【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』
新刊『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。
そして本連載は、短期集中で毎回アーティスト/作品単位でのテーマを取り上げ、同書からそれにまつわる部分をご紹介していこうというもの。同時に、トミー・リピューマが多くの作品を残したワーナーミュージックのウェブサイト、ワーナーミュージックライフ(WML)とミュージック・ライフ・クラブ(MLC)が連動した連載として別々のテーマを取り上げ、双方で同時に展開。両方同時に読むことで倍楽しめる!ことを目指しました。前回のジョージ・ベンソン『ブリージン』に続き、今回はボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』を取り上げます。
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『ダブル・ヴィジョン』は1986年にリリースされ、ジャズの要素を自らのプロデュース作品に生かすトミーの本領が発揮されたアルバム。2大フュージョン・スターによる世紀のコラボレーション作品で、グラミー賞を受賞し、今では “スムース・ジャズ” の名盤として知られています。 以下は『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』の本文より。
ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』
「ミキシングの時点で」とトミー。「デイヴィッドとボブのふたりともコントロール・ルームにいた。要するに、ふたりそれぞれがより表に出るように主張してきたんだ。ボブは『もっとピアノが聴こえるようにしてくれ』と言うし、デイヴィッドは『もっとサックスが欲しい』と言い張る。結果、ひどいミキシングになってしまい、ふたりの演奏だけが前面に出過ぎてしまってまったく一貫性がなかった。仕方なく僕はふたりに告げた。『いいかい、ふたりとも。頼みを聞いてくれないか。ふたりともこの部屋を出て、僕らにバランスを任せて欲しいんだ。いろんな意見が多過ぎるのさ。ピアノとサックスばかりになってしまう』。ふたりは1時間ほど退室し、僕たちはミックスを仕上げた。すごくいい仕上がりになっていたので、ふたりを呼び戻して完成したミックスを聴かせると、そこでやっと納得してもらえてね。でも、ふたりともまだ用心深い、神妙な面持ちだったな」
アルバムは火曜日に発売され、その週の土曜日にトミーにサンボーンから電話がかかってきた。彼は空港から電話をかけていたが、えらい剣幕だった。彼は「おい、だから言っただろ、こんなことになるぞって。さっきピープル誌を買って読んでみたら、このアルバムが酷評されていたぞ」。トミーは黙って彼の話が終わるのを待ってから、クラズナウの名セリフを彼に伝えた。「まあまあ、デイヴィッド、落ち着いてくれよ。明日になれば、皆そのページで魚かなにかを包むことになるだけさ」。
アルバムは最終的には250万枚のセールスを記録したが、デイヴィッドもボブも、それっきり連絡してくることはなかった。そのアルバム『ダブル・ヴィジョン』に関しては。
【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より
第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁”
第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』
第3回 MLC・2021.05.14 ザ・ローリング・ストーンズ『タイム・イズ・オン・マイ・サイド』
第4回 WML・2021.05.14 ジョージ・ベンソン『ブリージン』
トミー・リピューマのバラード
ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語
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BOOK・2021.03.03
3/29発売 ジャズやポップスの名伯楽トミー・リピューマ波乱万丈な人生を、ベン・シドランが綴る〜『トミー・リピューマのバラード ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』
『トミー・リピューマ・ワークス』
ワーナーミュージック・ジャパン
AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。貴重な写真の数々を掲載したブックレットを収録した、音楽の自叙伝ともいえるCD3枚組45曲収録の楽曲集。
アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial, A&M, Blue Thumb, Warner Bros., A&M/Horizon, Elektra, GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。
ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。
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