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⑪「かもしましょう、新婚感」「出しましょう、親密感」は理想の企業の描写なんです

2016.12.18 13:00

この『逃げ恥』対談記事もようやく佳境に入ってきました。ここからは我々二人の会話も一気にヒートアップしていきます。

みくりと平匡という主人公の二人がどんな障害を乗り越え、どんな成長を果たしていくのか。彼らの言動は、ドラマ『逃げ恥』のもっとも重要なテーマである「雇用」という契約システムの問題とどんな風に絡んでいるのか。

それぞれを具体的なシーン分析を通して、見ていきたいと思います。もし良かったら、まずは以下のリンクからこれまでの会話にも目を通して下さい。


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特に読んでいただきたいのは、みくりが「いいですよ、私は。平匡さんとだったらそういうことしても」という行動に出た、話題のシーンに対する我々の解釈です。ここでの解釈は、ある意味、常に素っ頓狂で、突拍子もないみくりの行動に似て、どうにも理解しがたいロジックかもしれません。でも、こういう視点もある。そんな風に読んでいただければと思います。

いずれにせよ、「結婚届や雇用契約書に記載されてない契約システムの外側を描き出そうとしているのが、ドラマ『逃げ恥』なのだ」という我々の解釈が少しくらいは説得力を持って受け取っていただけるかもしれません。では、引き続き楽しんで下さい。


田中「みくりの叔母の百合ちゃんって、これまでずっとキャリア女性として社会的な立場を勝ち取ることに懸命になってきたわけだよね」

小林「ですね」

田中「それ以前に、男も女も関係ない、とにかくいい仕事をするんだ、っていう理想に突き進んできたわけじゃん」

小林「ですね。でも、同じように理想的な結婚を夢見てるがゆえにいまだ結婚相手をみつけられていない」

田中「で、もしそんな百合ちゃんに自分たちが偽装夫婦だってことがバレたら、いろんな意味で、えらいことになっちゃうわけでしょ?」

小林「で、わざわざ百合ちゃんのオフィスの前の公園まで、みくりと平匡の二人が休日に出掛けていって、ハグしてるところを見せようとしたりしますよね」

田中「あのシーンなんて、まさにそうじゃん」

小林「うん? あれが理想の雇用の現場の描写?」

田中「そうそう」

小林「例の『かもしましょう、新婚感』、『出しましょう、親密感』ってやつですか?」

田中「だって、あれ、企業がその役割をまっとうするために、雇用主と従業員が一丸になるって話でしょ」

小林「あ、なーるほど」

田中「二人の目的は、偽装夫婦っていう自分の仕事をまっとうすることなんですよ。つまりは、企業の責任って話なのよ」

小林「それが理想的な雇用の現場の形だと?」

田中「いや、それだけじゃなくてさ。特にみくりは、この馬鹿馬鹿しいハグ作戦に関しても、たとえ自分たちの立場や関係がさらにややこしいことになったとしても、彼女なりに論理的に合理的に考え、問題を解決しようと懸命になったってことでしょ」

小林「小賢しいこと考えて、大まじめにそれを実行する(笑)」

田中「平匡も薄々は馬鹿らしいな、と思いつつも、一応、論理的には筋が通っていると判断して、それに乗っかるわけじゃん」

小林「やっぱり平匡も論理と理性の人だから」

田中「でも、筋は通ってても、百合ちゃんの気持ち、感情をきちんと考えたら、それって違うんじゃないか? って、ごく当たり前のことに最初に気付くのも、平匡なんですよ」

小林「なるほど。つまり、二人とも論理的に考え、理性で行動するタイプなんだけど、平匡の方がまだ他人の気持ちを考えることが出来るんだ、と」

田中「その通り。みくりって、性根は優しい心の持ち主なんだけど、あまりに論理的に考えすぎるがゆえに、他人の気持ちとか感情を推し量るのがホント下手なんだよね」

小林「まあ、自分の気持ちとか感情も、自分の理性で押し殺してきた人なわけだから、そうもなりますわな」

田中「そうそう。そういう意味じゃ、彼女はすごくフェアなんですよ。自分のことばかり考えてるわけじゃない」

小林「でも、それって、他人からすれば、まったくわかんないですからね」

田中「で、最大のポイントは、みくり自身がずっと論理性と合理性に従っただけだと思い続けてきた、その裏にはちょっとした思いやりや優しさが潜んでいるってことなんですよ」

小林「思いやりと優さしさ? なんか嫌だな。そんな言葉をタナソーさんから聞かされるのは」

田中「彼女のすべての行動は、最初はただただ仕事を貫徹するためだけの論理的、理性的な動機なんだけど、次第にその裏側に潜んでいた思いやりや優しさが仕事の領域を逸脱していっちゃうのよ。契約を超えていくの」

