もしも黒猫様が悪女に転生したら7
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昨日、皇帝陛下と話した通り。
僕は仮面野郎の取り調べのため、殺風景な地下牢…ではなく。
僕の部屋にそいつを連れてこさせたのだ。
流石に危険すぎるとか、招く必要がどこに?!などなど。
すごい大批判を食らったが、好きにしていいって許可したよな?と言えば全員黙り込んでいた。
あの時の言葉はそういうことか、と皇帝陛下まで頭を抱えていたが、
こんなことで使うわけないだろう、と言いたい。
たしかに汚い地下牢にわざわざ赴かなければならないのも嫌ではあるがな。
そうして衛兵に連れてこられた容疑者は、捕まえられた服装のまま。
仮面だけ外されており、両手両足に枷をはめられた状態で僕の部屋に座らされたのだ。
あの時は仮面のせいで見えなかった素顔がよく見える。
白髪に近いプラチナブロンドの髪はふわっふわの癖っ毛で、中性的な顔立ちに浮かんでいる眼差しは深いブルー。
子供が見たら天使さん?!とか言い出しそうな容姿は随分と綺麗なものだったが、
その容姿を見た瞬間、僕は前世の記憶。
つまり小説の記憶を思い出したのだ。
この容姿ってたしか、メインキャラの一人だった気がする……。
いや、今はそんなことどうでもいいか。
とりあえず話を進めよう。
小説のキャラだとしても、小説の物語は大きく変えているのだから。(主に僕の行動で)
ソファに座ったそいつは僕を前にして「ようやく会えた。」と呟いた。
いつもなら壁際で控えているセルナンド卿がわざわざ僕の背後に立っており、何かしようものなら容赦しないとばかりの目つきなのがすこぶる気になるが…。
うん、心強いと思っておこう。そうしよう。
目障りだからもう少し離れてくれないか?と言ってもこいつは聞かなさそうだ。
そのほかにも部屋にはジーナ、皇帝陛下に騎士団の団員数名が待機している。
こんなに人を詰め込む予定はなかったのだが…。
取り敢えず口出ししてこないならそれで良しとしよう。
そう思った僕は部屋に置いてあったチェスを仮面野郎の目の前に持ってきて向かい側に座ったのだ。
「さてと、チェスはできるか?」
「まあ…、それなりに。」
「じゃあチェスでもしながら話しを聞くとしよう。」
僕がポーンを掴んで一手を置くと、そいつも躊躇いなく手を動かし始めた。
しばらく沈黙が落ちたものの、
「あんた、あのアーティス・べレロフォンだったんだね。びっくりだよ。まさかあの悪女がこんな姿になってるなんて。」
最初の発言はそんな内容から始まった。
「てっきり男だと思ってたのに。どういう風の吹き回しでそんな格好なわけ?」
「ドレスは重いし、敬ってもない相手に礼儀も社交辞令も言いたくないし、長い髪は邪魔。ヒールは足が痛くなるし、化粧も面倒くさい。生物学上、女でもあるし貴族でもあるが、それだけのことだ。」
「面白い発想だね。そんなこと思ってても貴族令嬢は絶対言わないだろうに。」
「ここにいるだろ。」
「そうだった。」
フッと笑いながらチェスを進めつつ、会話はゆっくりと進行していく。
「そういやお前の名前を聞いてなかったな。」
「アレン。」
そのひと言に僕はやはり小説のメインキャラの一人だと確信していた。
たしか…、
「しがない泥棒だよ。」
そう。泥棒。
けれど泥棒ほど情報に精通しているものもいない。
だからこいつは情報量はあっても、使いこなせることはなかったのだ。
盗むために様々な情報を集めるだけで、盗む以外のことに使うこともなかっただろうからな。
ヒロインとは一年後。
誘拐されかけていた彼女を助ける出会いから始まるんだったっけ?
