【~吉岡実の章~試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より④】
引き続き、試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より。
日本の近・現代詩人13人の詩と人生を見つめた一冊。
日本語の豊かさ、ことばの光を感じて頂けたらうれしいです。
本の中から、詩人たちの「ひとひらの姿」をご紹介します。
▶吉岡実(よしおか みのる/1919~1990)
東京生まれ。
戦後モダニズム詩の代表的な詩人。
筑摩書房の編集者としての顔もあり、
本の装丁も多く手掛け、
拳玉の名手でもありました。
「わたしの作詩法?」というエッセイの中で、
「発生したイメージをそのままいけどることが大切である。」
と書いています。
ピカソの詩に啓示を受け、
詩集ごとに次々とスタイルを変化させ、
詩のフォルムに最も意識的でした。
吉岡の詩は、生き生きとしたことばの舞踏が魅力です。
四人の僧侶
朝の苦行に出かける
一人は森へ鳥の姿でかりうどを迎えにゆく
一人は川へ魚の姿で女中の股をのぞきにゆく
一人は街から馬の姿で殺戮の器具を積んでくる
一人は死んでいるので鐘をうつ
四人一緒にかつて哄笑しない
(「僧侶」)
『吉岡実詩集』(1970年・思潮社)
芝居やストリップ、映画、舞踏等の
「見る」ことの経験の豊かさが、
肉感的なことばのボディを形作りました。
オリジナリティあふれる吉岡のことばには、
彫刻のように重みある存在感があります。
一方、詩へのストイックかつ厳しい態度とは異なり、
残された散文や日記には、
吉岡の飾らない優しさが見受けられます。
吉岡最後の著書『うまやはし日記』は、
吉岡、二十歳頃の戦前の日記。
昭和十四年(一九三九)八月一日
夕食後、近所の写真館で記念写真を撮る。わが長き髪のために。その足で理髪店に寄り、坊主頭になった。ひとにぎりの髪毛を、母に渡す。
吉岡実『うまやはし日記』より(1990年/書肆山田)
(写真:現代詩読本─特装版「吉岡実」(1991年・思潮社)より)
淡々とした語られた事象の連なりには、
暮らしの重みと影がひそやかに波打ちます。
▶次回は左川ちかをご紹介します。
▶『十三人の詩徒』(七月堂)
▶七月堂HP http://www.shichigatsudo.co.jp/
9月11日より、七月堂古書部で店頭販売が始まりました。
お立ち寄り頂けましたらうれしいです。
新しい読者との出会いを待っています!