小林「あー、なるほど」

田中「それが理想の仕事の現場」

小林「つまり、それこそが『逃げ恥』のテーマだ、と」

田中「そういうこと」

小林「ふ~む」

田中「そんな風に考えるのって、ナイーヴすぎるモノの見方かな?」

小林「ナイーヴだとも言えるし、むしろプラクティカルな視点だとも言えるんじゃないですか」

田中「しかも、二人とも、自分では自分自身の優しさや思いやりにはまったく気付いてないんだよね。自分ではまったくわかってない」

小林「そこがまたチャーミングだ、と。なるほど」

田中「でも、ストーリーが進むにつれて、みくりが最初に平匡の優しさに気付き、平匡が誰よりもみくりの優しさをきちんと理解するんですよ」

小林「確かに」

田中「前に小林くんも言ってた通り、仕事も恋愛も、自分以外の誰かを思いやることが何よりも大切なわけじゃん」

小林「で、それこそが、このドラマが描こうとしてる『仕事+α』の部分なんだ、と」

田中「言い方悪いけど、それこそが唯一の成功の秘訣なわけですよ」

小林「そういうと、意識高い系みたいですからね(笑)」

田中「つまり、結婚届とか雇用契約書には記載されてない、その契約というシステムの外側に歩き出していく二人の姿をドラマが追いかけていく、それが『逃げ恥』なんだよね」

小林「なるほどねー」

田中「ほら、他にも、二人が旅館に泊まりに行くシーンがあったでしょ。そん時、職場の友人からもらった精力剤を平匡が間違って部屋に忘れちゃうじゃん」

小林「旅館の仲井さんが、みくりには精力剤だってバレないように風呂敷に包んで持ってきてくれるシーンですよね」

田中「で、その仲井さんの仕事ぶりに平匡が思わず感動するでしょ」

小林「そうか。雇用契約書の内容から考えれば、別に仲井さんはそんな余計な気遣いまでしなくていいわけですもんね」

田中「つまり、システムや契約から食み出ていく、小さな優しさや思いやりが『逃げ恥』のすべての中心にあるんですよ」

小林「なるほどねー。それこそが雇用や結婚の再定義だ、と」

田中「それが感動的なんじゃん、『逃げ恥』は」

小林「しかし、ホント面倒くさい見方してますね」

田中「いやいやいや、視聴者はみんな、そうだよ。俺みたくそれを無理やり分析して、それを言葉にしようとしないだけで。きっと同じように感じてる」

小林「まあ、でも、『言葉するのは無粋だ。感じるだけでいいんだ』っていうのが今の流行りですけどね」

田中「まあね」

小林「普通は『小賢しいこと言ってんな』って思いますよ」

田中「ずっとそう言われてきましたよ。何十年も」

小林「実際、『逃げ恥』を純粋に楽しんでる人の気持ちに確実に水を差すような会話しかしてませんからね」

田中「いや、もちろん俺だって、主人公二人がくっつきそうで、うまくいかない関係にドギマギしたり興奮したりしてるからね」

小林「してないっしょ」

田中「いやいやいや、ムズキュンですよ。でも、何かと分析してしまう悪い癖があるってだけの話だっての」

小林「あ、それで、みくりっていうキャラクターに自己投影したりするんだ?(笑)」

田中「まあね」

小林「そんな人、かなりマイノリティですよ」

田中「ほら、みくりの場合、邪心もなく思わず詮索したり、分析したりすることで、周りから拒絶されたりするじゃん」

小林「そこにも自分を見るんだ?(笑)」

田中「だって、批評家ってそういう仕事じゃんか。ただのお節介なわけじゃん」

小林「まあね」

田中「でも、むしろ俺の場合、そういうのを気のない相手に思わずうっかりとやっちゃって、『あ、この人は私のことを誰よりもわかってくれてるかも』って勘違いされたりもするのが厄介なんだけど」

小林「モテ自慢ですか」

田中「でも、モテないよりモテる方が大変なんですよ」

小林「知りませんよ」

田中「ほら、平匡の同僚の結婚不要論者いるじゃん。風見涼太。あいつ、めっちゃ口上手いでしょ。でも、あまりに口が上手過ぎて、口から出まかせだと思われて、むしろ信用されなかったりするでしょ」

小林「それも俺だ、と言いたいと」

田中「俺も大変だって話ですよ」

小林「知りませんよ」

田中「でも、面白いのは、風見涼太にみくりが口説かれた時に彼女が考えるのは、二人っていう単位の平穏に逃げ込むことについての誘惑でしょ?」

小林「そうなったら、きっと楽になるに違いない、って。風見が恋愛や結婚の相手としてそぐわないって判断じゃないんですよね」

田中「彼女にとっては、キャリア、雇用っていう問題の方が、社会的な問題としては結婚よりも上位概念だから」

小林「なるほど。それに対し、ブラック企業から今の職場に移ってきて、社会的な地位と経済的な安定を勝ち得た平匡は、一人でいることがむしろ平安として意識されてる」

田中「そこにねじれがある」

小林「このドラマの最終的な肝は、そのねじれがどんな風に解消されるか、ってことですよね」

田中「その辺りを、ベランダにやってくる二羽のジュウシマツに象徴させてるんだと思うな。あの二羽のジュウシマツ、最終回に絶対出てくるよ」

小林「じゃあ、ここまでの最大のハイライトだったシーンありますよね? ストーリーが一気に加速したシーン」

田中「あれでしょ? みくりが『いいですよ、私は。平匡さんとだったらそういうことしても』って言って、平匡に抱きつくシーン」

小林「で、平匡が思わず拒絶しちゃったっていう」

田中「視聴者の多くが『おい! 平匡、ダメだ!』って思ったシーンね」

小林「でも、あの時の平匡のこと、責められないじゃないですか。だって、自分が傷つかないように、ずっと恋愛から距離を取ってきたわけだから。自分に自信がないのはもちろんのこと、愛されることにまったく耐性がないわけですから」

田中「珍しく他人に同情的だね」

小林「だって、耐性ないんだし。仕方ないですよ」

田中「その発言、自分がJ-POPに対する免疫がなくて、思わず暴言吐いたことの言い訳にしか聞こえないけど」

小林「免疫ないんだから。仕方ない。責めちゃいけない」

田中「だそうです、読者の皆さん」

小林「じゃあ、タナソウさんは、あそこのシーンはどう見たんですか?」

田中「あそこで注目すべきは平匡の態度じゃなくて、むしろみくりがこれまでの彼女と違って、初めて大きく変わったシーンだっていう風に解釈したかな」

小林「え? でも、あの突拍子のなさとか、いかにもみくりっぽくないですか?」

田中「いやいやいや、違うんですよ」


<続く>