はとバスの歴代の輸入車③ ケスボーラー・ゼトラS216HDS「スーパーデッカー」
不定期でお届けしている、はとバスが歴代運行してきた輸入車両をお届けするシリーズの第3弾です。過去2回ははとバス初の2階建てバス、ドレクメーラーE440をご紹介しましたが、今回は同時期に貸切観光用に導入された車両にスポットライトを当てます。
1983年正月から2階建てバスによる定期観光コースの運行開始に備え、1982年の暮れには3台のドレクメーラーE440ダブルデッカーがはとバスに導入されました。習熟運転を経て、いざ定期観光コースの運行が始まると期待通りの大人気を博しました。2階建てバスコースに注目が集まる中、はとバスは密かに貸切バスにも看板車輛の投入を計画していました。
2階建バスによる定期観光コースは東京と京都など限られていましたが、2階建ての貸切観光バスは台数がまだ少ないものの、全国的に広まりつつありました。従って、はとバスが定期観光に引き続き貸切観光にも2階建てバスを導入するのではと考えても不思議ではありませんでした。しかし、はとバスが貸切観光に採用したのは意外にも2階建てバスではなく、まだ全国的にも珍しい床下運転台(UFC)式スーパーハイデッカーでした。このバスは、運転席が2階建てバス同様客室の下に設けられ、それ以外の部分は高いアイポイントを確保した床の高い「2階だけ」バスでした。
多くの場合、2階建てバスの魅力は2階席からの良い眺望と1階席の豪華サロンを両方味わえることでしたが、全高の制限があるなか、居住性にはやや難がありました。このような状況の中、はとバスが良い眺望と居住性の両立を目指して導き出した答えがこのUFCレイアウトでした。
以前にもご紹介したように2階建てバスは西ドイツの名門メーカー、ドレクメーラー社製を採用しましたが、UFCは同じく西ドイツでトップシェアを誇っていたケスボーラー社製を導入しました。ケスボーラー社はゼトラのブランドで品質の高いバスを数多く製造するメーカーとして、高い評価を得ていましたが、はとバスが導入したゼトラS216HDSは同社でも2階建てバスに次ぐハイグレードなモデルでした。
はとバスが1983年夏に2台、1984年春に1台の計3台を導入したゼトラS216HDSは「スーパーデッカー」と命名されました。乗客定員は正座席のみの46名でしたが、中扉脇にはトイレを初めて採用しました。1階には運転席の他、交代乗務員とガイド用の席並びに交代乗務員が横になれる仮眠室を備えていました。エンジンはドレクメーラーの2階建てバス0と同じ330馬力を発生するダイムラー製OM422A型を搭載し、ケスボーラー社製のボディと相まって、ヨーロッパ車の乗り心地を堪能することができるバスでした。
まだ国産のスーパーハイデッカー車が登場る前のこの時代で、2階建てバスでも普通のバスでもない独特なUFCレイアウトの「スーパーデッカー」は瞬く間にはとバスの人気車両となり、長距離旅行では実力を如何なく発揮しました。特別に条件付きでいろは坂を登っていた日光方面への募集旅行は大人気で、行く先々で注目を集めました。
尚、かつてはスーパーハイデッカー車を「2階だけバス」と呼ぶことがありましたが、このUFCレイアウトのスーパーハイデッカー車こそが本当の「2階だけバス」と呼ぶにふさわしいと思えてなりません。
ケスボーラー・ゼトラS216HDS「スーパーデッカー」