新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬開発
https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info17.html 【パパイヤに含まれるタンパク質分解酵素に似たタンパク質は抗新型コロナウイルス薬の有力な標的である】より
文責:正井 久雄
タンパク質分解は、単に不要・有害分子の除去を行うだけではなく、その材料であるアミノ酸のリサイクル、さらに細胞の増殖・分化・そして種々の生体機能を制御することが明らかとなっています。代表的なタンパク質分解システムとしては、プロテアソームとオートファジーシステム、さらに、より特異的なタンパク質の分解をおこなう、カルパインなどが知られております。当研究所でも、これらのタンパク質分解システムのメカニズムや病気との関連について、世界最先端の研究が行われています(蛋白質代謝プロジェクト、ユビキチンプロジェクト、カルパインプロジェクト)。
30kbのSARS-CoV-2のRNAゲノム上には26個のタンパク質がコードされています。面白いことに、これらのタンパク質の多くは大きな一続きのタンパク質(ポリペプチド)として合成され、のちにプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)により切断され、成熟したタンパク質となります。この分解には2つのプロテアーゼ、メインプロテアーゼ(Mpro/3CLpro; 非構造タンパク質5, nsp5)とパパイン様プロテアーゼ(PLpro,nsp3の一部)が、関与します。パパインは、その名の通り、パパイヤ(特に未成熟の青パパイヤ)の中に多く含まれるシステインプロテアーゼに分類されるタンパク質分解酵素です。
ウイルス感染時に宿主は、自然免疫系を活性化させ、免疫機能を増強させます。その代表的な経路はI型インターフェロン経路およびNF-κB経路です。ウイルスは、宿主のこの免疫防御システムを打ち破るために色々な手管を用います。7/30にon lineでNature誌に発表された論文において、上記のウイルス由来プロテアーゼの一つ、パパイン様プロテアーゼが、宿主の自然免疫系を阻害することが明らかになりました。
インターフェロン経路においてIRF3 (Interferon responsive factor 3)は、インターフェロン刺激依存的に合成されるユビキチン様分子ISG15が連結されることが知られています。一方、SARS-CoV(2003年に流行したコロナウイルス)の研究から、パパイン様プロテアーゼはユビキチンとIGS15を分解する能力があることが知られていました。SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のパパイン様プロテアーゼは、SARS-CoVのそれとおよそ83%の相同性を示しますが、今回の研究から、ISG15により強く結合し、これを分解することが明らかとなりました。SARS-CoV-2-IGS15の複合体の結晶構造解析からも、SARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼがユビキチンより、IGS15に選択的に結合する構造的基盤が明らかになりました。
SARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼは、IRF3 に連結されたIGS15を分解します。これにより、IRF3やTBK1 (Tank-binding kiase 1; NF-κB経路の活性化因子)のリン酸化が減少し、I型インターフェロン経路を抑制します。このように、SARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼは、SARS-CoVよりも、選択的かつ強力に自然免疫反応に重要なISGylation(IGS5の連結)を阻害することにより、SARS-CoV-2は宿主の免疫防御システムから逃れていることが明らかになりました。
さらに、著者らは,すでにSARS-CoVのパパイン様プロテアーゼを阻害することが知られていたGRL-0617という薬剤の抗ウイルス活性を検証しました。まず彼らは、GRL-0617がSARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼの保存されたTyr268に結合することにより、ISG15が触媒活性部位に入り込むのを阻害することを示しました。また、GRL-0617は細胞でパパイン様プロテアーゼの活性を阻害し、自然免疫系の活性化に重要な、IRF3, TGK1, p65などのタンパク質のISGylationを増加させることを明らかにしました。さらに、細胞レベルの感染実験で、GRL-0617はウイルスの複製を阻害し、ウイルス粒子の産生を阻害しました。
パパイン様プロテアーゼの阻害剤は、宿主の自然免疫防御システムのウイルスによる破壊を抑えるのみでなく、ウイルス複製に必要な非構造タンパク質の成熟過程も直接阻害することにより、ウイルスの増殖そのものも抑制するという、二重の抗ウイルス機構を有する点で、とても有効な抗ウイルス剤になる可能性を秘めていると著者らは述べています。
https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info56.html#r56 【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬開発】より
文責:橋本 款
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの予防接種は順調に進んでいますが、その一方で、SARS-CoV-2の遺伝子変異の結果、ワクチンの効果が減弱する可能性が懸念されています。この問題を解決するためには、ウイルスの変異の影響を受けにくい治療薬を開発する必要があります。今回は、まず、COVID-19治療薬開発の現状を理解することを目的とし、世界保健機構 (World Health Organization: WHO)から定期的に発表されている記事の最新号(文献1)と治療薬開発に関するコメント論文(文献2)を紹介致します。
