自然素材にやすらぐ女性建築家の自邸_3
こんにちは。このブログでは住宅分野のフリライターemが、独自に住宅を取材しレポートします。今回は、建築家・熊澤安子さんのご自邸の3回目。敷地入り口から玄関アプローチまでを第1回で、玄関からリビングまでを第2回でレポートしていますので、よろしかったら合わせてご覧ください。
今回は、庭を眺めながら食事ができる、すてきなダイニング・キッチンへとご案内します。
1階の間取り図はこちら↓
玄関から左右に動線が分かれるのですが、左に上がり突き当りを右折すると奥がダイニング・キッチンです(DKと書いてあるところ)。こちらは来客には見えない「裏動線」となっています。左手前のドアは倉庫、その奥には操作パネル類やカバンなど、表に出したくないものをまとめて。
庭の見える窓際のテーブル。こぢんまりした部屋の感じがわかるでしょうか。ここは、3人家族が日々の食事をする気取らない場所。適度な狭さは、親密な雰囲気を生むためのしかけでもあります。場所にフィットするように、テーブルの一辺が丸くデザインされているのがチャーミング。ルイス・ポールセンのペンダントライト、きりっとしたシルエットだけでも楽しめますね。
対面型のキッチン配置が長らく流行の中心ですが、このキッチンは壁付けのL字型。作業スペースが長く取れ、くるりと振り向けばすぐテーブルに配膳できるのがこのタイプの利点です。日常的に料理をしている設計者は、体験的にキッチンの使い勝手を理解しています。
テーブルの右側にはつくりつけの食器棚。取っ手も無垢材でつくれば、触れるたびに気持ちがいい。右手奥にはリビングでが見えています。リビングとキッチンには距離があるので、もしキッチンが散らかっていても見られずにすみます。リビングへと視線を長く通すことでDKの窮屈さから免れています。というより、かえってこぢんまりした空間の心地よさが強調されるというべきかも。
吊り棚の扉はラタン張り。中間部分は扉なしのオープン棚なので圧迫感がなく、見た目が柔らかくなります。「余計なものを置かない」と決めて飾ることを楽しめれば、魅力的なコーナーになります。
庭を眺める大きな窓はガラスのはめころしで、開閉はできません。その代わり、足元には通風用の板戸が。床のスリットは暖房システムの通気孔。屋根面で集熱した暖気をファンで床下に吹き下ろして床下全体を暖めるOMソーラーシステムです。さらにこのスリットから排気することで、窓面からの冷気を遮ります。太陽の光を電気に変えて利用する方法よりも、熱をダイレクトに取り入れるこの暖房法は、建物の気密・断熱性が格段に向上してきたこれからの時代、おおいに省エネ性と快適性を発揮できるしくみだと思います。通風・採光・冷暖房・断熱性といった機能面が住み心地に与える影響はとても大きいので、たとえコストが限られる中でも軽視してはいけない部分です。
幅の細いドアからは、テラスに出ることができます。床には大谷石が敷いてあり、植栽に囲まれたプライベート感の高い庭です。一列じゃりの部分があるのは、軒先に雨樋を設けず雨水を直接地面に落とすかたちをとっているから。食事をしながら雨だれを眺めていたら、雨の日も好きになれそう。
ほとんどを大谷石でカバーし土の部分を限定しているので、外で食事をしたりといった活動がしやすく、手入れが必要な植栽の範囲も小さくなるので、一挙両得です。このテラスはリビングからも眺められ、二辺を建物で囲むことで、部屋の延長のような安心感が生まれています。
次回は、この家の住まい手で設計者である熊澤さんのアトリエ部分をご紹介します。
この家の空間を以下の動画で体験していただくことができます。ダイニング・キッチンは5:34から。
面積や仕上げ等の詳細なデータは1回目の記事に記載しています。
熊澤安子建築設計室のHPもぜひご覧ください。
次回もお楽しみに!