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reiko takeshima

[デザイン・イラスト・コピー]宇野バス様 座席シール

2021.05.27 02:30

 宇野バス様の、座席シールを制作させていただきました。

ご高齢の方からお子様まで、幅広い世代の方に目を止めていただけるよう、穏やかで親しみやすい印象のイラストと言葉を用いて制作しました。

社長様と社員の方とご一緒に作り上げた座席シール。制作エピソードをご紹介させていただきます。



「立たないで」ではなく「座っていて」


お話しをいただいてからまず最初にしたのがリサーチです。調べてみると「バスが完全に停車するまで、そのまま席でお待ちください」「ドアが開いてから席をお立ちください」「走行中は席を立たないで!」といった言葉とともに、運転手さんや、転んでいるおばあさんのイラストがついている座席シールが見つかりました。

私も同様のものを見かけたことがありますが、正直なところ、とりあえず貼られているものといった認識で、切実な言葉として受け取ったことはありませんでした。



もし私がおばあさんだったら、それらのシールを見てどう思うでしょうか…? 

車内事故では、おばあさんの転倒が圧倒的に多いそうです。ただ、転んでいるおばあさんの絵ばかり見せられるのは、あまり気持ちのよいものではないでしょう。そして「立たないで」と言われるより、「座っていて」と言われる方が、座っていたくなるのではないかとも思いました。

それで、立つという言葉は使わず、実際にしてほしい行動「座る」を一番始めに持ってくることにしました。


「座っていてください バスが完全に止まるまで」


「停車」ではなく「止まる」という言葉を使ったのは、時間をかけずに目に飛び込み、子供にも読めるようにしたかったからです。



座席シールにボタンの花の絵を選んだのは…


そのコピーに添える、おばあさんに気持ちよく見ていただける絵は何だろう…。

そう考えて思いついたのが「立てばシャクヤク座ればボタン歩く姿はユリの花」のことわざを用いた表現でした。花の絵が描かれていて、「ボタンのようにゆったりと、座っていてくださいね」と言われたら、「座っていようかしら」と思うのではないかと。また、車内に花のイラストが沢山あったら、文字通り華やぐのではないかと考えました。さらに「あなたはボタン(花)ですよ」という隠喩の意味も込めていて、懐かしいことわざと共に、穏やかな気持ちになってもらえたらいいなと思いました。

飛躍しすぎかな…とは思いつつも、社長様にご提案したところOKをいただき、さらに、いくつかバリエーションがあった方が楽しいねとおっしゃってくださいました。社長様とお話しする中でいつも感じるのは、お客様に安全で心地よく車内で過ごしてもらうことを、第一に考えてらっしゃることです。


少し話がそれますが、先日宇野バスさんを利用したとき、車内に広告アナウンスがないのと、携帯が充電できるコンセントがあるのに気づきました。美しく掃除された車内を含め、細かな配慮の1つ1つが積み重なって、気持ちよくバスでの時間を過ごすことができました。しかも、運賃は全国2位の安さ…。宇野バスさんを日々利用しているお客様を羨ましく思いました。




話を戻しましょう。

いくつかのバリエーションということで、ボタンののようにご年配の方に届く古風なテーマを用いながら、座ることを連想させる絵柄は何かと考えたのは次の3つです。寓話の「ウサギとカメ」、だるま、やじろべい。


可愛いおばあさん


ただ、やじろべいの絵は、最終的におばあさんに変更しています。アイデア段階ではOKだったやじろべいですが、実際に制作したものをご覧になって、もっと直接的に訴える絵柄にしたいと思われたのです。

というのも、車内事故で最も多いのは、両手に荷物を持って立っているご年配の方が、振り子のように振られ、転倒するケースなのです。改めてお話を伺うと、いかに切実な問題であるかを痛感しました。可愛いやじろべいでは確かにその切実さは伝わらないと感じ、描くことをあえて避けていた、転倒するおばあさんの絵に変更しました。



とはいえ、なるべく柔らかい印象にするため、背景はピンクにして、お団子スタイルのいわゆるおばあさんではなく、服装もピンクや黄色、グリーンなどの明るい色を用いて、可愛らしく見えるように描きました。

その代わり、両手に荷物を持っているとどうなるか想像できるよう、具体的に伝わる表現と言葉を選びました。



伝えたい相手は全世代
だから文字は大きく、ひらがな多めで、難しい漢字には振り仮名を


制作当初はご年配に向けてということでスタートしたプロジェクトですが、打ち合わせを重ねる中で、子供からお年寄りまで、幅広い世代に分かりやすく伝えたいという意向が加わりました。

