ファーストエイド ~覚えておこうペットの応急処置~
突然のケガや病気に遭遇したとき、応急処置の基本を知っていれば、慌てず落ち着いて対処できます。
今回は、いざという時に大切なペットを守るために知っておくと良い「応急処置について」です。ぜひ覚えておきましょう。
応急処置の基本とは?
まずは、応急処置を行う際の原則を確認しておきましょう。
1つ目は「安全な場所まで退避させる」ということ。
ペットもそうですが、応急処置をする人間が危険にさらされるような場所では、2次的な災害を引き起こす可能性が高くなるからです。ただし、交通事故などで頭部や脊椎の損傷が疑われる場合は、無理に動かさずに発見した場所で応急処置を施す必要があります。
2つ目は「もっとも重大な傷害に対して最初に処置をする」ということです。
状況を正確に認識して、何に対してまず処置を行うべきかを冷静に判断する必要があります。
3つ目は「安静に搬送する」です。
応急処置は、あくまでもこれ以上症状を悪化させないための一時的な措置です。最終的には必ず専門の獣医師に診てもらう必要がありますが、その際には安全に安静に搬送することが大切です。搬送の際には、身近にある板やタオルを担架代わりに使用するのもよいでしょう。
「RICE処置」とは?
応急処置の基礎として、「RICE処置」というものがあります。「RICE」とは、応急処置に必要な4つの事項をアルファベットで表記し、その頭文字を取ったものです。
【Rest(安静)】
患部を動かさないことで、腫れや炎症を抑え、出血を最小限に食い止めます。
【Icing(冷却)】
患部を冷やすことによって血管を収縮させ、血液の流れを抑制して痛みをやわらげます。
【Compression(圧迫)】
患部を圧迫して血腫(血のかたまり)ができるのを防ぎます。
【Elevation(高挙)】
患部を心臓より高く上げることで、患部に流入する血液の量を制限し、内出血を軽減させます。
動物の状態を確認するための方法
応急処置においては、状況を正確に把握することがとても大切です。そこで、状況確認のためのチェック項目を挙げてみました。これらの状況を把握しておくことで、搬送先の病院での診断・治療に有用な情報提供をすることもできます。
【状態確認チェックポイント】
・意識と反応があるか?
・呼吸をしているか?
・歩けるか?
・出血はあるか?
・変形しているか?(骨折があるか?)
・ショックのサイン
・内臓損傷のサイン
チェックポイントの解説
では、具体的にどのように状況を確認すればよいのでしょうか。チェックポイントの確認方法をご紹介します。
【意識と反応】
動物に声をかけて意識があるかどうか確認してください。適切な反応があれば精神状態は問題ありません。異常(意識喪失や見当識障害)がないことを確認してください。骨折や脊椎損傷が疑われる場合は動かさないようにして、声に反応するかチェックしてください。
【呼吸】
意識がなければ、呼吸をしているかチェックすることが重要です。胸が動いているかを見て、呼吸音を確認してください。または、手を動物の鼻に近づけ呼吸を感じてください。呼吸が浅い・または呼吸しているかどうかはっきりしない場合は、ティッシュや糸のような軽いものを動物の鼻の前に垂らし、動くかどうかで判断します。
【歩行】
意識レベルや呼吸状態に異常がない場合、歩行の状態を確認してください。跛行(びっこやふらつき)は罹患した肢の痛みを示します。地面から肢を完全に上げていることは骨折・脱臼あるいは重度の捻挫を示します。ふらふらするようであれば頭部あるいは脊椎損傷が考えられます。協調運動障害(意識や知能に問題がなく、なおかつ運動麻痺がないにも関わらず正常な動きができない場合)による歩行は中毒を起こしているかもしれません。
【内出血と外出血】
さまざまな場所で出血は起こりますが、体の表面からの出血(外出血)と体内で起こる出血(内出血)とで分かれます。たとえば、口からの出血は口腔内の出血以外にも肺からの出血(肺挫傷)の可能性もあります。体内で出血が起こった場合は出血の部分がわかりづらく、また生命に危険をおよぼす可能性が非常に高いです。
外出血が見られる場合、最初に行う応急処置は止血です。出血がないかどうかチェックをして、出血している部位を見つけたら、タオルや靴下など布地のものを用いて出血部位を圧迫して止血してください。
バイタルパラメーター
バイタルパラメーター(「バイタル=生きている」+「パラメーター=変数」)とは、生命が維持されていることを指し示す数という意味です。よくテレビの医療ドラマで、急患が運ばれてきたときに「バイタル、確認して」と指示された看護師さんが脈拍や体温などを確認する場面があると思います。バイタルパラメーターを確認することで、現在の状況を確実に把握することができます。以下に、その項目をご紹介します。
【毛細血管再充満時間】
上唇をめくり、指先で歯の上のピンク色をした歯肉の一部をしっかり押して(粘膜が白くなるまで)、どのくらいの時間で元の色(ピンク色)に戻るかによって判定します。
正常値:1~2秒 脱水:3秒以上
【呼吸数】
呼吸数:犬 10~30回/分(安静・睡眠時)、猫 20~30回/分(安静・睡眠時)
犬は正常時もパンティング(口を開けてハァハァと浅く呼吸すること)をしますが、猫は通常ではパンディングしないので、猫が口を開けて呼吸をしていたら獣医師に相談してください。
体温:健常犬の正常体温:38.1~39.2℃、健常猫の正常体温:37.8~39.2℃
歯肉の色:ピンク色(赤や白や黄やグレーは異常です。)
【心拍】
ほとんどの成犬 :60~160/分
子犬・小型犬 :~180/分
中型犬 :80~120 /分
大型犬 :70 ~ 120 /分
猫 :160~220/分
前肢を90度の角度に曲げた時の肘の位置が心臓です。心臓の位置で心拍が測定できない場合は、2本の指で軽く鼠蹊部(ももの付け根)を圧迫し、拍動(股動脈圧)の数を測定します。
おわりに
少々難しく感じたかもしれませんが、すべてを飼い主さんが「できる」必要はありません。何かひとつ知識をもっておくだけでも、対処できることがあります。それが獣医師への正確な情報提供であってもいいのです。普段からこのような情報を知っておくことで、万が一の時にも本当の意味で頼れる飼い主さんになれるのではないでしょうか。