疫病退散を願う日本のお祭り
https://www.saiseikai.or.jp/feature/covid19/festival/ 【疫病退散を願う日本のお祭り】より
疫病退散の神事がお祭りの原型になっていることも
早く新型コロナウイルスが終息しますように……。古来、日本では疫病がはやると、神に祈り終息を願いました。その祈りは、「祭り」という形で現代に受け継がれています。疫病退散の願いを込めて始まった日本各地の祭り。今回は、主な祭りとともにその歴史を紹介します。
八坂神社「祇園祭」(京都)
「祇園祭」は、1100年以上の歴史と文化を継承する祭りです。日本三大祭りのひとつに数えられ、毎年7月に催されています。平安時代初期の869年、京都を中心に日本各地で疫病が流行したとき、災厄の除去を祈ったことをきっかけに始まりました。当時の国の数66にちなんで66本の鉾(ほこ)を立て、平安京建立の際に造られた「神泉苑(しんせんえん)」という禁苑(天皇のための庭)にスサノオノミコトなど祇園の神様を迎えて祀ったといわれています。平安時代中期からは、空車や田楽や猿楽などが加わり、より大きな賑わいを見せていきました。
また、祇園祭のときだけ販売される御守りが「粽(ちまき)」です。厄病・災難除けの効果があるとされ、京都の民家で飾ってあるのを見かけることができます。
祇園信仰は日本各地で広がり、京都以外でも開催されています。770年以上の歴史を持つ博多祇園山笠や、鎌倉最古の厄除神社・八雲神社の鎌倉大町まつりも祇園祭のひとつです。
大阪天満宮「天神祭」(大阪)
©(公財)大阪観光局
大阪天満宮の「天神祭」も、疫病退散を祈るお祭りのひとつです。天満宮は、“学問の神様”菅原道真を祀った神社です。平安時代、都で落雷や疫病の流行などが度重なって起こったとき、人々はこの災難を非業の死を遂げた道真公の怨霊によるものと考えました。その霊を鎮めるために「天満大自在天神」としてお祀りしたのです。政略によって太宰府へ左遷させられた道真公が、生前旅の無事を祈り、お参りしたという大将軍社。死後50年あまりの949年、社の前に一夜にして7本の松が生え、夜ごとにその梢を光らせたと伝えられています。これをお聞きした949年に時の天皇の勅命を受けて建てられたのが大阪天満宮です。
951年には「鉾流(ほこながし)」という神事が始まりました。大阪天満宮の社頭の大川から神が使うヤリのような武器「神鉾(かみほこ)」を流し、流れ着いた御神霊がご休憩される場所に祭場を設け、疫病退散を祈ったのです。これが天神祭の始まりとされています。この鉾流は天神祭の幕開けを告げる神事として、現在でも行なわれています。
2020年は天神祭の神事・本宮祭の様子や悪疫退散祈願祭が動画サイトでライブ配信されていました。実際の神事がどのように行なわれるのか、アーカイブで見ることができます。
素盞雄神社「疫神祭」(東京)
東京都荒川区にある素盞雄(スサノオ)神社は、素盞雄大神を祀った神社です。2月下旬から4月上旬の「桃まつり」に合わせて行なわれる祭典「疫神祭(えきじんさい)」は、災厄を祓う祭りとして知られており、神社の創建日である4月8日に行なわれます。
疫神祭では、「朝御饌の儀(あさみけのぎ)」という儀式が行なわれ、白い花をつけた桃の枝で祓をし(四方鎮の儀)、桃の木片を燻した煙と香りで四方を祓い清めます(燻桃)。また、4月1日から8日の期間のみいただける「白桃樹御守(はくとうじゅおまもり)」は、裏面に名前を書き込んで身につけたり、神棚におさめることで、身にふりかかる災厄を祓うご利益があるといわれています。また、旧暦で夏にあたる6月にも、疫病退散や除災招福、郷土繁栄を願う「天王祭」が開かれています。
ちなみに、「祇園祭」の八坂神社は牛頭天王(ごずてんのう)という神様を祀っていました。昔の日本では神道の神・スサノオノミコトと仏教に登場する神・牛頭天王が同一視されていたので、八坂神社と素盞雄神社は同じ神様を祀っていたことになります。
