国際課税勉強会9(貸付金利率に対する移転価格税制適用)
国際税務の勉強会「一角塾」にオンライン参加しました。
今日は、海外子会社への貸付金に対する受取利子について移転価格税制による課税がなされた「タイバーツ事件」について勉強しました。正直、移転価格税制については、まだ僕は詳細な知識に至っていないので、すべてが貴重な勉強です。
もう20年くらい前の事件ですが、自動車関連部品製造販売業者である原告は、タイに設立した子会社に対して資金を貸し付け、それに対する利息を年2.5%~3.0%で受け取っていました。
これに対し、国税当局はこの利率が、独立企業間で通常成立する利率に比べて低すぎるとして、適正利率を10.5%~19.2%として、その差額について移転価格税制(措置法66の4)により更正処分(追徴課税)をしました。
原告がこれを不服として争ったのがこの事件です。争点は当然、移転価格税制にいう独立企業間価格、この件では適正な利率とは何かということになります。
原告は、日本の長期プライムレートに0.5%を上乗せした利率として2.5%~3.0%で計算していましたが、当局はロンドン金融市場のタイバーツに係るスワップレートに、融資する(架空の)金融機関の利ザヤを乗せた利率として10.5%~19.2%としました。
当時はアジア通貨危機のさなかにあり、金融リスクが非常に高い状態だったので、当然、利率は異常に高くなります。原告からすると、このような異常な利率を適用することには納得できなかったわけです。当然だと思います。
しかし、裁判所は当局の主張を支持して、移転価格税制による課税処分を肯定しました。問題なのは、独立企業間価格の算定上、比較対象取引がないなかで、スワップレートの市場値などから、いわば仮想的な融資取引に適用されるであろう推定利率を採用していることです。
原告としては、金融危機の中での異常な金利の支払を避ける意味もあって、自己の資金をバーツに替えて、日本国内では妥当性のある利率を適用していたのに、裁判所は、当時のタイにおける異常に高い推定利率を用いて、日本企業に課税することが妥当だとしたわけです。
移転価格税制の趣旨は、海外の関連者との取引価格を操作して、日本で課税されるべき所得が海外に移転されている場合に、その取引の操作を否定して適正な価格に引き戻して課税するというものだと思います。
本件の場合は、原告は所得を海外に移転しようとしたわけではなく、海外子会社において金融リスクを避けつつ資金調達をするための方策として資金を貸し付けたようにみえる。そうであれば、このような事例にことさらに架空の推定利率を使って課税するのは、移転価格税制の適用対象として多少行き過ぎているように思いました。