文献1
Therapeutics and COVID-19: living guideline, by WHO, 31 March 2021,
「COVID-19とその治療法に関する生活指針」に述べられたWHOの最近の見解は以下の通りです。
① 臨床試験の結果、Ivermectin(マクロライド類に属する環状ラクトン経口駆虫薬。腸管糞線虫症の経口駆虫薬、疥癬、毛包虫症の治療薬でもある)は推奨しない (2021年3月31日) 。
② 病状にかかわらず、Hydroquinone (二価フェノール、特に美容ではハイドロキノンと表記されることが多い) は推奨しない (2020年12月17日) 。
③ 病状にかかわらず、Lopinavir/Ritonavir(HIVやC型肝炎の治療に用いられるプロテアーゼ阻害剤)は推奨しない (2020年12月17日) 。
④ COVID-19で入院した患者に対してRemdesivir(エボラ出血熱などの治療に開発中の核酸アナログ)は推奨しない (2020年11月20日) 。
⑤ 重篤なCOVID-19 に対してCorticosteroidの全身投与を推奨する (2020年9月2日) 。
⑥ 重篤でないCOVID-19に対しては、条件に応じたCorticosteroidの全身投与を推奨する (2020年9月2日) 。
⑦ その他、 IL6-ブロッカー、コルヒチン、モノクローナル抗体、抗凝固剤、ビタミンDなどを推奨する (2021年3月31日) 。
文献2
Where are we with drug treatments for covid-19? By Chris Baraniuk
BMJ 2021; 373 (Published 07 May 2021)
❶ 行き詰まる治験の結果
新型コロナ感染症治療薬に関する多くの治験 (大規模; ~数十, 小規模; ~数百) が世界中で行なわれてきた。中でも、2020年3月より始まった大型プロジェクト「Recovery」(参加者数40,000人; Dexamethasone, Tocilizumab, Azithromycin, Convalescent plasma)は英国主体で行なわれており、英国がこの分野の世界のリーダーであると言ってよいかも知れない。しかしながら、専門家はこのプロジェクトをこれ以上継続することに対して懐疑的である。また、WHOが30カ国を率いて推進してきた「Solidarity」(参加者数12,000人; Remdesivir, Hydroxychloroquine, Lopinavir)も2020年1月を最後に目覚ましい成果は得られていない。
❷ どのようなタイプの新型コロナ感染症の治療薬が考えられているか?
SARS-CoV-2ウイルスを直接、減弱させて人体での活動を抑えることが望ましい。
病気の進行期に免疫の過剰反応などを抑え、ウイルスが原因となる症状を間接的に抑える(etc. 抗炎症作用、抗凝固作用)。
概して、新しく開発する(bespoke)よりも、 別の疾患の治療目的に開発された既存の薬剤の再利用(repurposing)を検討することが多い。これにより、新たな薬剤の開発に要する時間を短縮し、医療費の削減を期待する。
❸ 現時点で、効果がありそうな治療薬。
i) Corticosteroids
いろいろ議論されて来たが、重篤なCOVID-19における抗炎症作用は最も優れている。安価で利用しやすい。
実際、「Recovery」のうち重篤な6,500人にDexamethasoneを投与した結果、その有効性が確認された。
英国の国民保健サービス(NHS: National Health Service)は、重篤な患者に対するCorticosteroidの使用を推奨した。
WHOのワーキンググループReactは、Dexamethasoneの代わりに別のCorticosteroidであるHydrocortisoneを代用することも推奨した。
ii) 抗体医薬;
IL-6受容体モノクローナル抗体であるTocilizumabは、以前より関節リウマチなどの治療薬として用いられている。Tocilizumabは、Dexamethasoneに比べて高価であるが、NHSは、TocilizumabとDexamethasoneの併用を推奨している。実際、「Recovery」の予備試験では効果があったという。さらに、別のIL-6受容体モノクローナル抗体Sarilumabに関して、「Remap-Cap」(米国、英国など19カ国よりなる共同プロジェクト)で進行期のCOVID-19の改善効果が認められた。
❹ これまで、効果がないと評価された治療薬は?
抗マラリア薬であるHydroxychloroquineはトランプ前大統領がその有効性について言及したことで注目を浴びたが、その後、WHOによる「Solidarity」のtrialで否定された。
Remdesivirはヨーロッパ共同体・米国において承認された最初のCOVID-19治療薬であるが、その後、2020年末に「Solidarity」の研究者によって効果のないことが示された。
痛風の治療によく用いられる抗炎症剤のコルヒチンは2020年の「Recovery」の予備試験では効果が認められなかった。
❺ 今後の見込み
ワクチン接種にかかわらず次の冬期にはCOVID-19感染が流行する可能性があり、予防作用のある治療薬が必要である。
最近、英国政府はCOVID-19感染症に対する対策本部を設置した。今年の秋までに、複数の治療薬の開発に成功することが望まれる。
まとめ;
現在のところ進行期、重症患者に対する一部の抗体医薬やステロイドを除いて、COVID-19感染症に対する治療薬はありません。今後、軽~中等度の患者に対しても有効な予防薬・治療薬の開発が期待されます。
文献1.