そこら辺はやっぱり覚えてないな。
けれどアレンというキャラは、裏世界で名を知られていないやり手の泥棒だったことは覚えている。
裏の世界で、名前を知られていないということほど凄いことはないのだ。
そこだけ共感したから覚えていた。
「泥棒がまた、なんでこんな派手なことやったんだ?」
「……アーティなら、それも含めてもう知ってると思ってたけど?乗っかって話すべきとこなの?」
静かな視線を向けて試すように見てくるアレン。
僕の愛称をサラッと呼んだことにセルナンド卿がイラついたのがわかったが、手で制しておいた。
「おっかない騎士までついて…。伊達に継承権を持ってる御令嬢じゃあないってことか。」
「継承権は返上した。」
「え…、」
「一応まだ公爵家の人間ではあるが、貴族もある程度したら辞めるつもりでいる。」
「は…?」
「あとこの護衛はクビにしたいと思ってる。」
「……えっと?」
アレンが目を瞬いて僕と背後のセルナンド卿を交互に見る仕草に、
「貴族すら辞めるのであれば、私がべレロフォン嬢の言うことを聞く必要もなくなるということですね。」
セルナンド卿はサラッと僕につきまとってくるような発言をするので横目で睨みつけておいた。
そのやり取りを見ていたアレンは小さく笑いながらも、
「仲良いの?」
なんて聞いてくるもんだから、
「そんなわけないだろ。」
「とても親しくさせてもらっています。」
同時に僕らが発言した内容は大いに食い違っていた。
思わず振り返って勝手なこと言うな!と一喝すると、
「わがままで怠惰で、無防備なべレロフォン嬢の世話まで出来る騎士が私以外にいるでしょうか?」
…と、真顔で見下ろされると顔が引き攣る。
こいつはやっぱりクビにしよう。そうしよう。
取り敢えず話しを元に戻すべく、僕はセルナンド卿を無視してアレンに向き合った。
「派手な振る舞い。国の予算を脅かすほどの勝ち逃げ。捕まることも考慮した一連のことを考えるに…。国の予算を独り占めして国を人質にとっても、捕まっても、お前の目的は果たされる計算だったんだろう?」
「………やっとマトモな話しが出来る相手に感謝するよ。無能なこの城の奴らはそれすら理解せずに尋問してきたからね。」
コトン、とチェスのコマを進めてきたアレンのひと言には待機していた騎士団員がピクリと反応していた。
まあ、こいつはなんだかんだ頭が悪いわけじゃない。
得意分野は盗みと情報収集ってだけで、それを活かしてくれる人材を探していたに過ぎない。
「じゃあとっとと交渉しよう。僕を引き換えに、お前は国にとってどれほど利益になる物を持ってるんだ?」
「さすがだな。そこまで見越してたとはね。」
「お前を使いこなせるのは僕だけだからな。」
「ほんとうに、流石だよ。」
クスクスと笑いながらアレンは頷いており、次の一言で場を凍らせた。
「世界各国で指名手配、もしくは未解決事件の犯人や他にも表に知られてない悪党とか。誰がどんな悪行を行なっているかを記したブラックリストを渡そう。」
それはある意味、他の国に渡されたり、悪意ある人間の手に渡されたりしたらこの国が滅びるのも目に見えている。
さすが名を知られないまま泥棒家業を続けているプロなだけある。
「そのリストは紙に記されているのか?お前の頭の中にしかないんじゃないか?」
「そりゃあもちろん。殺されたら元も子もないだろう?どこにも物的証拠は残してない。俺の頭の中にだけあるリストだ。」
「だろうな。」
本来、この男の情報の使い方は自分の身を守るためのもの。
けれど証拠のないリストは、命懸けのリストとも言える。
つまり、命懸けのリストは目に見えないが、自分の命と引き換えるほどの情報をきちんと所持していることを示すのだ。
ハッタリでこんなことを言う奴なら、とうの昔に死んでたはずだしな。
真実と目的を分けて己の欲しい物を手にするのが泥棒だ。
手段は選ばないにしろ、欲に忠実な性質は疑うことなど無意味。
「ふむ。ひとつ聞きたいんだが…」
「なに?」
