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yoyo

氷室冴子『いっぱしの女』

2021.06.05 15:10

『いっぱしの女』を読み終える。思ったり考えたりしたことは色々あるけれど、やはり私は氷室さんの考えや周囲に対する姿勢そのもの、そしてそれを言葉に表すときの感覚がとても好きだということに尽きる(ライターが起こしたであろう巻末のインタビューがあまりにも彼女の言葉遣いとかけ離れていて、悪くはないのだけれど、彼女の思考は彼女の言葉で語られるからこそ好きなのだなあと思った)。


読みはじめる前(フォロワーさんの引用を読む前)は勝手なイメージで、それこそ冒頭の記者のように、吉屋信子氏をはじめとする少女小説に関する思い出や思い入れが抒情的な文体でつづられているのかと思っていた。しかし実際、文中に登場するのはスピルバーグの映画や新聞のコラムなどで、それらを通して浮かび上がる彼女の思考は無垢でありながら鋭く、「現在」を自身の目でしっかりと捉えているその様に親しみを覚えずにはいられなかった。


今は『さようならアルルカン/白い少女たち』を読んでいる。まだ表題作しか読めていないけれど、女子校が舞台であること、少女がとある一人の少女に対して視線を送り続けるストーリー、少女が少女に惹かれ自身の分身だと思う構造や、比喩を使った情感たっぷりの文体など物語を縁取るモチーフは少女小説的要素を引き継ぎながらも、真ん中には『いっぱしの女』から窺い知れる彼女自身の無垢さ鋭さがどっしりと構え、根を張っている。彼女の小説も私は大好きだ。