悪夢-胸が張り裂けるような

2016.12.22 09:00

相棒をなぜか手放すことになり、手続きをしていた。

『この後、このイヌは、こちらから移送されて、もう戻せなくなりますが、本当によろしいんですね?』

『はい』

明言はされなかったが、移送先は、もう二度と会えなくなる場所だと思った。


別れを名残惜しむこともなく、ひとりの帰り道で、弟が向こうからやって来た。

『お父ちゃん、どんな感じ?』

父は入院が長期化していた。

『あんまり変わらん』

そうか、と言って立ち去る弟を振り返り、背中越しに声をかけた。

『あのなぁ、イヌをなぁ・・・』

手放したことを、さらっと告げるが、弟もあいまいな返事で、何と言ったのか分からなかった。

そこで帰る方に、体の向きを戻した。


すぐに、道の左手に、白っぽいものが落ちているのが見えた。

さっき手放した相棒だった。

急ぎ足で近づくと、右脚がドス黒く汚れて、潰れかけているのが分かった。

全体的に、ボロ雑巾のように、毛がぐちゃぐちゃになっていた。


心臓が締め付けられるように、高鳴った。


しゃがみ込んで、顔を抱き抱えると、右眼が腫れ上がり、顔半分が、やはりドス黒く汚れている。

開いている方の眼に、微かに意思が宿るが、相棒は、クゥンとさえも発することが出来ない。


瀕死の重傷。


何とかしないと。

何とかしないと。

何とかしないと。


救急車?

イヌの病院?

電話は?

電話番号が分からない?

だいだい、ここは、どこなんだ?

見慣れない路地。見慣れない街並み。


どうしたら?

どうしたら?

どうしたら?


胸が張り裂けそうになり、涙が止めどもなく溢れた。

そうこうしている間も、相棒の状態は、どんどん危険な領域に陥っていく。


どうしたら?

どうしたら?

どうしたら?


うおぉぉぉぉぉーーーーー・・・!!!!!


分からない。

分からない。

分からない。・・・



目が覚めた、らしい。

まだ、胸が張り裂けそうなくらい、高鳴っている。

涙がどっと堰を切ったように溢れた。

やっと、夢だと思ったが、あまりの鮮烈な衝撃に、身体の力がなかなか戻ってこない。


意識が何とか正常になるまで、数分を要した。

何で、こんな夢を見てしまったんだろう?

その事が気がかりで、今日は全くダメだめな一日になってしまった。

ホント、何で?