「そのリストはお前の頭の中にだけある。つまりお前はこの国の捕虜として二度と国外には出られないことも承知の上でそう言ってるんだよな?」
「もちろん。」
即答されたことに僕はため息をついていた。
「嘘だな。」
「………ああ、そっか。アーティは嘘がわかるんだったな。」
失敗、失敗、と軽口で終わるアレンは愉快そうなだけで特に見破られて困ることもないという態度。
周りの人間はこんな態度の犯罪者がサラッと嘘をついたことに怒りを覚えているようだったが、
元より泥棒はこういうものだ。
「やれやれ。お前のことだ。ここにいたくないと思えば逃げる算段をするに決まってるからな。例え困難でも、どんなセキュリティでも破ってしまうのが泥棒だし。」
「御名答。」
「つまり、逃げる気も失せるほどの何かがあればいいわけだ。」
「そんなものある?俺は飽きっぽいし、ひと所に留まるようなタイプじゃない。」
まあ、それはそれで見ものだけど。
なんて言って伺うような眼差しを向けてくるアレンに僕はひと言。
「じゃあこうしないか?僕と契約を交わせ。それなら国外だろうがなんだろうが好きに出歩けばいい。」
「………そういうことか。隷属の魔法で契約し、ブラックリストは口外無用だと命令しておけば安心だと。」
「表向きはな。」
「表向き?」
他になんかあるの?とアレンが問いかけてくることに僕はゆるりとほくそ笑んでいた。
「お前は情報を集めてくるのにとても便利なだけでなく、そんなに面白そうなリストをどうして使わない手がある?」
僕の顔を見ていた周りの連中が肩を上げて「めちゃくちゃ悪い顔してる!」と呟いていたことは聞かないふりをしておいた。
「極悪人のリストをどう使うつもりでいるわけ?」
普通ならば国に入らないようリスト名の通達だったり、あわよくば証拠を先周りで押さえて逮捕が常套手段かもしれない。
…が、
「悪党ほど使い捨てできる駒はないだろう?適材適所に使わないでどうする?それに…」
「それに?」
僕が悪い顔をしていたからなのか、部屋の連中は凍っているもののアレンだけは興味を示して静かに返答を施してきた。
それだけでもこいつは使える、と思った僕は続けたのだ。
「お前のように面白い物を持ってる奴もいるだろうからな。寧ろそのリストはお前の目的の一端を担ってくれる奴だっているんじゃないか?」
「…、」
「ただお前が扱いきれないだけだろう?交渉は任せろ。脅しでもなんでも使って全部吐かせてやる。その上で欲しい物を手に入れるのはお互い様だ。」
トン、と駒を進めた僕にアレン以外のみんなが僕にそのリストだけは渡してはならないと思ってる様子だったが、
アレンはクツクツと喉奥をつっかえさせるように笑って深く息を吐いていた。
「悪女っていうか、生粋の極悪人だな。そんなことこんな場所で言っていいの?」
「知られてまずいことでもない。別に国に害をもたらそうなんて思ってないしな。寧ろ国のためにもなるだろう?誰にもどうにもできない極悪人を好き勝手していいなら僕は誰よりも国の味方だ。」
にっこりと言い切ると同時、これにはアレンも含んで全員が顔を引き攣らせていた。
こいつサラッと国を人質に取りやがった!と心の声が一致しているのが聞こえた気がするが無視しておこう。
「でもまあ、それがしたくてもアレンがいないとできないからな。僕は遊びたいだけだ。あわよくば面白い物を見つけたらきっと楽しいだろう?」
ふふっと笑いながらアレンを見つめると、肩の力を抜いたアレンがやれやれと苦笑していた。
「誘惑上手だねえ、あんた。脅しだっていうのにそんなふうに言われたら乗るしかないじゃん。」
クスクスと愉快そうに笑いだすアレン。
こいつの欲しい物は常にスリル。
常識の範囲で尋問して口を割らせるなんてできないし、引き止めておくことだって不可能だ。
こういう相手には下手な口説き文句より脅しの方がよっぽど効くし、
けれど心底恐怖させていい相手でもない。
こいつになら使われてもいいかと思える心理的な言葉も交えながら話さなければ、この手のタイプはすぐ裏切るからな。