このように、日本で行なわれる祭りには、厄除けや疫病退散を祈ることで始まったものが多く存在しています。当時行なわれていた神事が、現在まで継承されている事例も少なくありません。2020年は祭りとしては中止となったものの、神事は例年通り開催されるものが多くあります。新型コロナウイルスが流行している今だからこそ、本当に必要なのはそのような祈りなのかもしれません。
Facebook・講談社BOOK倶楽部 投稿記事
病原体という「昔なじみの小さな敵」は、どのように世界を変えたのか?パンデミック期、パンデミック余波期を科学と社会の両面から解き明かす。人種差別、経済格差など、疫病によって顕在化した「分断」はポスト・パンデミック期にどうなるのかを追究。
わたしたちは「希望」を必ず見いだせる──今、もっとも求められる世界的権威による最高の知見、ついに翻訳版刊行! 詳細はこちら→ http://kcx.jp/humanknowledge
疫病と人類知 新型コロナウイルスが私たちにもたらした深遠かつ永続的な影響 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2021/5/10
ニコラス・クリスタキス (著), 庭田 よう子 (翻訳)
【本書の内容】
今、もっとも求められる世界的権威による最高の知見、ついに翻訳版刊行!
【ノーベル経済学賞受賞 ウイリアム・ノードハウス激賞】
「新型コロナウイルスの科学的・社会的問題を真っ直ぐに射る一冊。生物学、医学、疫学、社会学のバックグラウンドをもつクリスタキスは、この複雑な問題を解き明かすための最高の方程式をもっている。神々は、この本を書くために彼を創ったと考えたくなるほど、賢明で鮮明で魅力的だ」
【米ベンチャー投資家・京都大学特任准教授 山本康正絶賛】
「すべてのリーダー必読! 同じ構造の悲劇を繰り返してはいけない。感染症があぶりだした世界レベルでの社会の『不都合な真実』の検証。科学は都合のいいところだけを利用され、伝えられ、メディアの監視は機能していない。自称専門家の意見がメディアの都合によって増幅されてしまう。次の感染症に限らない危機も必ずやってくる。その前に今回の教訓を真摯に受け止め対策につなげなければならない」
新型コロナウイルスの問題は、「科学VS.経済」の対立構造があるとされ、格差、貧困、差別など、秘められた問題を白日の下に晒す。この問題を論じられる人物こそ、著者ニコラス・クリスタキス。医師であり公衆衛生学の研究者であり、社会的つながりを解き明かしたネットワーク科学の先駆者である知の巨人が、ここ100年間の疫病研究と最新の科学的エビデンスをもとに、疫病と”人類知”の攻防を描く。
病原体という「昔なじみの小さな敵」は、どのようにやってきて世界を変えたのか? パンデミック期、パンデミック余波期を科学と社会の両面で丹念に解き明かすとともに、ポスト・パンデミック期に言及。人類は数々の疫病と戦って歴史を紡いできた。わたしたちは「希望」を必ず見いだせる!
【目次より】
第1章 小さな大敵との出会い ウイルスのゲノムが描く感染地図
第2章 昔なじみの敵が戻って来る 「つながり」の多い人がスーパー・スプレッダーになる?/集団免疫の鍵は「人気者」が握っている
第3章 引き離すこと 感染症にはワクチンより経済発展が効く/政治化するロックダウン
第4章 悲嘆と恐怖と嘘 年収と性別で悲しみの度合いが異なる?/SNSと国家のデマ合戦
第5章 わたしたちと「彼ら」の分断 病原体は無差別だが人は差別をする/リモートワークは富裕層の特権
第6章 一致団結する 日本の「津波石」が語り続けること/利己的な遺伝子をもつ「ヒト」はなぜ助け合うのか?
第7章 深遠かつ永続的な変化 新しい自律と自主の誕生/サウンドバイト時代の科学の役割
第8章 疫病はどのように収束するか 脅威の測定基準は「失われた人生の年数」/疫病と希望は人類の一部