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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説62

2021.05.29 23:00


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



人が生きていた。

その時にはじめて、忘れていたことを思い出す様に、タオは自分が強姦されたことに気付いた。

悔しさは感じなかった。怒りも。

ただ、悲しかった。

なにが悲しいのかまでは判らなかった。

死んでしまおうかと思った。

たとえば「日本人がよくするように」電車に飛び込んだ時のその引きちぎられる痛みがタオを恐怖させた。

あまりにも孤独だった。

家族も友人もなかった。

だからタオは死ななかった。

部屋の代えて、シェアする友人と笑った。

本当に楽しくて笑った。

同時に、相談するべきだと思った。

相談するにしても、何を相談するべきか判らなかった。

自分は傷ついている筈だった。その根拠さえなく感じられた。

いずれにしても友人に嘘をつく自分を鮮明に厭うた。

次の日には普通、出勤しないものだと思った。

タオは定時に出勤した。

理由は判らない。

かならずしも、意思はなかった。

主任にあいさつした時、主任たちが自分をそういう女だと思うにちがいないことがたまらず恥ずかしかった。

そういう女と思われた自分を、タオはそこにいる他人のように、あざやかに、嫌悪した。

主任はいつもに変わらなかった。

すでに忘れられたのだと思った。

工場には派遣先が返られるまでの三週間、変わらず勤務した。

数年後、ベトナムに返って数週間立った時、朝、夢を見た。

海辺。

波の音だけ響き、砂浜の貝殻を至近距離に見つめていた。

誰も聲をたてなかった。

だから自分一人しかいあないのかも知れなかった。

表も裏も真っ白いその貝殻の上に、動く影があった。

同じように真っ白い小さな蟻の一匹だった。

思った。

これほど広大な砂浜に、もろい沙地に、巣を堀り維持する蟻のすさまじい孤独を思った。

目が覚めた。

開いたフェイスブックで何年か前にアップした記事が思い出の記事として自分のタイムラインに引き上げられていた。

工場の最後の日に外国人労働者の友達と撮った写真だった。

その中に主任もいた。

写真を撮る時、ミャンマー国籍の同僚が、彼を呼びつけたのだった。

曰く、タオさん、さいごです。しゃしん、とります。さいごですから、しゅにんも、しゃしんとります。

…再アップしますか?

記事の中の自分を見た時に、堪えられない吐き気が襲った。

ベッドにのけぞりだして床に吐いた。

床に飛び散る吐瀉物が更にタオを嘔吐させた。

治まったとき、泣きながらタオは床を拭いた。

胃と喉の掻くに似た違和感が落ち着いた後、タオは再アップした。

日本にいたころ。なつかしい。わかい。

それが彼女が新たにつけたキャプションだった。

そうタオは壁に横たわって、わたしたちに語った。


文書6(圓位文書B)

(圓位から久村へ、cc.香香美)

2019.09.13.メール

(本文)

 最後に報告したのはいつでしたか、あれは6日の日でしたか。

 あれからのこちらでの出来事を念の爲せめて報告しておこうと思う愚僧の心細さ。

 取り立てて何が起こったとうわけではない。起り過ぎたともいえる。

 とまれ、さまざまな漣は四方にたっていひとり思う惑う次第。

 ご一読のほど。

                     沙門圓位

(ファイル)

以下、法要等の雑事…いや、本業で御座いますが、此処では雜事、ということになりましょう。それらは今排除。

眉村家にまつわる事のみ書き出しておきます。

2019.09.05.

朝、先に報告した眉村深雪の早朝の訪問あり。

午前、先に報告した山羽香奈枝の訪問あり。

夜、嚴島神社の佐伯氏宅を詣づ。是は佐伯の婆樣のほうから連絡あり会いたいとのことだった故。

午後7時過ぎ。聞けば婆樣すでにお休みになられたと。

さほどの高齢でもなく又いかなる高齢でも7時の就眠は如何に?

故恠みひょっとして体調不良かと問う。答えは否。最近次第しだいに寝るのが速くなる。来年あたりは鶏の鳴く前に寝付くんじゃないかと佐伯当主の母上、笑う。

佐伯の母樣曰く、要件は私も通じているから問題ないと。あがりなさいな。

故、客間に。

騰毗は不在。すくなくとも姿を見せず。

島の事についてなにやかにやとたわいもないこと話し坐を暖めたのおちに母上曰く、髙長という岡山の男がせんだって島に来たと。

「髙長?

「ご存じでないか?

「知らない。

「岡山の茨の額田比呂子の今の旦那様。

と、聞けば愚僧眉村和哉氏に聞いた話を思い出す。

問う「その方いらして如何がしたか?