「さてと、じゃあ交渉の内容は少し変更だ。僕がお前の目的のために協力してやる代わりに、アレンは僕のものになること。」
当然、囚人扱いも捕虜にもしない。
代わりに隷属の契約を結ぶことで国としての体裁を保ちつつ、裏で好き勝手する悪友ができたって感じだな。
「オーケー。でもいいの?俺の目的聞かないままそんなこと決めちゃって。」
「大方の検討はついてるからな。」
「え…」
「まあこの話しは聞かれない方がいい。…いや、聞かない方がいいだろう。ここにいる連中は。」
皇帝陛下までいるのだ。
聞かないほうがいいことだってあるし、知らない方が自分のためになることもある。
僕の言い分にアレンは目をパチクリとさせながら「本当に見事だ。」と笑っていた。
「アーティの頭の中どうなってんの?」
「僕とそこらへんの馬鹿を一緒にするな。」
「あははっ。」
「あと、チェックメイトだ。」
最後のコマを動かして終了を告げたゲームに、アレンは参りましたと降参のポーズを軽くとっていた。
「あんたを敵に回すことほどやばそうなもんはないね。」
「そうか?味方になれば物凄く心強いとも取れるが?」
「まったく、よく回る口だな。殴ったら折れそうな身体してるくせに。」
「物理的な戦闘力はないが、僕にはそんなもの必要ないからな。」
ていうか殴る気力なんて最初から折る、と僕がにこやかに言うとガタガタ震える奴らが数名。
アレンとセルナンド卿はフッと笑っており、皇帝陛下は頭を抱えていた。
まあとにかく、
「では契約を先に済ませよう。」
「はいはい。俺もこんな状態嫌だしね。」
隷属の契約書を用意してもらい、皇帝陛下は何か言いたげではあったが僕を信用してくれたのか…
「はあ、お前に裏切られたら国が終わるなこれは…。」
なんて言って契約書を渡してくるのだ。
「安心しろ。僕は自分の好き勝手できる場所にいたいだけだ。まさか、自分を陥れる奴が国の頂でもある城の中で悠々自適に生活してるとも思うまい?」
「恐ろしい奴だな。城のセキュリティすら利用するか。」
「当たり前だ。一から安全な場所を作るより、一番安全な場所でダラダラしてるほうが効率的だしな。」
狙われていようとも城に忍び込むなんてそれだけで犯罪になる。
そもそも僕が城にいるとも思わないだろうから見つけるのにも苦労するはず。
「持ちつ持たれつってやつさ。僕の好きにさせてくれるなら、この国はちゃんと裏から支持してやる。今回のようにどうにもならない事態を解決するくらいわけないからな。」
フッと笑ってやれば、陛下も頷いていた。
暗黙の了解で裏の皇族になったも同然の瞬間だった。
継承権も返上したし貴族だってやめるつもりではいるが、皇帝陛下と同じ権力を有したも同然なのだ僕は。
悪意はこうして使わないとな。
恨まれ、憎まれ、警戒されるだけの陳腐な悪意を振り撒く気はない。
敵に回したくない悪党だと認めさせ、その上での信頼があれば利害は一致するのだから。
「次の皇帝がお前をきちんと扱えるか今から不安で仕方ないがな…。」
私の息子にそこまでの度量があるのだろうか、と陛下はしょぼしょぼしていた。
寿命が10年は縮まったぞ、とすら言っていた。
「後継者選びは慎重にするんだな。それができなかったら僕は別の国に行くだけだし。」
「うう…っ。誰か胃薬を頼む。」
そんなこんなでアレンとの契約は交わされ、僕は真っ先にブラックリストは僕以外への口外を禁止する命令を出した。
「命令、そんだけでいいの?裏切るなとか、嘘つくなとか、色々ありそうなのに。」
アレンは両手両足の枷を外され、伸びをしながら問いかけてくる。
「必要ない。裏切られたら僕の器もその程度のものだったってことだろう。嘘は聞いたらわかる。」
「ほんと、とんでもないなあんた。」
「それより、」
くるっと向き直りながら僕はアレンにひと言。
「早く風呂入れ!」
何日間同じ物を着て、風呂に入ってない状態だろうか?
どんなに見た目がよくてもこれはない!