Therapeutics and COVID-19: living guideline, by WHO, 31 March 2021
文献2.
Where are we with drug treatments for covid-19? By Chris Baraniuk BMJ 2021; 373 (Published 07 May 2021)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00060.html 【新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定】より
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2の感染の最初の段階であるウイルス外膜と、感染する細胞の細胞膜との融合を阻止することで、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止する可能性がある薬剤としてナファモスタット(Nafamostat mesylate、商品名フサン)を同定した。
本年3月初めにドイツのグループはナファモスタットの類似の薬剤であるカモスタット(Camostat mesylate、商品名フォイパン)のSARS-CoV-2に対する有効性を発表したが(参考文献1)、カモスタットと比較してナファモスタットは10 分の1以下の低濃度でウイルスの侵入過程を阻止した。
ナファモスタット、カモスタットともに急性膵炎などの治療薬剤として本邦で開発され、すでに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤である。安全性については十分な臨床データが蓄積されており、速やかに臨床治験を行うことが可能である。
発表者
井上 純一郎(東京大学医科学研究所 分子発癌分野 教授、アジア感染症研究拠点北京拠点長)
山本 瑞生(東京大学医科学研究所 分子発癌分野 助教)
合田 仁(東京大学医科学研究所 アジア感染症研究拠点 特任講師)
松田 善衛(東京大学医科学研究所 アジア感染症研究拠点 特任教授)
川口 寧(東京大学医科学研究所 ウイルス病態制御分野 教授、アジア感染症研究拠点 拠点長、研究開発代表者)
発表概要
東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点の井上純一郎教授と山本瑞生助教は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである SARS-CoV-2が細胞に侵入する最初の過程であるウイルス外膜と細胞膜との融合を、安全かつ定量的に評価できる膜融合測定系を用いて、セリンプロテアーゼ阻害剤であるナファモスタットが、従来発表されている融合阻害剤に比べて10 分の1以下の低濃度で膜融合を阻害することを見いだした。
SARS-CoV-2が人体に感染するには細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのち、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こすことが重要である。コロナウイルスの場合、Spikeタンパク質(Sタンパク質)がヒト細胞の細胞膜のACE2受容体に結合したあとに、タンパク質分解酵素であるTMPRSS2で切断され、Sタンパク質が活性化されることがウイルス外膜と細胞膜との融合には重要である。井上らはMERSコロナウイルスでの研究結果(参考文献2)をもとに、ナファモスタットやカモスタットの作用を調べたところ、ナファモスタットは1-10 nMという低濃度で顕著にウイルス侵入過程を阻止した。このことから、ナファモスタットはSARS-CoV-2感染を極めて効果的に阻害する可能性を持つと考えられる(本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)の支援を受けた)。
発表内容
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因となる感染症(COVID-19)は、2019年暮れに中国・武漢で世界で初めて患者が確認されてから、2ヶ月あまりで世界152カ国に拡散し、世界保健機構(WHO)も2020年3月11日にパンデミックを宣言した。日本では、感染者の多くが無症候性キャリアもしくは軽症であるものの、重症化しさらに高齢者や基礎疾患がある人の場合には死に至ることがある。しかしながら現時点で効果が確認された治療薬は存在せず、その開発は急務である。既に全世界的にSARS-CoV-2の感染が拡大している現状を鑑みると、安全性が確認された既存の薬から治療薬を探すいわゆるドラッグリポジショニング(注1)は極めて有効と考えられる。
SARS-CoV-2などのコロナウイルスは、脂質二重層と外膜タンパク質からなるエンベロープ(外膜)でウイルスゲノムRNAが囲まれている。SARS-CoV-2はエンベロープに存在するSpikeタンパク質(Sタンパク質)が細胞膜の受容体(ACE2受容体)に結合したあと、ヒトの細胞への侵入を開始する。Sタンパク質はFurinと想定されるヒト細胞由来のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によりS1とS2に切断される。その後S1が受容体であるACE2受容体に結合する。もう一方の断片S2はヒト細胞表面のセリンプロテアーゼであるTMPRSS2(注2)で切断され、その結果膜融合が進行する。HoffmannらによりSARS-CoV-2の感染にはACE2とTMPRSS2が気道細胞において必須であることが発表された(参考文献1)。