「東京から来た平家の先生、あれが嗅ぎまわってうるさい。なんとかもう嗅ぎまわらないように云ってくれと謂う。

「すでに東京に歸えられておられるだろう。

「そのはず。又、事実はしかに違いなくとも、髙長氏曰くいまだ茨にいて嗅ぎ待っていると。

「なんでそんなことを言いだすのか?

「聞くに比呂子曰く、朝から晩までここやそこやどこやであの先生が様子を窺っている、と。

「気のせいではないか。

「最初はそう思ったが事実らしい、ここ二三日自分もその気配を感じる、と、かくに云う。

「とはいえ、嗅ぎまわった所であの先生に何の得もなかろうもの。

「しかだれも思うけれどもご本人かたく信じておられる。故、あなたの方から先生に言っておいてくれ。

「とはいえ、追い掛け回していないものに追い掛け回すなと謂えというのか。

「そこはあなたが上手に。

「上手に言えと謂われてもそもそもなにをなんと言えというのか。

「そこはあなたの機転のきかせどころ。

「そもそもあなたの緣で島に來られたのではなかったか。あなたが責任もって傳えるべきではないか。

「そこは坊主の話し上手。あなたのほうが適任だろう。

かくて話にならず話の落としどころも無くこの日は辭す。

この夜明け深雪さん訪問あるかと待つ。

なし。是は既に報告済み。

2019.09.06.

この夜明けにも深雪さん訪問あるかと待てど、訪れず。又特にその噂も耳にせず姿も見かけず。

2019.09.07.

夕方(5時くらいか)檀家に寄った帰りに四国側の海邊に佐伯騰毗がひとり散策するのを見かける。

故聲を掛ける。こっち側に見かけるのは珍しいじゃないか(神社は反対側なので)。

答えて曰く、せっかく晴れたのでこっちに来てみた。(その日は日中曇りだったのが此の頃ようやく雲が切れ始めたのである。)

こちらも時間があったので、なにというでもなく海辺を散策。游んでやる、というか。

とりとめのない会話の中に曰く「最近うちの女どもが色々と煩わせているようだが。

愚僧「お婆樣はどうした?先日伺ったら出てこられなかったが。

騰毗「うちの女どもは迷惑をかけて居ないか。

愚僧「母上の處に茨の髙長さんという方が見えたか。

騰毗「2日じゃないか。慥か月曜日の夜に来て、すぐに帰った。

愚僧「あなたもあったか。

騰毗「抑々私に逢いに来た。初対面だったが、おそらく眉村にでも聞いたのではないか。顔を合わすなり真っ赤になって憤慨して代わりの者を出せと言った。だから母の方が対応した。

愚僧「髙長はどんな様子だったか。

騰毗「お前に用がないというならわたしの方で彼に用がある譯もなく面倒なのですぐに部屋に戻った。ふたりの話の詳細は知らない。又興味もない。

一見したところ焦燥しているように見える。奥さんの方になにか問題があるのではないか。

愚僧「ただ、2日の日に来たのなら話に若干の食い違いある。久村氏が東京に帰ってから昨日に今日で茲に来たことになる。

騰毗「私にはわからない。

愚僧「あなたはわたしに佐伯の女性たちが迷惑をかけていると謂った。どうしてそう思うか。

騰毗「あなたが起こって帰って行ったと聞いた。

愚僧「それだけか。

騰毗「それだけ。

愚僧「あなたのほうは大丈夫か?あなたも煩わしく思っているからそう思ったのではないか?

騰毗「わたしの方は馴れている。ただいつも言うように家など出て仕舞いたい時がある。このごろ非常に多い。

愚僧「立場としてそんなことはできないだろう。

騰毗「あなただって家も故郷も捨てたんだろう?それでこんなところに来たのではないか?

この夜明けにも深雪さん訪問あるかと待てど、訪れず。又特にその噂も耳にせず姿も見かけず。

2019.09.08.

朝。時間にして7時前。庭に花の手入れをするに眉村和哉氏來たる。消耗の色甚し。

愚僧「如何なされました?こんなはやくに

和哉「それがちょっと…

謂いがてにするので茶室に通したのである。

謂いがてついでに茶室の中で茶を入れる。

和哉氏恐縮し作法もしらないので…

愚僧云、進める方も勝手次第、から、飲む方もどうぞ買って次第に。

愚僧法衣の爲胡坐するわけにもいかず、故、和哉のみ胡坐させ其の上柱に背もたれなどさせ自由にさせて、そうして話し話しするうちに漸くに話し始める。

曰く

「住職。実は相談があって。

「から、きたんでしょう。存じてますよ。どうぞ。

「離婚した方がいいかなと。

「離婚?…誰と。

「もちろん、妻と。

「誰が?

「私が。

「なんで?

「実は、…まえまえから思ってたんですが、妻、怪しいんですよ。

「何が?