「ジーナ!風呂の用意だ!あと服も!!」
「は、はい!」
僕の指示にアレンはポカンとしており、次の瞬間にはケラケラ笑って入浴を済ませていた。
その間、アレンが座ったソファをきれいに掃除し、除菌まで済ませていた僕に、
「汚いものが嫌いなのは分かっておりましたが、ここまでしますか?」
セルナンド卿がピッカピカになっている部屋を見回すのも仕方ない。
ソファだけど思ったのだが、先程皇帝陛下並びに騎士団も立っていたと思うと気持ち悪くなってきて、部屋の大掃除に発展したのである。
成り行きとは言え、前世からの病気はこの世界でも治る見込みはなさそうだ。
「仕方ないだろ!汚いと思ったんだから!」
ようやく綺麗になった部屋を見渡し、掃除用具を片付ければ、
とっとと風呂から出ていたアレンもやっと終わったかって感じで近寄ってきた。
「俺、これからどこに住めばいいわけ?」
「ここに決まってるだろ。」
「ここって…、」
「僕の部屋だ。」
「………」
そんなこと当然だろう?と思っていたのだが、僕以外は当然に思ってなかったらしい。
次の瞬間には、
「正気ですかアーティス様?!殿方と、しかも先程まで囚人だった方ですよ?!」
「そうです!部屋は分けましょう!ていうか分けてください!!!襲われたらどうするんですか?!」
…と、猛反抗を喰らっていた。
これにはアレンも反論できないようで、僕の返答を待っていたのだが…
「あのなあ、隷属の契約を交わしてるのに襲われる心配がどこにあるんだ?」
「そういう問題ではありません!モラルの問題です!!!契約したからと言って信用できるとは限りません!!!」
「大丈夫だって。それに部屋を分けるより側に置いておいたほうが安心だ。こいつはこんな奴だが、腕っ節は立つだろうし。護衛としても使えるぞ?」
「護衛は私一人で充分です!」
セルナンド卿は一歩も引き下がる様子がない。
ジーナも今回は味方してくれそうにない。
むうっとしながらも、僕はアレンへと振り返っていた。
「お前は何か言うことないのか?」
「え、俺?俺に聞くのそれ?」
「僕を襲いたいと思うのか?僕が嫌なことする気でいるか???」
「……さあ?わかんないな。気が変わるかもしれないけど今のところそういう対象には見てないし。」
そもそもこんな殺伐としたやり取りしてた後でそんなこと考えるはずないと言うアレンの正論にうんうんと頷いていた。
「ほら見ろ。杞憂だろう?だからもうこの話しは終わりだ。」
「そうじゃないでしょう?!そういうことではありません!気が変わったら襲うって言ってるも同然なんですよ?!」
「その時が来たら考える。」
「今考えてください!!!」
セルナンド卿は最近鬱陶しいと思っていたが、うざくなってきた。
あと過保護が過ぎる気がしてきた。
僕は大丈夫だって言ってんのにあれこれと小言のオンパレードだし、今だってこれだ。
いや、そりゃあ言いたいこともわからんではないのだが…。
アレンとはまだ話しがあるのだ。
それも二人きりになれる時じゃないと話せないし。
となるとやっぱりこの部屋で一緒に過ごすことがベストなのだ。
なので、
「アレンは僕と同じ部屋は嫌か?」
「別に、嫌ではないけど。」
「けど?」
「寧ろアーティは嫌じゃないわけ?一応俺、褒められた身分とかなんにもないけど?」
ああ、そういやアーティスが権力主義ってことは知れ渡ってる事実だったな。
でも今更僕が権力主義に見えるか?
………いや、見えるか。
だって国を人質にした発言サラッとさっきしちゃったからな。
「身分なんて必要ない。僕は僕が認めた人間にしか興味ないからな。元より権力なんてものは好き勝手するためにあれば便利だなって程度だし。」
そしてその好き勝手をするために最も必要な人材はアレンなのだから。
「権力より大事なものなんだぞお前は。ちゃんと自覚して僕と一緒にいたいと言うんだ。」
「すごいわがまま聞いた気がする…。」
「よし、腹減ったな。なんか作りに行くか。」
「私の話はまだ終わってませんよ!!!」
セルナンド卿の文句を聞き流しつつ、結局僕とアレンは同じ部屋で過ごすことになったのだった。