第十一回 有限会社平瀬酒造店(岐阜県高山市)
「日本酒は日本の魂」
15代目社長 平瀬 市兵衛 氏
創業1623年。
396年 (2019年現在 )の歴史がある、高山では最古の蔵元。
飛騨の良質なお米と清らかな軟水、北アルプス(飛騨山脈)の伏流水で造られる銘酒。
Interviewee:社長 平瀬 市兵衛 氏(以下 平瀬)
Interviewer:美宴 吉田 綾子(以下 美宴)
美宴: 飛騨酒造組合の理事長でもおられる平瀬市兵衛さん。
市兵衛というお名前は、昔から代々続くお名前を襲名されてきているのですね。
平瀬: 今は襲名ではありませんが、芸名のような感じで受け継いでいます。
美宴: 名前を受け継ぐのは歌舞伎会などでもそうですが、日本らしい文化ですよね。
平瀬: 私はもともと機械設備系のエンジニアだったんですが9年前に蔵に入りました。
外の世界にいたこともあり、酒造りを客観的にみることができています。
ですから、よりよく蔵改善をしながら、伝統を継承しています。
美宴: なるほど。平瀬さんがもの造りで大切にされていることは何ですか?
平瀬: いい加減なものを造って商売ということはやりたくない。
その時期によって、出来の良い年、悪い年があるのは仕方のないことです。
しかし、きちんと原材料からこだわりを持って良いものを造っていきたいんですね。
飛騨の酒を前面に打ち出すため、酒米も水も飛騨100%にこだわり、
地元の特徴をしっかり味わえる日本酒造りを大切にしています。
美宴: それは業種に限らずですよね。
飛騨高山ブランドの冊子(メイド・バイ飛騨高山認証制度)が設けられ、
造り手さんがプライドを持ってもの造りに励むこと。
まさにテロワールですね。
平瀬: そうです。地産地消を大切にしたくて。
地域の知恵と工夫の中で地元の味というものが生まれてくるんです。
だからお客さんが飛騨の味を楽しみにきてくださるんですよね。
それが観光にも繋がってくると思います。
美宴: 久寿玉さんのお酒は飛騨の伏流水と、地元のお米を使われていますよね。
平瀬: はい、そうです。
北アルプス(飛騨山脈)の伏流水は不純物のないとてもキレイな水、
そして硬度が15の軟水なんです。
だからお酒も柔らい味に仕上がっています。
そして地元米のひだほまれ100%で、まさに飛騨の本物です。
美宴: 飛騨高山ブランドの冊子にあるように、このようにきちんとこだわりの説明書きがあると、
消費者にとっては大変分かりやすく、納得できますね。
平瀬: そうなんです!その地に行って、その地のものが食べたい人にとってはうってつけです!
4月には高山祭もありますので、ぜひ地のものを楽しみに来てもらいたいです。
美宴: 蔵元さんとして消費者の方々に何を伝えていきたいですか?
平瀬: 高山はグルメの街なんですね。
高山にはお金持ちの旦那衆がいたため味が発展しました。
富山から海のものがきてブリ街道ができたり、美味しいお酒ができたり。
昔この地には、酒蔵が56件もあったんですよ。高山は、味が認められないと流行らない場所なんです。
だから撤退していくお店も多いですよ。高山に受け入れられる味は、観光客にとっては新鮮なんです。
団子一つとっても美味しい。味文化なんですね。
昔飛騨は天領として外部との交流を制限されていました。
この経済封鎖によって残った町それが飛騨高山です。
時代遅れですが、逆に人間くさい町。
経済封鎖されていたからこそ、
キューバと同じように、文化が発達し、
独特の個性が育ってきたんです。
そういった歴史や文化を、皆さんに楽しんでいただきたいですね。
美宴: キューバという例えがとても分かりやすいです!
平瀬酒造さんが売りとされていることは何ですか?
平瀬: 他者に比べて、ワングレード、ツーグレードアップのお酒を造っています。
値段を上げずにオーバースペックのもの。
消費者の方々が買いやすい価格で、
質の良いお酒というのがうちの売りであり、目指している部分です。
美宴: コストパフォーマンスの良いお酒ですね。
年々海外からのお客様も増えてきていますが、外国人観光客の反応はどうですか?
平瀬: 英語で対応できるように指差しシートを作り、接客もしていたのですが、英語以外の国のお客様も来るし、
シートでは対応しきれなくなり、結局日本語で話して、それで買ってもらい商売成立しています!
言葉の壁を超えましたよ(笑)
中には専門的に日本酒造りを知りたいという方もいます。ワイナリーの人たちだとか。
製造現場なので見学用には作られていませんが、分かりやすく見せられる蔵作りを模索中です。
美宴: 実際に蔵を体験した後は、お酒の味わいも変わってきますよね。
味は五感で感じるものだと思います。文献で読んでも分からないですよね。
平瀬: その通りです!
味は情報で造られるんです。
だから、海外にお酒を持っていくのではなく、私はこの蔵が国際ステージだと思っています。
百聞は一見にしかずですので、皆さんにはなるべく蔵に足を運んでいただきたい。
それが私の願いです。
美宴: 最後に日本酒とはどのようなものだと思いますか。
平瀬: 日本酒がなければ、みりんやお酢という調味料はありません。
そのような調味料がなければ、和食もないわけですよね。
日本酒がなければ日本人ではないですよ。
だから、日本人として日本酒を飲むことがかっこいいことなんです!
日本酒は日本の魂です。
美宴: わー、かっこいい!日本酒は日本の魂ですか!鳥肌が立ちました。
感動するお話をありがとうございます。
平瀬: 私は、高山で一番古い蔵として、大きな期待を背負っています。
きちんとこの文化を繋いでいくことが私の使命。
激戦の中、ビジネスだけではなく、日本酒の伝統や文化を大切にしていきたい。
私はいつでも蔵でお待ちしております。