絵本『どしゃぶり』
梅雨に入るとどうしても洗濯物の乾きやじめじめとした湿気に悩まされマイナスな思考になりがちですが、子供は雨を楽しむ無邪気さがあります。雨の降る中傘を差して歩いていたかと思えば差さずに濡れることを楽しんでいたり、傘をくるくると回して雨粒を跳ばしてみたり、軒下から滴り落ちる雨を傘に当てて喜んでいたり、終いには降る雨を口に入れようと大口を空けて天を仰ぐなんてことの目撃者になった経験はおありでしょう。
今回は絵本を通して雨を楽しむことを感じ取っていただけたらと思います。
真夏の暑い日に空に浮かぶ大きな雨雲を見つけ、そろそろ雨が降るぞと気付ける感性を子供達は持っているでしょうか。残念ながらここ十年程子供達はこのような自然を感じるような感性を磨く経験が減っているように思います。お母様の運転する車でのdoor- to- door の移動で便利になった分感性や五感を磨く機会を失っているように感じます。
せっかく沖縄に住んでいるのですから夏のスコール的雨を経験させてもいいのではないでしょうか。
主人の仕事の関係でその土地土地でいろいろな雨の経験をし、雨に香りがあることを知りました。雨と言う切り口だけでも思い出がたくさんあります。東京の雨はアスファルトの香りがし、北海道では大地の土、運河のある国では水、砂浜の続く国では砂埃、石畳のある国では独特の石の香り、沖縄の海辺では磯の香りのする雨。雨はいろいろな香りを纏うものだと感じたことも子供の敏感な嗅覚を通してでした。子供の敏感な発達時期に多くの経験をさせましょう。すると想像以上に感性が豊かになるものです。
この絵本には雨の降る様子がいろいろな描写で描かれています。雨が地面に落ちる粒の様子、雨音の擬音がいろいろな表現で描かれ記され、虫の視線で見える粒の大きさ、男の子が思わず駆けて、飛び跳ねて変化する楽しさを存分に楽しむ様子が生き生きと描かれています。
滝のように降りしきる雨を全身全霊で受止めているこの場面は、子供が肌で雨を感じ耳で雨音を聞き、全ての感性を発動して楽しんでいることが描かれています。
雨上がりに全身ずぶ濡れになりながらも気持ちが満たされていることが爽快な場面として描かれていることから、子供にとって身近に存在する感性を磨く方法であることはいうまでもありません。
雨が降っていないのにどこからか風に乗って漂う雨の香り、降り始めから刻々と変化し、雨上がりの頃にはまた別の香りに変化している。そんなことも気付けるような感性をお与えになれるよう願っています。
思い起こせば子供の頃雨が嫌いな子供でした。というのもくせ毛なので雨が降ると髪の毛が膨らむからで、でも唯一雨を容認できたのは濡れて帰宅した私の頭を母が大慌てでごしごしと拭いてくれることでした。長子である私に構えない母をなんとなく独り占めできるこの瞬間が心地良かったからでしょう。
雨には人それぞれ思い出があります。どのような思い出をお子さんは紡いでいるのでしょう。雨降る外を眺め、雨音に耳を傾け、雨の香りを嗅ぎ、雨に打たれ、絵本を読み、雨を表現するなどして感性に磨きをかけましょう。