井上らは、2016年にMERS-CoV Sタンパク質、受容体CD26、TMPRSS2に依存した膜融合系を用いてセリンプロテアーゼ阻害剤であるナファモスタットが膜融合を効率よく抑制してMERS-CoVの感染阻害剤になることを提唱した(参考文献2)。そこで今回、293FT細胞(ヒト胎児腎臓由来:注3)を用いてSARS-CoV-2 Sタンパク質、受容体ACE2、TMPRSS2に依存した膜融合測定系(注4)を用いて、ナファモスタットがSARS-CoV-2 Sタンパク質による膜融合を抑制するかどうか検討した。その結果ナファモスタットは10から1000 nMの濃度域で濃度依存的に抑制した。つぎにACE2やTMPRSS2を内在的に発現し、ヒトで感染が起こるさいに重要な感染細胞と考えられる気道上皮細胞由来のCalu-3細胞(注5)を用いて同様の実験を行ったところ、さらに低濃度の1-10 nMで顕著に膜融合を抑制した。この濃度域はMERS-CoV Sタンパク質による膜融合に対する抑制濃度域とほぼ同じである。さらに井上らはナファモスタットと類似のタンパク質分解阻害剤であるカモスタットの作用を比較検討したところ、SARS-CoV-2 Sタンパク質による融合において、ナファモスタットはカモスタットのおよそ10分の1の濃度で阻害効果を示すことが明らかになった。
以上から、臨床的に用いられているタンパク分解阻害剤の中ではナファモスタットが最も強力であり、COVID-19に有効であると期待される。ナファモスタット、カモスタットともに膵炎などの治療薬剤として本邦で開発され、すでに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤である。ナファモスタットは臨床では点滴静注で投与されるが、投与後の血中濃度は今回の実験で得られたSARS-CoV-2 Sタンパク質の膜融合を阻害する濃度を超えることが推測され、臨床的にウイルスのヒト細胞内への侵入を抑えることが期待される。カモスタットは経口剤であり、内服後の血中濃度はナファモスタットに劣ると思われるが、他の新型コロナウイルス薬剤と併用することで効果が期待できるかもしれない(本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)の支援を受けた)。
参考文献
Hoffmann et al. Cell 181, 1-10 (2020)
Yamamoto et al. Antimicrob Agents Chemother 60, 6532-6539 (2016)
用語解説
(注1)ドラッグリポジショニング
ヒトでの安全性や体内動態が臨床で充分に確認されている既存薬から、新たな薬効を見つけ出し実用化へつなげていこうとする試み。↑
(注2)TMPRSS2
Transmembrane protease, serine 2。細胞膜に存在するセリンプロテアーゼで SARS-CoV-2コロナウイルスSタンパク質は宿主受容体に結合後、TMPRSS2によるタンパク質分解を受けるとされており、このタンパク質による分解を受けないと膜融合能を獲得できない。ナファモスタットは TMPRSS2活性を阻害することでSタンパク質による膜融合を阻害していると考えられる。↑
(注3)293FT細胞
ヒト胎児腎臓由来の不死化細胞株で細胞増殖が速く遺伝子導入が簡便などの優れた性質を持つ。↑
(注4)膜融合測定系
膜融合測定にはDSP(Dual Split Protein)というレポーターを用いる。DSPは、分割レニラルシフェラーゼと分割GFPのキメラタンパク質(DSP1-7, DSP8-11)でそれぞれ単独では活性を持たないが、分割GFPドメインを介して自己会合しGFP 活性並びにルシフェラーゼ活性を回復する。この特性を用いて、それぞれを別々の細胞に発現させておくと、GFP 活性並びにルシフェラーゼ活性をもとにそれらの細胞間の融合を定量できる。293FT細胞(ヒト胎児腎臓由来)またはCalu3細胞(ヒト気道上皮由来)にDSP1-7, ACE2, TMPRSS2を発現させ、さらに片方の293FL細胞にはウイルスの持つSARS-CoV-2 Sタンパク質とDCP8-11を発現させた。293FT細胞はSARS-CoV-2 Sタンパク質、ACE2、TRMSS2のいずれもそのままでは発現していないことからこれらを人為的に発現させた。Calu3細胞はそのままでACE2とTMPRSS2を発現している。2種類の細胞を同時に培養し、膜融合が起こるとそれぞれの細胞が持っているレポータータンパク質が反応しあって蛍光と光を発することから、定量的に膜融合を観察することができる。この実験系で同定した融合阻害剤の標的がSARS-CoV-2 Sタンパク質、ACE2、TMPRSS2のいずれかであった場合、明確なPOC(Proof of Concept)を有することになる。↑
(注5)Calu-3細胞
ヒト肺がんから樹立されたヒト気管支上皮細胞由来の不死化細胞。呼吸器細胞の機能解析に使用されており、SARS-CoV2やMERS-CoVが実際に感染する細胞のモデルと想定できる。↑