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詩人・作家 神泉 薫(Kaoru Shinsen)のブログ ~言の華~

【~永瀬清子の章~試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より③】

2021.09.12 06:30


引き続き、試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より。

日本の近・現代詩人13人の詩と人生を見つめた一冊。 

日本語の豊かさ、ことばの光を感じて頂けたらうれしいです。


本の中から、詩人たちの「ひとひらの姿」をご紹介します。 


▶永瀬清子(ながせ きよこ/1906~1995) 


岡山県生まれ。

現代詩の母と呼ばれた詩人。 

明治、大正、昭和、平成と

四つの時代を生き抜きました。 


大きな価値観の揺さぶりを肌で感じながら

封建制度に縛られていた時代、

「女」という言葉が、「妻」「母」「嫁」に塗り替えられる中、

永瀬が書く「私」の中には、「どっさりと豊かな女が含まれている」(宮本百合子)と、

自由と解放への糸口を担う書き手として登場しました。 


 焰よ 

 足音のないきらびやかな踊りよ 

 心ままなる命の噴出よ 

 お前は千百の舌をもつて私に語る、 

 暁け方のまつくらな世帯場で──。

 年毎に落葉してしまう樹のように 

 一日のうちにすつかり心も身体もちびてしまう私は   

 その時あたらしい千百の芽の燃えはじめるのを感じる。 

   その時私は自分の生の濁らぬ源流をみつめる。 

   その時いつも黄金(きん)色の詩がはばたいて私の中へ降りてくるのを感じる。 


  (「焰について」)

  『永瀬清子詩集』(1990年・思潮社 現代詩文庫)

  (写真:永瀬清子『短章集 蝶の酩酊/流れる髪』(2007年・思潮社 詩の森文庫)より)

 


永瀬は、常に「私」の場所、

暮らしの内部から詩を生み出しました。

世帯場とは台所のこと。

農婦として働く日々の中、

火と水、大地と風と陽の匂いを存分に吸ったことばには、 

みずみずしさがあふれています。 


生涯、「書く私」を懸命に求め続けた永瀬。

詩のことばは、生の原初を見つめ、その魂を潤し、

生の本質を求めてやまない心を導き、励ましました。


 ~次回は吉岡実をご紹介します~ 


▶試論集『十三人の詩徒』(七月堂)

▶七月堂HP http://www.shichigatsudo.co.jp/

9月11日より、七月堂古書部で店頭販売が始まりました。

お立ち寄り頂けましたらうれしいです。

新しい読者との出会いを待っています!


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