」に分類されます。
「発酵茶」は、茶葉を十分に発酵させたお茶です。明るく澄んだブラウン系の水色の「紅茶」は、発酵の程度によって香りも変わるそうです。
「半発酵茶」は、発酵途中で加熱処理し発酵の働きを止めます。代表的なものは「ウーロン茶」です。
そして「緑茶」は、「不発酵茶」。摘み取った茶葉は、すぐに加熱処理されます。発酵が進む前に蒸すことでその働きを止めるため、水色が緑色なのです。
また、同じ「緑茶」でも、お茶の木の栽培方法や加工方法、“一芯二葉”など摘みとり方によって多くの種類があります。以下に代表的なものをいくつかピックアップしました。なお、 水色の表現については、産地や商品によっても様々違いがあるようですので、ご参考までに。
- 煎茶:摘み取った新芽を素早く蒸し、揉んで乾燥させたお茶。澄んだ黄緑色が爽やかな水色。
- 深蒸し煎茶: 煎茶より長く蒸したお茶。煎茶よりも濃い緑色でやや濁りのある水色。
- 玉露:お茶の木を覆い、直射日光を避けて栽培されたお茶。水色は透き通った淡い黄色。
- 番茶:硬くなったり伸びすぎた葉や茎を使ったお茶。水色は黄みを帯びている。
- 抹茶:碾茶(てんちゃ:玉露と同じ栽培で、揉まずに乾燥させたもの)を挽いて粉にしたもの。濁りのある、鮮やかな緑色の水色。
目で味わう
では、「琥珀色」と表現される「ほうじ茶」は「発酵茶」や「半発酵茶」の仲間なのでしょうか?
「ほうじ茶」は、「不発酵茶」に分類されます。つまり「緑茶」の仲間ということです。
番茶を強火で炒って作られる「ほうじ茶」の水色は、緑色ではなく「琥珀色」のような褐色で、とても香ばしい香りのお茶になります。ちなみに、“葉”を炒ってつくるものよりも“茎”を炒ってつくるものの方が水色が濃くなるのだそうです。
前述のブランドの商品は、「鮮やかな緑色」と表現されている「緑茶」も、「琥珀色」と表現されている「ほうじ茶」も、どちらも一般的なペットボトル入りの「緑茶」のようにパッケージ全面がラベルで覆われておらず、中身の水色が見えるような工夫がされています。
また、その水色を楽しむため、ボトル表面が全くラベルで覆われていない“ラベルレス”でも販売されており、お茶の色に特にこだわりを持って開発された商品であると、うかがい知ることができます。
※ その他のメーカー、ブランドからもラベルレスボトルは販売されていますが、多くの場合、目的は環境への配慮のようです。
コンビニエンスストアなどで購入できるペットボトル入りのお茶は、日常生活の中で気軽に飲むことができるのが良いところ。バッグに入れて携帯できる機能性にも優れ、いつでもどこでも同じ味で水分補給ができます。
一方、急須で丁寧に淹れるお茶は、茶葉の種類はもちろん、湯温や浸出時間によっても味や香り、水色が変わります。
最近では、ワインのようにボトルに入ったお茶「ボトリングティー」も人気が出てきているよう。ワイングラスでいただくお茶は、私たちの目も喜ばせてくれ、様々な料理とのペアリングも楽しめそうですね。