そのため、文字を大きくして、難しい漢字はひらがなに変えたり、振り仮名をふったり、一部の文言をシンプルで伝わりやすいものに変更したり、「立てばシャクヤク座ればボタン歩く姿はユリの花」のことわざを知らない人のために、意味を紹介した一文を添えたりしました。

いずれも打ち合わせでのご意見を反映しての変更です。お陰でよりわかりやすくなりました。特に、振り仮名をふるということには、なるほどと思いました。今までの仕事で振り仮名の指示があった言葉はというと、非常に難しい漢字や特殊な読み方のもの。その感覚が当たり前になっていたのですが、不特定多数の方が使用する場合、大切なことだと実感しました。


親しみやすくて文化を感じさせるものは何?
イラストは、昔からあるものや寓話を題材に


古風なテーマを用いながら、座ることを連想させる、穏やかな印象のもの…。

実はこれを捻り出すのに少々時間がかかりました。


だるまさん。

安定感があり、古風で可愛らしいのではないかとチョイスしました。

宇野バスさんの緑色の座席に、ニッコリ笑ってだるまが座っています。お腹には宇野バスさんの「う」の文字。

だるまには「福」のような字が書かれていることが多いのですが、そのままではまずいので、何にしようかと思った時、運転手さんの帽子についている「う」を思い出しました。これがとても可愛いんです。それでだるまさんにつけることにしました。宇野バスさん謹製のだるま です。


ウサギとカメ。

イソップの寓話です。


お話でウサギが転ぶシーンはありませんが、ゆったりとしたカメの方が結果的によい結末を迎えるというお話の内容が、伝えたい情報とうまくリンクすると感じました。

ウサギのポーズは、とある有名な昔の絵から探してきました。何の絵かわかる方はいるでしょうか? 動物が非常に生き生きとした表現で描かれるあの絵巻物です。


背景はほのぼのとした明るい色に
注意書きだけど


背景色は、それぞれ明るい色を用いています。

実は初め、4種全てに淡いベージュ色を敷いていました。会社の落ち着いた上品なイメージを損なわないよう、バスの車体の茶色と統一感を出しながら、絵柄が目立つようにしたのです。

しかし、打ち合わせで社員の方から背景色を全部変えて明るくしては?という意見が出て、それを反映さてみたところ、ぐっと可愛らしくて楽しい印象になりました。


変化球な座席シール。効果が表れるかドキドキ
完成後の反響は…


そうして完成した座席シール。シールを貼ってから、お客様が席に座るようになったり、ご年配の方からお褒めのお電話がかかってきたり、シールについて声をかけてくれたり、シールを欲しいという方まで現れたとか…。


座席シールが、単に事故防止のためだけではなく、「座ればボタン」を見て、ご年配の方が心和んだり、小さなお子さんがことわざや花に興味を持ったり、だるまを見てほっこりしたり、車内空間が心地よく楽しくなって、ほんのり文化を感じられたら…と、心を込めて制作しました。そうしたコンセプトは、全て宇野バスさんの哲学をお聞きする中で生まれたもの。

その思いがお客様にしっかりと伝わっているようで、本当に嬉しく思っています。またやや変化球のアイデアにゴーサインを出してくださったことを、とても有り難く感じています。


社長様や社員の方の率直なご意見があったからこそ誕生した座席シール。これからも事故防止と、お客様にほっこりとしていただける一助となれば幸いです。



ぜひ、路線バスの旅、なさってみてください。

いつもは自家用車で通る道も、車体の高いバスの座席だからこそ見える景色が広がっています。居眠りすもよし。静かな車内でゆっくりと過ごす時間は楽しいものです。





宇野バスさんのホームページの2021年5月21日(金)のお知らせでこちらのページをリンクしていただいています。シールについても素敵にご紹介してくださっています。心より感謝申し上げます。


追記

私のインスタ宛に、宇野バスファンの高校生から温かいメッセージが届きました。せっかくのなので、転載いたします。

「いつも通学等で宇野バスを利用しています。僕は今高校生なのですが、小学生の頃から宇野バスが大好きで車庫に毎日通うほど。

今でもたくさんの運転手さんと仲良くさせて頂いています。

そんな大好きな宇野バスに可愛いシールが着いたのがつい最近。

みるみるうちにたくさんのバスたちに貼られていきシンプルな宇野バスの内装にワンポイント可愛さがブラスされました。見るとほっこりするイラスト、そこに車内事故を減らす注意書き...

とても素敵だなと思いました!

僕の大好きな宇野バスに、素敵なイラストをプラスして下さり、本当にありがとうございます🥰」

届いてほしいと思っていたことがちゃんと伝わっていて、とても嬉しかったです。


クライント:宇野自動車株式会社

イラスト・デザイン・コピーライティング・ディレクション:タケシマ レイコ