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Main1-6:次に進むための準備

2021.06.04 02:00


霧もなく澄んだ空気が広がる森。

道という道はもうないが目的地が分かるという不思議な感覚を味わいつつ、青年は止まることなく進んでいた。

生い茂った草木を手で払い辿り着いたのは、焼けた集落の跡地。


《おや、また来たのかい?》

「1人になるには丁度いい場所だろうと思った」

《母はいるのにかい?》

「大人しく見守っているだけだろう」

《それもそうだ》


時間の歪みもない土地で、彼らは静寂の時を過ごすことにした。


───


《娘は元気かい?》


話を切り出したのはタイニークァールだった。


「相変わらずだ、見せる武器も種類が増えている」

《へぇ、小さい頃は狩のための弓矢と片手幻具だけだったのに》

「弓は勿論、投擲に斧、天球儀、細剣…そういえば最近はガンブレードも持っていたな」

《ガンブレード…また凝ったものを増やしてきたね。

……あまり魔法は扱わなくなったかな》「あぁ、エーテルも魔力も大半は俺が持ってきてしまったからな」

《まぁあの子は完璧すぎたから。

いい具合だと思うよ、魔人の弟と武人の姉で》

「……」


確かに言われてみればそうだった。

魔力に優れ段違いで魔法が強いヘリオと、武力に優れ桁違いの攻撃を発揮するガウラ。

ヘラとしての記憶には、魔力は勿論だが狩や射的、剣術の稽古も優れた成績は持っていた。

完璧すぎる異能がいい具合に中途半端にさせてくれたのだろう。


《そうだ、魔力に優れていると言うならば1つ見て欲しいものがあるのだが》

「ん?」

《着いておいで》


そう言いながら軽やかな足取りで彼女は歩き始めた。


───


着いた場所は倉庫のような場所だった。

誇りにまみれたボロボロの道具、使い古した武器。

他にも色々とありそうだが彼女はお構い無しに1つの物の方へ向かった。

布に被さっている物…大事にしているのかどうかは分からないが、誰かに見せようと保存していたのだろうとは思う。


《ここにはほぼ再起不能の道具や破損した武器が置いているんだ。森の外で放置されている物を片付けるのにね。

この布に被っている物もそう…扱っていた人間が人間だったから、保存していたのさ》

「ほう」

《どういう用途の物かも、武器の種類も分からない。

けれどエーテルを感じたから魔法職で扱われている武器なのだろうとは思うよ》


そう言って布を剥がすと、4本の機器が現れた。

全く同じ形状のそれは4本で1つなのだと言わんばかりだ。

極わずかに感じるエーテル。

何の武器なのだろう。


「これをどうすれば?」

《息子である君に預けておきたいんだ。

どういう物なのかを調べてくれても構わない、使用しても構わない。

ただ約束してほしいのは、捨てることはしないでくれということだけだ》

「…分かった、こういう武器類は恐らくシャーレアンの連中ならなにか知っているだろう。

調べた上で俺にも使えそうであれば……?」

《…今何かいたね》

「あぁ」


とりあえず4本の機器を持って外に出てみる。

歪みが直されたからか最近はケモノが多く入ってくるようになった。

物音を立てた正体はベアー種のモンスター。

肉食系だからかこちらを見るや襲いかかってきた。


《あまり魔法は使いたくないのだが!》

「俺も今日は弓しか手持ちにない!」


ベアー種は鋭い爪と牙を持つ。

故に彼らは至近距離で戦いに挑む。

追い払う程度にと魔法を使い始めるタイニークァールだが、小さい体だからか動きが鈍い。

それを好機と思ったのか、ベアー種は彼女に敵視を向けた。


《なっ…!》

「危ない!」


そう言って咄嗟に取った武器は弓ではなく4本の武器だった。

自分の魔力に呼応したのか、それらは宙に舞っている。

指揮をするように手を前に突き出してみた。

『目の前の敵を倒す』

そう念じて。

すると武器はベアー種の頭上を舞い4本のレーザー魔法を撃った。

ダメージが入ったのか、ベアー種は危険と感知し去っていった。


《………今のは?》

「咄嗟の判断だった。

攻撃には使えるらしい」

《そうかい…とにかくありがとう、助かったよ》

「それならよかった」


そうして彼らは集落へ戻ったあと軽く近状報告をし、別れを告げた。


───


後に石の家へ向かい武器について調べていたところ、アルフィノが何かを知っていたようで聞いてみた。

『恐らく賢具ではないか』と彼は予想している。

あまりにも破損が激しく辛うじて形状を保っていた程度だが、4本で1つの武器という特徴や武器に込められている魔力等を考えるとそうだろう、という考えだ。

『もし使うのであれば修理ができるかもしれない』と言ってきたので頼むことにした。

アルフィノが設計、グ・ラハが修理をしたので本物の賢具とは違う形状かもしれないが、使用者の魔力を込めることで扱いやすくなるだろうとのことだった。


「………賢具、か」

「滅多に頼み事をしない上に姿も見せない君がそれを持って来たものだから驚いたよ」

「ここに聞きに来た方が早いと判断しただけだ」

「その予想が当たったようでよかったよ。

…武器は使うのかい?」

「あぁ、使えるものは使おうと思った」

「使いこなせることを願っているよ」


───


「それで、弟は扱いの練習で外にいたのかい」

「あぁ、そうだね。

君はどうするんだい?大抵の冒険者達はこの時期になると主要武器を替えてみたりしているようだが」

「私の得物はコイツだけさ」


そう言いながら手に持ったのは弓だった。

他の武器も捨てがたいが、それでも弓を持ち続けていたいのだそうだ。


「もう時期に新たな情報も来るだろう、君もそれまではゆっくりするといいよ」

「そうだな、休めるうちは休んで次に備えておこう」


そう言いつつもどこかへ行ってしまった冒険者。

彼女は止まることを知らない人だ、この先もきっと止まることなく歩み続けるだろう。

その道標を作れるのであれば、武器を替えてでも作ってやろうではないか。